介護をしていると、家族が夜中に何度も起きてしまったり、昼夜逆転の生活になってしまったりと、睡眠に関する悩みは尽きません。私たちは「ちゃんと眠れていないから、病気が悪化してしまうのでは」と心配になりがちです。
しかし、脳神経外科医である東島威史氏の著書『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』には、これまでの常識を覆すような驚きの見解が記されています。介護に奮闘する私たちにとって、心の負担を軽くしてくれるヒントが隠されているかもしれません。
脳神経外科医の東島威史氏によると、「睡眠不足は脳に悪影響を及ぼし、認知症の原因になる」という一般的な考え方には誤りがあるといいます。彼は、アルツハイマー型認知症では脳の中にある「睡眠中枢」である視索前野が障害されるため、認知症の初期症状として睡眠障害が現れる可能性が高いと指摘しています。
つまり、睡眠不足が認知症を引き起こすのではなく、認知症が睡眠不足を引き起こしているという、これまでとは逆の因果関係が成り立っているというのです。これは、家族の夜間の睡眠が不規則でも、「認知症が進んでいるから仕方ない」と割り切ることで、介護者側の不安を和らげてくれる考え方といえるでしょう。
東島氏は、生物進化論を例に挙げて、睡眠は脳のためではないと主張します。脳を持たないクラゲやヒドラ、まだ脳が未発達な胎児にも眠りが見られることから、彼は「脳があるのに人は眠る」と捉えるべきだと提唱します。そして、生物のデフォルトはエネルギーを節約するための「休息モード」であり、脳は「活動モードの器官」として進化の過程で追加されたものであると説明します。
この見解は、私たちの介護生活においても新しい視点を与えてくれます。例えば、認知症の家族が昼間も横になって休んでいる様子を見ると、「寝てばかりで大丈夫だろうか」と心配になることがあります。しかし、これは脳が休息を求めているのではなく、体のエネルギーを節約するための自然な休息モードであると考えると、過剰な心配をせずに見守ることができます。
東島氏は、脳は保育士のように体の眠りを監督しながら、24時間活動し続ける器官だと述べています。そして、脳は「活動しないと衰えてしまう」ため、脳にとっての本当の休息は、活動を続けることであると主張しています。そのため、「眠らない脳こそ、老いない脳」であるという独自の理論を強調しています。
介護者の目線で見ると、この考え方はとても勇気づけられるものです。日中、起きて何かをしようとしない家族を見ていると、「ぼーっとしていて認知症が進んでしまうのでは」と焦りを感じることがあります。しかし、脳が常に活動していると捉えることで、無理に活動を促す必要はないと考えることができます。これにより、介護者自身の「何かをさせなければ」という強迫観念から解放され、心にゆとりを持って介護に臨むことができるようになるかもしれません。
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