認知症の方のケアは、介護のプロであってもとても大変なことですよね。もしかしたら、「ユマニチュード」という認知症ケアを実践すると入居者様の状態が安定して、介護もスムーズになるかもしれませんよ。
老人ホームで介護職員をしています。日々の介護業務が忙しくて、ケアが流れ作業になっているような気がしています。
特に認知症の入居者様にケアをしようとすると興奮されたり拒否されることが多く、その対応をするためにとても時間がかかります。それに、体力を使うので毎日疲れてしまうんです。何か良い解決策はないでしょうか?
うーん、難しい問題ですね…。認知症の入居者様が介護拒否されるのであれば、もしかしたら、認知症の方へのケアを変えることで状況が変わるかもしれません。
藤原さんは、「ユマニチュード」というケア方法をご存知ですか?
名前は聞いたことがありますが、詳しくはわかりません。
ユマニチュードというのは、認知症ケアのプログラムのことです。人がもともと持っている能力をできるだけ引き出すことを基本姿勢とした認知症ケアで、心身の回復や機能の維持を目的としています。
ちなみに、ユマニチュードというのはフランス語で「人間らしさを取り戻す」という意味だそう。フランス人のイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発したケア方法なので、フランス語なんですね。
へー、そういう意味だったんですね。ユマニチュードを取り入れると、どう変わるんでしょうか?
個人差がありますが、認知症の方の不安を和らげて暴力・暴言といったものが減るとされています。日本ユマニチュード学会によると、認知症の二次症状である行動心理症状(BPSD)の15%が改善したそうです。
症状が改善するんですか!?うちの施設では、暴言や暴力をして介護拒否をする入居者様が多くて困っているんです。
そうなんですね。ユマニチュードは、介護現場で「ケアのうまくいく・いかないは何が違うのか」を丁寧に分析して開発されたプログラムなので、実際の現場に即した内容になっています。ユマニチュードを実践することでケアがスムーズになるかもしれませんよ。
ユマニチュードについて、とても興味が出ました。具体的には、どんなケアをするのでしょうか?
ユマニチュードケアの実践方法は、「4つの柱」と「5つのステップ」に分けられます。まずは、「4つの柱」についてお話ししていきますね。
4つの柱というのは、ケアをするうえで重要な「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの動作のこと。介護をする人が、介護を受ける人のことを大切に思っていることを伝えるための技法です。
大切に思っていることを伝える…。重要なことですが、なかなか実行できてないかも。
ケアをしていると体調に異常がないかなどのチェックを優先してしまい、大切に思っていることを伝える余裕がなかなかなくなってしまいますよね。
そこで、ユマニチュードでは以下の点を注意することで、相手への気持ちを「見る」ことで伝えます。
見るだけでもいろんなことを伝えられるんですね。
次に「話す」ですね。認知症の方と話すときには、「オートフィードバック法」を試してみると良いかもしれません。オートフィードバック法というのは、今おこなっているケアを実況中継することで、相手に安心感を与える方法です。
もし、会話ができなくても「今からお顔を拭きますね」「体を起こしますよ」と声掛けをするだけで安心できるのはなんとなく想像できますよね。逆に、無言でケアをしてしまうと、相手は孤独感を抱きかねません。
介助することに必死で、声掛けを忘れてしまっていました。無言でケアされたら不安になりますよね…。
また「触れる」ときにはちょっとした注意が必要です。ケアをするときには身体のどこかに触れる機会が多いですが、急に顔や手、唇などの敏感な部分に触ると相手は驚いてしまいます。はじめは、背中や肩などの敏感でない部分から触れたり、なるべく広い面積を触ることで驚かせないでケアが進められますよ。
触る部分なんて気にしたことがありませんでした。
さらに、ユマニチュードケアに特徴的なもののひとつに、立つことを重視している点があります。ユマニチュードでは1日20分程度の立つ時間を作ることで、心身の健康を維持することを目指します。
立つことは、骨や筋肉にほどよく負荷がかかるので、骨粗しょう症を防いだり筋肉の低下を防ぎ、寝たきりを予防します。また、寝たきりから立てるように意識してケアをすることで、ケアを受ける方が人間としての自信を取り戻すきっかけにもなるのです。
ユマニチュードのもうひとつのポイント「5つのステップ」は、ケアの始まりから終わりまでを1つの物語のようにとらえた、より心地よいケアのための枠組みです。
5つのステップは、次のように展開していきます。
「出会いの準備」というのは、居室への入室時のことです。ノックをして入室の許可をもらうことは当然のこととして、1度目のノックで返事がないことがありますよね。そのときは、またノックをして反応を待ちます。それでも、返事がなければノックをしながら入室しましょう。
このときに大切なのは、「自分が入室を許可した」とご本人が認識すること。特に認知症の人は、何度もケアをおこなっている職員さんでも顔を覚えられない場合がありますから、「急に知らない人が入ってきた」と不安になりやすいです。不安を軽減してケアをおこなうために、この「出会いの準備」が大切なんですね。
うーん…、部屋に入るだけでも時間をかけるんですね。
次は、入室してケアをする前に入居者様とコミュニケーションをします。ポジティブな言葉で、これからどんなケアをおこなうのかを説明して相手の警戒心を解きましょう。
もしかしたら、説明の段階でケアを拒否されることもあるかもしれません。しかし、そこで無理やり介助をするのではなく、いったんケアを止めることも必要です。
え!そんなことしたらいつまでもケアができませんよ!ただでさえ忙しいのに途中で止めてしまったら、全然、仕事が進みません。
もしここで無理やり介助をしてしまったら、入居者様に嫌な記憶が残ってしまいます。認知症の方は、出来事の記憶はなくなってしまっても感情の記憶は残るとされていますから、職員さんの顔がわからなくても「この人は嫌なことをする人だ」という感情だけ残るかもしれません。
そうなると、次回の介助でまた介護拒否されたり、暴力や暴言として現れることもあるでしょう。なので、介護拒否されたらいったんケアを止めることで、「この人は嫌なことをしない」というポジティブな記憶を持ってもらえるようにするんですね。
「知覚の連結」というのは、4つの柱の「見る」と「話す」と「触れる」のうちの2つ以上の方法を使って、ケアをすることです。
ここで重要なのが、複数の感覚から与える情報を一致させること。例えば、「優しい笑顔で声掛けをしながら、優しく触れる」というように、視覚と聴覚と触覚から受ける印象を同じものにするんですね。反対に「優しい笑顔をしながら強く手をにぎる」のはNGです。
確かに、顔は笑っているのに乱暴に触れられたら、ものすごく怖いですもんね。
次はケアが終わった後の声掛けについてです。ケアが終わったら「気持ち良くなりましたね」といったポジティブな声掛けをしてください。すると、ケア自体の記憶はなくなってしまっても感情の記憶は残りますから、良い記憶としてインプットされやすくなるんです。
ここでも感情の記憶が大切なんですね。
「再開の約束」というのは、退室の際に「また来ますね」と次の来訪を約束することです。
でも、認知症の方って約束しても忘れてしまいますよね?意味があるんですか?
確かに、ケアをしたことや約束自体は忘れてしまうでしょう。でも、「ケアで気持ちよくなったこと」や「親切にしてくれた人が、また来てくれる楽しみな気持ち」は残るんです。
最後にポジティブな気持ちを持ってもらうことで、次回のケアがスムーズになるんですね。
ユマニチュードの実践方法について聞いていて思ったのですが、何か特別なケアをしているというわけではないんですね。もっと特殊な方法をするのかと思ったのですが…。
おっしゃる通りです。そもそも、認知症の方が暴力的になったり、介護拒否する理由は不安感であることが多いんです。なので、ユマニチュードのように優しい声掛けや態度をするだけでも、不安感が和らいで暴力性も収まると考えられています。
それに、ユマニチュードで介護する人とのコミュニケーション回数が増えることで、認知症が改善したケースも報告されています。
へぇ!そうなんですね!
さらに、認知症の症状が改善されたり介護拒否などが減ることで、介護する側の負担も軽減しますよね。ユマニチュードを取り入れたフランスの施設では、職員の離職率や欠勤率が50%も低下したそう。ケアをする人の精神的な負担感も20%改善したとのことなので、ユマニチュードを実践することで介護する人・される人の両方にメリットがあるんです。
実は、ユマニチュードの方法を聞いて「時間と手間がかかりそう」と思っていたんですが、職員の負担も減るんですね。取り入れられないか、相談してみようかな。
もちろん、ユマニチュードを実践したからといってすぐに状況が改善するものではありません。継続していくことが大切です。時間はかかると思いますが、きっと良い変化があると思うので、長い目で職場を改善していってくださいね。
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