認知症の治療法は、薬を使う薬物療法と薬を使わない非薬物療法に分けられます。
この記事では非薬物療法に焦点をあて、どのような治療が行われるのか、どのようなメリットがあるのかについて紹介します。
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認知症の治療法は薬物療法と非薬物療法の2つに分類することができます。そして非薬物療法の治療として主におこなわれているのがリハビリです。
認知症のリハビリは、「脳を刺激して認知症の進行を遅らせること」を目的としておこなわれ、薬に頼らずに脳を活性化し、残っている認知機能や生活能力を高める効果が期待できます。
薬を使わない非薬物療法は欠かすことができない治療法のひとつです。
薬に頼らずに、現在の認知機能や生活能力を高めるリハビリをおこなうことで、判断能力や衰えるスピードを抑制するのです。
認知症が進行すると日々の生活が困難になるだけではなく、何もしない日々続くことにより、脳や身体を使う機会も減少。結果的にさらに認知機能を低下させてしまいます。
こういった点からも、認知症の進行を遅らせるため、リハビリを通して心や体を刺激し、認知機能および本人が自力でできる状態を維持することはとても重要なのです。
認知症患者向けにおこなわれるリハビリによる非薬物療法は、作業療法と呼ばれています。ここで言う「作業」とは入浴、食事、排泄、家事など日常生活にかかわる活動のことを指します。
作業療法はこういった日常生活における活動を通して心身機能の維持や強化を図ります。自立した生活だけではなく社会との繋がりの回復なども目的としています。
また主に上肢筋力や手指の精密な動きなどの身体機能と判断能力などの心理機能を統合的に活用しておこなわれるので、非常に高いリハビリ効果を得ることが可能です。
このようなリハビリは主に作業療法士が実施します。しかし、作業療法とはあくまでも日常生活における活動をサポートして、健康や幸福を促進させるためのものです。専門家がついていなくても自宅でおこなわれる実践などは作業療法のひとつと言えるでしょう。
ではつづいて、作業療法の特徴について以下で紹介していきます。
作業療法では、日々の生活にかかわる作業に焦点をあてておこなわれるため、生活をしていくうえで必要な能力やスキルを維持することが可能になります。
料理や洗濯などの家事は生活の一部です。編み物などの趣味もこれまで生活してきた中の知恵として取り入れることができるでしょう。
障害や疾患により日常生活を送ることが困難になってしまった方に対して日常生活動作を回復させることも作業療法の大切な役割です。
このように作業療法は生活に密接に関係している作業を通しておこなわれるので意欲的に取り組むことができます。
目的がはっきりしないものに対して何かを継続しておこなうことに難しいと感じる方も多いです。作業療法で行う多くの作業はなぜそれをおこなうのかという目的がはっきりとしています。また創作物などの成果も目に見える形で残ります。
作業療法は目的意識を持ち、無理なく取り組み続けることができるのも特徴のひとつと言えるでしょう。
認知症になると、社会から孤立してしまいがちです。孤独は精神状態を悪化させやすく、社会性や交流をする機会も失われていきます。
作業療法を通して他者と交流することで、そういった機会を回復することができ、人や社会とのつながりを持つことができます。
作業療法をおこなうメリットはどういったものがあるのでしょうか。以下で詳しく説明していきます。
認知症の方は、認知症と判断される過程で自尊心が傷つき不安を抱えている場合があります。また、認知能力を調べるためのテストや認知症を改善するための課題に対して拒否感を持つ方も多く、リハビリに積極的に取り組まないケースが多いと言われています。
リハビリをおこなうことに対して嫌悪感や拒否感を感じていると、本来得られるリハビリの効果もあまり期待できません。
しかし作業療法では、日常的な家事や作業をおこなうので、リハビリに対するハードルが下がり、嫌悪感や拒否感を感じることなく取り組むことができます。
認知症を発症してしまうと、今まで自分自身でできていたことができなくなってしまいます。
得意だった料理が作れなくなったり趣味が楽しめなくなったりなど、本人以外から見れば年をとったので仕方のないと割り切れることでも、本人にとっては違います。衰えを経験する瞬間であり、精神的に落ち込んでしまう人も少なくありません。
作業療法では作業能力の回復を目指しており、リハビリなどを通して作業能力を向上させ、さらに自尊心や安心感を取り戻すメリットがあります。
認知症を発症すると、経験したことがないことや、なじみのない行動に苦手意識を抱くようになります。新たにリハビリを始めるときに、内容や目的を説明しても理解できないケースも多く見られます。
また、リハビリに対してやらされていると感じて怒りを覚える方もいます。無理強いするのは逆効果です。
一方で認知症の方は、今までの人生経験の中で「体で覚えたこと」や「なじみのある作業」は覚えている傾向があります。作業療法ではこのなじみのある記憶や作業を活用するため、ストレスを感じることなく取り組める方が多いです。
なじみのある記憶や作業を通して昔の記憶を取り戻し、作業の喜びや懐かしい感覚を思い出すことができます。このように作業療法には記憶の回想法としての側面もあり、感情的なメリットもあるのです。
具体的に作業療法はどのようにおこなわれているのでしょうか。以下では介護施設でおこなわれている作業療法の内容や実践方法について紹介します。
作業療法は病院やデイケアなどの医療施設をはじめ、デイサービスなどを提供する通所施設やグループホームなどの入居施設、訪問リハビリなどをおこなう訪問サービスといったさまざまな施設でおこなわれています。
作業療法の中には個人でおこなうものもあれば、集団でおこなうものもあります。所要時間に関しては数時間から数十分のもの、連続して取り組むプログラムや単発で終わるプログラムなどさまざまです。内容は多種多様なものがあり、個人の状況に応じて使い分けられています。
目的を持たずにただ漠然と作業をおこなうだけでは良い効果は期待できません。
リハビリ効果を高めるには本人の身体状況や考えをきちんと情報収集し、その人にとって適切とされるプログラムを設定することが重要です。
また、プログラムを実践した後には適切なフィードバックをおこない、それらの結果に応じ再アセスメントやプログラムの修正をおこなっていきます。これらの一連の過程こそが作業療法の核と言えます。
実際におこなわれている作業療法にはどんなものがあるのでしょうか。以下ではその具体的な内容について紹介していきます。
運動を通して身体を動かすことで筋肉量を維持して寝たきりになることを防ぎます。
ウォーキングや筋肉バランス訓練などの軽い運動は、抑うつ効果や介護をしている家族の負担を減らしてくれます。体を動かすことで睡眠の質を改善させるメリットもあるため、本人の能力や身体状況に応じて運動療法を取り入れても良いでしょう。
また、椅子に座ってできる運動もありますので、転倒に気をつけながら自宅で実践してみるのも良いかもしれません。
回想法は認知症の特徴である遠い過去の記憶は喪失しづらいという点を利用し、過去の思い出を共有する作業療法です。
昔の苦労話や楽しかったエピソード、幼少期、学生時代の記憶などを共有することで脳に適度な刺激を与えます。この療法は特別な資格を必要とせず誰でも気軽におこなうことができるので、近年知名度も高まってきています。
また、コツとして話のきっかけになるアルバムや思い出の品などを用意すると良いでしょう。記憶のトリガーとなるものを示し、一緒に会話をすることで本人の認知能力の低下を抑制することができるのです。
音楽療法は懐かしい音楽や思い出の曲を聴くことで過去の記憶を取り戻したり、リラクゼーション効果が期待できる療法です。
音楽にはリラックス効果があり、リフレッシュしながらリハビリをおこなうことができます。認知能力を維持するだけでなく、精神的な安定を取り戻す効果があるのも魅力的です。
なお、音楽療法を通して効果を得るためには旋律だけではなく歌声や歌詞の意味なども理解する必要があります。
認知刺激療法は会話だけではなく、目で見て楽しむ、自分で手を動かして何かを作るなど、五感も刺激することで脳をさらに活性化させ、認知機能低下の抑制を図る療法です。
具体的には塗り絵や折り紙、習字などの創作活動を指します。音楽や芸術などに触れることで脳を活性化させる効果が期待できます。
認知刺激療法は実際にさまざまな介護施設で取り入れられています。また、マッサージなどをおこなうことで気持ちが良いといった触覚を刺激して気分の安定を図る方法もあります。
アニマルセラピーは動物と触れ合うことでストレスの軽減や、精神的な安定を得られるというものです。日常生活における活動性の向上を促すことを目的におこなわれている療法です。
動物という人間に対して心を開き懐いてくれる存在によって、自分が必要とされているという自信がつき、他人の世話をしたいといった欲求を生み出すこともできます。
日本ではあまりなじみのない言葉にも感じるかもしれませんが、欧米では1960年代にはじまっているオーソドックスなリハビリ療法です。
認知症になると見当識障がいが見られる方が多く、そのような方に日常会話の中に今の季節や、日付、時刻などを理解してもらう取り組みです。
自分と自分のいる環境を正しく理解できるような話題を取り入れることで、現実を正しく把握してもらい、症状の改善をはかる訓練法です。
介護施設では歌を唄ったり絵を描いたりする音楽療法など、さまざまなレクリエーションが日々おこなわれていますが、これらも非常に効果的です。
さまざまなレクリエーションを通して気持ちの安定を図るだけではなく、コミュニティに参加し本人の得意なことや楽しいと感じることをおこなうことで、前向きな気持ちや自発性を引き出す効果も見込めます。
介護施設などでリハビリをおこなう場合には介護のプロがサポートをしてくれるので安心です。
一方で、自宅でおこなう場合には何かと不安な点もあります。自宅でおこなう際の注意点をまとめました。
リハビリを本人が嫌がる場合には、本人の意思を優先し無理強いはしないようにしましょう。嫌悪感を抱かれてしまうとリハビリに対して消極的になってしまう可能性もありますので、まずは精神的な安定を図ることが大切です。
また、明確な拒否ではなくリハビリに対して戸惑っている場合もあります。その場合、強制はせず周りの人がおこなっている作業を見せ、自発的な参加を促すのが良いでしょう。
作業が難しすぎてしまうと、なかなか達成することができず怒りや悲しみを感じてしまうこともあります。反対に、簡単すぎる場合にも馬鹿にされたように感じてしまうことも。
作業の難易度は少し頑張れば達成できるちょうど良いレベルに設定することが大切です。そのためにも本人の身体状況や能力をきちんと把握し、できない部分はサポートをするなど工夫をするようにしましょう。
認知症の人は、健康な人に比べて脳が疲れやすくなっています。疲労が溜まれば、次第に集中力は欠け、今までできていた作業ができなくなってしまうことで焦りや苛立ちを感じてしまうこともあります。
疲労がとれない状態が続くと一時的に認知能力が低下してしまうこともあります。適度に休憩をいれ、無理のない時間で切り上げるといった工夫が大切です。
ずっとやってきたことだからと言って、本人がやりたくないと拒否をすることがあります。
今までできていたことができなくなってしまったという現実を受け入れるには時間がかかる場合もあります。
誇りをもってやってきた作業だからこそ、簡単にやってと言われるのは腹が立つこともあるかもしれません。本人が嫌だと感じたことは、なじみのあることでも無理強いはしないようにしましょう。
自宅でリハビリをおこなう前に、可能なら作業療法士、その他の専門職、施設を利用しているのであればその担当者に一度相談してみましょう。本人の状況をわかっている人からリハビリについて適切なアドバイスがもらえるのはとても有効です。
作業療法を通して、自分が辿ってきた軌跡をたどり、本来の力を取り戻すことは、その人がその人らしくあるためにもとても大切なことです。
認知症の症状を緩和させたり、遅らせたりする療法はたくさん存在しています。認知症の人それぞれに合った療法を試してみてください。
主なリハビリとして作業療法が挙げられます。作業とは、入浴、食事、排泄、家事など日常生活にかかわる活動のことを指します。作業療法は有資格者の作業療法士がおこない、日常生活における活動を通して心身機能の維持や強化を図ります。
作業療法は主に「運動療法」「回想法」「音楽療法」などが挙げられます。
運動を通して身体を動かすことで寝たきりになることを防ぎ、幼少期、学生時代の記憶などを共有することで脳に適度な刺激を与え、懐かしい音楽や思い出の曲を聴くことで過去の記憶を取り戻したりと、各療法によって効果はさまざまです。
認知症のリハビリは、脳を刺激して認知症の進行を遅らせることを目的としています。具体的に認知機能や生活能力をリハビリによって高めることで衰えの抑制をし、さまざまなことに対して自力でできる状態を維持します。
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