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運動療法とは身体を動かして運動することで、病気や障がいの症状を緩和したり予防したりすることです。もともとは身体の怪我や不調に対して行うものでしたが、運動によって血液の流れを良くすることで、糖尿病や高血圧予防につなげられるといったさまざまな効果が認められています。
運動療法は認知症の非薬物療法のひとつであり、認知症の患者に対しても積極的に推進されています。体を動かすことによって運動機能や心肺機能の改善だけでなく、精神的にも落ち着きやすいという効果もあります。
運動療法を行う目的はどのようなものがあるのでしょうか。運動療法の目的を、以下の5つの点で説明します。
運動療法の目的は第一に高齢者の身体機能の維持・改善です。
年をとってくると誰もが体力や筋力が衰えていきます。運動不足になると身体の柔軟性が失われて身体が硬くなり、血液やリンパ液、栄養が十分に身体に行き渡らずに、病気や怪我の原因になります。
身体を鍛えることは、単に筋力をつけるだけではなく、脳機能や心肺機能を維持することにもつながるのです。
年をとって疲れやすくなったからとあまり動かないでいると、身体機能が失われて、それまで普通にできていた動作もできなくなってしまいます。立って歩く、起きあがるといった日常生活動作に不都合が生じると、行動範囲も狭くなりますし、そのまま寝たきりになる可能性もあります。
運動療法をしっかり取り入れることで、日常生活動作を維持・改善することは生きていくうえで非常に大切です。
身体を動かすことはストレスの解消やリラクゼーション効果が期待されます。
特にウォーキングや体操、ダンスなどの有酸素運動はセロトニンと呼ばれるストレスを発散するホルモンが分泌されると言いわれているので、短い時間でも十分リフレッシュできます。晴れた日に屋外でストレッチしたり、緑の多い公園を散歩するだけでもリラックス効果が期待できます。
認知症の方でも運動療法を続けることによって、認知症の進行を遅らせたり認知症の症状がなくなったという例も報告されています。
運動することで、血液中のブドウ糖が筋肉にとり込まれて利用されるので、血糖値が下がり、生活習慣病の予防・改善につながります。
もちろん運動療法によるダイエット効果も期待できるので、肥満や肥満によって引き起こされる脳梗塞や腎臓病の予防にもなります。
認知症になると症状の不安からひきこもったり、時間や場所の感覚が失われることで生活のリズムが乱れてしまいがちです。あまり動かずにひきこもっていると、食欲もなくなり昼夜逆転の生活をすることになり、認知症の進行も進んでしまいます。
毎日の生活に運動を時間を組み込むことで、認知症の方の生活リズムを整えるのも運動療法の大事な目的です。きちんと昼間に運動することで、夜はぐっすり眠れるという効果もあります。
運動療法のメリットはどのようなことがあるのでしょうか。具体的に以下の3つのメリットについて説明します。
精神的なストレスを感じていると、おなかが痛くなったり呼吸が苦しくなります。反対に身体に不調があると、精神的にも不健康な状態になってしまいます。心と身体はつながっているというのはよく言われることです。
認知症は脳機能の障害ですが、認知症になることで精神的にもふさぎこんでしまったり、鬱状態を発生させることがあります。それがさらに認知症を進行させるという悪循環を引き起こします。
運動することでストレスを解放することは、精神的にも、認知症の予防にも良い効果があります。
認知症になると頭で記憶したことは忘れてしまいますが、身体を使って記憶したことは忘れないと言われています。毎日、続けているラジオ体操のやり方が急にわからなくなるということは、ほとんどありません。
認知症の予防に新しいことを始めるのはなかなか難しいですが、身体を使う運動であれば認知症の方でも継続しやすいでしょう。
運動療法は特別な器具や場所を必要とせずに、どこでも気軽に始められるのもメリットです。
運動が苦手な方は、ストレッチや近所をウォーキングするだけでも十分です。その人にあったペースで続けられるので日常に取り入れることも難しくありません。
運動療法は誰でも、簡単に始められるリハビリのひとつです。具体的にはどのような運動が行われているのでしょうか。
有酸素運動とは筋肉を収縮させるために酸素をたくさん取り入れて、糖質や脂肪を燃焼させる運動のことです。負荷は軽~中程度と比較的軽いものをなるべく長時間継続します。
代表的な有酸素運動にはエアロビクスや水泳、ジョギング、サイクリングなどがあります。
認知症の方への運動療法としては、その人が昔から得意とするものを優先させると良いでしょう。あまり運動をしてこなかった人の場合は、軽めのウォーキングや水中ウォーキングがおすすめです。
糖質や脂肪を消費するので、肥満や高血圧や高血糖の改善にもつながります。
無酸素運動は、有酸素運動とは逆に酸素を使わずに筋肉を動かす運動のことです。有酸素運動よりも短時間に集中して負荷を多くかけて行います。
無酸素運動では、短い時間にたくさんのエネルギーを使うので、疲れやすく長時間の運動には向いていません。
代表的な無酸素運動は、短距離走やマシンを使った筋力トレーニングメニュー。認知症の方に必要な無酸素運動は筋力トレーニングです。脳と筋肉はつながっているので、筋肉を動かして脳に刺激をおくることで、認知機能の改善、維持につながります。
筋力トレーニングの中でも関節に負荷をかけずに筋肉を繰り返し動かすレジスタンス運動が高齢者にはおすすめです。レジスタンス運動はスクワットや腕立て伏せ・ダンベル体操が有効です。
レジスタンス運動は筋肉に負荷がかかるので、毎日行うよりも、2、3日に一回程度行うくらいがちょうど良いと言われています。無理のないように継続することが大切です。
ストレッチングとは、筋肉をやわらかくするための運動です。
一般的には「柔軟体操」や「ストレッチ」と言われるほうが多いかもしれません。意図的に筋や関節を伸ばす運動を行います。怪我の予防やクールダウンになるので、運動療法の最初と最後に行うことが多くなっています。
ストレッチングには、動的ストレッチングと静的ストレッチングの2種類があります。
関節を動かして筋肉を伸縮させるのが動的ストレッチングで、筋肉を伸ばした状態をキープして行うのが静的ストレッチングです。高齢者には負荷が少なめの静的ストレッチングがおすすめです。
運動療法の効果を高めるために、知っておきたいポイントについてまとめました。
まずはどんな運動をするか種類決定しましょう。誰でも簡単にはじめられる運動からスタートして、長く継続することを意識してください。
はじめはウォーキングが一般的です。慣れてきたら水泳やダンスなど負荷をあげたメニューに挑戦してください。
運動の強度があがると心拍数(脈拍数)は増えるので、運動中の脈拍数から今の運動強度がどれくらいか知ることができます。
最近ではスマートウォッチなどで脈拍や心拍数を簡単に知ることもできます。運動療法を長く適切に続けるためには、最大心拍数の40~70%程度の強度がちょうど良いと言われています。
もし測る手段がない時は運動強度の目安としては「少し息が弾む」くらいになるように調節してください。
運動をスタートした直後は、筋肉の中に蓄えられているエネルギーを利用します。始めて5分から10分くらい経過すると、筋肉に酸素やエネルギーを取り入れられるようになります。
蓄えられているエネルギーが消費されて脂肪が分解されるようになるには、少なくとも15分以上の運動が必要ということです。肥満の解消を目的としている場合は、最短でも30分は継続するようにしましょう。
運動療法の場合は1日240kcalのエネルギーを消費することを意識してください。240kcalはウォーキングでいうと3,000-6,000歩が目安です。
週にどれくらい運動するかについてもあらかじめ設定しておきましょう。週1回だけの運動ではリフレッシュ程度の効果しかなく、筋力アップや身体機能の改善にはつながりません。
運動すると2日間くらいは効果が継続します。週に2~3回の頻度でも十分です。無理なく疲れが蓄積しない頻度にしましょう。
運動する時間帯は食事の1時間から1時間半後の時間帯が理想的です。食後に運動することで食べた分のエネルギーを消費することができるので、血糖値の上昇を防ぐことができます。
ただし糖尿病の治療などでインスリンや血糖降下剤を使用している方は、食後に運動することで低血糖を起こしてしまう危険があるので注意しましょう。また、空腹時の運動もなるべくしないように気を付けてください。
心身機能の回復やリフレッシュなど運動療法は非常に多くの効果が期待できます。しかし運動療法をおこなうときの注意点もあります。注意点をまとめたので、確認しておきましょう。
高齢者は何かしらの持病があることが多く、知らずに運動することで症状を悪化させたり怪我や重症化につながることもあります。
たとえば糖尿病の方の場合足の変形を起こしている場合があります。靴擦れや足のタコが原因で、最悪の場合、足を切断することにもなりかねません。
また、特別な持病がなくても高齢者は身体全体の筋力や持久力が弱ってきているので、無理な動きをすれば骨折や捻挫にもつながります。特に認知症の方は自分の身体感覚が鈍っているので、痛い場合でもうまくコミュニケーションできないケースもあります。
運動療法をはじめる前には、必ずかかりつけ医や看護師、理学療法士などの専門職の人にアドバイスを受けてから取り組むようにしましょう。
運動療法は目標を設定して成功体験を感じてもらうことも重要です。
ただし、あまり達成が難しいチャレンジングな目標や達成がわかりにくい目標を設定することは逆効果になってしまいます。一方であまり簡単な目標を設定してしまうと、認知症の方は自分が馬鹿にされたと思って感情を損なう危険もあります。
失敗することもありつつ、80%くらいは成功するような目標設定が理想です。だいたい成功することで満足感を得られて、また次に挑戦しようという意欲がわいてきます。
また、自分で椅子に座れるようになるといったわかりやすい目標を設定しておくと、目標を達成したことで自分が成長した、「できた」という自信につながります。
運動療法を行うときは、運動に適した服装や靴を準備することも大切です。
ウォーキングでも普通の靴で歩くのではなく、ウォーキング専用シューズで歩くことをおすすめします。高齢者の方のけが防止の意味もありますが、装備をかえることでリフレッシュになったり、運動をしているという自信にもつながります。
運動をする前のウォーミングアップとクールダウンは省略せずに、しっかりと行うようにしましょう。
ウォーミングアップとクールダウンをしっかりしておかないと、筋肉痛や関節障害をおこしてしまうリスクがあります。また不整脈の予防にもつながります。
運動を始めるときは、いきなり強度の高い運動メニューからはじめたりせず、に軽い運動メニューからスタートすることが大切です。
軽めの運動からはじめ、調子が良さそうなら少しずつ強度をあげることも良いでしょう。ただし高齢者の方だということを忘れずに、80%程度の力でできるくらいに抑えるようにしましょう。
そして運動中にはこまめに水分補給を行うことも大切です。認知症の方は自分から水分補給をすることは難しいので、必ずタイミングを見て水分補給を促すように心がけてください。
認知症の方にはなるべくゆっくり、わかりやすい言葉、動作を心がけてコミュニケーションをとるようにしましょう。指示の内容が理解できなかったり、すぐ忘れてしまったこともあるでしょう。そのような時に責めるようなことを言われると、やろうという気持ちをそいでしまいます。
認知症の方が気持ちよく運動を楽しめるように励ましたり、優しい言葉をかけたりするように意識しましょう。
運動中に下記のような症状が見られるようであれば、運動を中止して休ませてください。
運動療法は身体を動かして運動することで、病気や障がいの症状を予防することを指し、認知症の非薬物療法のひとつでもあります。また、身体を動かすことにより運動機能などの改善だけでなく、精神的に落ち着きやすいという効果もあります。
主に「有酸素運動」「無酸素運動」「ストレッチ」などが挙げられます。
有酸素運動は糖質や脂肪を燃焼させる運動を指し、エアロビクスや水泳、ジョギング、ウォーキングなどがあります。
無酸素運動は酸素を使わずに筋肉を動かす筋力トレーニングを指し、高齢者がおこなう場合、ラジオ体操やダンベル体操などがあります。
ストレッチには動的ストレッチングと静的ストレッチングの2種類があり、高齢者には筋肉を伸ばした状態をキープしておこなう静的ストレッチングが有効です。
週1回だけの運動では、リフレッシュ程度の効果しかなく身体機能の改善にはつながりません。
主に週2~3回以上の頻度で運動をすることが効果的と言われており、1回の運動時間は約20~60分が目安です。また注意点として、運動をしない日が2日以上続かないようにしましょう。
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