アルツハイマー型認知症の症状には、「記憶障害」「見当識障害」「実行機能障害」「失行」などがあります。直近の記憶がなくなったり、自分のいる場所がわからなくなったりと、進行すると日常生活を送ることが難しくなります。大切なのは、そういった症状に対して否定的な態度をとらないこと。話を合わせてそれとなく気をそらせたりすると、興奮せずに穏やかに過ごせると思いますよ。
先日、母の検査したところ、「アルツハイマー型認知症」という診断が下りました。確かに最近、直前に話したことをすっかり忘れていたり、テレビの付け方がわからなかったり様子がおかしいところはあったのですが…。
これから認知症が進行していったらどんな症状が出てくるのでしょうか?母が変わっていってしまうのではないかととても心配なんです。
そうですよね、認知症になるとまるで人が変わってしまったんではないかと感じるときもあるかもしれません。でも、アルツハイマー型認知症の症状を理解しておくことで「これは認知症の症状によるものだ」と受け止められることも増えると思いますよ。
特に認知症の方の介護は、介護をする人にとって負担が大きくなりやすいです。アルツハイマー型認知症の特徴や症状を把握しておくことで気持ちが楽になるかもしれません。
そうなんですね…。アルツハイマー型認知症の特徴というと、どんなことがありますか?
「脳が萎縮する」というのは、聞いたことがあります。
このようなアルツハイマー型認知症は、認知症の中でももっとも多いとされています。次のグラフのように、70%近くがアルツハイマー型認知症というデータもあるくらいなんです。
また、アルツハイマー型認知症に限らず、65歳未満の人が認知症を発症することを「若年性認知症」と言います。若年性認知症については、以前のご質問で答えているので参考にしてみてください。
アルツハイマー型認知症には、どんな症状があるんでしょうか?
アルツハイマー型認知症の症状は、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。
中核症状というのは、脳が損傷することで引き起こされるため誰でも現れる症状のこと。BPSDは中核症状が原因となって引き起こされる症状で、症状が現れるかどうかは個人差があります。
以下で、中核症状とBPSDをまとめてみました。
いくつかよくわからないものがあります。「見当識障害」というのは何ですか?
見当識障害とは、時間や場所がわからなくなるのことです。例えば、今何時かわからなくなったり、季節がわからないので夏なのにコートを着て外出しようとする、といった症状があります。
母に「今日は何日?」とよく聞かれることがありますが、そういうことだったんですね。
おそらく見当識障害の症状でしょう。他にも「実行機能障害」というのもわかりにくいかもしれません。
実行機能障害は、計画を立てて行動をするのが難しくなる症状です。例えば、料理をするだけでも、買い物をしたり調理の段取りを考えながら作業をしなければいけないですよね。そういった順序立てて行動する力と、複数の動作を同時にこなすこともできなくなるんです。
なるほど…。最近は、手元が危なっかしいので料理をさせていないので何とも言えませんが、そういうこともできなくなっているかもしれません。
…あと、「失行」というのはどんな症状ですか?
失行は、それまでできていたことができなくなることです。道具の使い方がわからなくなったり、服を自分で着れなくなる、という症状が出ることもあります。お母様の「テレビの付け方がわからなくなった」というのは、失行に当てはまるかもしれませんね。
そうだったんですね。これまで当たり前にできていたことができなくなるのは、なんだか怖いですね。
はい。おっしゃる通りだと思います。そうした恐怖や不安は、認知症を患うご本人も感じていることもあり、それが原因でBPSDの症状が出てしまうんです。
どういうことですか?
例えば、見当識障害によって自分の居場所がわからなくなると、自宅にいるのに「家に帰る」と言って出ていってしまうことがあります。いわゆる「徘徊」ですね。
周囲からは「自宅から勝手に出て行って、帰ってこれなくなる」と見えてしまうんですが。ご本人にとっては、「知らない場所から自宅に帰ろうとしたら道がわからなくなった」という状況なんです。このように、中核症状である見当識障害が原因で、BPSDの徘徊の症状が出るわけです。
なるほど…。認知症の人が徘徊して行方不明になるというニュースを見ますが、きちんと理由があるんですね。
アルツハイマー型認知症について、いろいろとわかってきました。これから、母にはどういった対応をしていけば良いんでしょうか?
そうですね、まずはご自宅の環境を整えることから始めてみると良いかもしれません。例えば、認知症の人はトイレやお風呂といったものがどこにあるのかがわからなくなりますから、大きな文字でドアに「トイレ」「お風呂」と書いて貼っておいたりするのはどうでしょう。
それと、通院などの大切な用事があるときは、お母様がよく目にする場所に予定を大きく書いて貼るのも良いですね。環境を整えるだけでもご自身でできることが増えると思いますよ。
それは良いですね。すぐにやってみます。
あとは、普段の接し方もポイント。認知症の人はついさっき言ったことを忘れてしまう傾向がありますから、何度も同じ話をしたり、同じことを聞いてくることもあると思います。
そういうときに「さっき言ったでしょう」と否定してしまったり、感情的に声を荒げるのは良くありません。認知症の症状で、”話したこと自体”の記憶が丸ごと消えているので、怒られると不安になったり、精神的に不安定になってしまうんです。
私、母があまりにもしつこく同じことを聞いてくるので、いらだって怒鳴り返してしまうことがありました…。良くなかったんだ。
忙しいと、やはりイライラしてしまうのは仕方がないことですよ。ただ、「認知症の症状なんだ」と受け止めることで、多少はそのイライラが軽くなるかも知れませんね。
認知症の人への対応の基本は、「否定しない」ことです。例えば、認知症の症状のひとつに「物盗られ妄想」があります。財布やバッグなどを盗られたと思い込んでしまうことですね。そういうときにも、話を合わせて一緒に探したり、探しながら話題を変えてみるといった対応をすると妄想自体を忘れてしまうので落ち着くこともあるんです。
そんな対応方法があるんだ…。私も、「否定しない」ということを心がけてみます。
アルツハイマー型認知症の診断を受けた後、病院から薬をもらいました。でも、症状を抑えるだけみたいで。認知症を治す薬は使えないんでしょうか?
うーん、実は、まだ認知症を根本から治す薬は開発されてないんです。
そうなんですか!認知症って治らないんですか!?
はい。認知症の原因を完全に治療する、という意味では治らないです。ただ、病院でもらった薬のように、症状を抑える薬はあります。対処療法ではありますが、症状を抑えられるだけでかなり生活がしやすくなることもありますよ。
そうなんですね…。薬を飲んでいくしかないのかな…。
薬以外にも治療法はありますよ。例えば、認知症の症状を緩和させるためのリハビリがあります。病院やリハビリ施設では、作業療法士という専門家がおこないますが、ご自宅でもできることがあります。
自宅でも?どんなことですか?
いくつかありますが、簡単な家事やお母様の趣味に関するものはどうでしょうか。具体的には、家事だと洗濯物をたたむ、掃除をする、テーブルをふくなどの簡単なことをお母様に任せてみたり、編み物や塗り絵、囲碁などお母様の趣味をしてみたりするのが良いかもしれません。
家事は意外と身体を使いますし、趣味などで指先を動かすことは脳に刺激を与えますから、認知症の症状の抑制につながるとされています。
家事も趣味も、する機会が全然なくなっていました。家ではぼーっとテレビを見ているだけなので、何か任せてみようかな。
ここまで、アルツハイマー型認知症の症状や対応法などについてお話ししてきました。でも、しっかり理解していたとしても介護を続けていると辛くなったり、負担が大きくなることもあると思います。そこで、認知症の人やその介護をするご家族を支援するサービスについてお伝えしますね。
例えば、「認知症カフェ」という認知症の人やそのご家族が集まる場が全国で設けられています。同じように認知症のことやその介護で悩む人と話をして、悩みを共有したり相談できるんですね。
へぇー、そういうところがあるんですね。周りに認知症の家族を介護している人がいないので、行ってみたいかも。
ショートステイですか?知ってはいますが、使ったことはありませんね。
ショートステイは、その名の通り、介護施設で短期間の宿泊ができるサービスです。これは、介護する人が一時的に介護から離れてリフレッシュすることを目的としているんです。
もちろん、冠婚葬祭で家を開けなければいけない、といった場合でも利用できます。が、定期的にショートステイの利用をすることで、計画的に”介護休み”を作っている人もいます。介護は長く続くものですから、適度に休みを入れつつ、介護疲れでダウンしてしまわないようにしているんですね。
じつは、このところ母の症状が悪化しているのか夜に起きてくることもあって睡眠不足なんです。疲れも溜まっていますし、もしかしたらショートステイを利用した方が良いのかもしれませんね。
介護疲れで小野さんが倒れてしまったら、元も子もありません。1人で抱え込まず、うまく支援サービスを活用して、少しでも介護を楽にしてくださいね。
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