特集
日本は、世界的に見ても睡眠時間が短いと言われています。現に、2021年のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の睡眠時間はスウェーデンやトルコ、中国などの33ヵ国の中で最下位であることが明らかになりました。 慢性的な睡眠不足は体内にさまざまな悪影響を及ぼします。将来の認知症リスクの上昇もそのひとつです。 本記事では、最新の研究データをもとに、睡眠が脳の健康に果たす役割について考えていくことにします。 睡眠時間が6時間以下の人は認知症リスクが上昇 「睡眠不足が認知症の発症リスクにつながる」ことを強力に裏付けたのが、2021年に科学誌『Nature Communications』に掲載されたフランスの研究です。 この研究では、平均年齢50.6歳の7959人を対象に、25年間にわたる追跡調査を実施。中年期(50代、60代)の睡眠時間と、その後の認知症発症との関連を分析しました。 その結果、一晩の睡眠時間が平均6時間以下だった人は、7時間睡眠の人と比べて、認知症を発症するリスクが約30%上昇することが明らかになったのです。この研究では、肥満や心臓病、うつ病といった他の健康要因を考慮しても、睡眠時間そのものが独立したリスク因子であることが示されました。 なぜ睡眠が脳を守るのか?脳の「大掃除タイム」がカギ では、なぜ睡眠不足が認知症の発症リスクを高めてしまうのでしょうか。 そのメカニズムのカギを握るのが、「グリンパティック・システム」と呼ばれる脳の老廃物を排出する機能です。最近の研究によって、私たちの脳は、特に深いノンレム睡眠中に、このシステムを活発化させ、脳内に蓄積した「アミロイドベータ(アルツハイマー病の原因となるたんぱく質の一種)」などの老廃物を洗い流していることが分かってきました。 つまり、脳にとって睡眠は、脳内に溜まった有害な老廃物を排出するための大切な「大掃除タイム」であると言えるでしょう。 睡眠時間が短かったり睡眠が浅かったりすると、この「大掃除」が不十分な状態が続くため、脳内に「アミロイドベータ」などの老廃物が20年、30年と長い時間をかけて蓄積していきます。やがて「アミロイドベータ」は神経細胞を破壊し、認知症を引き起こしてしまうと考えられています。 フランスの最新研究で、睡眠時間そのものが認知症の発症リスクとなることがわかりました。長く健やかに過ごしていくためにも、日々の睡眠を見直してみても良いかもしれませんね 参考OECD deta explorerAssociation of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia「脳を掃除するしくみ:グリンファティックシステムとは何か」日本神経学会
2025/11/05
2025年9月15日の「敬老の日」にちなみ、総務省は日本の高齢者人口に関する最新の推計を発表しました。総人口に占める65歳以上の割合は29.4%と過去最高を更新し、世界で最も高い水準にあることが改めて示されました。 一方で、働く高齢者数も過去最多を更新。シニア世代になってもアクティブに活動し続けている人が多数いることもわかりました。 本記事では、最新の公的データをもとに、日本の高齢化の現状と、変化するシニア世代の姿を見ていくことにします。 世界トップクラスの高齢化、その実態は? 総務省統計局の最新の人口推計によると、日本の65歳以上の人口は3619万人となり、総人口に占める割合は29.4%に達したことが明らかになりました。諸外国の割合と比較してみると、2位のイタリアが25.1%、3位のドイツが23.7%であることから、日本の高齢者割合は世界でも突出して高いことがわかります。 注目すべきは、高齢者の絶対数は5万人減少したにもかかわらず、総人口に占める高齢者の割合が上昇している点です。これは、高齢者人口の減少を上回るペースで日本の総人口が減少しているためであり、社会全体の少子高齢化が加速していることの表れだと言えるでしょう。 この傾向は今後も続くと見られ、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、50年後には日本の高齢化率が40%に近づくと予測されています。 働く高齢者数も過去最多に 今回の統計局の調査では、高齢化が進む一方で、働く高齢者数も増加し続けていることがわかりました。 具体的には、65歳以上の就業者数が2004年以降21年連続で増加し、今回は過去最多の930万人に達したことが明らかになったのです。これは、就業者数全体の13.7%を占める数字です。 なぜ、これほど多くの高齢者が働き続けているのでしょうか。 内閣府の「高齢社会白書」によると、「収入がほしいから」といった経済的理由に加えて、「働くことで老化を防ぎたいから」「自分の知識や経験を生かせるから」などの理由が挙げられています。 今後、さらに高齢化が進むことが見込まれています。経験豊かなシニア世代がその能力を存分に生かせる環境を整備していくことが、これからも成長し続けられる社会づくりのカギになるかもしれませんね。 参考「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」総務省統計局 「日本の将来推計人口」国立社会保障・人口問題研究所 「高齢社会白書」内閣府
2025/11/04
加齢とともに、多くの人が実感するようになるのが「もの忘れ」。しかし、そのもの忘れは単なる加齢による自然な変化ではなく、認知症の始まりである可能性もあるため、見極めは非常に重要です。 そこで本記事では、論文などの一次情報や専門家の知見をもとに、もの忘れと認知症の違いや認知機能の改善方法を見ていくことにします。 「もの忘れ」と「認知症」の大きな違い 加齢による「もの忘れ」と病的な認知機能低下である「認知症」は何が違うのでしょうか。 早期からの認知症予防(ブレインケア)を提唱している医師の今野裕之氏は、単なるもの忘れと認知症の違いについて、次のように話しています。 「もの忘れは、加齢によって脳の機能が低下し、記憶力の低下や、思考の整理がうまくいかなくなる状態のこと。体験したことの一部を忘れることもあるが、忘れているという自覚があり、日常生活には支障をきたさない。一方、認知症になると脳の機能の低下が進み、記憶障害に加えて判断力や実行機能なども低下するため、日常生活に明らかな支障が生じる。また、体験したことそのものを忘れ、忘れている自覚がないことも特徴だ(Webメディア「HALMEKup」より)」 早期からの生活習慣の改善で認知症を防ぐ 「もの忘れ」と「認知症」の中間を指す「軽度認知障害(MCI)」にも注意が必要です。軽度認知障害は生活への支障はそれほど大きくはないものの、単なるもの忘れ以上に記憶力の低下などが顕著になった状態のことをいいます。 MCI研究の第一人者であるPetersen氏の研究によると、健常な高齢者が1年で認知症に移行する割合は1〜2%ですが、軽度認知障害の人では1年で10%程度が認知症に移行するそうです。つまり、軽度認知障害の状態のまま放置すれば、高い確率で認知症に移行するため、早期からの対策が重要です。 今野氏によると、軽度認知障害の段階で適切な対策を講じることで、認知機能の改善や、認知症への進行を遅らせる効果が期待できるといいます。また、認知機能の改善には以下のような対策が有効だそうです。 1.ウォーキング:少し息が上がるくらいの運動は、脳の神経細胞の成長を促す「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質を増やす 2.新しい趣味に挑戦する:楽器演奏や絵画などの新しいことへの挑戦は、脳の神経ネットワークを豊かにし、認知機能の低下を補う「認知予備能」を高める効果が期待できる 3.質の良い睡眠の確保:深い睡眠中に、脳の老廃物であるアミロイドベータなどが排出される「グリンパティック・システム」が活発に働くことが、近年の研究で明らかになっている もの忘れや軽度認知障害の段階で生活習慣を改善することで、より長い期間豊かな老後を過ごせる可能性が高まります。ぜひ家族や周りの人と話し合いながら、生活習慣を見直してみてくださいね。 参考Mild Cognitive Impairment Clinical Characterization and Outcome-JAMA Neurology
2025/10/30
「あれ取って」「あの人、誰だっけ?」。日常生活で具体的な言葉が出てこない経験は年齢とともに誰しもが経験することですが、代名詞の多用などの「脳のサボり癖」を放置していると、将来の認知機能の状態が危ういかもしれません。 というのも、最近の研究で、長期間勉学に励んだり知的活動に参加したりといった「頭を使う行動」をどれだけおこなったかどうかが、将来の認知機能の状態につながることがわかってきているのです。 本記事では、知的活動と認知機能の関係と、認知機能の維持に役立つ具体的な習慣について、考えていくことにします。 「知的な貯金」が認知機能の低下を防ぐ なぜ、知的活動が認知機能の低下予防につながるのでしょうか。 そのカギを握るのが、「認知予備能(コグニティブ・リザーブ)」です。これは、長期間の勉学などを通じて「知的な貯金」を蓄えておくことで、加齢や病気によって脳に多少のダメージが生じても、その機能を補い、症状として現れるのを防いでくれる能力のことを指します。 この認知予備能の重要性は国内外のさまざまな研究で示されています。例えば、認知症予防のエキスパートが集う「ランセット委員会」の報告では、認知症の発症リスクを挙げる危険因子のひとつとして、「教育歴の短さ」が挙げられていました。さらに、国内の研究機関である「日本老年学的評価研究機構(JAGES)」の調査でも、教育年数が長い人はそうでない人に比べて、認知症の発症リスクが低いことが明らかになっています。 認知予備能の強化に役立つ会話メソッドとは 認知予備能は大人になってからでも、ちょっとした生活習慣の工夫で高めることが可能だとされています。特に会話は、相手の話を聞いて新しいことを覚え、相手に自分が伝えたいことを探して伝える、高度な知的活動のため、認知予備能の強化に役立ちます。 認知症予防研究者の大武美保子氏は、認知症予防に役立つ会話メソッドとして「共想法」を開発。大武氏は「鉄板ネタではなく、新しいネタを話すようにすると良い」といい、その理由を次のように解説しています。 「何十年も語ってきた鉄板ネタばかりを話していると脳はサボってしまう。最近身の回りで面白いと感じた『新ネタ』を脳に上書きすることで、脳がはたらくようになる」 また、認知機能が低下してくると聞く力が弱くなるため、「話題が広がりそうな質問を考えながら話を聞く」「話の内容を批判・評価しないで聞くことに集中する」ことも大切だといいます。 会話以外にも、新しい趣味を始めてみたり体験を日記にしたりすることも認知機能の維持に役立つとされています。もちろん、勉学も非常に有効なので、気になる学問がある人はこれを期に学んでみても良いかもしれませんね。 参考Cognitive reserve in ageing and Alzheimer's disease-The Lancet Neurology Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission-The Lancet 認知症リスクは 教育年数6年未満で男性34%、女性21%増 ~所得・最長職に比べ教育年数が最も強い関連~
2025/10/29
これまで当たり前だった「65歳になったら、自動的に介護保険証が届く」という仕組みが、近い将来、大きく変わることになるかもしれません。2025年9月8日におこなわれた、厚生労働省管轄の社会保障審議会・介護保険部会にて、介護保険証の運用ルールを大幅に見直す方針が打ち出されたのです。 本記事では、私たちの暮らしにもかかわる、保険証改革の具体的な内容を見ていくことにします。 保険証の「全員交付」から「個別交付」へ 9月8日、厚生労働省の諮問委員会である社会保障審議会は、現行の介護保険証の運用ルールを見直す方針を決定しました。 改革案の中でも特に影響が大きいのは、これまで65歳以上の高齢者全員を対象におこなわれていた、介護保険証の一律交付ではないでしょうか。今回の改革案が通れば、今後は要介護認定を申請したタイミングで、個別に交付されることになります。 なぜ、このような変更がおこなわれるのでしょうか。 厚生労働省によると、これまでは多くの人が介護サービスを必要としない段階で介護保険証を受け取っていたため、実際に使われないまま紛失してしまうケースが多発していたとのこと。これにより、各自治体は再発行などの手続きを実行しなければならず、それが大きな事務負担となっていたのです。 新しい方式では、要介護認定を受け、本当に介護サービスが必要になったタイミングで保険証を受け取れるため、紛失するリスクを大幅に削減できます。 保険証情報の一元化で管理も簡単に 今回の改革案では、もうひとつ大きな変更点があります。 それは、保険証に記載する情報の一元化。これまでは、「負担割合証」や「負担限度額認定証」といった書類は別々に発行されていました。しかし、今後は負担割合証などの複数の書類もまとめて扱い、氏名や被験者番号などの変わらない基本情報と、要介護度や自己負担割合といった変動する可能性のある情報の二つに分けて交付します。 記載情報を整理することで書類も減り、手続きをわかりやすくしたり管理を簡潔にする狙いがあります。 厚生労働省は、具体的な実施時期についてはまだ明示せず、「引き続き検討していく」としています。今回の改革案が実行されれば、「よりわかりやすく、管理しやすい介護保険制度」が実現するかもしれませんね。 参考「第124回社会保障審議会介護保険部会の資料について」厚生労働省
2025/10/28
年齢を重ねるにつれて、「眠りが浅くなった」「日中に眠気を感じることが増えた」と感じる人も少なくないのではないでしょうか。その変化は、単なる老化現象ではなく、将来の認知症リスクを示す、重要なサインかもしれません。 近年、睡眠が脳の健康維持に果たす役割が最新研究によって次々に明らかになっています。本記事では、睡眠と認知症の深い関係を最新研究から見ていくことにします。 睡眠リズムの乱れが認知症の発症リスクに カリフォルニア大学が主導する研究チームは、睡眠と認知症発症リスクとの関連性を明らかにした研究結果を発表しました。 この研究では、80代の女性約700人を対象に調査を実施。対象者に腕時計型の活動量計を装着してもらい、約5年間にわたって睡眠・覚醒リズムを追跡しました。 その結果、睡眠のリズムが不規則になり、昼夜問わずに強い眠気を感じている人は、睡眠が安定している人に比べて認知症の発症リスクが約2倍増加したことが明らかになったのです。 なぜ睡眠が脳を守るのか?脳の「大掃除」の仕組み では、なぜ睡眠の質の低下が認知症のリスクを高めるのでしょうか。そのカギを握るのが、近年の研究で提唱されている脳内の老廃物排出システム「グリンパティック・システム」です。 日本神経学会によると、私たちの脳は、特に深い眠りの間に、脳内に溜まったアミロイドベータ(アルツハイマー病の原因物質)などの老廃物を洗い流す「大掃除」をおこなっているのだそう。睡眠の質が低下し、深い睡眠が取れなくなるとこの脳のクリーニング機能がうまく働かなくなります。その結果、脳内に老廃物が蓄積して認知症の発症につながる可能性があると考えられているのです。 「なるべく同じ時間に起きて日光を浴びる」「寝る前のカフェインやアルコールを避ける」「日中にウォーキングなどの適度な運動をする」といった習慣が、睡眠の質を高めるために重要だとされています。生活習慣を見直してもうまく眠れないという人は、一度睡眠外来などで相談してみても良いかもしれませんね。 参考「脳を掃除するしくみ:グリンファティックシステムとは何か」日本神経学会
2025/10/27
家族が認知症になったとき、「周りに迷惑をかけていないだろうか」と、つい考えてしまうことはありませんか。それは、介護を担う家族の正直な気持ちだと思います。 そして、私自身も「もし自分が認知症になったら、家族に大きな負担をかけてしまうのではないか」という不安を常に感じています。 先日発表された内閣府の世論調査の結果は、まさにその不安が多くの人に共通するものであることを示していました。 内閣府調査が示す介護者の共通の不安 内閣府が公表した「認知症に関する世論調査」は、私たちが日頃抱えている不安を数値で示してくれました。 最も多かった回答は、「自分が認知症になったら家族に身体的・精神的負担をかけるのではないか」というもので、74.9%もの人がこの点を不安に感じていると答えています。 これは、私たち介護者が、家族の負担を何よりも心配しているという現実を浮き彫りにしています。また、家族が認知症になった場合の不安についても、「周りの人に迷惑をかけるのではないか」が46.5%で最多となっており、周囲の目や、社会とのつながりが途絶えてしまうことへの懸念も大きいことが分かります。 認知症への理解とイメージのギャップ 今回の調査では、認知症に対する世間の理解度も明らかになりました。2023年に成立した「認知症基本法」を知らない人が75.8%にものぼり、法律ができたにもかかわらず、まだ社会全体に浸透していない現状が示されています。 さらに、認知症と聞くと「症状が進行し、何もできなくなる」といったネガティブなイメージを持つ人が12.3%いました。 しかし、厚生労働省の担当者は、認知症になってもすぐに全てができなくなるわけではないと指摘しています。この「何もできなくなる」という誤ったイメージが、本人や家族の不安をさらに大きくしている可能性があると私は感じました。 不安を和らげるための具体的な取り組み では、この不安をどうすれば和らげることができるのでしょうか。厚生労働省の担当者が述べているように、その鍵は「認知症当事者と地域単位で接する場」を増やすことにあると考えられます。 当事者と直接触れ合うことで、「何もできなくなる」という誤解が解け、認知症になってもできることや、楽しんで生活している姿を知ることができます。それは、家族の未来に対する漠然とした不安を軽減してくれるでしょう。私たち介護者も、そうした場に積極的に参加し、当事者同士や専門家と交流することで、介護のヒントを得たり、一人ではないという安心感を得たりできるかもしれません。 今回の調査結果は、認知症を特別なことと捉えるのではなく、より身近な問題として捉え、社会全体で支え合うことの重要性を私たちに教えてくれています。
2025/10/16
高齢ドライバーによる交通事故のニュースが報道されるたび、「早く免許を返納すべきだ」という声が高まります。しかし、特に地方在住の高齢者にとっては「車がないと生活が不自由だ」と感じるケースも多く、簡単な決断ではありません。 本記事では、データをもとに高齢者が運転するリスクを客観的に分析し、高齢ドライバー本人も周りの人も納得できる、円滑な「運転卒業」を迎えるためのヒントを探っていきます。 高齢ドライバーによる交通事故、その実態は? 警視庁の統計によると、2023年時点での交通事故件数は3万1385件で、そのうちの15.4%にあたる4819件が高齢ドライバーによる交通事故でした。 高齢ドライバーによる事故発生件数・事故全体に占める高齢ドライバーの事故割合ともに最多だった2017・2018年と比較すると減少傾向にはありますが、それでも依然として高齢ドライバーによる事故は少なくありません。 どうして、高齢ドライバーによる事故が起きてしまうのでしょうか。 警視庁が交通事故の人的要因を75歳以上のドライバーと75歳未満のドライバーで比較したところ、75歳以上のドライバーでは「ブレーキとアクセルの踏み違い」の割合が大きいといいます。75歳未満では0.5%程度だったのに対し、75歳以上だと7%にも上るためその差は歴然です。 一方で、交通心理学の専門家である九州大学の志堂寺和則氏は、「高齢者の運転事故で亡くなる方の約7割は、運転していた高齢者本人や同乗者であり、歩行者などを巻き込むケースはそれほど多くない」と指摘しています。 このことからも、「高齢ドライバーが他者を危険にさらしている」という一面的なイメージだけで問題を捉えるのではなく、多角的に考えることが重要です。 円滑な「運転卒業」を実現するためのアクション 自身の運転能力の低下を自覚していても、車主体の移動が当たり前になっていると、なかなか返納の決断ができないこともあるかもしれません。ここでは円滑な「運転卒業」を実現するためにおこないたいアクションについて考えていきます。 まずは、免許返納後の生活を具体的にシミュレーションしてみると良さそうです。家族や周りの人も協力して地域の交通機関のルートやネットスーパーの活用法などを具体的に調べ、「車がなくても生活できる」ことをイメージできると運転卒業に近づくかもしれません。 また、免許を返納を返納した高齢者に対し、多くの自治体で公共交通機関の割引パスを提供するといった支援制度が設けられています。このような「返納による特典」を提示することも、免許返納の後押しになるのではないでしょうか。 高齢ドライバー自身も周りの人も納得できるような道筋を、社会全体でつくっていきたいですね。 参考「高齢運転者事故発生状況」警視庁
2025/10/14
この記事を読めばこれがわかる! やってはいけない5つのこと 認知症の進行を悪化させる言動 認知症の人が喜ぶことと心のケア 家族が認知症と診断されると、私たちは戸惑いや不安を感じながら、どう接すれば良いのか分からなくなることがあります。よかれと思ってかけた言葉や行動が、かえって家族を混乱させたり、傷つけたりしてしまうのではないかと心配になりますよね。 ここでは、精神科医の前田佳宏医師が解説する「認知症の人にやってはいけないこと」について、介護する側の視点から、どう向き合うべきか考えていきます。 なぜ「やってはいけないこと」を知るべきなのか 認知症は、いったん獲得した認知機能が徐々に低下していく病気であり、その症状は一人ひとり異なります。そのため、これまで通りのコミュニケーションが難しくなり、家族や介護者との間にすれ違いが生じやすくなります。 精神科医の前田佳宏医師は、無意識のうちにとってしまう行動が、本人の心の負担を増大させ、症状を悪化させる可能性があると指摘しています。たとえば、「忘れてしまう」「事実と違うことを話す」といった行動を、単なる「困ったこと」として捉えるのではなく、病気による症状として理解することが、適切な接し方の第一歩となります。この理解こそが、私たち介護者自身の心のゆとりにもつながるのです。 避けるべき5つの行動とその心理 精神科医の前田佳宏医師は、認知症の人にやってはいけないこととして、「無視や放置」「短気な態度」「急かす」「感情的に叱る」「否定や訂正ばかりする」の5つを挙げています。これらの行動は、本人の尊厳を軽んじることにつながります。たとえば、感情的に叱ることは強いストレスを与え、自信を失わせます。同じことを繰り返しても、冷静に接し、そっと手助けすることが求められます。 また、事実と異なる話をされても否定や訂正ばかりするのは避け、「そうだったね」と共感することで、会話を続けるきっかけになります。この心構えを持つことが、互いの心の安定につながります。 心が穏やかになる接し方の実践 精神科医の前田佳宏医師は、認知症の人と接する上で最も大切なのは「共感と思いやり」だと語っています。私たちは、つい「なぜこんなこともできないの?」と思ってしまいがちですが、本人は病気によって脳の機能が変化していることを理解することが重要です。たとえば、何度も同じ話を聞かれても「また忘れたの?」と責めるのではなく、「そうだね、その話、素敵だね」と受け止めることで、本人は安心感を覚えます。 また、認知症の人が喜ぶこととして、「安心感や懐かしさを感じる時間」を共有することや、簡単な家事を一緒に楽しむことを提案しています。そうすることで、本人が「自分はまだ役に立てるんだ」という自信と生きがいを感じられるように手助けすることができます。
2025/10/10
この記事を読めばこれがわかる! 脳の血管系を修復することで、アルツハイマー病の原因物質を除去する新しい治療法 ナノ粒子を注射することで、アミロイドβが大幅に減少し、機能的な回復が数カ月持続 この治療法が確立すれば、家族の自立した生活が長くなり、介護の負担が軽減される 家族がアルツハイマー病と診断されると、私たちは病気の進行をどうにか食い止めたいと強く願います。しかし、現在の治療法は進行を遅らせるものが主で、根本的な治療は難しいのが現状です。 そんな中、最新の科学が、私たちの希望の光となるかもしれない研究成果を発表しました。それは、「血管」に注目した、これまでの常識を覆すような治療法です。もしこの治療法が確立すれば、家族の生活の質が向上し、私たち介護者の負担も大きく減る可能性があります。 アルツハイマー病と血管の関係性 アルツハイマー病は、脳にアミロイドβという老廃物が蓄積し、脳の神経細胞を破壊することで発症する病気です。これまでの研究は主にこのアミロイドβそのものや、神経細胞に焦点を当ててきました。 しかし、カタルーニャ生体工学研究所などの研究グループは、「血管」に治療の鍵があると考えました。彼らは、脳に酸素や栄養を供給する脳血管系の正常な機能を回復させることで、病気を治療できるのではないかという仮説を立てたのです。特に、脳と血管の間にある「血液脳関門」という、脳への物質の出入りを管理する門番のような役割を持つ部分の機能に着目しました。この研究は、アルツハイマー病の治療に全く新しい視点をもたらしています。 ナノテクノロジーを用いた血管の修復 研究者たちは、この仮説を検証するためにナノテクノロジーを利用しました。通常のナノ医療が、治療分子を運ぶ「乗り物」としてナノ粒子を用いるのに対し、この研究では、ナノ粒子自体が治療薬として機能する「超分子薬剤」が開発されました。 この薬剤をマウスに注射することで、脳の神経細胞に直接働きかけるのではなく、血液脳関門の機能を回復させることを目指しました。血液脳関門が再び正常に機能することで、脳が本来持っている自己浄化能力が活性化し、溜まったアミロイドβのような老廃物を自力で排出し始めると考えたのです。これは、一時的に薬で症状を抑えるのではなく、脳そのものの回復力を引き出すという、根本的なアプローチです。 マウス実験で確認された劇的な効果 この超分子薬剤をアルツハイマー病モデルのマウスに注射したところ、驚くべき結果が得られました。わずか1時間で、脳内のアミロイドβの量が50~60%も減少したことが確認されたのです。さらに、数カ月にわたり機能的な回復が持続し、人間で言えば90歳に相当するマウスが、健康なマウスと変わらない行動を示すまでに回復しました。この成果は、治療が一時的なものではなく、持続的な効果をもたらす可能性を示唆しています。 研究者は、この治療法が人間にも応用できれば、アルツハイマー病の進行を遅らせるだけでなく、他の治療法の効果も高まるだろうと語っています。 これは、家族がより長く自立した生活を送れるようになり、私たち介護者の負担を大きく軽減してくれるかもしれない、希望に満ちたニュースです
2025/10/09
介護施設への入居について、地域に特化した専門相談員が電話・WEB・対面などさまざまな方法でアドバイス。東証プライム上場の鎌倉新書の100%子会社である株式会社エイジプラスが運営する信頼のサービスです。