「回想法」とは認知症における非薬物療法のこと。脳が活性化することで認知症の進行を緩やかにしたり、認知症の予防法としても効果が期待されています。
回想の方法や注意点などのポイントをおさえておけば、自宅で手軽にはじめることもできますよ。
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「回想法」とは認知症における非薬物療法のひとつで、リハビリテーションとして用いられている手法です。
過去の出来事や思い出を他者に話すことで脳が刺激されるので、認知症の進行を緩やかにすることが期待されています。
1960年代のアメリカで誕生した回想法は、日本では高齢者のうつ病の治療法として取り入れることになり、現在では認知症の治療や予防として病院や施設で活用されています。
回想法において最も期待されているのが、脳への刺激です。昔の出来事や記憶を思い出すだけでなく、それを他人に話すという行為が脳に刺激を与え、脳の活性化につながります。
また、特別な準備が必要なく始められるのも回想法が広く普及したポイント。認知症を発症した方が持っている写真や使い慣れた小物、本人たちに親しみのある音楽や食べ物など、過去を思い出すきっかけになるものがあれば、すぐにでも始められます。
もちろん、過去の記憶を頼りに話してもらうだけでも一定の効果が期待されています。
回想法は、記憶時間の短い“短期記憶”ではなく、長期間にわたって記憶されている“長期記憶”を思い出すのが特徴です。回想法は長期記憶である昔の出来事や感情を思い出す行為なので、短期記憶が失われやすい認知症に向いている治療と言えるでしょう。
そもそも認知症はさまざまな要因によって脳の認知機能が低下し、日常生活に障害が起きている状態のこと。損傷部位や人によって症状はさまざまですが、ごはんを食べたことを忘れてしまう短期記憶の喪失や、現在の時間や自分がいる場所が分からなくなる“見当識障害”は、認知症でよく見られる症状です。
自分がどこにいるかわからなくなる、今までできていたことができなくなることは、認知症を発症した本人にとって、非常につらい状況です。
過去の自分を思い出し、そして話をじっくり聞いてくれる人がいることを確認することで、精神的にリラックスできるのも回想法の大きなメリット。精神的な安定は認知症の症状緩和にも大きく役立ちます。
回想法には個人回想法とグループ回想法の2種類があります。個人回想法は語り手と聞き手がマンツーマンでおこなうのに対し、グループ回想法は6〜8人の語り手でおこないます。前者は在宅で、後者は病院や施設で多用されています。
個人回想法とは、語り手(認知症を発症した本人、あるいは認知症予防をしたい人)と聞き手(家族、介護者)の2人で回想する方法です。聞き手が語り手の話にじっくりと耳を傾けることができるので、より丁寧な回想をおこなうことができます。
また、少ない人数で行えるのが個人回想法のメリット。治療だと肩肘張らずに、談話中や在宅介護の合間などに取りいれることができます。
グループ回想法とは、6〜8人の語り手(認知症を発症した本人、あるいは認知症予防をしたい人)に対して、2〜4人の聞き手(家族、介護者)で回想する方法。全体で10名前後のグループになって回想します。
語り手が複数いることで個人の回想が深まり、さらに脳が刺激されます。また、同年代の人と回想することで、当時の環境や悩み、想いを共感できるのもメリット。自分の感情を誰かと共有できることで、精神的な安定につながります。
回想法にはさまざまなメリットが期待されています。ここでは精神的なメリット3点、脳機能的メリット1点をご紹介します。
認知症はすべてのことが一度にわからなくなるわけではありません。認知症の症状によって出来事や経験を忘れることがあっても、今までできていたことができなくなった不安や、周囲の環境や人が分からなくなる苦しみは、認知症を発症した本人が最も感じています。
回想法で過去の記憶を思い出すことは、自分がどんな人間でどんな人生を歩んできたかを再認識できる場でもあります。自分が成し得たことや楽しい記憶を思い出すこすことで、本人の自信につながっていきます。
回想法は他者がいなければ成り立ちません。自分の話に耳を傾けてくれる人がいるという安心感や、共通の話題を語り合う楽しさを実感することで、認知症による不安や孤独感が緩和されやすくなります。
回想法にもっとも期待されているのが、脳の活性化です。
認知症はさまざま要因によって脳機能が低下している状態なので、脳が活性化することで認知症の進行が緩やかになると考えられています。回想法は過去の記憶を思い出し、そして誰かに話すという2つの行為で脳を刺激するのです。
実際に国立長寿医療センターが行った研究によると、回想法を導入したグループは記憶検査で改善がみられたという結果が発表されています。
また、回想法は特別な訓練や準備物は必要ありません。過去を思い出せるきっかけがあればおこなえる治療法なので、認知症が進行した場合にも取り入れることができます。
認知症の非薬物治療として活用されている回想法は、認知症を発症した本人と家族や介護者とのコミュニケーションツールとしても使えます。
認知症を発症した方は日々、不安や孤独を少なからず抱えている状態です。精神的に負担がかかると、認知症の周辺症状(BPSD)の悪化にもつながることも。
他者とのコミュニケーションで気持ちがくつろいだり、信頼関係を築くことができれば、精神的な安定につながります。その結果、認知症を前向きに捉えることができるようになるでしょう。
回想法に特別な訓練やアイテムは必要ありませんが、事前準備をしっかりとおこなっておくことは大切です。
まずは回想法をおこなう前に、語り手(認知症を発症した本人、あるいは認知症予防をしたい人)がどのような状態かをチェックしましょう。認知症がどの程度進んでいるのか、コミュニケーションをとることができるかを確認します。
回想が可能な状態であれば、語り手の性格や心身の状態によって、個人でおこなうのか、グループでおこなうのかを決めましょう。
回想法をおこなう際、特にグループでおこなう時は、事前にテーマや避けるべき話題を決めておくのがポイントです。話す内容をある程度絞っておくことで、聞き手(家族、介護者)が当時の様子や情報を収集したり、思い出の品やアイテムを準備することができます。
下記のテーマを幼い頃から時系列順に語ってもらうのも良いでしょう。
また、回想の際に準備しておくものは、語り手が思い出を語るきっかけになるものであれば何でも構いません。昔の写真やよく聴いていた音楽、よく食べていたお菓子、使い慣れた小物など、五感に訴えるものは記憶を呼び覚ましやすいので、積極的に取りいれてみましょう。
個人回想法は手軽におこなえるので、在宅介護や談話中の途中でに何気なく始めることができます。自宅で回想法をする際は、会話に集中しやすい環境を整えましょう。
あらかじめ決めたテーマについて語ってもらう面談方式のほかに、語り手が気になったことを自由に語るフリースタイルで回想できるのも、個人回想法のメリット。アルバム写真など過去の出来事を時系列順に確認できるアイテムがあると、語り手が回想しやすくなります。
グループで回想法をおこなう際は、参加人数と参加者のバランスに配慮します。語り手は6〜8人、聞き手はリーダー1人とサブリーダー1人の最低でも2人。さらに1〜2人のスタッフが付き添えると安心です。
次に回想法の実施回数やテーマを設定します。“認知症の治療”としてしまうと本人が参加しづらくなる場合もあるので、最初は話しやすいテーマを設定してみましょう。
またグループでおこなう際は、回想の場を居心地の良い空間にすることも大切。気軽に語りあえるイベント名にしたり、お茶やお菓子を用意してティータイムのような雰囲気するなど、語り手がリラックスした状態で回想法をおこなえるようにしましょう。
回想法は手軽に始められる治療ですが、だからこそ以下のような注意すべきポイントをしっかりと確認しておくことが大切です。
回想法は過去の記憶や思い出を語る場なので、時としてプライベートに深く関わることがあります。本人の秘密や死の話題、性的な話など、プライベートに関わることは他言禁止。秘密保持を徹底しましょう。
回想を行っていると、過去のつらい経験や嫌な思い出など、本人にとって話したくない話題に触れることがあります。そんなときは無理に聞き出すのは禁物です。
さらに、認知症を発症している方は脳が疲れやすい傾向にあります。辛そうな表情や過度な興奮、疲れたそぶりが見受けられたら、回想法を早めに終わらせましょう。
回想法は過去の出来事や記憶を正確に思い出すのが目的ではありません。長期記憶は忘れにくいとはいっても、間違って記憶していたり、以前の話と内容が違うこともあります。そんな時は指摘せずに、語り手の話をじっくりと聞いてあげましょう。
回想法は思い出を人に話すことで脳を活性化したり、安心感を得るのが目的なので、話を続けてもらうことが大切です。間違いの指摘や否定は避けて、語り手のペースに任せて話をしてもらいましょう。
回想法に限らず、心理療法では治療の終え方=クロージングが重要です。つらい過去や苦しかった思い出は気持ちまで落ちこみ、そのままクロージングしてしまうと、ネガティヴな感情を日常生活にまで引きずってしまいます。
日常生活に気持ち良く戻れるように、語り手が好きな話題を最後のテーマにしたり、お茶やお菓子で場を和ませるなど、ポジティブな気持ちでクロージングできるよう工夫しましょう。
自宅で回想法をおこなう場合の注意は2つ。
1つは、語り手が話す内容を否定・指摘しないことです。家族や親族だと語り手が話す内容に間違いがあると思わず指摘してしまいそうになりますが、そこは我慢。話を遮らずに耳を傾けましょう。
2つ目は、回想に集中できる環境を整えることです。テレビの音が聞こえたり、小物が多いと、話があちこちに飛んでしまうことがあります。テレビの音は消す、回想法に使うアイテム以外は片付けるなど、回想のための環境を整えましょう。
病院や介護施設などでグループ回想をおこなう場合の注意は、2つあります。
1つ目は、プライバシーを守ること。グループ回想に限らず、語り手のプライベートに関わることは他言禁止です。グループ回想では特に語り手も聞き手も人数が多いので、個人情報の秘密保持を徹底しましょう。
2つ目は、語り手同士の関係性です。複数の人が集まれば、考え方や解釈の違うが生まれるのは自然なこと。ささいな違いで語り手の関係が悪化することのないよう、聞き手が配慮することが大切です。
回想法は、過去の出来事や思い出を他者に話す非薬物療法のひとつです。何かを思い出すといった行動が脳に刺激を与え、認知症の進行を緩やかにすることが期待できます。
回想法は「個人回想法」「グループ回想法」の2種類があります。
個人回想法は語り手と聞き手がマンツーマンで回想をおこなうことを指し、グループ回想法は6〜8人の語り手、2〜4人の聞き手で回想をおこなうことを指します。
個人回想法は少ない人数で丁寧な回想をおこなえるのがメリットとして挙げられ、グループ回想法は、同年代の人と回想することで想いを共感することもでき、精神的な安定につながることがメリットです。
「自信を取り戻す」「不安や孤独感を和らげる」「脳の活性化」「コミュニケーションを深める」などが挙げられます。
その中でも最も期待されているのが脳の活性化です。認知症の症状は脳が活性化することで進行が緩やかになると考えられており、回想法は過去の記憶を思い出し、誰かに話すという行為で脳を刺激しています。
回想法をおこなう際に特別な準備などは必要ないので、積極的に取り入れていきたい療法です。
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