介護で世話になっているという気持ちがあるからか、ちょっとした不満などを胸の中に留めてしまっていませんか?これくらいならなどと我慢していると、いつしか大きな不満につながり、不信感につながってしまうことも。
苦情を伝えたいと思ったらどうすれば良いのか、相談事例なども紹介しながら解説します。
この記事を監修する専門家
2004年から福祉の仕事に就き、訪問介護職員、デイサービス管理者などを経験。2015年から介護支援専門員としてのキャリアをスタートさせ、2022年8月に「みらいど」を自ら起ち上げる。2023年6月には「一般社団法人みらいど」に法人化。同年に「みらいどケアプランセンター」を立ち上げ、福祉を軸にした多角的に運営をおこなう。保有資格:介護福祉士、主任介護支援専門員、相談支援専門員、福祉住環境コーディネーター2級。
介護の苦情はどこに相談する?
介護に何かしらの不満を持ち、介護の苦情を伝えたいと思ったらどこに相談すればいいのでしょうか。
- 利用した介護サービス事業所
- 第三者機関
- 国民健康保険団体連合会
まずは、最初に利用した介護事業所へ相談してみましょう。老人ホームなど施設に入居している場合は、施設長やケアマネジャー、経営者に相談し、お互い話してみることで解決する場合もあります。
それでも改善されない場合や直接言いにくい場合は、市区町村など第三者機関の苦情相談窓口へ相談してみましょう。まだ解決できない場合には、国民健康保険団体連合会の窓口への相談と段階的に相談することで解決策が見つけやすくなります。
1.利用した介護サービス事業所
介護サービスに不満があり苦情を伝えたい場合は、まずは介護サービスを提供している事業所と話し合うのがベストです。直接話しにくいと感じたら、介護サービスを紹介したケアマネジャーに相談することもできます。
ケアマネジャーは利用者と介護サービス事業所の間で、公正中立の立場で支援する契約をしています。介護サービス事業所の評判や質などについても多くの情報を持っているので、不満や苦情を相談してみましょう。
2.第三者機関
介護サービス事業所との話し合いで問題が解決しなかった場合は、介護サービスを受ける前に説明を受けた契約書と重要事項説明書を確認しましょう。
重要事項説明書には、介護サービス事業所の苦情担当窓口が記載されているので、そこにある第三者機関の相談窓口へ相談しましょう。
第三者機関は、苦情の放置や密室化、介護サービス事業所に都合の良い一方的な解決を防ぎ、利用者と意見交換をする中で隠れた不満や要望を見つける役割を担います。
3.国民健康保険団体連合会(国保連)
第三者機関に相談しても解決できなかった場合には、国民健康保険団体連合会に相談してみましょう。
国民健康保険団体連合会は、介護保険サービスや区市町村が実施している「介護予防・日常生活支援総合事業」のサービスに関して、電話などで苦情相談を受け付けています。
国民健康保険団体連合会では、市区町村での扱いが困難な場合や、介護サービス事業所の所在地と利用者の居住地の市区町村が異なるなど広域的な場合が主な窓口になります。
国民健康保険団体連合会は介護サービスの質の向上が目的で、介護サービス事業所に対して必要な改善指導をおこなうのが役割です。介護サービス事業者に対して文書調査や現地調査の後に指導・助言をおこない、その内容を申立人と市区町村に報告します。
その他の苦情相談が可能な窓口
介護に関する苦情を相談できる窓口が他にもあるので紹介します。
地域包括支援センター
介護で一番最初に世話になる人も多く、高齢者の身近な相談窓口でもある地域包括支援センターでも介護に関する苦情を相談できます。
地域包括支援センターは自治体から委託を受けた社会福祉法人や社会福祉協議会が運営しているケースが多く、利用者や介護サービス事業所などから事情を聞いて対応してくれます。
また、必要があれば国民健康保険団体連合会への苦情申立についての援助もおこなってもらえます。
運営適正委員会
運営適正委員会は、福祉サービスに関する苦情を解決するため、各都道府県社会福祉協議会に設置を義務づけられた機関です。
運営適正化委員会では、福祉サービスを利用している人が介護サービス事業所に苦情を言いたいときやトラブルが起きたときなど、社会福祉や法律、医療などの専門知識を持つ委員が公正・中立な立場で解決のための相談や助言、調査をおこなっています。
介護サービス事業所の苦情は、各自治体や国民健康保険団体連合会での対応が基本ですが、運営適正委員会でも受け付けています。
ただし、苦情対応の対象となるのは、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、認知症対応型共同生活介護、指定介護老人福祉施設のサービスに限られます。
誰に苦情を伝える?
介護に関する苦情はまずは介護サービス事業所に伝えましょうと説明しましたが、具体的には誰に連絡すればいいのか迷ってしまう人も多いのではないでしょうか。
居宅介護サービスの場合と老人ホームなどの施設に入居している場合にわけ、誰に相談したら良いかを説明します。
<居宅サービスの場合>
- サービス提供責任者
- 担当のケアマネジャー
- 介護サービス事業所の責任者
<老人ホームなどの施設の場合>
- 介護サービスの調整をおこなうケアマネジャーや生活相談員
- 管理者(ホーム長)
- 老人ホーム運営会社の担当窓口や経営者
役所や国保連は本人か家族が連絡する
自治体の役所や国保連に申し立てをする場合には、申立者は介護サービスを受けている本人かその代理人がおこないます。
代理人とは一般的に家族が対応することが多いです。自治体の苦情窓口や国保連の連絡先は、重要事項説明書やホームページで確認しましょう。
介護サービス事業所に不満を感じたら
ここまで介護サービスについて苦情の相談窓口を紹介してきましたが、ここからは苦情を申し立てるかどうか悩んでいる人に向け、どのようなことに注意したら良いのかなど具体的に紹介します。
サービスを利用する本人の気持ちを確認する
介護サービス事業所の不満を家族などに伝えてきた場合、まずはサービスを利用している人の気持ちを確認することが大切です。
ちょっとした愚痴で話を聞いてもらえばすっきりする程度のことなのか、話を聞くと些細なことに感じても介護サービスを受けることに支障があるほど気にしているという心境かもしれません。
話をしながら気持ちをしっかり確認し、冷静に考えられるようになったら今後の対応を家族と一緒に考えましょう。
より良いサービスを利用するため早期に苦情を伝える
世話になっている介護サービス事業所に苦情を伝えることに抵抗を感じてしまう人もいるでしょう。
これからも継続して介護サービス事業所を利用する場合、不満を抱えたままの状態は利用者にとって望ましいことではありません。早めに苦情を伝え、相談することがサービスの向上につながります。
介護サービス事業所を変更する
介護サービス事業所に苦情を伝えても問題解決できなかった場合は、ケアマネジャーに相談し他の介護サービス事業所への変更も考えていると伝えたり、実際に変更することも可能です。
老人ホームなど変更が難しい場合には、第三者機関や国保連に相談しましょう。それでも解決できず関係が悪化してしまいそうな場合には、早めの転居を検討するのもひとつの方法です。
苦情はサービス品質の向上となる
苦情を伝えるというのはクレーマーだと思われてしまうのではないかと不安に思う人もいるでしょう。ですが、苦情を伝えることで介護サービス事業所にとってもサービスの質を向上するきっかけとなることが多いです。
スタッフの実際の仕事ぶりを見直すきっかけとなり、介護サービス事業所にとってもメリットになります。ただし、感情のまま苦情を伝えてしまうと介護サービス事業所との関係が悪化したり、解決までに時間がかかってしまいます。
どのようなことが起こり、利用者はどのように感じたのか、今後どのようにして欲しいのかを冷静に伝えることが大切です。
介護サービス事業所への苦情事例
それでは実際に介護サービス事業所に寄せられた苦情事例を見てみましょう。
事例1 スタッフにきつい言葉を言われた
ショートステイ利用者である母親が、スタッフの言葉遣いがきついため行きたくないと口にするようになったとのこと。
スタッフが1名の時間帯な上、他の利用者が言われているのを聞くのも辛いとのことで、介護サービス事業所にも相談したが、対応が不安に思うため役所へも相談。
申出人の希望は、今度も利用したいので安心して利用できるよう施設に対処して欲しいということで、今後の利用も考え匿名を希望しました。
役所・介護サービス事業所の対応
役所は匿名ではあるものの正式な苦情として受け付けました。第三者機関に報告し、苦情解決の責任者である施設長が該当のスタッフと面談をしました。
反省を求めた上でクレームを真摯に受け止め、言葉遣いや態度を改めるとの報告書が役所へ提出されました。
また、ショートステイ利用者に苦情の事実を伝えた上で満足度調査を実施したり、ケアマネジャーにショートステイへの意見・要望を聞き、その結果が長期利用の入居者家族とショートステイ利用者家族に配布されました。
これにより介護サービス事業所がサービス内容を見直すきっかけとなりました。
事例2 スタッフの不注意で怪我をした
特別養護老人ホームに入居している利用者である父親が、自室で車椅子からベッドへ移乗介助の際にスタッフと共に転倒し、翌日強い痛みを訴えました。
病院を受診した結果、左大腿骨転子部骨折にて手術が必要とのことで入院となりました。申出人の希望は、該当スタッフを含めた、特別養護老人ホームからの謝罪と、入院治療費用などの支払いです。
特別養護老人ホームの対応
申出人から事故の詳しい状況説明を求められたため、施設長、生活相談員、介護主任、介護スタッフ2名で入院先を訪問しました。
介助の際、介護度が高いにも関わらず、新人スタッフに身体介助を担当させたのが今回の事故の原因ではないかと申出人から指摘がありました。
ベテランスタッフが傍に付き、新人スタッフの指導に加え、何かあった場合に常に支援できる位置に待機しておくべきであったと申出人へ謝罪しました。
後日、自治体への苦情申立により介護事故に伴う実地指導がおこなわれ、研修やマニュアルについて指摘がありました。そして、頻繁に面会できない家族との連携を図るために、毎月スタッフから家族に現況報告が送られることになりました。
介護の苦情に関するよくある質問
介護に関する苦情はどこに相談すれば良いですか?
介護スタッフに対しての苦情は、利用した介護事業所へ相談しましょう。それでも改善されない場合は、第三者機関や国民健康保険団体連合会、地域包括支援センターや運営適正委員会に相談することも可能です。
苦情が言いづらい場合はどうすれば良いですか?
直接、介護事業所へ苦情が言いづらい場合は、まずケアマネジャーに相談し介護事業所へ連絡してもらいましょう。
基本的には利用者本人、家族、ケアマネジャーからの連絡でサービスが改善されることがほとんどです。それでも改善されない場合は、第三者機関の苦情相談窓口などを利用しましょう。
苦情は誰に伝えれば良いですか?
居宅サービスの場合、「サービス提供責任者」「担当のケアマネジャー」「介護サービス事業所の責任者」に伝えると良いでしょう。
また、老人ホームなどの施設の場合は、「介護サービスの調整をおこなうケアマネジャーや生活相談員」「管理者(ホーム長)」「老人ホーム運営会社の担当窓口や経営者」に伝えましょう。
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「いい介護」の記事を編集・執筆する専門チームです。介護コンテンツのベテラン編集者や介護施設職員の経験者など、専門知識をもったスタッフが、皆さまの介護生活に役立つ情報をお届けします!