介護保険制度とは?仕組みや受けられるサービスをわかりやすく解説

費用の1~3割の自己負担で介護サービスを受けられる「介護保険」。受けられるサービスや、介護保険への加入条件、給付限度額について徹底的に解説します。
介護保険の利用を考えている人や、将来のために介護保険について学んでおきたい人はぜひ読んでみてくださいね。
介護保険とはどんな制度?

介護保険とは、要支援者・要介護者などの介護が必要な人に対して、介護費用の一部を給付する制度です。
「満40歳に達したとき」に介護保険加入者となり、運営する全国の市区町村から保険料の徴収が開始されます。介護保険サービスを受けることができるようになるのは65歳から。ただし要介護認定を受けなければ、サービスの対象外となります。
介護保険サービスは、原則1割の自己負担をすると受けられます。前年度の所得によっては自己負担率が2~3割になる可能性もあるため、注意が必要です。
介護保険の仕組み
介護保険制度の目的は、介護の必要な人の尊厳を保持し、自立した生活を営むことができるように支援することです。介護保険には以下の3つの特徴があります。
- 利用者が能力に応じた自立した日常生活を送るための支援であること
- 福祉・医療に関する多様なサービスから利用者本位の選択ができること
- 相互扶助による給付と負担の関係が明確な社会保険方式であること
介護保険はこの制度を維持・継続していくために「保険者」「被保険者」「サービス提供事業者」の3つに役割が分けられています。
「保険者」は介護保険を運営する全国の市区町村、「サービス提供事業者」は利用者に介護サービスを提供する企業や団体です。
そして、実際に介護保険料を支払い、介護サービスを受ける人が「被保険者」です。被保険者は、65歳以上になると介護認定の申請が可能になります。要介護認定もしくは要支援認定を受けて、はじめて介護サービスが利用できるようになるのです。
いつから加入する?支払い方法は?

介護保険は、40歳以上の健保組合・全国健康保険協会・市町村国保などの医療保険加入者が対象です。満40歳に達したときに加入となり、誕生月から保険料の徴収が始まります。
年齢によって保険料の徴収方法が異なり、40~64歳の第2号被保険者は、加入している健康保険料と一緒に支払います。65歳以上の第1号被保険者は、原則として年金からの天引きです。
また保険料は、加入している健康保険組合によって決め方が違います。次項からは、健康保険組合と国民健康保険組合で、どのように保険料が決定されるかを見ていきましょう。
健康保険組合に加入している方の場合
国民健康保険を除く、協会けんぽや共済組合などの医療保険に加入している場合、給与や賞与に介護保険料率を掛けて、介護保険料を算出します。さらに算出した介護保険料を、事業主と被保険者で折半した額が徴収されます。
介護保険料率は組合によって異なり、さらに定期的に改定されるため、変動があるのが特徴です。
また被扶養配偶者は、被保険者の支払う介護保険料でまかなわれるため、納める必要はありません。
国民健康保険組合に加入してる方の場合
国民健康保険に加入している場合、自治体が「所得割」「均等割」「平等割」「資産割」の4つを独自に組み合わせて計算をおこないます。
例えば「所得割」は、被保険者の前年度の所得に応じて算出。「資産割」は、土地や家屋などの固定資産税に応じて算出されます。これらの組み合わせと各項目の金額や割合は、各市区町村が決定します。
また介護保険料率も自治体によって異なります。気になる場合は、居住している自治体に確認しましょう。
サービス対象となる被保険者は?

介護保険の加入者は65歳以上の「第1号被保険者」と、40歳~64歳までの「第2号被保険者」に分類されます。
介護保険料の支払い義務は第1号被保険者と第2号被保険者の両方にあります。ただしサービスを受けられるのは、原則として第1号被保険者であり、要介護認定または要支援認定を受けた者のみです。
第2号被保険者は、加齢に伴う疾病が原因で要介護認定もしくは要支援認定を受けた際に介護サービスの対象となります。介護保険サービスを受けられる疾病(特定疾病)は決まっており、全部で16個あります。
介護保険が対象となる特定疾病
- がん(末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
介護保険被保険者証の交付
介護保険被保険者証は、65歳以上の第1号被保険者全員に、運営主体である市区町村から交付されます。もしも紛失したり、引っ越しなどで住所が変更になる場合は、市区町村の介護保険担当窓口で手続きをおこないます。
また、40歳~64歳までの第2号被保険者には、介護保険者証は交付されません。介護保険対象の特定疾病により、要介護認定か要支援認定された人のみ発行されます。
要介護認定の方法
介護保険者証は、所持しているだけではサービスを利用できません。利用したい場合は、要介護認定が必要です。
では要介護認定を受けるにはどのような手順を踏めば良いのでしょうか。要介護認定を受けるまでの流れをご紹介します。

要介護認定の申請は住民登録地の市区町村の役所や役場でおこないます。病気やケガで入院しているなどの事情で、本人が申請できない場合は、家族が代わりに申請することも可能です。
また家族や親族からの支援が難しいときには、地域包括支援センター・居宅介護支援事業者・介護保険施設に申請を代行いてもらうこともできますので、相談してみましょう。
介護保険で利用できるサービス
要介護認定を受け、介護保険が利用できるようになれば多くのサービスが利用できます。実際にどのようなサービスが受けられるか見ていきましょう。
居宅介護支援
まず前提として、介護保険サービスを受けるためには、ケアマネジャー(介護支援専門員)が作成するケアプランが必要です。
そのケアプランを作成するために「居宅介護支援」を利用します。居宅介護支援では、ケアマネジャーと利用者・家族が相談しながら、必要な介護サービスの計画書(ケアプラン)を作成していきます。また、定期的なケアプランの見直しや、関係機関との連絡調整もサービスに含まれます。
居宅介護支援のサービスを受けるには、市区町村の担当窓口で申請後、居宅介護支援をおこなう事業者を選び、契約を交わしましょう。
訪問系サービス
ホームヘルパーが利用者の自宅で介護をおこなう、訪問系サービスでも介護保険が適用となります。訪問系サービスには、下記の種類があります。
- 訪問介護
- 日常生活をサポートし、自立支援を目的としたサービス
- 生活援助
- 洗濯、掃除、買い物の代行、食事の準備や片づけなどのサポート
- 身体介護
- 食事、入浴、排泄などの介助
- 訪問看護
- 健康チェック、医師の指示を受けたうえでの医療処置など
- 訪問入浴介護
- 事業所が持参する専用の浴槽での入浴介助
- 訪問リハビリテーション
- 理学療法士・作業療法士などによる自宅でのリハビリ
- 居宅療養管理指導
- 医師、歯科医師、薬剤師、管理栄養士などから療養上の管理・指導を自宅で受ける
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 訪問介護・訪問看護の24時間定期巡回・対応サービス
通所系サービス
施設や病院へと出向いてサービスを受ける通所系サービス。主に挙げられるのが、デイサービスとデイケアですが、それぞれのサービス内容を見ていきましょう。
- デイサービス
- 食事・入浴・排泄・機能訓練・レクリエーションなどを日帰りでおこなう
- デイケア
- 医療機関や施設で身体機能の維持・回復などのために専門的なリハビリをおこなう
宿泊系サービス
「ショートステイ」とも呼ばれる施設や医療機関などに短期間入所するサービス。短期入所生活介護と短期入所療養介護についてご紹介します。
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 食事・入浴・排泄・機能訓練などの日常生活をおこなう
- 短期入所療養介護
- 看護・医学的管理下のもとで日常生活・機能訓練をおこない、必要であれば医療的ケアもおこなう
地域密着型サービス
地域密着型サービスは、介護が必要な人でも住み慣れた地域で自分らしい生活が送れるよう、医療、介護、住まいや生活などのあらゆる分野で支援することを目的としています。そのため、大人数の施設では馴染めない人や認知症の人など、対象を絞った小規模施設が数多く存在。
地域密着型の代表的なサービスは、下記のとおりです。
- 小規模多機能型居宅介護
- 食事・入浴などの介護や支援をおこなう、通い中心の小規模な居住系サービス
- 認知症対応型通所介護(デイサービス)
- 認知症の人に限定したデイサービス
- 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
- 食事・入浴・排泄・機能訓練などを利用できる、認知症の人が共同で生活する少人数の居住サービス
施設系サービス
介護保険サービスは、施設に入居するサービスでも適用されます。施設系サービスには、どのようなものがあるか見ていきましょう。
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 食事・入浴・排泄の介助などをおこなう、公的な介護保険施設
- 介護老人保健施設(老健)
- 在宅復帰や公在宅療養支援のためにリハビリなどをおこなう、公的な施設
- 特定施設入居者生活介護(指定を受けた有料老人ホームや、軽費老人ホーム等)
- 食事・入浴・排泄・機能訓練などの日常生活をおこなう居住サービス
- 介護医療院
- 医療機能と生活施設としての機能を併せ持つ居住サービス
福祉用具の貸与、購入費の助成サービス
介護保険サービスは施設や訪問系サービスだけでなく、福祉用具の貸与費、購入費の助成としても利用できます。
- 福祉用具の貸与
- 介護ベッド・車椅子など
- 福祉用具購入費の助成
- 入浴・排泄関係の福祉用具など(年間10万円が上限で、その1~3割を自己負担することで購入できる)
福祉用具の購入費の助成は、年間10万円と上限があり、その1~3割を負担することで購入できます。
住宅改修サービス
自宅で介護をおこなう場合には、手すりやスロープを設置したり、階段に昇降機を設置したりと、バリアフリーにするために住宅改修が必要となる場合も。そのための工事費用に、補助金が支給されます。
補助金の支給は1人、もしくは住宅1つにつき原則1回までとなります。上限は20万円で、そのうちの1~3割は自己負担です。また、補助金は償還払い方式のため、あらかじめ注意しておきましょう。
介護予防としての利用も可能
予防給付は要支援認定の人を対象とした、日常生活を支援するための制度です。介護は必要ないものの、日常生活での支援が必要である要支援認定の人に対して、介護予防のために給付されます。
予防給付で使えるサービスには、訪問介護・デイサービス・デイケア・短期入所施設などが該当します。ほかにも、福祉用具の貸与(一部)や住宅改修費の支給も。
そして、要介護の場合と同じく、1~3割の自己負担でサービスを利用可能です。ただし、1ヶ月の支給限度額が要支援と要介護では違うため、具体的な金額は市区町村の担当窓口に問い合わせましょう。
介護保険の自己負担分について
介護保険サービスは原則1割の自己負担ですが、前年度の所得によって自己負担率が2~3割に変動することがあります。さらに、要介護度別に1ヶ月に給付される限度額が決まっており、その額を超えた分は全額自己負担に。
所得や要介護度によって金額が変わるため、あらかじめ費用を把握しておきましょう。
在宅介護の場合の給付限度額と負担額は、以下の通りです。
出典:「介護報酬の算定構造」(厚生労働省)
特定施設入居者生活介護の場合
在宅介護ではなく、介護保険サービスが受けられる特定施設入居者生活介護の場合の費用はどうでしょうか。
特定施設入居者生活介護では、1日あたりの額が定められているため、自己負担額は毎月定額です。しかし、要介護度により負担額が違うため、要介護度が上がれば自動的に負担額も上がります。
特定施設入居者生活介護の要介護度別の自己負担額は、以下の通りになります。
要介護度 | 1割負担 | 2割負担 | 3割負担 |
---|---|---|---|
要支援1 | 5,460円 | 10,920円 | 16,380円 |
要支援2 | 9,330円 | 18,660円 | 27,990円 |
要介護1 | 16,140円 | 32,280円 | 48,420円 |
要介護2 | 18,120円 | 36,240円 | 54,360円 |
要介護3 | 20,220円 | 40,440円 | 60,660円 |
要介護4 | 22,140円 | 44,280円 | 66,420円 |
要介護5 | 24,210円 | 48,420円 | 72,630円 |
出典:「介護報酬の算定構造」(厚生労働省)
ケアマネジャーが作成したケアプランに基づき提供される食事や入浴・排泄など介助のほか、生活支援、機能回復のためのリハビリなどもおこなわれます。指定を受けてこのサービスを提供する施設は、一般的に「特定施設」の略称で呼ばれています。
介護保険制度が施行された背景
課題を解決するため施行された介護保険制度
介護保険制度が創設される前、1960年代に老人福祉政策が始まりました。しかし、70年代には老人の医療費が増大してしまい、1973年には老人医療費が無料化が実施されます。
60年には5.7%だった高齢化率は、80年代には9.1%に。社会的入院や寝たきり老人が増加し、問題となります。ますますの高齢化の進展や核家族化の進行により、従来の老人福祉・老人医療制度では限界を迎えます。
そこで高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして、1997年に介護保険法が成立し、2000年に施行されました。自立支援・利用者本位・社会保険方式の3つの考えを基本とし、現在までこの制度が続いています。
高齢者の自立を支援する
介護保険制度の目的のひとつに自立支援があります。これは「介護が必要である高齢者の尊厳を保持し、その人の能力に応じた自立した日常生活送れるようにサポートしていく」ということです。
自立支援の判断材料には、要介護度・ADL(日常動作)・本人の意思などが挙げられます。具体的には、要介護度が維持もしくは改善しているか、排泄や着替えなどの一人でおこなえる日常動作の維持ができているか、本人の意思を尊重した生活や趣味活動がおこなえているかなどです。
介護が必要になった高齢者の自立支援をおこなうには、介護サービスの提供はもちろん、医療との連携も大切です。その人の身体状況・生活環境に合わせた、総合的な支援が必要とされています。
この「できることを自分でおこなう」といった自立支援の理念は、介護保険法が成立される前には見られなかったものです。自立支援による「その人らしい生活の実現を目指すこと」は、介護保険制度の大きな特徴と言えるでしょう。
利用者の選択で多様なサービスを受けられる
介護保険制度は、自立支援だけでなく「利用者本位」といった考え方も。これまでの老人福祉制度には、利用者が自由にサービスを選択できないという問題点がありました。
これは、市町村がサービス・提供機関を決定していたことが原因です。さらに、介護サービスは市町村からの提供が基本だったため、サービス内容が画一的になりがちでした。
そこで介護保険制度では、利用者が自らサービスの種類や事業者を選べるよう規定。市町村の提供する公的な施設だけでなく、民間企業や農協、NPOなどの多様な事業者がサービスの提供することで、選択の幅も広がりました。
また、ケアマネジャーがケアプラン(介護計画書)を作成する、居宅介護支援サービスも開始。これにより、利用者や家族の要望に沿いつつ、適切なサービスの提供が可能となりました。
介護保険制度の今後と改正
介護保険の改正頻度
介護保険制度は3年ごとに見直しされ、介護予防給付が開始になったり、地域包括ケアが推進されたりと、改正がおこなわれてきました。
また、2018年におこなわれた改正では、これまで1~2割であった自己負担の割合が、前年度の所得に応じて1~3割へと引き上げられました。これには、制度を永続的に運営していくためや、市区町村の財政問題の改善などの意図があります。
地域包括ケアシステムの構築

介護保険制度が施行したあとも高齢者の割合は増え続け、介護人材の確保・各関係機関の連携など、さまざまな課題が浮き彫りになりました。そういった課題を解決し、高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を営むことができるように「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。
具体的には、生活支援のためのボランティアの養成や、生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)の配置などが挙げられます。
地域包括ケアシステムでは、地域在住の住民やボランティアの参加により、医療・介護・予防・住まい・生活支援などのサービスを包括的かつ継続的に提供することを図っています。
介護予防への取り組み
要介護者や医療的ケアの必要ある高齢者の増加は、介護サービスの充実だけでなく、介護予防への取り組みに力を入れるきっかけとなりました。
2006年の改正から介護予防が重視されはじめ、介護状態になることを防止・遅らせることを目的に、予防給付やリハビリテーションの拡充がおこなわれました。
さらに2018年には、要介護状態を維持・改善するための自立支援介護を、現場や市町村に促すための制度が創設。2021年には新たに「通いの場」を充実させることが計画され、これまで以上に高齢者が気軽に地域交流・外出ができる環境となるでしょう。
介護保険制度に関するよくある質問
介護保険制度とは何ですか?
介護保険とは、要支援者・要介護者などの介護が必要な人に対して、介護費用の一部を給付する制度です。
介護保険サービスを受けることができるようになるのは65歳からで、要介護認定がない場合はサービスの対象外です。
またサービスに対しての支払いは、原則1割の自己負担です。ただし、前年度の所得によっては自己負担額が2~3割になる可能性もあるため注意が必要です。
介護保険はいつから徴収されますか?
介護保険は、40歳以上の健保組合・全国健康保険協会・市町村国保などの医療保険加入者が対象です。
満40歳に達したときに加入となり、誕生月から保険料の徴収が始まります。40~64歳の第2号被保険者は、加入している健康保険料と一緒に支払い、65歳以上の第1号被保険者は、原則として年金からの天引きです。
介護保険でどんなサービスが使えますか?
訪問介護などの訪問系サービス、デイサービスなどの通所系サービス、ショートステイなどの宿泊系サービスが在宅介護で使用できます。
また、特別養護老人ホームなどの公的施設でも介護保険サービスは利用できます。利用者の身体状況によって使用するサービスは異なってきます。
介護保険サービスを利用する際は、担当のケアマネジャーに確認しましょう。