老人ホームでは、日常生活を送るための生活支援としてさまざまな医療的ケアがおこなわれます。
この記事では、老人ホームでおこなわれる医療的ケアや実施できる職種のほか、医療的ケアが必要な方の施設選びのポイントを解説。また、老人ホームでおこなわれるリハビリについても紹介しています。
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「医療行為」とは、医学的な知識や技術がなければ相手に危害を与えかねない行為で、本来は医師や医師の指示を受けた看護師などにしか実施が認められていません。
しかし、たんの吸引などを病院以外の場所で受けながら日常生活を送る方が増えてきたことから、看護師のほか「認定特定行為業務従事者」の認定をもつ介護福祉士も一定の医療行為を実施できるようになりました。
このような、日常生活を送るための生活支援としておこなわれる医療行為は「医療的ケア」と呼ばれてます。なお理学療法士などがおこなうリハビリも医療行為に含まれます。
2012年4月から、認定特定行為業務従事者の認定を受けた介護福祉士は、以下の医療行為をおこなえるようになりました。
ただし現状では、すべての老人ホームに認定を受けた介護福祉士が配置されているわけではありません。上記の医療行為を必要とする方は、入居を希望する施設に対応可能か確認しましょう。
老人ホームを探す前に、まずは自分に必要な医療的ケアを確認しましょう。施設選びでは、必要なケアを提供してもらえるかを重視することが大切です。
施設の種類 | 医師の配置義務 | 看護師の配置義務 | 医療体制の充実度 |
---|---|---|---|
有料老人ホーム | なし | あり | 施設による |
グループホーム | なし | なし(任意) | 充実していない |
老人保健施設 | あり | あり | 充実している |
特別養護老人ホーム | あり(非常勤可) | あり | 施設による |
例えば、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)には医師の配置義務がありますが、有料老人ホームにはありません。また、有料老人ホームは看護師の配置義務はありますが、対応できる医療的ケアは施設により異なります。
このため、入居者本人の持病や必要な医療的ケアとその頻度を施設側に説明し、対応可能か確認しましょう。また、同じ医療的ケアが必要な人の受け入れ実績についても聞いておくと良いでしょう。
ここからは、老人ホームでおこなわれている医療行為について説明します。看護師が提供を認められている医療行為は、次の8種類です。
それぞれの医療行為の内容と、必要とする方について説明していきます。
インスリン注射は糖尿病治療に用いられ、血糖値を下げるホルモン「インスリン」を1日に数回注射します。注射後の食事量などによっては必要以上に血糖値が下がりすぎ、放置すると命に関わる場合もあるため、看護師による観察や副作用発生時の対応が必要です。
在宅酸素は自宅などで酸素を吸入する医療行為で、慢性呼吸不全や慢性心不全の方が利用します。鼻に装着したチューブを酸素供給装置につないで酸素を吸入することで、息切れなどの症状が改善されます。
多くの老人ホームは在宅酸素に対応していますが、労作時の酸素投与量が3L/分以上必要な方は、対応可能かあらかじめ施設に確認しましょう。
窒息を防ぐため、専用の機械を使って気管などのたんを取り除きます。吸引中は息ができず酸素不足になることもあるため、看護師または認定特定行為業務従事者の認定を受けた一部の介護福祉士のみがおこなえる医療行為です。
喀痰吸引が必要な方の受け入れ可否は吸引の回数と必要な時間帯により決まります。このため、日中に数回程度であれば看護師が日勤で常駐する一般的な老人ホームで対応できる場合もあります。
病気により食事を口からとるのが難しい方や誤嚥性肺炎を繰り返している方は、チューブやカテーテルなどで胃や腸に栄養を直接注入する経管栄養を用いることがあります。
経管栄養は、注入速度の調整や皮膚トラブルへの対応など専門的な知識や技術が求められることから、看護師または認定特定行為業務従事者の認定を受けた一部の介護福祉士のみがおこなえます。
ストーマとは手術により腹部に作られた便や尿の排泄口で、人工肛門や人工膀胱があります。排泄物は装着したストーマ袋(パウチ)に溜まり、定期的に交換する必要があります。
ストーマは、テープや装具によるかぶれ、感染症などのトラブルが起きることがあります。このため、看護師は交換時に観察やケアをおこないます。
褥瘡は、体の一部に圧力がかかることで血流が悪化し、酸素や栄養が行き届かなくなって起きた皮膚や皮下組織などの損傷です。床ずれとも呼ばれ、寝たきりなど同じ姿勢を取り続けることで発生します。
対応を誤ると皮膚の壊死や傷口からの感染にもつながるため、看護師による処置が必要です。
心臓近くの太い静脈に栄養剤を点滴して栄養補給することを中心静脈栄養(IVH)といい、病気により口からの栄養摂取が困難な方や消化器官が低下している方などに対しておこなわれます。
IVHは、輸液製剤の混合や輸液バッグの交換など専門的な技術が必要です。また、感染症や自分でカテーテルを抜いてしまうなどのトラブルが起きることもあり、看護師による管理が求められます。
IVHが必要な場合は、入居希望する施設が病院と医療連携ができているかや往診医のIVH取り扱いの可否、看護スタッフがIVHの対応に慣れているかについて入居前に確認しましょう。
人工呼吸器は、呼吸器や神経・筋肉の病気がある方に機械を使って呼吸を助けます。このうち自宅や施設で扱う呼吸器を「在宅人工呼吸器(HMV)」といいます。
操作を間違うと命に関わることもあるため、看護師による専門的な管理が必要です。人工呼吸器が必要な場合はその種類にもよりますが、一般的に看護師が24時間常駐する老人ホームへの入居がおすすめです。
人工透析が必要な場合は、透析設備のある病院やクリニックに通院するのが一般的です。通院には無料の送迎がある場合とタクシーなどを自腹で利用する場合があるため、移動手段も確認しましょう。
また、人工透析をしている方は食事などの管理も大切です。病院やクリニックと連携し、塩分などの食事制限や水分量の管理が可能かも確かめておきましょう。
介護職員は、基本的に医療行為はできません。ただし、下記については厚生労働省が医療行為に含まれない行為としているため、介護職員による提供が可能です。
介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームなどでは、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士といった資格を持つ機能訓練指導員が配置されており、入居者に対しリハビリをおこないます。
リハビリは入居者ごとに作成される「リハビリプログラム」に基づき実施され、「個別リハビリ」と「集団リハビリ」のほか、日常生活のなかでおこなわれる「生活リハビリ」があります。
個別リハビリは作業療法士、理学療法士、言語聴覚士などの機能訓練指導員によりおこなわれ、専門職ごとにリハビリの内容が異なります。それぞれの専門職が実施するリハビリ内容をご紹介します。
作業療法士は、食事やトイレでの排泄などの日常生活に必要な機能を回復させるためのリハビリを主に実施します。
また、運動機能の完全な回復が見込めなくなった場合も、現在の身体機能をできるだけ維持し、日常生活を送れるよう訓練をおこないます。
理学療法士は、病気やケガ、加齢などにより低下した運動機能を回復するためのリハビリをおこないます。リハビリの内容は、立つ、座る、歩くなどの基本的な動作の訓練が中心で、車いすや歩行器、つえなどを使ったリハビリも含まれます。
言語療法士は、言葉によるコミュニケーション訓練のほか、摂食や嚥下(えんげ)機能の回復・維持に関するリハビリもおこないます。また、必要に応じて補聴器や点字器を用いることもあります。
老人ホームでは個別に実施するリハビリのほかに、入居者が共有スペースに集まっておこなう「集団リハビリ」も実施されます。
体操やゲームなどで足腰を鍛えるとともに脳を活性化したり、歌をうたうことで嚥下機能の維持・回復を図るなど、レクリエーションを兼ねておこなわれています。
生活リハビリとは、日常生活動作そのものをリハビリととらえ、できるだけ自分の力で日常生活を送れるよう適切な介助を受けながら生活することを指します。例えば、「介護ベッドから自室にあるトイレに自分で移動できるよう介護士が支援する」などがあてはまります。
生活リハビリは専門職でなくても可能なため、介護付き有料老人ホームでは日常生活のさまざまな場面において一般的に実施されてます。
老人ホームには医師の配置基準がありません。医師による医療行為は訪問診察がメインとなるため、施設内の医療行為は主に看護師により提供されます。
しかし一部の老人ホームでは、次のような医療体制の強化によって医療ニーズに対応しています。
医療体制強化のための取り組みや体制はほかにもありますが、ここでは上記の3つについてそれぞれの特徴を説明していきます。
同じ建物や敷地内に病院やクリニックが併設していれば、急な体調変化にも迅速対応してもらえます。いざというときも普段から診察してくれている医師に診てもらえるため、すぐに適切な処置が受けられます。
また、入院設備のある病院が併設している場合は、入院が必要になった際も連携がスムーズで、優先的にベッドを確保してもらいやすいのもメリットです。
介護付き有料老人ホームでは、看護師の常駐が義務づけられています。しかし、夜間の配置義務はないため、看護師による医療行為は日中のみというのが一般的です。
しかし、中には看護師が24時間常駐する老人ホームもあり、夜間や早朝でも胃ろうや痰の吸引、インシュリン投与や点滴などの医療行為を受けることが可能です。しかし、医療行為が必要な方でも安心して入居できる反面、費用は高くなります。
医療法人が運営している老人ホームでは、関連病院から医師が往診に来てくれるため夜間に体調が急変したときなども安心です。
また、職員は病院でおこなうような研修を受けている場合が多く、一般的な介護施設の職員よりも医療の知識や技術を身につけている可能性が高いです。
運営母体が医療法人の老人ホームを見学する際は、病院との連携や職員の研修についても質問してみましょう。
老人ホームで提供可能な医療サービスは人員面でも設備面でも限界があるため、高度な医療行為や治療が必要な場合には提携する医療機関を利用します。このため介護付き有料老人ホームでは、医療機関と提携することが施設運営基準に定められています。
提携医療機関は、医療行為のほか看護職員を介しての定期健診や健康相談、健康管理上のアドバイスなどさまざまなサービスを提供します。また、提携医療機関が救急対応可能なら緊急時にも対応してもらえます。
さらに、施設によっては必要時に提携医療機関へ優先的に入院できたり、医師による往診が受けられることも。老人ホームを選ぶ際は、提携医療機関とそのサービス内容にも注目してみましょう。
老人ホーム入居中に専門的な医療行為が必要になったときは、提携医療機関に通院したり医師の往診を受けます。提携医療機関で受けられる医療行為は内科や整形外科、脳神経外科などが中心ですが、それ以外にも必要に応じてさまざまな医療行為を受けられます。
提携医療機関に入院した場合、入居中の老人ホームから洗濯物の交換や日用品を届けてもらうなどのさまざまな生活支援が受けられます。入院期間中は病院の入院費用と施設の月額利用料の一部を二重で支払うことになりますが、治療が終わって退院する際は施設に戻ることができます。
ただし、退院後に施設で対応できない医療行為が必要な場合は、施設に戻れず住み替えが必要になることもあります。
終の棲家として老人ホームを選ぶ方も多いですが、施設の設備や人員体制などの都合によりすべての老人ホームが看取りに対応しているわけではありません。延命治療を放棄し個人の意志で最後を迎えることを望む場合は、老人ホームの看取り体制も確認しましょう。
看取り体制の整った施設では、職員に対し看取りに関する研修を実施しています。また、入居時には本人や家族と施設側が話し合い、延命治療の是非や急変時の病院への搬送などについて確認し、老人ホームで最後を迎えることなどへの同意書を交わします。
さらに、回復が見込めないと判断された場合は、医師や看護・介護職員、ケアマネジャーなど多くの職種が連携し、穏やかに死を迎えられるよう看取りケアがおこなわれます。
1日3回以上必要な人は看護師または認定特定行為業務従事者の介護福祉士が24時間常駐する施設を選ぶと良いでしょう。日中に数回程度であれば看護師が日勤で常駐する老人ホームで対応できる場合もあるので、看護師が勤務している時間も確認しましょう。
人工透析が必要な人でも老人ホームへの入居はできます。ただし透析設備が整った老人ホームは少ないため、病院やクリニックに通院するのが一般的です。
通院は施設による無料の送迎か自腹でタクシーなどを利用するか、家族による送迎が挙げられます。人工透析をしている人は食事の管理も重要なので食事制限や水分管理についても確認しましょう。
「医療行為」は本来、医師や医師の指示を受けた看護師などにしか実施が認められていません。
しかし、痰の吸引などを病院以外の場所で受けながら日常生活を送る人が増加したことから、看護師のほか「認定特定行為業務従事者」の認定をもつ介護福祉士も一定の医療行為を実施できるように認められました。
ただあくまで痰の吸引や経管栄養といった医療行為のみで、すべての医療行為が可能になったわけではありません。
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