「ダブルケア」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。ダブルケアとは育児をしながら介護もこなしている状態を指すことが多く、その背景と問題点、さらにはダブルケア対策を解説します。
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出産後から数年間の手がかかる育児期間と、高齢になった親の身体機能や認知機能低下により手助けが必要になる介護期間が重なることをダブルケアと言います。
育児と介護の期間が重なることだけがダブルケアと思われがちですが、両親が2人同時期に介護が必要な状態になることや、親と配偶者が同時期に介護を必要とすることもダブルケアと言います。
ダブルケアが増えている社会的背景には、女性の社会進出などによって起こる晩婚化や出産年齢の高齢化があります。
結婚や出産時期が早ければ、育児と介護をおこなう時期に時間差がありますが、例えば40歳前後で出産した場合には、育児期と親の介護時期が重なる可能性が高くなります。
ダブルケアは、現代日本の深刻な社会問題である「少子高齢化」とも深く関係しています。
ベビーブームが起こった1970~80年代とは違い、介護を担う世代の兄弟姉妹が少ないケースが多くなっています。また、親戚関係や地域との関わりも当時に比べると密接ではありません。
2016年4月に発表された内閣府の調査によると、日本全国でダブルケアをおこなっている人は少なくとも253,000人に達することがわかっています。
この調査では育児の対象とされているのは未就学児まで。まだまだ手が離れたとは言いがたい小学生までを育児の対象に含めると、現実的にはさらにダブルケアをおこなっている人が多いと推測されます。
年齢別では30~40代が80%を占めており、253,000人の性別の内訳を見ると、女性が168,000人に対して男性は85,000人となっています。
出典:「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書」(内閣府)
ダブルケアの社会的背景でも触れましたが、社会全体の晩婚化、晩産化、少子高齢化が影響しているのは否定できません。
結婚や出産はライフプランとして計画的におこなえる場合もありますが、介護は突然やってきます。出産した後にすぐ介護が始まりダブルケアになったというケースもかなり多いようです。
第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代全員が75歳以上となる2025年以降には、その子どもたちである団塊ジュニア世代にダブルケアという負担が重くのしかかるとも言われています。
以下に記したように、ダブルケアにはさまざまな形があります。
また、孫の育児と親や配偶者の介護というダブルケアや、育児に加えて両親の介護や両親と配偶者の介護といったトリプルケアというケースもあります。
介護する人にとって肉体的にも精神的にも負担の大きいダブルケア。具体的な問題点を挙げて説明します。
ダブルケアをおこなう世代は子どもの教育資金や、家や車のローンなど。生活していく上で非常にお金が必要な世代です。
昔から介護や育児は女性の仕事と考えられ、それを当然とする社会構造が長く続いてきました。しかし現在は仕事を持つ女性も多く、育児、介護、仕事と女性にこれまで以上の負担がかかっているのが現状です。
内閣府の調査では、ダブルケアの状況下で業務量や労働時間を減らしたと答えた人は、男性が約2割、女性が約4割。そのうち仕事を辞めて無職になった人は男性で2.6%、女性で17.5%と女性の負担が大きいことが調査からもわかっています。
育児と仕事、介護と仕事の両立だけでも大きな負担がかかりますが、育児、介護、仕事の3つが重なってくると、すべてをこなすのはかなり難しいと言えます。
負担を軽くするために保育園や介護施設を利用しようとしても、条件が合わなかったり入所できなければ育児や介護を自分で担っていくしかありません。
そのため、フルタイムの仕事を続けるのが難しくなって離職を選んだり、経済的な理由から派遣社員やパートなどへの転職を余儀なくされることも問題となっています。
育児だけ、介護だけの状態でも経済的負担は生じますが、育児と介護のダブルケアとなればさらに大きな金銭的な負担が生じます。
ダブルケアによって離職や転職を選択しなければならなかった場合には、収入も減少して経済的な不安が日常生活にも大きな影響を及ぼすことになります。
各自治体には育児の窓口や介護に関する窓口は設置されていますが、ダブルケア専門の窓口が設置されている自治体はほとんどありません。
育児だけ、介護だけでなくダブルケアを担っている方は、肉体的にも精神的にも疲労していたり、そもそも相談に行く時間を確保すること自体が難しいこともあるでしょう。
さらには、ダブルケアを経験した女性の約3割は「家族の支援を受けられなかった」と回答しており、家族の中でも孤独感を感じて孤立していることがわかります。
介護や育児は慣れないことが多く、複雑な家族関係が絡んだり、終わりが見えないなど精神的な疲れがたまりやすくなります。夜間の授乳やトイレ介助などで夜間の睡眠時間を確保できず、慢性的に疲労がたまっている状態の方も多いようです。
ただでさえ肉体的、精神的に大きな負担がかかるダブルケアは、地域や家族の協力や理解を得られず孤立してしまうことでさらなる精神的負担を負わせてしまうのです。
ダブルケアになってしまったら、どのようなことに注意して介護をすれば良いのでしょうか。必要な対策をご紹介します。
ダブルケアが始まってしまうとどうしても、生活に追われてしまい、支援制度についての情報を集める時間を確保するのも難しくなってしまいます。ダブルケアになりそうだと感じたら、早めに自治体の相談窓口や介護保険制度について調べ、支援申請方法なども確認しておくと安心です。
介護する方と介護される方が住んでいる自治体が別の場合もあります。手続きや相談窓口など、いざというときにすぐに相談できるよう調べておくだけでも違います。
また、介護と育児への支援を一体的に行っている「社会福祉協議会(社協)」では、育児でも介護でも利用できるさまざまな福祉サービスがあります。まずはホームページなどを調べるところから始めてみてはいかがでしょうか。
ダブルケアであっても、介護の相談であれば、まずは介護を必要としている方が住んでいる地域の地域包括支援センターに相談してみましょう。
「まだ両親は元気だから介護の相談は必要ない」などと思わずに、帰省したタイミングで兄弟姉妹と話を聞きにいくのも良いでしょう。地域包括支援センターでは介護サービスだけではなく、介護予防についても相談することができます。
子育てについての悩みは地域の子育て支援センターに相談してみましょう。子育ての相談はもちろん、ショートステイや一時預かりなど在宅サービスの提供もおこなっています。
子育ての相談だけでなくストレスを一人で抱えこまないように、家庭全般の相談をすることもできます。子どもを遊ばせながら、経験豊富なスタッフや育児の専門家に日々の不安や悩みを聞いてもらうだけでも、気分転換することができます。
ダブルケアをしていると、自分の時間もなく、誰にも相談できずに孤立感を強めてしまうことが問題視されています。自治体の相談窓口への相談だけでなく、ダブルケアをしている人が集まるコミュニティやダブルケアに関するNPO団体と繋がることで、情報収集やつらい気持ちを共有しあうことができます。
同じような状況の方と繋がることで気持ちが落ち着いたり、精神的負担を軽減してくれる助けとなるでしょう。
両親や配偶者が元気なうちに介護に関して話し合っておくのが理想的ですが、元気なうちは切り出し方も難しく、トラブルの元になってしまうことも。まずは夫婦で相談したり、両親や兄弟姉妹に連絡をとる回数を増やしてみることから始めてみましょう。そこから今後の生活についての話などの話ができるかもしれません。
また、夫婦や兄弟姉妹で育児や介護への考え方、在宅介護や介護施設など介護の方向性、費用分担や仕事との両立に関する話もしておくと良いでしょう。
家族との話し合いの場をつくっておけば、突然ダブルケアという状況になっても混乱することなくスムーズに対応できるのではないでしょうか。
育児と介護のダブルケアをしている場合も、介護保険を利用して在宅介護サービスを受けることができます。介護を受ける方が住んでいる自治体の介護保険課や地域包括支援センターに相談してみましょう。
地域包括支援センターには、ケアマネジャーだけでなく社会福祉士や精神保健福祉士も在籍しています。ダブルケアの悩みにアドバイスをもらったり、相談窓口を紹介してもらうこともできます。
ケアマネジャーに対しても「育児の時間を大切にしたい」「自分の時間を持ちたい」など希望を伝えた上で、適したケアプランを作成してもらうのがおすすめです。
自宅から施設へ通うデイサービスや短期間の宿泊を伴うショートステイなどの介護サービスを活用して、自分自身の生活も大切にしましょう。
在宅での介護が難しいと感じたら、介護施設への入居も検討しましょう。
特別養護老人ホームは入居希望者が多く、入居までに時間がかかるケースが多いのですが、ダブルケアという状況を説明すると優先的に入所できることもあります。お困りの状況を自治体の窓口に相談したり、希望する施設に問い合わせてみましょう。
育児や介護を同時に担ったり、両親や配偶者などの介護を同時におこなうダブルケア。性別に関係なく仕事を持つ方が増えた現在では、介護する方に大きな負担がかかってしまいます。
一人だけに重い負担がかかってしまうことのないよう、家族や兄弟姉妹と協力し、近隣の方や職場にも理解してもらえると安心です。
決して無理をせず、積極的に育児や介護サービスなどを利用しましょう。自分から周りに支援を求めることでダブルケアの認知が高まり、厳しい状況を改善していくきっかけにもなるはずです。
ダブルケアが起こる理由として、女性の社会進出などによる晩婚化と出産年齢の高齢化があります。またダブルケアは、少子高齢化とも深く関係しています。
現代では、1970~80年代とは違い介護を担う世代の兄弟姉妹が少ないケースが多く、親戚や地域との関わりも薄れており、介護について一人で抱え込むケースが多々あります。
ダブルケアになる可能性を感じたら早めに自治体の相談窓口や支援制度について情報収集することが重要です。介護のことについては地域包括支援センター、子育てのことについては子供家庭支援センターへ相談しましょう。
またダブルケアをしている人が集まるコミュニティなどに参加することで、情報収集はもちろんのこと、普段話せない辛い気持ちも共有することができます。
男性がダブルケア解消のため育児や介護を担いたくても、管理職や長時間労働をこなしている場合は難しいとされています。
2016年のデータでは、日本全国でダブルケアをおこなっている人は約25万人いるとされていて、その中で女性の割合は約17万人でした。家事や育児、介護は女性の仕事という考え方はまだまだ根深く存在し、女性一人に任せてしまう家庭も多いです。
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