『源氏物語 解剖図鑑』─「現代語訳を読んで大河ドラマ『光る君へ』に備える」に効く1冊

『源氏物語 解剖図鑑』─「現代語訳を読んで大河ドラマ『光る君へ』に備える」に効く1冊

更新日 2023/04/24

2024年のNHK大河ドラマが紫式部を主人公にした『光る君へ』になると聞いたときはブッ飛んだ。なぜ令和の今に平安時代? 源氏物語は2008年の平成時代に成立1000年を記念した「千年紀プロジェクト」をやっていたから、そのときのほうがタイムリーだったんじゃないの?

などと、しきりに首をかしげたのだが、大河ドラマというのは時代の流れに迎合するのではなくて、自ら流れをつくるという気概に満ちた国民的ドラマなのだから、まぁそういうものかとも思う。

現在放送中の『どうする家康』が終盤に近づく年末あたりになると、大河マニア、ならびに源氏ファンがそわそわしだして「どんな大河になるんだろうね」などと噂話が始まるのが目に見えている。

で、そんなとき、「ああ、『源氏物語』ね。まぁ、いちおう僕も読んでみたけど、おもしろいと思うよ。現代語訳だけどね」くらいのセリフは言ってみたい。そう思っている人は多いと思う。

『源氏物語』は世界最古の長編小説と言われるが、ただ古いだけでなくて、小説として読んでも本当におもしろい。ただネックなのが「長い」ということだ。意気込んで読みはじめて、平安貴族の風俗とか雰囲気に馴染めずに挫折してしまう人も多いだろう。だが、作品中の世界観が理解できるようになると俄然、読むのが楽しくなるのだ。

というわけで今回は、「『源氏物語』を最後まで読む」という目標にゴールするためのアプローチ法を提案したいと思う。

源氏物語 解剖図鑑

  • 著者:佐藤晃子/文、伊藤ハムスター/イラスト
  • 発行:エクスナレッジ
  • 定価:1600円(税別)
  • ボブ的オススメ度:★★★☆☆

挫折して途中から再読しても、ガイドブックがあれば大丈夫

現代語訳にこだわらないのならば、「最後まで読む」にたどりつく最も手っとり早い手段が大和和紀による漫画『あさきゆめみし』を読むことだ。ストーリーはほぼ忠実に描かれていて、古文の受験対策として予備校も推奨しているらしいし、平安時代の衣服や建築なども膨大な資料をもとに考証されて描かれている。

同時期に現代語訳を手掛けた瀬戸内寂聴も、この漫画の完成度には高い評価をしている(ちなみに同じ漫画版では江川達也によるものがあって、こちらも評判が高い)。

でも、やっぱり漫画じゃなくて現代語訳で読みたい、という人もいるだろう。私もそうだった。

だが、その道を選んだ結果として、54帖にも及ぶ長大な物語に出てくる、430人もの登場人物を把握するという難題に直面することになる。ちょっと気を抜くと、「あれっ? このキャラクターって前にも出てきたけど、どんな人だったっけ?」と、すでに読んだところに戻ったりしているうちに、筋がわからなくなるのである。

そこでお薦めしたいのが、『源氏物語 解剖図鑑』(エクスナレッジ)のようなガイドブックを座右に置きながら読むことである。

さすがのエクスナレッジ「解剖図鑑」シリーズ

この本の優れているところは、巻ごとのストーリーと、そこに登場する人物の関係性がコンパクトにまとめられているところ。「この人誰だっけ?」という疑問に即座に応えてくれるのである。さらに親切なことに、複雑にからみあった人間関係が図で説明されていたりもする。

要するに「この巻では、これだけの知識があればいいですよ」と必要な部分を強調してくれるので、読むガイド役として非常に優秀な仕事をしてくれるのだ。

途中で挫折してしまった場合、再チャレンジまでの時間が長くなるにつれ、記憶は定かでなくなり、結局「また最初から読み直さねばならなくなる→再度の挫折をうながす」という悪循環につながるが、このガイドブックがあれば途中からでも再チャレンジできる。これは大きい(巻末に索引があって、知りたいことにすぐにアクセスできる親切設計)。

また、平安貴族の風習や信仰など、必要な基礎知識をコンパクトに説明してくれているのも、物語の理解を助けてくれる。

こうしたガイドブックは、これまでにたくさん出版されてきたが、エクスナレッジの『解剖図鑑』シリーズの一冊である本書は、過去50冊以上作られたきたシリーズのノウハウが生かされていて、よくできていると思う。

与謝野訳、谷崎訳はなぜ読みにくいのか?

ガイドブックの次に選ぶべきは、「誰の現代語訳で読むか?」ということ。実はこの選択こそ、ガイドブック選び以上に重要なのだ。

「いちおう読んでみたけどね」などと偉そうに語った私だが、実は過去には与謝野晶子訳、谷崎潤一郎訳という2つの現代語訳に挑んでいずれも挫折し、2013年に出版された林望訳『謹訳 源氏物語』の最終巻でようやく全巻を読破したヘタレ源氏読みである。

与謝野訳、谷崎訳は、自身も現代語訳を手掛けた橋本治が「2大クラシック現代語訳」と評する名作だが、すでに訳業から70年以上も経っているので、それぞれに読みにくさがあるのだ。

強いてどちらがとっつきやすいかと言えば、与謝野訳だ。

与謝野晶子訳の「源氏物語」は和歌が訳されていない!?

それには2種類があって、ひとつは1913(大正2)年に完成したダイジェスト版で、角川文庫ソフィアから『与謝野晶子の源氏物語』として全3冊で出ている。

もうひとつは1939年(昭和14年)に完成させた「新訳」で、そのあとがきに与謝野は前作の「略述」が「粗雑な解と訳文」だったので、より原文に近い形で書き直したと書いている。

とはいえ、ダイジェスト版が現在も出版されているということは、読みやすいからで、いずれも著作権フリーになっているので青空文庫などで無料で読めるという手軽さもある。

与謝野訳の唯一の欠点は、和歌が訳されていないということ。

実は『源氏物語』には795もの和歌が収録されていて、なかには登場人物が自分の心情を歌に託すシーンも多い。従って、和歌の意味がわからないとストーリーの理解があいまいになってしまうところがあるのである。

与謝野は自身も歌人だったから、当時の読者の和歌リテラシーを信用していたのかもしれないが、令和を生きる人にその能力を求めるのはむずかしいだろう。

谷崎潤一郎訳の「源氏物語」は文章自体が難解という致命的弱点が

谷崎訳について言えば、和歌がどうとかいう問題だけでなく、原文に近い形で訳されているので文章全体が難解そのものなのだ。

谷崎は序文で「あまり学究的にならずに、普通の人が普通の現代小説を読むやうな風に読んで頂きたい」とか、「原文と対照して読むためのものではない」と書いているが、「原文と対照して読むのにも役立たなくはない筈であり」などとも書いていて、結果的にその文章を読みにくくしているようだ。

円地訳、田辺訳、瀬戸内訳。女流作家3人による絢爛豪華な世界

昭和の時代に出版された現代語訳されたものには、円地文子、田辺聖子、瀬戸内寂聴の3作がある。

もちろん、私はこれら全文を読んだわけではないので、『痛快!寂聴源氏塾』(集英社文庫)のなかの寂聴の解説をここに紹介しよう。

「円地源氏」は、与謝野源氏とも、また谷崎の源氏とも違ったスタンスで書かれています。

そのことについて、円地さんは、「人の愛し方には、相手をそっと床の間に置くように大切にする愛し方と、一方的な略奪結婚があるけれども、私の訳はその略奪結婚のほうね」とおっしゃっていました。

「あくまでも原文に忠実に」をモットーにした谷崎源氏とは対極的に、円地さんはたとえ紫式部の原文には書かれていなくても、「私ならば、こう書く」と思ったところは自由に加筆されています。

光源氏と女たちのベッドシーンなどがその例です。

ようするに谷崎のコンセプト、「普通の人が普通の現代小説を読むやうな風に」読めるものを円地流に実現したものだということがわかる。

次に、田辺聖子訳の寂聴評はどうだろう。こちらは『わたしの源氏物語』(小学館)からの引用だ。

古典を愛し、古典にいれあげて、広く深く読みこなし、しっかりと噛みくだき食べてしまって、自分の血や肉にしてしまった女流作家に田辺聖子さんがいる。おそらく当代女流の中では 田辺さんほど古典を読みこんでいる人はいないだろう。

その田辺さんにも源氏物語を現代語訳ではなく、すっかり自分のものとして食べてしまった後で、改めて、繭糸を吐き出すようにして織りあげた『新源氏物語』という大作がある。これは源氏を下じきにした田辺さんの全く新しい小説といっていいだろう。面白さでは円地源氏よりずっと這入(はい)りやすい。

この田辺訳は、エピソードをばっさり切って、読みやすく、ドラマチックに並べ替えたりしてもいるので、現代語訳というよりは、翻案小説とも言えるだろう。

では、自身の現代語訳について、寂聴はどのように発言しているのか?

そこで訳にあたっては、毛糸のようにもつれている源氏物語の長い文章のところどころにハサミを入れ、また主語もくどいほどに追加しました。また、源氏物語にかぎらず、古典の文章には敬語が多用されているのですが、これは読みやすく省略することにしました。しかし、それ以外は、原文にできるかぎり忠実に訳しています。(『痛快!寂聴源氏塾』)

なかでも寂聴訳の特徴は、和歌を五行詩で訳しているところ。学校で古文を習ったことのある人なら、和歌の現代語訳が説明的で味気ないものだと知っていると思うが、これが興趣ある現代風の詩で味わえるのはありがたいかもしれない。

橋本訳、林望訳の男目線の魅力

続いては、男性作家による現代語訳を見ていこう。橋本治訳、林望訳の2つである。

橋本治訳『窯変 源氏物語』(中公文庫)の最大の特徴は、物語全体が主人公である光源氏、および薫の一人称で語られているという点である。これについて橋本はエッセイ集『源氏供養』(中公文庫)で次のように説明している。

私が源氏物語を「光源氏の一人称で語り直してしまえ」と思った最大の理由は、「自分がどこまで魅力的な“悪い男”になれるか試してみたい」ということです。こういうことが物語作者の特権です。「女流作家の完成させた女の世界を、“男の世界” として取り戻してやる」という、『ぼんち』の主人公のような気持が私の“悪”の正体なのですが、ということになると、文体というものを考えなければなりません。

私がリンボウ先生こと、林望訳『謹訳 源氏物語』(祥伝社)で初めて全巻読破を達成したことは前述したが、そのウラには、訳業が完成する前後に私が先生にインタビューしたことがある。現在、その記事はサイト閉鎖によって閲覧できないが、その一部をここに再現することにしよう。

作家が書いたもの、学者が書いたもの、そのふたつの現代語訳には特徴があって、簡単に言ってしまうと、前者が作家らしい大胆さで自由に訳したものだとすると、後者は学術的な解釈で厳密に訳されたものです。どちらにも長所と短所があって、一概に「これがいい」とは決めかねます。

そこで私はそのふたつの特徴を統合してみようと思いました。つまり、作家の書き方で面白く、学者の分析力で正確に訳してみようというわけです。説明が必要な部分は書き足し、敬語など古文特有のまわりくどい言い回しなどは省略し、現代人が面白く読むことができて、なおかつ源氏物語の格調高い文学のエッセンスをわかりやすく伝えられるようなものにしたいと考えました。

リンボウ先生と言えば、デビュー作でありベストセラーにもなったエッセイ『イギリスはおいしい』(文春文庫)のイメージが強いからか、しばしば英米文学者だと誤解されることがあったそうだが、実は先生の専門は国文学、書誌学であり、「『源氏物語』の現代語訳に取り組みたい」という願望は作家デビューしたばかりのころから持っていたそうだ。

とにかく、その先生の労作のおかげで私は「源氏の現代語訳読破」を何とか達成できたわけである。感謝しかない。

まだまだあるぞ現代語訳。できれば2周目、3周目に挑戦したい

さて、最後に特徴的でユニークな現代語訳3つを紹介しよう。

『大塚ひかり全訳 源氏物語』(ちくま文庫)

源氏の男はみんなサイテー』『カラダで感じる源氏物語』(ともにちくま文庫)などの傑作古典エッセイで知られる大塚ひかりの全訳版。長年、原文に親しんできた大塚は「古典は原文を読むべき。だから私は現代語訳は基本的に読まない」と発言しているが、そんな彼女自身が「欲しかった逐語全訳」なのだという。

 筑摩書房のホームページによると、「原文を重視し、原文のリズムを極力重んじ、また『要注目』の原文はそのまま本文に取り込みつつ、『するする分かる』訳」とある。

 また、随所に「ひかりナビ」というコラムを差しはさみ、、読み取るべき「ツボ」がわかりやすく解説されているという。

『A・ウェイリー版 源氏物語』(左右社)

近代に入って初めて源氏の現代語訳をしたのは、与謝野晶子だが、それに続くのは谷崎潤一郎ではなく、イギリス人の東洋学者アーサー・ウェイリーだった。それが『The Tale of Genji』で、完成したのは1933(昭和8)年のこと。英米で紹介されるやたちまちベストセラーになり、「文学において時として起こる奇跡のひとつ」「疑いもなく最高の文学」と絶賛されたという。

本書は、そのウェイリー版の現代語訳を毬矢まりえ+森山恵姉妹がさらに日本語に訳した逆輸入版。光源氏が「ゲンジ」「シャイニング・プリンス」とカタカナ表記される、ちょっと不思議な世界である。90歳をこえる瀬戸内寂聴も、第一巻を徹夜で読了し、その後も丁寧に読み直したという。非常に興味がそそられる現代語訳である。

角田光代訳『源氏物語』

河出書房新社より出版された『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集』に収められた源氏の現代語訳を手掛けたのは、売れっ子小説家の角田光代。日本人が手掛けた現代語訳は、原稿用紙4000枚を超える大著だったが、この角田版はコンパクトにまとまっていて、「イッキ読み」にふさわしいものになっている。河出書房新社の公式ホームページによると、角田版には次のような特徴があるという。

  1. 原文に忠実に沿いながらも現代的で歯切れがよく、心の襞に入り込む自然な訳文
  2. 地の文の敬語をほぼ廃したことで細部まで分かりやすい
  3. 生き生きとした会話文
  4. 草子地(そうしじ)の文と呼ばれる第三者の声を魅力的に訳して挿入
  5. 和歌や漢詩などの引用は全文を補って紹介

さて、『源氏物語』の現代語訳について、できるだけ網羅的に紹介してきたつもりだが、私自身、「読了したのがまだ一冊」という超初心者である。

できれば今後、原文にも触れながら、2種類、3種類と別の現代語訳に触れて、「源氏好き」を公然と名乗れるほどになっていたい。そうなれば、大河ドラマ『光る君へ』が放送されている2024年は、秘かな優越感に浸りながら過ごせるはずだ。

地域から老人ホーム・介護施設を探す

北海道・東北

北海道札幌市)|青森県岩手県宮城県仙台市)|秋田県山形県福島県

関東

東京都神奈川県横浜市 / 川崎市 / 相模原市)|埼玉県さいたま市)|千葉県千葉市)|茨城県栃木県群馬県

甲信越・北陸

新潟県新潟市)|富山県石川県福井県長野県山梨県

東海

愛知県名古屋市)|岐阜県三重県静岡県静岡市 / 浜松市

関西

大阪府大阪市 / 堺市)|京都府京都市)|兵庫県神戸市)|滋賀県奈良県和歌山県

中国・四国

岡山県岡山市)|広島県広島市)|鳥取県島根県山口県徳島県香川県愛媛県高知県

九州・沖縄

福岡県福岡市 / 北九州市)|熊本県熊本市)|佐賀県長崎県大分県宮崎県鹿児島県沖縄県

よく読まれている記事

よく読まれている記事

article-image

介護付き有料老人ホームとは│提供されるサービス・費用・入居条件などを解説

介護付き有料老人ホームは、介護スタッフが24時間常駐している介護施設。介護サービスや身の回りの世話を受けられます。 この記事では、介護付き有料老人ホームの種類及び入居のための条件や必要な費用、サービス内容などを詳しく説明しています。 https://youtu.be/oK_me_rA0MY 介護付き有料老人ホームの特徴 介護付き有料老人ホームとは、有料老人ホームのうち、都道府県または市町村から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設です。24時間介護スタッフが常駐し、介護や生活支援などは施設の職員により提供されます。 主に民間企業が運営しているため、サービスの内容や料金は施設ごとに異なります。また、入居基準も施設により異なり、自立している方から介護が必要な方まで幅広く受け入れている施設も。選択肢が幅広いため、自分に合った施設を選ぶことができます。 看取りまで対応している施設も多数あり、「終の棲家(ついのすみか)」を選ぶうえでも選択肢のひとつとなります。 全体の概要をまとめるとこのようになります。 費用相場 入居時費用 0~数千万円 月額利用料 15~30万円 入居条件 要介護度 自立~要介護5※1 認知症 対応可 看取り 対応可 入居のしやすさ ◯ ※施設の種類によって異なります。 特定施設入居者生活介護とは 特定施設入居者生活介護は、厚生労働省の定めた基準を満たす施設で受けられる介護保険サービスです。ケアマネジャーが作成したケアプランに基づき提供される食事や入浴・排泄など介助のほか、生活支援、機能回復のためのリハビリなどもおこなわれます。指定を受けてこのサービスを提供する施設は、一般的に「特定施設」の略称で呼ばれています。 介護付き有料老人ホームの種類と入居基準 介護付き有料老人ホームには「介護専用型」「混合型」「健康型」の3種類があり、それぞれ入居条件が異なります。 介護度 ...

2021/11/10

article-image

グループホームとは|入居条件や費用、入居時に気をつけたいポイントを解説

認知症の方の介護は大変です。「そろそろ施設への入居を検討しよう」と思っても、認知症の症状があると、入居を断られてしまうのではと心配もあるでしょう。 グループホームは認知症高齢者のための介護施設です。住み慣れた地域で暮らし続けられる地域密着型サービスであり、正式な名称を「認知症対応型共同生活介護」といいます。 こちらの記事では、グループホームについて解説します。また、グループホームで受けられるサービスや費用、施設選びのポイントも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。 https://youtu.be/EofVO7MRRDM この記事を読めばこれがわかる! グループホームの詳細がわかる! グループホームを選ぶ際のポイントがわかる! グループホームへ入居する際の注意点がわかる! グループホームとは グループホームとは、認知症高齢者のための介護施設です。専門知識と技術をもったスタッフの援助を受けて、要支援以上の認知症高齢者が少人数で共同生活をおくります。 「ユニット」といわれる少人数のグループで生活し、入居者はそれぞれ家事などの役割分担をします。 調理や食事の支度、掃除や洗濯など入居者の能力に合った家事をして自分らしく共同生活を過ごすところが、ほかの介護施設や老人ホームとは異なるポイントです。 グループホームの目的は、認知症高齢者が安定した生活を現実化させること。そのために、ほかの利用者やスタッフと協力して生活に必要な家事を行うことで認知症症状の進行を防ぎ、できるだけ能力を維持するのです。 グループホームは少人数「ユニット」で生活 グループホームでは「ユニット」と呼ばれるグループごとに区切って共同生活を送るのが決まり。1ユニットにつき5人から9人、原則1施設につき原則2ユニットまでと制限されています。 少人数に制限する理由は、心穏やかに安定して過ごしやすい環境を整えるため。環境変化が少なく、同じグループメンバーで協力して共同生活することは、認知症の進行を防ぐことに繋がります。 認知症の方にとって新しく出会う人、新しく覚えることが難しいので、入居者やスタッフの入れ替わりが頻繁にある施設では認知症の高齢者は心が落ち着かず、ストレスを感じ生活しづらくなってしまいます。その結果、認知症症状を悪化させるだけでなく、共同生活を送る上でトラブルを起こすきっかけとなります。 慣れ親しんだ場所を離れて新しい生活をするのは認知症の方には特に心配が尽きないもの。その心配を軽減するため、より家庭にできるだけ近づけ、安心して暮らせるようにしています。 グループホームの入居条件 グループホームに入居できるのは医師から「認知症」と診断を受けている方で、一定の条件にあてはまる方に限ります。 原則65歳以上でかつ要支援2以上の認定を受けている方 医師から認知症の診断を受けている方 心身とも集団生活を送ることに支障のない方 グループホームと同一の市町村に住民票がある方 「心身とも集団生活を送ることに支障のない」という判断基準は施設によって異なります。入居を希望している施設がある場合には、施設のスタッフに相談しましょう。 また、生活保護を受けていてもグループホームに入ることは基本的には可能です。しかし、「生活保護法の指定を受けている施設に限られる」などの条件があるので、実際の入居に関しては、行政の生活支援担当窓口やケースワーカーに相談してみましょう。 グループホームから退去を迫られることもある!? グループホームを追い出される、つまり「強制退去」となることは可能性としてゼロではありません。一般的に、施設側は入居者がグループホームでの生活を続けられるように最大限の努力をします。それでも難しい場合は、本人やその家族へ退去を勧告します。「暴言や暴力などの迷惑行為が著しい場合」「継続的に医療が必要になった場合」「自傷行為が頻発する場合」etc。共同生活が難しくなった場合には追い出されてしまうこともあるのです グループホームで受けられるサービス グループホームで受けられるサービスは主に以下です。 生活支援 認知症ケア 医療体制 看取り それぞれ詳しく見てみましょう。 生活支援 グループホームでは以下の生活面でのサービスを受けられます。 食事提供 :◎ 生活相談 :◎ 食事介助 :◎ 排泄介助 :◎ 入浴介助 :◎ 掃除・洗濯:◯ リハビリ :△ レクリエーション:◎ 認知症を発症すると何もできなくなってしまうわけではなく、日常生活を送るだけなら問題がないことも多いです。 グループホームには認知症ケア専門スタッフが常駐しています。認知症進行を遅らせる目的で、入居者が専門スタッフの支援を受けながら入居者の能力(残存能力)に合った家事を役割分担して自分たち自身でおこないます。 食事の準備として買い出しから調理、配膳、後片付けまで、そして洗濯をして干すといった作業や掃除も、スタッフの介助を受けながら日常生活を送ります。 グループホームでは、入居者の能力(残存能力)に合った家事を役割分担して自分たち自身でおこなうことになります。 例えば、食事の準備として買い出しから調理、配膳、後片付けまで。また、そして洗濯をして、干すまで…など。そのために必要な支援を、認知症ケアに長けた専門スタッフから受けられるのが、グループホームの大きな特徴です。 グループホームは日中の時間帯は要介護入居者3人に対して1人以上のスタッフを配置する「3:1」基準が設けられています。施設規模によっては、付き添いやリハビリなどの個別対応が難しいので、入居を検討する際は施設に確認しましょう。 認知症ケア 施設内レクリエーションやリハビリのほかに、地域の方との交流を図るための活動の一環として地域のお祭りに参加や協力をしたり、地域の人と一緒に公園掃除などの活動を行う施設も増えてきました。 グループホームとして積み上げてきた認知症ケアの経験という強みを活かし、地域に向けた情報発信などのさまざまな活動が広がっています。 地域の方と交流する「認知症サロン」などを開催して施設外に居場所を作ったり、啓発活動として認知症サポーター養成講座を開いたりするなど、地域の人々との交流に重きを置くところが増えています。 顔の見える関係づくりをすることで地域の人に認知症について理解を深めてもらったり、在宅介護の認知症高齢者への相談支援につなげたり。 こうした活動は認知症ケアの拠点であるグループホームの社会的な価値の向上や、人とのつながりを通じて入所者の暮らしを豊かにする効果が期待できます。 医療体制 グループホームの入居条件として「身体症状が安定し集団生活を送ることに支障のない方」と定義しているように、施設に認知症高齢者専門スタッフは常駐していますが、看護師が常駐していたり、医療体制が整っているところはまだまだ少ないです。 しかし近年、高齢化が進む社会の中で、グループホームの入居者の状況も変わってきています。 現在は看護師の配置が義務付けられていないので、医療ケアが必要な人は入居が厳しい可能性があります。訪問看護ステーションと密に連携したり、提携した医療機関が施設が増えたりもしているので、医療体制について気になることがあれば、施設に直接問い合わせてみましょう。 看取り 超高齢社会でグループホームの入所者も高齢化が進み、「看取りサービス」の需要が増えてきました。 すべてのグループホームで看取りサービス対応しているわけではないので、体制が整っていないグループホームの多くは、医療ケアが必要な場合、提携医療施設や介護施設へ移ってもらう方針を採っています。 介護・医療体制の充実度は施設によってさまざまです。介護保険法の改正が2009年に行われ、看取りサービスに対応できるグループホームには「看取り介護加算」として介護サービスの追加料金を受け取れるようになりました。 看取りサービスに対応しているグループホームは昨今の状況を受け増加傾向にあります。パンフレットに「看取り介護加算」の金額が表記されているかがひとつの手がかりになります。 グループホームの設備 グループホームは一見、普通の民家のようで、家庭に近い雰囲気が特徴ですが、立地にも施設基準が設けられています。 施設内設備としては、ユニットごとに食堂、キッチン、共同リビング、トイレ、洗面設備、浴室、スプリンクラーなどの消防設備など入居者に必要な設備があり、異なるユニットとの共有は認められていません。 入居者の方がリラックスして生活できるように、一居室あたりの最低面積基準も設けられています。このようにグループホーム設立にあたっては一定の基準をクリアする必要があります。 立地 病院や入居型施設の敷地外に位置している利用者の家族や地域住民と交流ができる場所にある 定員 定員は5人以上9人以下1つの事業所に2つの共同生活住居を設けることもできる(ユニットは2つまで) 居室 1居室の定員は原則1人面積は収納設備等を除いて7.43㎡(約4.5帖)以上 共有設備 居室に近接して相互交流ができるリビングや食堂などの設備を設けること台所、トイレ、洗面、浴室は9名を上限とする生活単位(ユニット)毎に区分して配置 グループホームの費用 グループホーム入居を検討する際に必要なのが初期費用と月額費用です。 ここからは、グループホームの入居に必要な費用と、「初期費用」「月額費用」それぞれの内容について詳しく解説していきます。 ...

2021/11/15

article-image

【動画でわかる】有料老人ホームとは?費用やサービス内容、特養との違いは

介護施設を探している中で「老人ホームにはいろいろな種類があるんだ。何が違うんだろう?」と疑問を感じることがあるかもしれません。 そこで今回は、名前に「老人ホーム」とつく施設の中でも、「有料老人ホーム」を中心に紹介。よく似ている「特別養護老人ホーム」との違いも見ていきます。 「老人ホームの種類が多すぎて訳がわからない」と思ったら、ぜひ参考にしてみてくださいね。 https://youtu.be/eMgjSeJPT8c 有料老人ホームの種類 有料老人ホームには、以下の3種類があります。 介護付き有料老人ホーム 住宅型有料老人ホーム 健康型有料老人ホーム この3種類の違いを以下にまとめています。 種類 介護付き有料老人ホーム ...

2021/10/28

介護の基礎知識

total support

介護の悩みを
トータルサポート

total support

介護施設への入居について、地域に特化した専門相談員が電話・WEB・対面などさまざまな方法でアドバイス。東証プライム上場の鎌倉新書の100%子会社である株式会社エイジプラスが運営する信頼のサービスです。

鎌倉新書グループサイト