老人ホームの費用が高すぎて…。「世帯分離」で安くなるって本当ですか?

老人ホームの費用が高すぎて…。「世帯分離」で安くなるって本当ですか?

更新日 2026/01/23
実家で一人暮らしをしていた83歳の母について相談させてください。

先日、母に軽い認知症の症状が見られ、今の家での生活が難しくなってきました。いくつか有料老人ホームを見学したのですが、月額費用が20万円を超えるところも多く、母の年金だけでは到底足りません。

私の貯金を切り崩す覚悟ですが、自分の老後も考えると不安で……。そんな時、友人から「世帯分離をすれば介護費用が安くなる」と聞きました。

でも、役所の手続きなんて難しそうですし、そもそも一緒に住んでいないのに世帯を分けるって、なんだかズルをしているみたいで後ろめたさもあります。本当のところ、どうなのでしょうか?

(佐藤さん・会社員・55歳)

お母様の将来とご自身の生活、その両方を天秤にかけて悩まれるのは、決して佐藤さんだけではありませんよ。

結論から言いましょう。「世帯分離」は、決してズルでも不正でもありません。 介護保険制度という枠組みの中で、法律に則って認められている「世帯のあり方」の選択です。これをうまく活用することで、月々の介護負担が数万円単位で変わることも珍しくない。

ただ、世の中「これさえやれば絶対にお得!」なんて甘い話はありません。世帯分離にも、メリットがあれば必ずデメリットもあります。佐藤さんのケースで本当に安くなるのか、それとも逆に損をしてしまうのか。

今日は、老人ホーム選びのプロとして、世帯分離の「光と影」を包み隠さずお話ししますね。

そもそも「世帯分離」って何?老人ホーム入居との関係

まず基本的なことから伺いたいのですが、世帯分離って、具体的にはどういう状態を指すのでしょうか?

世帯分離というのは、「同じ住所に住んでいながら、住民票上の世帯を2つ以上に分けること」を言います。

同じ家に住んでいるのに、世帯が別々。なんだか不思議な感じがしますね。

そうですよね。でも、住民票上の「世帯」の定義は「生計を共にしている集団」なんです。親子であっても、お財布が別々なら、本来は別世帯として登録できるんですよ。

老人ホーム入居時に世帯分離が行われる一般的なケース

  • 同居していた親が施設に入居する場合:物理的に住所が変わるため、必然的に世帯が分かれます。
  • 便宜上、同一世帯にしていた場合:親を自分の健康保険の扶養に入れていたり、手続きを簡略化するために世帯を一つにしていたケースです。

佐藤さんの場合、お母様は今は一人暮らし(単身世帯)ですよね? もし佐藤さんがお母様を引き取って同居してから施設に入れる…なんてことになれば話は別ですが、今現在はすでにお母様は「単身世帯」のはず。

ただ、もし過去に「税金の控除を受けるために住民票を一緒にしていた」なんてことがあれば、そこがポイントになります。

なるほど。私の場合は、母は実家の住所のままですが、私が時々お金を補助しているので「生計を共にしている」と言えるのかと思っていました。

お金の補助は「扶養」の話であって、住民票の「世帯」とはまた別の議論なんです。ここを混同するとややこしくなりますから、整理していきましょう。

なぜ安くなる?世帯分離による「3つの節約メリット」

友人は「世帯分離をすると介護費用がぐんと下がる」と言っていたのですが、なぜ世帯を分けるだけで安くなるんですか?

それは、日本の介護保険制度や福祉サービスの多くが「世帯の所得」を基準に費用を決めているからです。

つまり、現役世代の私と、年金暮らしの母が「同じ世帯」だと、私の収入が合算されて「課税世帯」扱いになり、補助が受けられないということですか?

その通りです。

佐藤さんのような現役バリバリの世代と一緒だと、お母様は「余裕がある世帯の人」と見なされてしまう。でも、世帯を分ければ、お母様は「所得の少ない高齢者単身世帯」として、手厚い補助の対象になる可能性が高まるわけです。

ちなみに以下の項目が、世帯分離によって費用負担が軽くなる項目です。

  1. 高額介護サービス費:1ヵ月に支払う介護サービス費の自己負担上限額が下がります。
  2. 特定入所者介護サービス費(補足給付):施設での「食費」と「居住費」が補助されます。
  3. 介護保険料:本人の住民税が非課税になれば、保険料そのものも安くなります。

【シミュレーション】「住民税非課税世帯」になると、どれくらい安くなる?

具体的に、いくらくらい変わるものなんでしょう? 2〜3000千円くらいなら、手間をかけるのもなぁ……なんて思ってしまうのですが。

2〜3000円どころじゃありませんよ。これは「月額」の話ですからね。年間にしたら相当な差になります。

たとえば、特別養護老人ホーム(特養)に入るケースで考えてみましょうか。世帯分離をしてお母様が「住民税非課税世帯」の第3段階(年金収入等が一定以下)になったとします。

項目課税世帯(子と同世帯)非課税世帯(世帯分離後)差額
食費(日額目安)約1,440円約650円約790円
居住費(日額目安)約2,000円約1,310円約690円
合計(月30日)約103,200円約58,800円約44,400円

月に4万4000円も違うんですか? 年間にしたら50万円以上…。これは、老後の資金計画が根底から変わるレベルですね。

さらに、介護サービスの自己負担上限(高額介護サービス費)も、一般世帯なら月44,400円ですが、非課税世帯なら24,600円まで下がります。合わせれば、月々6万円以上の差が出ることもあるんです。

知らないと怖い!世帯分離の「デメリット」と「リスク」

さて、ここまでは「光」の部分をお話ししましたが、ここからが「プロの厳しさ」です。世帯分離には、デメリットもちゃんとあるんです。

やっぱりうまい話だけじゃないんですね。覚悟はしています。教えてください。

主なデメリットは、大きく分けて3つあります。

世帯分離による主なデメリット

  1. 所得税・住民税の「扶養控除」が受けられなくなる
  2. 健康保険の「被扶養者」から外れる
  3. 高額療養費(医療費)の世帯合算ができなくなる

佐藤さんはお母様を「税制上の扶養」に入れていますか?

はい、年末調整で母を扶養に入れています。それで私の所得税が少し安くなっているはずです。

世帯分離をしても「仕送り」などをしていれば扶養控除を受け続けることは制度上可能ですが、自治体によっては「世帯が別なら生計も別だよね」と厳しくチェックされることもあります。

また、佐藤さんの会社から「家族手当」が出ている場合、世帯が別だと支給対象外になることもありますね。

会社の家族手当……! それは盲点でした。

あとは医療費ですね。もし佐藤さんお一人とお母様が同時に高い医療費がかかった場合、同じ世帯なら合算して「上限を超えた分」を返してもらえるんですが、世帯が別だとそれぞれで上限まで払わないといけません。

つまり、「介護費用で得する分」と「自分の税金や手当で損する分」を天秤にかけないといけない、ということですね。

【判断基準】世帯分離をすべき人、すべきでない人

結局のところ、私は世帯分離をすべきなのでしょうか?

それを判断するための「簡易チェックリスト」を作ってみました。これに当てはまるかどうか、一緒に見てみましょう。

世帯分離で「得」をする可能性が高い人

  1. 親の年金収入が少ない:目安として年金が年155万円以下(単身の場合)
  2. 施設の種類が「公共に近い」:特養や老健(介護老人保健施設)などは補助が手厚い
  3. 子の所得が高い:子が課税所得の多い層だと、世帯合算による介護負担の跳ね上がりが大きい

世帯分離を「しない方がいい」人

  1. 親に十分な年金や資産がある:世帯分離しても「住民税課税」のままなら、メリットはありません
  2. 親を自分の健康保険の扶養に入れている:分離によって親が自分で保険料を払うことになり、トータルで損をすることも
  3. 子の会社の手当が手厚い:「同世帯」が家族手当の絶対条件である場合。

佐藤さんのお母様の年金は、どれくらいですか?

月に12万円くらい、年間で144万円です。

それなら「住民税非課税世帯」の枠に入る可能性が極めて高いですね。

一方で、佐藤さんの税金の控除額(扶養控除)による節税効果は、せいぜい年間数万円から十数万円。介護費用の削減分(年間数十万円)と比べれば、世帯分離をした方が家計全体ではプラスになる可能性が高いと言えます。

まとめ:老人ホームと世帯分離の重要ポイント

それでは、今日のポイントを振り返っておきましょう。

  1. 世帯分離は、お財布を分ける「正当な手続き」であり、不正ではない。
  2. メリットは「介護サービス費の上限低下」と「食費・居住費の補助」。月数万円の差が出る。
  3. デメリットは「子の税負担増」や「家族手当の消失」。家計トータルでの試算が不可欠。
  4. 親の預貯金額が一定(通常1,000万円)を超えていると、食費・居住費の補助は受けられない。

ありがとうございます!

まずは母の資産状況を確認して、私の会社の就業規則(手当の規定)も読み直してみます。その上で、役所の介護保険窓口でも一度シミュレーションをお願いしてみます。

もし、具体的な施設探しの中で「この施設なら、世帯分離のメリットはどれくらいありますか?」なんて疑問が湧いたら、またいつでも聞きに来てくださいね。

私たちは、佐藤さんとお母様にとっての「最善の選択」を、一緒に探していくパートナーですからね。

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