『50歳からのミニマリスト宣言!』─「最小限のもので最大限に暮らす方法を知る」に効く1冊

『50歳からのミニマリスト宣言!』─「最小限のもので最大限に暮らす方法を知る」に効く1冊

更新日 2023/06/12

2009年から2010年にかけて、出版界では特筆すべき2冊のベストセラーが生まれた。

前者がやましたひでこの『新・片づけ術 断捨離』(マガジンハウス)、後者が近藤麻理恵の『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)である。

「断捨離」は2010年に新語・流行語大賞にノミネートされたほか、「こんまりメソッド」はNetflix経由で世界配信され、近藤の名は「世界のKonMari」として知られるほどの大反響を巻き起こした。

そして、本書の著者の筆子さんも、この2著と同時期にブログ「筆子ジャーナル」を開始し、持たない暮らしや海外のミニマリストに関する情報を発信して、多くの読者を獲得してきた人である。本書は、60代を過ぎた筆子さんの4冊目の主著となる。

「断捨離」「ときめき」「ミニマリスム」──。アプローチの違いはあれど、これらに共通するのは、モノにあふれた日常から解放され、自分の意志で必要最小限の暮らしを楽しむこと提案している、という点にあるだろう。

日々、蔵書に囲まれ、文字通り「本の虫」として生きている私にとって、彼女たちのライフスタイルには承服しかねる点が多々ありそうな予感がプンプンするが、怖い物見たさでちょっとだけその世界を覗いてみることにしよう。

身軽に、豊かに、自分らしく 50歳からのミニマリスト宣言!

  • 著者:筆子
  • 発行:扶桑社
  • 定価:1400円(税別)
  • ボブ的オススメ度:★★★☆☆

カナダ暮らしの、主婦。50歳を期にミニマリストになる

まず、本書の冒頭でミニマリストを「最小限のもので最大限に暮らすこと」と定義する筆子さんは、37歳になる直前にカナダに渡り、その後、結婚して39歳のときに一人娘を出産。それを期に専業主婦としてカナダで暮らしていた。

そんな筆子さんがミニマリストという考えに惹かれたきっかけは、50歳の誕生日をむかえたその日、「もう50歳なのに、貯金も収入もない」ということに気づいたことだったという。

娘が生まれてから専業主婦だったので自分の収入がなく、OL時代に貯めたお金を取り崩して生きてきましたが、それも底を突いてしまったのです。夫もお金がなかったのでこちらには全然回ってきませんし、今後もそんな見込みはゼロでした。
困りました。近い将来、娘の大学の学費が必要だし、何より私は歯が悪く、歯の治療にずいぶんお金がかかっていました。「このままではまずい」と焦った私は、「生活を変えたい。いっそミニマリストになってしまえばいいのかも?」と考えました。

当時、アメリカを中心にミニマリストたちが自身の生活をブログで発信していたこともあって、それに飛びついたわけだ。

その後、キッチンに収納されている多すぎるマグカップやコップ、お菓子やお弁当作りのグッズをはじめ、リビングでなんとなく置いている飾り物や多すぎる写真やアルバムなどを片っ端から処分することにしたという。

興味深かったのは、処分すべき服に関する記述。彼女のクローゼットのなかには、実にさまざまな種類の処分すべき服が眠っていた。例えば、こんな具合。

  • 2~3年着ていなかった服
  • サイズが合わない服
  • 痛んでいる服
  • 時代遅れの服
  • 義理でずっと持っている服
  • なりたい自分になるために買った服

女性なら「あるある話」なのかもしれないが、「服=暑さ寒さを防ぎ、公序良俗を乱さない程度に生殖器等を隠してくれるもの」としか見ていない野暮ったいオジサンの私には新鮮な驚きがあった。

太ったり痩せたりしてサイズが合わなくなれば迷わず捨ててきたし、親類や友人からもらった義理のある服などどこに保管しているのかさえわからない。まして、流行の最先端の服や、なりたい自分になるための服なんて、買ったことがない。

ともあれ、そのようにして女性らしさに封印をして服を整理したあとの筆子さんは、実にすっきりした気分になったようである。

今は毎日似たようなものを着ているので、迷う余地はいっさいありません。服もバッグも靴も事前に決まっているので、外出の支度はあっという間に終わります。着るものに限らず、人生は決断と選択の連続です。何を食べるか、何を買うか、いつ、どこに行くか、どの仕事からやるか、誰と会うか、どんなふうに家事をするかなど、私たちはたくさんの意思決定をしながら生きています。 決断を要することが多すぎると 人は決断疲れを感じ、肝心のことを決めるエネルギーがなくなります。
所持品を減らせば、着るもの、使うもの、やるべきことは、ある程度決まってくるので、決断疲れにさいなまれません。その結果、大事なことをじっくり考えられるし、ベストな決断ができます。

これは、実に納得できる話だ。日常の決断と選択の機会が少なくなれば、本当にやりたいことに時間資源を割くことができるというのは道理である。

ミニマリストとして生きてみるのも、あながち悪いものではないようだ、と思わず共感してしまった。

生活はダウンサイズは、なるべく早くするほうがいい

ミニマリストとしての筆子さんにさらに共感できるのは、それが決してケチケチした生活なのではなく、「欲しいものは我慢しなくていい」というポリシーを持っているところだ。

老後資金のための貯金はもちろん、18歳で一人暮らしをはじめた娘には家賃補助として月500カナダドル(約5万円)を援助しているというし、健康のための歯のメンテナンス、オーガニックフード食材などにはお金をかけているという。

また、53歳以降、文筆業で収入を得るようになってからは、ブログのサーバー代や通信費などの必要経費や、書籍、音楽、サブスクリプション代などの自己投資にもお金をかけている。

住居に関しては、もともと賃貸派だったという筆子さんだが、55歳のときにそれまでの一軒家から地上階と半地下のみの住居にダウンサイズした。

立地は以前より交通の便のいいところだそうだが、それでも家賃は2~3万円ほど安くなり、スペースが限られて大きな家具は置けない分、余計なものを買いにくくなったという。

マイホームには長年ため込んだ「大好きなもの」や「大事なもの」が詰まっていますが、ダウンサイジングするとき、7割から8割は手放すことになります。 いきなりこれだけ捨てるのは心理的にも体力的にもしんどいですよ。今からダウンサイジングを念頭に置き、不用品を捨てておくと、のちのちラクです。それにものを減らせば、その日からとても暮らしやすくなります。

そんなふうに言われてみると、「なるほど、そうでしょうなぁ」とうなずくしかない。

パートナーがガサツでもミニマリストはひるまない

おもしろいのは、一緒に住んでいる彼女の夫は、筆子さんと真逆でモノを捨てられない人だということだ。なんでもギリギリにならないと行動を起こさない性格で、部屋はつねにモノにあふれていて、本人さえ何がどこに置いてあるのかさえ把握していないという(私と同じだ!)。

そんなパートナーと同じ屋根の下が暮らすというのはミニマリストの筆子さんにとって、かなりのストレスになりそうなものだが、次のようなことを心がけることによって精神衛生を保っているのだとか。例えば、次のようなことだ。

別々のスペースをつくる
仕事スペースはお互いリビングだが、南北の壁に沿ってそれぞれの専用スペースがあり、寝室も別
伝えるべきことはしっかり伝える
たいていのことには「仕方がない」と済ませるが、目に余るときにはその場ではっきりと苦情を言う。相手が察してくれるのを待つことほど、まずい戦略はない
相手を変えようとしないで尊重する
「価値観が同じ人と結婚したい」というが、そんな人はいない。相手の違いを受け入れ、自分と違うやり方を尊重する
行動させようとせず、自分から行動する
ミニマルな生活を押しつけるのではなく、自然に影響されるのを待つ。「太陽と北風」の例えでいえば、太陽政策をとる

    こうして見てみると、夫婦というのはいつも妻のほうが暮らしの舵取りをしてるのだということを実感する。

    腕のある不動産の営業マンは、夫婦で訪ねてくる顧客に対して、「ご主人」をたてながら「奥さん」の顔色を見るのを忘れないというが、むべなるかなというものである。

    年老いた親に実家の片付けをうながす方法

    本書の終盤になって、話は年老いた親との付きあい方に向かっていく。

    筆子さんのお母さんは昭和8年生まれの90歳で、実家の一軒家で一人暮らし。もともと家事をしっかりするきれい好きな主婦だったというが、70代になってからは家のなかにホコリが目立つようになったという。

    異国暮らしをしている筆子さんにとって、里帰りするたび、そんな母の変わりようを見て心配になるのも仕方のないことだが、ここでも彼女は母に「ミニマリストになりなさい」などと強いたりはしない。

    ここでも筆子さんは、次のようなことを心がけたという。

    親のモノを捨てる前に自分のものを捨てる
    実家にモノが多いとはいえ、子どもがコントロールできるのは自分のものだけ
    親の承諾を得て、親が片づけたいと思うものから始める
    「何か捨てたいものある?」と漠然と聞くのではなく、具体的に「とせこか、スッキリさせたいところある?」、「片づけたい部屋とかある?」と聞いて、片づけに参加させる
    命令ではなく提案する
    捨てることが苦手な人に「捨てる決断」を迫るのは禁物。親の気持ちを考えながら少しずつ提案していく
    コミュニケーションを楽しむ
    古いモノが出てきて思い出話になるのもOK。片づけに対してネガティブな気持ちを持たせないよう、いい雰囲気づくりに気を遣う
    片づけ終了後にフォローする
    油断しているとすぐに元に戻ってしまうので「台所使いやすくなった?」、「最近、何か捨ててる?」などとアフターフォローして注意喚起

      なにもミニマリストになろうという人だけでなく、このあたりの記述は年老いた親を持つ子すべてに有効な情報なのではないか。

      結局のところ、私はこの本を読んで「よし、明日からオレもミニマリストだ」と決意するほどの影響は受けなかったが、あまり意識せずにいた日ごろの暮らしを快適にする知恵を授かったような気はする。そういう点で、有意義な読書だったと思う。

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