認知症の中でも「徘徊」の症状があると、家族にとって心配は尽きません。
認知症の方はどのような理由で徘徊するのか、徘徊の原因とその適切な対応方法を詳しく説明していきます。
徘徊とは、認知症の中核症状の影響で現れる行動・心理症状(周辺症状・BPSD)のひとつで、あてもなく歩き回る行動のことを言います。
徘徊は、認知症になると必ずしも現れる症状ではありません。しかし本人の命の危険や介護者の心身にかかる負担も大きくなることから、その原因と対策について事前に把握しておく必要があります。
傍から見ていると、家の中や外をあてもなく歩き回ることに目的などないように思われますが、徘徊をする本人にとっては、明確な理由があることが多くあります。
過去の生活習慣や行動が影響している場合や、大事なものを探し物をしているということもあります。本人にとっては、どれもしっかりとした目的のある行動なのかもしれないということを理解して対応しましょう。
徘徊する理由のひとつとして、何かを探すために歩き回っていることが多くあります。しかし、探しているはずのものも見つからず、本人自身も探していることさえ忘れてしまうこともしばしばあります。
自宅の中を徘徊しているときは、トイレや自分の部屋がわからなくなってしまったというケースも多くあるようです。
記憶障害の影響もあり、過去の長い習慣や仕事をしていた頃の自分と錯覚し、職場や親族の家へ向かおうと外出して徘徊してしまうこともあります。
常日頃からの「行かなければならない」という強い思いが影響していると考えられます。
見当識障害により、今いる場所がどこであるか把握できず、ご自身の自宅を自宅であると認識できないため落ち着かず、徘徊してしまうこともあります。また、記憶障害によって、昔住んでいた家や実家に帰ろうとしてしまうケースもあるようです。
いずれにしても、今いる場所から自分の家に帰りたいという願望が原因になっています。
認知症になると判断力が低下するため、注意して行動したり、周りを気にかけて動くことは難しくなります。
自宅や屋内での徘徊には、あらかじめ安全対策を取るなどの対応ができますが、屋外での徘徊となると、長時間の歩き回りによる怪我や骨折、脱水症状・熱中症や低体温症の危険が高くなります。それ以外にも自転車や自動車に注意できず他人を事故に巻き込んでしまう危険や、線路内で立ち往生し事故に遭う危険も考えられます。
また、自宅に戻ることができず、行方不明となってしまう事態も想定しなればなりません。
認知症による徘徊がすべての要因であるとは限りませんが、令和2年の認知症の方の行方不明者数は、1万7,000人を超えています。行方不明になってから5日経過した場合の生存率は0%になるという、悲しい研究結果も発表されています。
出典:『令和2年中における行方不明者の状況』(警察庁)認知症による徘徊を引き起こす原因には、主に以下のようなものが考えられます。
記憶障害とは、過去にあったことや自分が体験したことなどの記憶が、自覚もなく抜け落ちてしまう症状のことをいいます。加齢による自覚のある物忘れとは異なり、本人の自覚がないため、日常生活で困ることも多くなります。
新しい出来事が覚えられない、覚えてもすぐに忘れてしまうという性質から、眼鏡を探していたのに、眼鏡を探すという目的すら忘れて歩き回るというような徘徊の症状を引き起こします。
見当識障害とは、今ここで起きていることを正しく認識できなくなる症状のことをいい、認知症になるとほとんどの人に現れる中核症状のひとつです。
年月日や時刻、場所、人と自分との関係を正しく認識する機能が低下していくため、症状が進行すると、いつも一緒に過ごす家族のことすらわからなくなることもあります。そのため、今いる場所を自宅と認識できず、居心地が悪さを感じてしまい、本人にとっての「自宅」に帰ろうと徘徊し始めてしまうのです。
また、屋外などでは、慣れた道順であっても、突然どこにいるのかわからなくなり道に迷い、そのまま徘徊してしまうこともあります。
認知症の症状として、物事の理解することが難しくなり、適切な判断をする力が低下していくことが多くあります。
これは判断力の障害であり、暑さ寒さを判断できず、適した服装が選べなくなるなど、日常の些細なことであっても、頭の中で物事について考え、目の前の状況に合わせて判断することができなくなります。
そのため、外出中に道に迷ってしまったとしても誰かに道を尋ねるなどの判断ができず、あてもなく歩き続けて徘徊してしまうというケースもあるようです。
認知症の中核症状に加えて不安や焦燥感などの心理的ストレスも、徘徊の原因に大きな影響を及ぼしています。その不安や焦燥感は、食事の支度をしなければならない、仕事に行かなければならないというような過去の習慣からくるものが多くあります。
記憶障害によって現状を忘れてしまうと、過去の習慣を行わなければならないという焦燥感に襲われて、家から飛び出し徘徊してしまうのです。
そのため、徘徊症状の改善には、日頃から認知症本人をよく観察し、徘徊の原因を聞き出すなどして、不安やストレスを軽減させることも重要になってきます。
認知症には複数の種類があり、それぞれの種類で徘徊症状の現れ方が異なる場合があります。
前頭葉や側頭葉が委縮して起こる前頭側頭型認知症の場合は、同じ行動を繰り返す常同行動の症状がみられることがあります。たとえば、同じ時間に同じコースで散歩するなどの行為を毎日繰り返します。
何かを探したり目的の場所へ行こうと歩き回るアルツハイマー型認知症などの徘徊症状とは違い、行方不明になりにくいと言えますが、事故などのリスクを考え見守りが必要です。
徘徊とはいえ、認知症の方にとっては、健康であった頃の「外出」と気持ちは変わりません。そのため、無理に徘徊を止めることは難しいと考えておきましょう。
しかし、徘徊のリスクや危険を低減させる対策をとることはできます。下記のような対応も参考にしてみてください。
徘徊する方は、それぞれの理由や不安があって歩き回っている可能性が多いため、本人に寄り添い、話すことに耳を傾けることが大切です。徘徊する本人に、歩き回ることにどのような理由があるのか、優しく尋ねてみることで、不安が和らいで徘徊を止めるかもしれません。
明確な理由が得られないままであっても、今後の対応に繋がるヒントを見つけられる可能性があります。
繰り返し傾聴を行うことで、本人の気持ちを理解できれば、徘徊の原因となる不安を取り除けるかもしれませんし、本人が安心することにより、症状の改善を期待できるかもしれません。
徘徊する方に対し、徘徊をとがめたり、感情的に怒鳴ることは避けましょう。
認知症の方は、知的機能の衰えによって、責められている理由を理解できないことが多くあります。しかし、感情の機能はなくなるわけではありません。そのため本人には、介護者から理由もなく何度も叱られたという不愉快な感情だけが残ってしまい、介護者へ不信感を抱き始めてしまいます。
その結果として、徘徊や妄想などの周辺症状をエスカレートさせてしまうことがありますので、意識的に穏やかに対応することを心がけましょう。
徘徊をしようとしている姿を見かけた場合は話しかけ、ほかのことに気をそらすなどの対処をしてみましょう。
例えば、認知症の方が、自宅を自宅であると認識できなくなり、落ち着かず外に出ようとした時は「とりあえず、お茶を飲んでからにしませんか」と世間話などをしながら、意識をそらしましょう。そのうちに、徘徊しようとしていた理由を忘れ、落ち着くことがあります。
これは、認知症の専門的な知識がなくともできる効果的な対処法なので、家族だけではなく近所の方などに協力してもらうことも効果的です。
徘徊を無理に止めるのは、逆効果になることが多くあります。
本人は、無理に止められると感情的になり逃げ出し、転倒や怪我をしてしまう可能性があるからです。安全に歩かせられる状況にあり、介護者が付き添えるようであれば、自由に歩かせることも効果的な対処法となります。
自分の歩きたいように自由に歩くことで、気持ちが落ち着くことが期待できます。自宅や屋内であれば、トイレへ行くタイミングを把握できますし、屋外の場合では、一緒に歩くことで、いつも立ち寄る場所や迷いやすい道、注意が必要な個所もわかるので、その後の徘徊行動の参考にすることもできます。
徘徊が生じた時に起こり得るさまざな危険を回避するために、以下のような工夫が考えられます。
徘徊に気づける住環境づくりをすれば、徘徊を早期発見し、見守ることができます。自室のドアにベルを付けることや玄関にセンサーを設置することで、周囲の人が認知症の方の動きに気づけ、徘徊のタイミングを把握できます。玄関に、鏡や本人の興味のあるものを置くなどの気をそらす工夫も合わせると、徘徊をとどまらせるための時間稼ぎに役立ちます。
徘徊の症状が頻発し、行方不明になりやすい場合に有効なのがGPSの利用です。GPSとは、人工衛星を利用して場所を特定する技術のことをいい、スマートフォンには必ず搭載されています。
このGPS機能は、認知症による徘徊の所在確認に大変役立ちますが、徘徊をする方が常にGPS機器を身に着けていないと、その機能を発揮できません。現在では徘徊用見守りGPSとして、普段身に着ける靴などに装着するものや、キーホルダータイプもあるので検討してみましょう。
また少数ではありますが、無料でGPSの貸し出しを行う自治体もあるので、地域包括支援センターに問い合わせてみるのもよいでしょう。
行方不明になってしまった時の備えとして、あらかじめできる簡単な対策は、衣服や持ち物などに名前や連絡先をつけておくことです。たとえ、本人が名前や住所を伝えることができなくとも、保護した方や警察から連絡をもらえる可能性があります。
ただし、本人の自尊心を傷つけることがないよう、襟の内側など目立たない箇所に名前や連絡先を記入したり、連絡先のカードをバッグの内側にいれるなどの工夫も必要です。
体調の管理をおこない、生活のリズムを整えることで、普段から気持ちを落ち着かせておくことも大切です。特に、体調が悪く夜に眠れない時や生活のリズムが崩れている時に、夜間徘徊を引き起こしてしまうことが多くあります。
本人はもちろん、介護者にとっても無理のない範囲で、毎日同じ時間に起床・就寝や食事の時間を定めて生活のリズムをつくり、日光浴と適度な散歩など軽い運動を心がけて体調を整えることが大切です。徐々に、夜間徘徊の抑制などに良い効果が出てくるでしょう。
デイサービスなどの介護サービスを利用することも、徘徊の抑制に役に立ちます。程度な運動や定期的な外出の習慣ができることで、心身ともに良い影響をあたえます。
認知症や徘徊に関する専門的な意識を持ったスタッフに適切なケアをしてもらえることで、介護者や家族の負担を軽減することも可能です。本人が安全に通える場所を増やし、地理にも興味を持ち出せば、自宅への帰り道を覚えられる可能性もあるでしょう。
徘徊のリスクや危険や回避するためには、家族だけでなく、近所の方や地域の自治体などの第三者に協力をお願いしておくことも大切です。
お住まいの地域の方や自治体に、徘徊の症状がある要介護者がいることを知らせておくことで、介護者が徘徊に気づかなかった場合などでも、すぐに見つかる可能性が高くなります。
同じく、立ち寄りそうなお店や近くの交番や駅にも、身長や髪型などの身体的な特徴を合わせて伝えておくことができれば、声をかけてもらえる機会が増えることも期待できるでしょう。
徘徊SOSネットワークとは、各地方自治体が主体となり、地域の人々や団体、介護保険事業所などと協力し、行方不明となった認知症の方や高齢者を早期に発見し保護するための仕組みのことを言います。地域によっては、見守りSOSネットワークなどと名称や仕組みが異なることもあります。
この徘徊SOSネットワークは、警察に行方不明の通報があった場合に捜索協力をするだけでなく、徘徊予防のための積極的な高齢者への見守りや声掛けをおこなう役割を担い、介護者にとっても大変心強い仕組みとなっています。徘徊ネットワークの利用には事前の登録が必要なため、窓口である各自治体や地域包括センターに問い合わせてみましょう。
認知症の本人が徘徊し行方不明になった場合、家族だけで探すのは効果的ではありません。
警察はもちろん、ご近所の方や地域包括センター、担当ケアマネジャーなど地域の多くの方々に、ためらわず捜索の協力をあおぎましょう。特に認知症の高齢者の方は事故などによる命の危険性も考えられるため、速やかに警察に通報し見つけ出すことが最善の策となります。
本人が立ち寄りそうな場所やなじみのお店、駅など交通機関をさがすことから始め、地域保活センターやケアマネージャーなどの専門家の視点から捜索方法のコツや対策方法のアドバイスや協力を得ながら、たくさんの手を借りて捜索することが大切です。
徘徊の原因は本人の認知機能の低下が挙げられます。家族や知人の顔がわからず不安が生じると、感情がコントロールできず衝動的に外へ飛び出してしまいます。
また、自分の持ち物をどこに置いたのか忘れてしまい、持ち物を探すために外に出て徘徊してしまうといったことも原因のひとつとして挙げられます。
徘徊をする人はそれぞれの理由や不安があって歩き回っている可能性が高いので、本人に寄り添い、傾聴することが大切です。
本人が履く靴などにGPS端末を入れたり、ドアセンサーなどの福祉用具を活用することで徘徊したときにいち早く気づくことができます。
また徘徊してしまった際に、服や持ち物に名札を付けておくことで保護した人や警察から連絡をもらえたり、日頃から近所の人々や自治体に協力を仰いでおくことで、徘徊の際にすぐに見つかる可能性も高いです。
主によく立ち寄っている場所や馴染みの店、コンビニ、公園、駅などを探しましょう。また探しつつ、早めに警察へ捜索願を出し、担当のケアマネジャーや近所の人々にも協力を仰ぎましょう。
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