認知症など認知障害により判断能力が不十分になる前に、将来の備えや介護施設に入居するための準備として、任意後見制度の利用を検討する方が増えています。
そこでこの記事では、任意後見制度とはどのような制度なのか?その特徴と必要な手続きの流れを解説していきます。
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任意後見制度とは、本人に充分な判断能力があるうちに、将来、認知症などで判断能力が低下したときに、本人に代わって事務手続きなどおこなう人を定めておく制度のことをいいます。
本人が判断能力を有するうちに、将来の財産管理、介護サービス締結や療養看護に関する手続きなどを、信頼できる方にあらかじめお願いし、引き受けてもらう契約を結びます。
この契約は任意後見契約を呼ばれ、公正証書によって締結されます。任意後見契約においては、依頼人(本人)は委任者、引き受ける方は任意後見受任者(後に、任意後見人)と呼ばれています。
任意後見制度を利用する際の手続きの流れを見ていきましょう。
まず、後に任意後見人となってもらう任意後見受任者を決定します。
任意後見人になるためには、特別な資格は必要ありません。家族や親族はもちろん、信頼できる友人、または弁護士や司法書士などの第三者や法人と契約を結ぶこともできます。
また、業務を確かに遂行するために、任意後見人を複数定めることもできます。ただし、以下の項目に該当する人は任意後見人にはなれないので注意してください。
任意後見受任者が決定し、支援してもらう契約内容も定まったら、本人と任意後見受任者の間で任意後見契約を結びます。
必ず本人と任意後見人がともに公証役場に訪れ、公正証書を作成し、契約を締結しなければなりません。この公正証書によって締結されていない契約内容はすべて無効になるため、証書作成の際は最善の注意が必要です。
また、公証役場は予約が必要となり、突然、訪問しても任意後見契約を締結することができません。任意後見契約の内容も公証役場に事前に伝えておく必要があります。契約内容の策定や公証役場とのやりとりについては、司法書士や行政書士のサポートを受けながらおこなうことも良いでしょう。
任意後見契約をおこなう際に必要となるものには下記のものがあります。必ずすべての書類を揃え、確認してから公証役場に向かいましょう。
本人の必要書類
任意後見受任者の必要書類
※いずれも発行から3カ月以内のもの
任意後見契約を結んだ後、本人の判断能力が低下し始めたタイミングで、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に「任意後見監督人の選任」の申立てをおこないます。
任意後見監督人の選任がなければこの契約は開始できないため、ただちに申立てをおこなう必要があります。申立てができる人は、本人、または任意後見受任者、本人の配偶者と四親等内の親族ですが、本人以外が申立てをおこなう場合は、原則として本人の同意が必要となります。
ただし、本人が意思表示できる場合は同意は不要です。
申立てには、下記の書類が必要となります。すべての書類を揃えてから、家庭裁判所に申立てをおこないましょう。
家庭裁判所によって必要書類や書式が異なることもあるので、詳しい内容は、申立てをおこなう家庭裁判所のWEBサイトなどで確認することをおすすめします。
任意後見監督人の選任の申立てにより、家庭裁判所が、本人の状態と任意後見受任者の事情を考慮した上で審理をおこない任意後見監督人を選定します。
結果は、家庭裁判所から任意後見人に郵送で通知され、その後に法務局が、家庭裁判所の依頼に基づき、任意後見監督人に関する情報と任意後見が開始した事実を登記します。
任意後見監督人が選定された時点で、任意後見受任者は任意後見人となり、契約内容に記載された支援をスタートすることができます。
任意後見制度を利用するには、準備段階として下記にかかる費用を事前に用意しておかなければなりません。
ここでは、具体的にはそれぞれどのくらいの費用がかかるのかを詳しくみていきます。
公正証書の作成手数料とは、公証人に任意後見契約書を作成してもらうために必要な費用のことをいいます。
実際にかかる費用として「基本手数料」に1万1,000円、「登記嘱託手数料」に1,400円、登記所に納付することになる「印紙代」として2,600円などが必要となります。
家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てをする際にも、費用がかかります。
具体的には「申し立て手数料としての収入印紙代」に800円、「登記手数料としての収入印紙代」として1,400円、連絡用の「切手代」に3,000~5,000円程度がかかります。また、成年被後見人の精神鑑定が必要な場合には、さらに5~10万円程度が必要になることがあります。
任意後見契約が実行され、任意後見人の業務と任意後見監督人による監視と事務がスタートしたら、必要に応じてそれぞれに対して報酬を支払うことになります。
任意後見人の場合、家族や親族がそれを担う時など、契約時に報酬についての取り決めがなければ、法律上は無報酬になるということも多くあります。ただし、一般的に第三者の弁護士、司法書士などの専門家に任意後見人をお願いする場合は、報酬を支払う必要があります。
その金額や支払い方法、支払い時期などについては、事前に本人と後見受任者の間で自由に取り決めることができます。本人が持つ財産が多ければ、管理業務や負担も増えるため、支払う報酬金額も上がることが多くなるようです。
任意後見人が第三者であった場合、本人の財産状況にもよりますが、月々1~3万円の報酬が支払われることが多いようです。
また、任意後見監督人に対しては、報酬を支払う決まりとなっており、家庭裁判所によって、本人の財産の中から相当な報酬金額が決められます。その額は月々1~3万円程度のようです。
任意後見の契約は、開始時期によって以下の3つの種類に区別されます。
それでは、それぞれの内容を詳しくみていきましょう。
任意後見契約のうち、契約の締結後すぐに任意後見の支援を開始する契約を「即効型」といいます。
「即効型」は、本人の判断能力がすでに低下してきているが、本人自身で契約締結の判断ができる場合のみ利用できます。契約後は、速やかに任意後見を開始するために、直ちに家庭裁判所に対して任意後見監督人の申し立てをおこないます。
「即効型」の任意後見契約を締結する場合は焦っていることも多く、契約内容の理解や確認が本人だけでは不十分になってしまい、後になって後悔…というケースも見受けられます。契約を締結するときは、本人だけでなく、ご家族や親族の方に確認してもらえるようお願いすると良いでしょう。
任意後見契約の「将来型」とは、本人の判断能力がある時点で、事前に締結しておく任意後見契約のことをいいます。本人の判断能力が低下したタイミングで家庭裁判所に対して任意後見監督人の申し立てをおこなうことで、任意後見契約が開始されます。
一般的に契約締結から任意後見までの期間が長く空いてしまうことが多く、いつ任意後見を開始させたら良いのかの判断が難しくなり、場合によっては開始せずに本人が亡くなってしまうケースもあります。
また、長い期間が空いてしまうことによって、任意後見受任者が契約忘れてしまう恐れもあるので「見守り契約」も併せて締結しておくことをおすすめします。
「移行型」の任意後見契約では、例えば、任意後見契約と同時に財産管理、見守りなどの委任契約を結び、その支援の一部を任意後見よりも先に開始します。のちに、本人の判断能力が低下してきた段階で、本格的に任意後見に移行します。
「移行型」の契約は、「将来型」のように線が途切れる心配がないこともあり、最も多くの方に利用されているようです。
「移行型」の委任契約で扱われる契約として下記のものが挙げられます。
任意後見制度ではカバーされない死後についても、事前に「死後事務委任契約」を締結しておくことで本人が死亡し任意後見が終了しても、支援の継続が約束されるので、本人の大きな安心につながるでしょう。
任意後見人にはどのような役割があるのでしょうか?その内容を見ていきましょう。
任意後見人の大きな仕事のひとつに「財産の管理」があります。本人に代わり、預貯金や年金を管理して出し入れや振込みをおこない、自宅など不動産の管理、税金や公共料金の支払いなどもおこないます。
「介護や生活面の手配」も任意後見人の大切な仕事となります。
具体的には、必要に応じて要介護認定の申請をおこなったり、介護サービスの利用や介護施設に入居するための手配や申込みと支払い、医療機関を利用する際や入院の際の手続きと支払いをおこないます。
また、生活費を届けたり送金したりするなどもおこない、生活全般の手配や療養看護などの事務手続きを代行します。
任意後見制度を利用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?具体的には以下のようなメリットがあります。
任意後見制度では、契約内容に現時点の本人の意思や要望を具体的に反映できることが、最大のメリットだといえます。
その内容は多岐に渡り、将来的に利用する介護施設や病院の選定や治療・介護サービスの内容、財産管理や保護に関すること、後継人への報酬などご自身の希望に沿った内容で契約することができます。
一方、法定後見制度は、本人の判断能力が失われた後に裁判所によって後見人が選任され、支援を開始する制度のため、財産管理の方法や利用する病院、介護サービスなどの選定についてのほとんどを後見人が決定することが多く、それは本人やご家族の意思とは異なることもあるかもしれません。
任意後見制度では、本人が前もって、信頼できる人を後見人として選んでおけることもメリットのひとつであるといえます。
後見人として選ばれる人には特別な資格もいらないので、親族はもちろん信頼できる第三者に、自分の将来を託すことができます。
しかし、法定後見制度での後見人の選任は、家庭裁判所によっておこなわれます。そのため、後見人として望ましい人が親族にいたとしても、その人が家庭裁判所によって選ばれるとは限らないのです。
任意後見制度では、家庭裁判所によって任意後見監督人が選出され、第三者の面から後見人の仕事ぶりを監視、確認してもらうことができます。
介護施設への入居の備えとして、身寄りのない方や親族に身元引受人等を頼めない方が任意後見制度を活用することも可能です。
民間の介護施設では、入居契約の際、身元引受人・保証人を立てる必要があり、これらを立てられない場合は身元保証会社と契約するか、任意後見人を定めることが条件になることが多くあるためです。
一方、任意後見人制度を利用するにあたってのデメリットには、以下のようなものが挙げられます。
任意後見制度のデメリットとしては、本人の判断能力が下がってしまってからでは、制度を利用することができないという点が挙げられます。
任意後見契約は、本人の明確な意思のもとに締結されるものであって、本人に認知症などの認知障害がみられる場合には、この制度を利用することはできません。
任意後見人の権限は、委任者(本人)の死亡によって終了してしまいます。
葬儀やお墓の管理、自宅の片づけや相続手続きなど、ご自身の死後はどうなるのかについて不安を感じることがある場合でも、死後の事務処理や財産管理を、任意後見人に依頼することはできません。そのため、任意後見契約とは別に「死後事務委任契約」を結ばなければなりません。
また本人の死後は、自分が信頼して選任した任意後見人であっても裏切られることもあり、本人の意思通りにことが進められる確実な保証はなくなるケースもあるようです。
認知症の方の周りでは、詐欺行為や悪徳な業者による不当な契約を迫られる事態が多く見受けられます。
法定後見制度では、不利益な契約であると判明した場合には、あとからでも契約を解消できる取消権が認められています。
しかし、任意後見制度では取消権は認められていないため、判断能力が低下した本人が契約した内容によっては、不利益が発生してしまうことがあります。
任意後見契約では、終了事由があった場合や委任者である本人が亡くなった時に、契約が終了します。
終了事由として、本人の破産、任意後見人が認知症などになり判断不十分になった場合が挙げられます。
また、任意後見人による不正行為や著しい不正行跡が発見されたとき、その他の後見人として任務に適さない事由があるときも、家庭裁判所によって任意後見人を解任することができます。その解任請求ができるのは、本人または親族、任意後見監督人や検察官となります。
任意後見制度は、元気なうちに、認知症などによって判断能力が低下してしまうことを見据えた将来の備えとして利用され始めています。
ご本人自身で、残りの人生をどう生きるのかを考慮して契約内容を決められることは、大きな安心に繋がります。その安心のためにも、任意後見人には、ご本人のために最善を尽くしてくれる、信頼できる方を選ぶことが重要になります。
任意後見人には、ご本人の意思を尊重し、心身の状態や生活状況を配慮しながら業務を遂行する義務があるからです。また、介護施設の入居にも、任意後見制度が利用できることは、将来の不安を和らげてくれる大きなポイントになります。
以上の点を踏まえたうえで、任意後見制度の利用を選択肢のひとつとして、検討することをおすすめします。
任意後見制度は、本人に充分な判断能力があるうちに、将来、認知症などで判断能力が低下したときに、本人に代わって事務手続きなどおこなう人を定めておく制度のことを言います。
本人に充分な判断能力があるので、希望を具体的に反映できたり、任意後見人を自分で選ぶことも可能なのが任意後見制度のメリットと言えます。
任意後見人になるためには、特別な資格は必要なく、家族や親族はもちろん、信頼できる友人に依頼することも可能です。ただし、未成年者、破産者、行方不明者などの任意後見人の任務に適しない事由のある人は任意後見人にはなれないので注意が必要です。
任意後見人の大きな仕事のひとつとして財産の管理が挙げられます。主に預貯金や年金を管理して出し入れや振込み、自宅など不動産の管理、税金や公共料金の支払いもおこないます。
また、介護や生活面の手配も仕事のひとつとして挙げられます。具体的に介護サービスの利用や介護施設に入居するための手配や申込みや支払い、医療機関を利用する際や入院の手続きと支払いなどもおこないます。
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