認知症になると、心身にさまざまな影響があらわれます。そのなかで認知症の中核症状とはどのようなものなのでしょうか。
代表的な症状と、認知症でも対応可能な施設についても紹介します。
認知症の症状には中核症状と周辺症状(BPSD)の2つの種類があります。中核症状の代表的な症状は、新しいことが覚えられなくなる「記憶障害」、時間や場所がわからなくなる「見当識障害」、物事を順序だてておこなうことが難しくなる「実行機能障害」があります。
中核症状の原因は脳細胞の破損で、認知症になると上記のような症状はほぼ必ずあらわれます。したがって、中核症状が出た場合は、認知症のサインと思って早めに検査をして対処することが大切です。
一方で心理症状(BPSD)は中核症状の二次的症状とも言えるもので、中核症状による不安やストレスによって引き起こされる暴言・暴力、被害妄想などの症状のことです。心理症状(BPSD)はその人の性格や環境によって症状の出方が異なります。
認知症の中でも、最もわかりやすいのが記憶障害です。
記憶障害はもの忘れとよく混同されますが、記憶障害ともの忘れは根本的に異なります。もの忘れは「何かを忘れている」ことは理解できますが、記憶障害になると、忘れているという記憶すらなくなるのです。
例えば、普通のもの忘れであれば会う約束の時間をうっかり忘れてしまっても、指摘されると思い出すことができます。しかし、記憶障害になると約束したこと自体もすっぽりと記憶からなくなってしまうのです。
認知症になると大脳が損傷されて記憶障害が起きますが、運動機能の調節を司る小脳に影響はありません。認知症でも身体機能を正常に動かすことができれば、昔からおこなってきた動作を忘れることはありません。
すぐにできなくても、きっかけや少しの練習があればすぐに思い出すことができます。このような記憶を「手続き記憶」と呼びます。自転車の乗り方や泳ぎ方など。身体で覚える記憶は、一度覚えていれば認知症でも忘れることはありません。
手続き記憶を呼び起こすことで、認知症の人の能力を引き出して自信をもたせることができます。
エピソード記憶は、個人が体験した今までの経験に基づくもので、時間と場所、そのときに一緒だった人や、そのときの感情の記憶です。
一般的な知識や常識などに関する意味記憶の反対にあるもので、極めて個人的な記憶なので、アルツハイマー型認知症になると比較的初期段階で忘れられやすくなります。
見当識障害とは、今、自分がいる時刻や日付、場所、周囲の環境などを総合的に判断する能力が失われる障害です。アルツハイマー型認知症になると、記憶障害に続いて見られる症状です。
見当識障害には「時間の見当識障害」「場所の見当識障害」「対人関係の見当識障害」の3つの種類があります。まず最初に症状としてあらわれるのが時間の見当識障害と場所の見当識障害です。症状が進行すると対人関係の見当識障害も目立つようになります。
時間の見当識障害が起きると時間の感覚が失われていきます。日付や曜日の間違いはもの忘れの範囲ですが、症状が進行すると季節や朝昼夜の区別も難しくなります。
場所の見当識障害が起きると、今まで普通に通っていた場所やその道順があやふやになります。目的地の建物が認識できなかったり、どこで曲がるのかわからなくなって道に迷います。迷ったことで焦りやパニックを起こして、さらに遠くに行ってしまう危険もあります。
認知症の症状が進行して短期記憶だけではなく過去の記憶も失われ始めると、対人関係の見当識障害もあらわれるようになります。家族や近い友人もわからなくなって、自分と他者との関係性もあいまいになります。
実行機能障害は、物事を順序だてて考えたり、計画を立てる能力が衰える症状で、認知症になると初期段階からあらわれるようになります。
実行機能障害になると、料理や洗濯、掃除といった日常の家事をこなすことが難しくなります。それまで普通にできていたことができなくなることで、本人のストレスや不安も大きくなります。また、家族などの介護者の負担も増すことになります。
例えば料理については、「その日の献立を考える」「必要な食材を必要な分だけ買う」「買ってきた食材を使って料理を作る」というような何段階にもわたる工程を順序立てておこなうことが難しくなります。
また、突発的な状況に対する対処も実行機能障害になると困難になります。乗ろうとしていた電車が出発してしまったときに、次の電車に乗ろうというような選択ができずにパニックになることもあります。
実行機能障害の方のサポートは、本人の気持ちに寄り添って安心感を与えながらおこなうことが大切です。焦らさずに落ち着いて、一つひとつの手順を一緒に確認しながら対応しましょう。
それまで当たり前にできていたことができなくなることを、失行といいます。
テレビをつける、お風呂を沸かすといった日常の動作も理解できなくなります。自分で身体を動かすことはできますが、誰かの指示通りに行動したり、お箸などの道具を使うことは難しいようです。
失語とは、その名の通り言葉を失ってしまう障害です。言葉を司る脳の部位に損傷が起きることによって、文字を読んだり書いたり、言葉を話したり、理解することが困難になります。
同じ失語でも、脳のどの部位に損傷がでたかで、症状はさまざまです。また、原因が進行性の病気なのか、脳卒中などの一時的なものかによって、進行性にも違いがあります。
失認は脳の部位の中で、頭頂葉、側頭葉、または後頭葉に損傷が起きたときに見られる症状です。頭頂葉に障害がある場合は、たとえばハサミを触っても何か理解できなくなる一方で、目で見るとハサミだと理解できます。
後頭葉はその逆で、ハサミを見ても、ハサミだと認識することができません。側頭葉は音が聞こえているのに、その音が何の音か判断することができない状況です。
現在の医学では、認知症を完治させることは不可能です。認知症の治療は病気の進行を遅らせて、少しでも症状を和らげることを目的としています。
認知症の治療は薬を使っておこなう薬物療法と、薬を使わない非薬物療法があります。それぞれの内容を見ていきましょう。
中核症状に対しては認知機能改善薬、抗認知症薬などが使われます。
これらの薬は中核症状をできるだけ抑えて、緩和することが目的です。代表的なものはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬や、NMDA受容体拮抗剤です。
非薬物療法は薬を使わずにおこなわれる認知症の治療法です。
その人が好きだった音楽を聞かせたり(音楽療法)、昔の思い出話を話したりすることで脳を活性化させたり(回想法)。脳にほど良い刺激を与え続けることで認知症の進行を遅らせることができます。
身体を動かすことも、脳に良い刺激を与えることがわかっています。適度な距離の散歩や体操、ストレッチも非薬物療法のひとつです。
認知症になっても住み慣れた環境で過ごさせてあげたいと家族が考える気持ちは理解できます。ただし、認知症の症状が進んでいくと、家族による在宅介護では対応ができなくなることもあります。その場合は専門の施設への入居も検討しましょう。
認知症の人を受け入れている代表的な施設について説明します。
小規模多機能型居宅介護とは「通所」「訪問「宿泊」の3つの機能を有した介護施設のことです。比較的新しく登場した地域密着型サービスのひとつで、どのようなケアも同じ事業所の同じスタッフが対応するので、新しい人が苦手な認知症の人に適しています。
実際に小規模多機能型居宅の利用者は8割程度が認知症の人と言われています。認知症の高齢者の受け皿として期待されていますが、小規模な事業所が多く、入居待ちの人が多いことが残念です。
認知症の高齢者のみを入居対象としているのがグループホームです。認知症の知識と経験をがあるスタッフが常駐しているのが特徴です。
入居者は少人数で「ユニット」という単位にわけられて、ユニットごとに配置されたスタッフが対応します。これも認知症の人が新しい人に不安を感じるために、なじみのスタッフでサポートできるよう工夫されたシステムです。
入居者にはそれぞれの役割や責任が与えられるので、それを満たすことによって入居者に達成感ややりがいを与えることができます。
グループホームは住民上のある市区町村の中でのみ選択可能です。また介護状況の進行に伴い、介護付き有料老人ホームへの転居を勧められるケースもあります。
介護付き有料老人ホームは、24時間介護スタッフが常駐して、食事や入浴など身の回りのサポートを受けられる施設です。
民間企業が経営しているものが多く、金額や施設、サービス内容についてもさまざまです。
終身利用を原則としており、認知症や要介護5の人まで幅広く受け入れ可能。看取りのサービスまであるので、他の施設のように途中で転居しなければならないということもありません。
また、住宅型やサービス付き高齢者向け住宅でも最近は認知症の対応が可能としている施設が増えています。気になった施設があれば、問い合わせをして事前に受け入れについて確認しておきましょう。
認知症の症状を大きく分けると、脳の障害により直接引き起こされる「中核症状」と、中核症状に環境や人間関係、性格などが関係して発生する「周辺症状」があります。
中核症状は主に「記憶障害」「見当識障害」「実行機能障害」「失行」「失語」「失認」「理解・判断力の低下」などが挙げられ、認知症になると症状としてほぼ現れます。
認知症になると記憶障害のため、数時間前に会った人の名前や何を買うために外出したか、何を話そうとして電話したかなどの短期記憶が失われがちです。
しかし、本人が子どものときの記憶や昔の楽しかった思い出などの長期記憶は保たれていることが多く、一概には思い出を忘れてしまうとは限りません。
認知症は、誰でもかかる可能性があります。認知症の高齢者は2020年時点で約600万人、2025年には700万人にもなると推定されています。認知症は発症率が高く、高齢者の約5人に1人が認知症になる可能性があると言われています。
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