ブックレビュー
少子化問題、若者の雇用問題、ワークライフバランスなど、社会をよりよくするための提言活動をはじめ、ITやテクノロジーを駆使したライフハック術の伝道者として活躍している勝間和代さん。 2023年3月に上梓した『100歳時代の勝間式 人生戦略ハック100』(KADOKAWA)では、「人生100歳時代」に対応した、右肩上がりの人生戦略を提案している。 そこで今回は、「勝間和代はいかにして勝間和代になったのか?」というテーマを足掛かりにして、今後の新しい時代をしなやかに生き抜く方法について、じっくり話をうかがった。 不確実性に満ちた現代の迷い子たちの目を覚ます、渾身のインタビューだ! 『100歳時代の勝間式 人生戦略ハック100』 著者:勝間和代 発行:KADOKAWA 定価:1550円(税別) 公認会計士資格は、志望したなかでいちばんコスパのいい資格だった ―勝間さんは少女時代、どんな子だったんですか? 普通におとなしい子だったと思いますよ。折り紙とかお絵かきとか読書をするのが好きで、ゲームも人並みにやってました。 両親を含め、親族も製造業などの堅い仕事に就いていましたから、一攫千金を狙うような大それた夢を抱くでもなく、自分も周囲と同じような堅実な仕事に就くのだなと漠然と考えていました。 ―当時、最年少の19歳で国家資格である公認会計士試験の第一次、および第二次に合格して会計士補の資格を得たのは、そのことに関係があるんですか? 会計士のほかにイメージしていたのは、医師、教師、弁護士の3つ。そのなかで会計士を選んだのは、勉強時間、合格率、合格後の収入の確保のしやすさといった点でいちばんコストパフォーマンスのいい資格だと思ったからです。 医師と教師は、コスパで言えば対極にあるものですよね。資格取得のコストは医師が重く、教師は軽い。でも、医師の仕事は基本的にハードワークだし、教師はやり甲斐はあるけど低賃金で働かなくてはならないイメージがありました。弁護士については、最難関と言われる司法試験に挑むほどのモチベーションがなかったというのが正直なところです。 その一方、公認会計士の資格試験については、数学のスキルに関する問題が多かったので、私には向いている資格だと思いました。簿記や原価計算など、企業財務に関する理解力を問う問題は、数学が得意だった私にはさほどの苦もなく解けてしまうんですよ。私のまわりの理系の人でも、公認会計士の試験に合格している人はけっこう多かった印象があります。 日本企業に就職するつもりはなく、外資系一択でした ―その後、勝間さんは大学在学中に結婚して、なおかつ、お子さんを出産されています。そのころの大学生にとって「ワーキングマザーである」という状況は、就職するうえでかなり不利に働いたと思いますが、どうでしたか? 日本の企業で働こうと思ったら、おそらくそうなっていたでしょうね。だけど私は会計士の資格を持っていたのでその選択肢はなく、外資系企業に就職することだけを考えて、ゼミの教授が推薦してくれた会社に就職しました。 外資系企業というと、今では多くの学生が就職を希望しますが、当時は日本に進出して間もないころで規模も小さく、日本の一流企業に就職できない、二流以下の学生の就職先と見られていました。 でも、そのおかげで、新人にも責任のある仕事をまかせてくれるので、いい経験を積むことができました。能力が認められればスキルアップも容易だったし、ワーキングマザーへの待遇も寛容でした。「子どもが熱を出したので早退させてください」なんて、日本企業で正社員として働くなら、間違っても言えない空気があったと思いますが、外資系企業では、ごく当然のことのように認めてくれましたからね。 ―外資系企業で働くには、英語のスキルが必須だったと思うんですが、どうだったんですか? 私は中学から附属校に通っていたので、大学受験を経験していないんです。おかげで学生時代のTOEICの点数は、当時の大学生の平均点より少しだけ上の420点でした。さすがにこれでは働く上で支障が出るだろうと、1年半くらい、真面目に勉強して900点くらい取れるようになりました。実際、仕事の上で本格的に英語を使うようになるのは、3回におよぶ転職のなかで経営コンサルタントや証券アナリストなど、顧客と接する機会を得てからのことですけどね。 今はどうかわかりませんが、スキルを磨くための教材や研修費用など、外資系企業は気前よく負担してくれましたので、私自身はお金をほとんどかけずにいろいろな勉強をすることができました。 ―勝間さんの社会人としてのすべり出しは、非常にコスパのよい、順調なものだったんですね。 ええ、そうですね。そうかもしれません。 少数派だったワーキングマザー仲間には多くのものを学んだ ―勝間さんは1997年、ワーキングマザー向けウェブサイト「ムギ畑」を設立し、子育てしながら働く女性を支援する活動をはじめます。どんなきっかけがあったんですか? これも今の人には信じられないことかもしれませんが、インターネットが普及する前、パソコンを通じてテキスト情報を共有する「パソコン通信」というサービスがありまして、私はそこで、子育てしながら働く女性の掲示板に参加していたんです。 仕事で出張するとき、子ども預けるのに安心なベビーシッターさんの情報とか、転職先選びの情報などを交換したりして、今でいうSNSのような交流をしていたんです。 すると、いつしか専用の掲示板が欲しいという話になりました。パソコン通信というのは、電話回線を使って「1分10円」くらいの利用料でアクセスしていたんですが、それより費用をかけずに集まれる場が欲しい、と。そこで、プログラムを書くスキルのあった私が運営者を引き受けることになったんですね。 当初、会員は2~30人くらいでしたが、2019年に役目を終えてサイトを閉鎖したときの会員数は4500人を超えていました。 ―男女雇用機会均等法が改正されて、雇用や昇進などに男女差をつけることが禁止されたのが1999年のこと。当時はワーキングマザーの人数も少なかったでしょうから、とても貴重な交流の場だったんですね。 ええ、「ムギ畑」の初期のメンバーは私より年上の方が多く、教えられることが多かったですね。 例えば、旦那さんと死別されて、4人の子育てをしている方がいて、「旦那の生命保険の保険金がおりたので、アメリカに移住して留学する」という話を聞いたときは「すごいなぁ」と感心しました。 「私も3人の子どもがいるけど、日本の大学院なら通えるかも」と触発されて、早稲田大学大学院に通ってファイナンス研究科を修了しました。あのママさんとの出会いがなければ、大学院に挑戦することはなかったと思います。 初期のメンバーには、今では名だたる企業の社外取締役をされていたり、評論家やアドバイザーとしてメディアに出ている方など、パワフルで有能な女性がたくさんいて、いろいろな面で影響を受けましたね。 1日の労働時間は、8時間制から6時間制に移行できる ―勝間さんは、政府に請われてワーク・ライフ・バランスなどの政策決定のアドバイザーをつとめられています。ワーキングマザーの待遇改善は2000年以降、ずいぶん進んだと思いますが、勝間さんはどう評価していますか? 確かに改善した点は多々ありますが、まだまだ改善しきっていないなというのが正直な印象です。特に、企業で働く人たちの長時間労働には、改善の余地がたくさん残されていると思います。私は、人間らしい生活を送るには「1日の労働時間は通勤時間を合わせて6時間」だと思っているんですが、世間には相変わらず「8時間労働、残業アリ」の企業が多いですよね。 ―でも、「1日6時間」というのは、短すぎませんか? そんなことはないですよ。現にフィンランドやノルウェーなどの国では、すでに1日6時間制が根づいています。 スマートフォンやリモートツールなどを駆使して能率をあげれば、1日6時間でも今の生産性を充分維持することができると思います。 ある研究によると、顧客や市場のニーズを満たし、社会の価値につながる仕事をするのに必要な労働時間は、週に12~15時間だということがわかっています。もし、それが本当なら、1日8時間で週40時間働いている人は、その半分以上の時間を無駄に過ごしていることになります。 長年、培ってきた文化を人は容易に捨てられない ―長時間労働は、少子化の原因のひとつとも言われていますね。 その通りです。政府は少子化対策として、子育て世帯に給付金を支給したりしていますが、的外れな政策だと思いますね。少子化は、お金の問題ではなくて、時間の問題なんです。 もうひとつ、私が少子化の原因だと思うのは、子どもと親を分離して考えない、日本をはじめとする東アジア特有の考え方です。 ―子どもと親を分離して考えない、とはどういうことですか? 本来、親が子どもに対して負っている扶養義務は、成人するまで衣食住の保証をすることで、子どもが社会人になれるほど成長したあとは、子育ての責任から解放されてしかるべきなんです。 でも、子どもが不祥事を起こしたりすると、親も一緒に謝罪するのが日本社会なんです。つい最近も、首相がメディアの前で謝罪している場面がありましたよね? ただこれは、日本の文化である家父長制が根っこにあるからで、一概にいいとか悪いとか言えないことでもあります。 ―時代は変化しているのに、人々がその変化に合わせて考え方を変えられないのはなぜでしょう? 家父長制にメリットを感じている人も多くいるので、なかなか捨てられないということがあるのでしょう。 ただ、私は今の日本の未来について、あまり悲観していません。2022年に入って、海外の物価があがって日本は円安になっています。バブル崩壊後の「失われた20年」の最大の原因は円高でしたので、この状態が続けば出生率は上がっていくと思っています。 雇用が拡大して賃金があがるということが大きなポイントで、これがうまく進めば少子化に歯止めをかける有力な材料のひとつになると思います。 投資は予測ではなく、時間を味方にして儲ける ―さて、勝間さんの近著『100歳時代の勝間式 人生戦略ハック100』(KADOKAWA)について、お話をうかがいましょう。これまで見てきた通り、時代の変化に合わせて従来の生き方、考え方を捨てて、人生100歳時代に向けてアップデートするのはむずかしいことだと思いますが、その際に何が大事だと思いますか? 人はお金や仕事に困っていたり、人間関係のトラブルや健康不安などを抱えているとき、ひとつの答えや解決策を求めてしまう傾向があります。怪しげな人の口車に乗せられて騙されてしまうのは、そういうときです。新型コロナウィルスのパンデミックを前にして、全世界の多くの人たちがそういう状態に陥りましたよね。 そうならないためには、物事の多くは簡単に答えが出るわけではなくて、世界は抽象的なものだと認識することが大切です。こうした不確実性を受け入れる能力を「ネガティブ・ケイパビリティ」といいます。 ―物事をポジティブな面だけでなく、ネガティブな面からも見ることが大事ということですね。勝間さんというと、ポジティブ志向な人というイメージがありますので、なんだか意外に感じます。 私は以前から、ポジティブ志向は好きではないんですよ。 世の中の出来事にはいい面と悪い面があって、もし悪い局面に出来事が傾いたとき、いかに対処するかを2案、3案とあらかじめ考えておく必要があります。 お金についても、私は長年一貫して、収入の2割で毎月、投資信託を購入し続ける「ドルコスト平均法」という中長期運用を推奨していますが、これも一緒の「ネガティブ・ケイパビリティ」です。 収入の2割は黙っていても溜まっていきますから、購入期間が長ければ長いほど、「転ばぬ先の杖」としての効果は高くなります。 ―銀行預金ではなく、投資信託の積み立てにあてるというのがミソですね。 そうです。仮に月々5万円を積み立てるとして、銀行預金なら1年で60万円、10年で600万円にしかなりませんが、ドルコスト平均法による運用なら10年で1200万円になります。さらに言うと、20年で4倍、30年で8倍と、複利式に増えていくんです。実際、私も30代なかばくらいから始めた積み立てが、50代なかばの現在、ちゃんと4倍になっています。このように、時間を味方につければ、株に手を出したことのない一般人でも、容易にお金を殖やすことができます。 ―個別株を購入して儲けようとする必要は、ないんですか? 素人が相場を読もうとしてはいけません。なぜなら、相場は読めないからです。 そのことは、株式アナリストとして働いていた私の経験からも言えることです。個別株に投資するというのは、宝くじやパチンコなどのギャンブルよりはマシだけど、お金をドブに捨てるような行為に等しいと思ったほうがいいです。 「それでもやりたい」というのであれば、趣味の範囲で投資をするのがいいですね。もちろん、積み立て分の収入の2割に手をつけるというのは、絶対にやってはいけません。 ―となると、デイトレードのような短期売買についても、同様のことが言えますか? もちろん、デイトレードで数億円単位を儲けている人を私は知っていますが、1日中、パソコンに張りついていなければ儲けを挙げられません。言ってしまえば、パチプロのようなもの。人生には、もっと有効な時間の使い方があるんじゃないかと思いますね。 友だち付き合いは、最高の娯楽。資産として大事にすべき ―人生100年時代に向けて、「お金」以外に大事なものはなんですか? 私は「コミュニティ」、すなわち友だち付き合いだと思います。私が特にお薦めしたいのが、自分より年下の友だちをつくることです。 理由は、ふたつあります。ひとつは、新しい情報とか、新しいアイデアというのは若い人が持っているということ。年をとると、自分でも気がつかないうちに考え方が保守的になっていき、新しい時代に柔軟に対応するのがむずかしくなりますよね。 ―もうひとつは… 年上や同年配の友だちは、いずれ人数が減っていくということ。寿命が長くなったからといって、高齢者から亡くなっていくのが常ですから、友だちがたくさんいてもメンバーが高齢者ばかりなら、そのサークルは縮小均衡に陥っていきます。 私は、友だち付き合いは最高の娯楽だと思っています。なぜかというと、友だちには利害関係がないから。仕事の付き合いにはお金がからんできますし、夫婦や親子関係などのつながりにも縁を切らないことを前提とする縛りがあるので意外と利害関係にあるものです。 それに比べて友だち付き合いは、そうした利害とは無縁なので気楽です。つかず離れずのほどよい距離感で20年、30年でも仲良くしていられるから、最高の娯楽になるんです。 ―そのような友だちをつくるには、どんな手段がありますか? 趣味を足掛かりにすると、手っとり早いですね。私の場合、ゴルフや麻雀、ゲームに自転車など、大好きな趣味をするなかで交友関係を広げています。 利害関係がないのが友だちの良いところですから、お金の貸し借りと、仕事の紹介はしないほうがいいですね。 こうした友だちとの関係は、お金で買うことができませんので、自らいろいろなところへ顔を出してコツコツと人脈を築いていくしかありません。人生100歳時代において友だちは、必要不可欠の財産だと言ってもいいでしょう。 何が何でも「健康ファースト」。健康はお金で買えない ―お金で買えないもの、という意味では「健康」にも同じことが言えそうですね。 その通りです。高齢者になったとき、お金はたくさんあるけど健康じゃない人と、お金は普通にあるけどめちゃくちゃ健康な人のどちらが幸せかと言えば、間違いなく後者ですよね。健康は、日々の積み重ねの賜物ですから、運動と食事、睡眠の質を高める努力が欠かせません。それに加えて、自分なりの健康阻害リスクを把握しておくのも大事なことです。例えば私の場合、50歳を超えてから「痩せない」ことを意識するようになりました。女性は男性に比べて骨粗鬆症になるリスクが高く、そのほかにも自己免疫疾患やがんのリスクにも気を遣う必要があります。そのためにも、ポピュラー・サイエンス本などを読んで最新の医学の知識を仕入れています。なかには怪しい本もありますが、100冊以上も読めば、そこに書いてあることを信じていいかどうかを判断できる批評眼が養われてくるものです。 ―健康を維持するには、「続けること」が重要だと思いますが、つい3日坊主になってしまう人も多いと思います。何か工夫はありませんか? 健康に気をつけることを習慣化するのがいちばんですね。 その意味で私は、スポーツジムについては懐疑派なんです。「続ける」というのは厳密に言うと「死ぬまで続ける」ということですから、ジムで筋トレしたり、身体を鍛えたりすることは、その範疇に入りません。 フェイスリフトなどの美容整形も、それと同じこと。頬のたるみやシワを取ることは「健康」には結びつかないことなので、興味がないんです。 ―健康維持には、「頑張り過ぎない」というのが大事なようですね。 そうですね。「健康」というのは、どれだけ頑張っても死に近づくにつれて少しずつ目減りしていくものなので、その目減りのペースを遅くしていくしかないんです。 テクノロジーの手を借りるというのも、ひとつの手段として有効です。私はスマートウォッチを使って日々の睡眠時間や睡眠の質を計っていますが、アプリには睡眠中の呼吸や身体の動きを検知してくれたり、いびきを録音して睡眠時無呼吸症の有無を確認できるものもあるので、いろいろ試してみるといいですね。 とにかく「健康」は、国が保障してくれるわけでも、医師が提供してくれるものでもありません。一緒に暮らしている家族だって、できることには限界があります。つまり、「健康」を維持するために何かをできるのは自分だけですから、これも貴重な財産だと思って大事にすべきだと思います。 金銭的報酬と精神的報酬のベストバランスを考えよう ―「働き方」についても、人生100年時代に向けたアップデートが必要そうですね。 人生80年が一般的だった時代は「20年学んで、40年働き、20年休む」というのが人生のモデルケースでした。でも、人生100年時代には「20年休む」が「40年休む」になるんです。 そうなると、貯金が充分にあって、年金だけで楽に生活していけるとしても、単に「安心な暮らし」を意味するのではなく、「膨大なヒマをいかに過ごすか」という難題に立ち向かわねばならない状態ということになります。 ですから、「40年働く」を念頭に、気力・体力が許す範囲でできるだけ長く伸ばしていくことをお薦めします。 ―悠々自適な生活というのは、簡単に実践できるものではないんですね…。 仕事を辞めると、認知機能が低下するスピードが速まって、物覚えが悪くなったり、怒りっぽくなると言われています。その意味では、仕事は最高の脳トレであり、アンチエイジングなんです。 これは趣味についても同じことが言えますが、80歳、90歳になっても続けられそうな仕事は何だろうと、考えながら働くことをお薦めします。 ―80歳、90歳になっても続けられる仕事というと、どんなものがあると思いますか? コロナ禍以降、在宅ワークがすっかり定着しましたが、自宅でできる仕事は年をとっても続けやすいでしょう。 ただ、1日中、誰ともコミュニケーションをとらない仕事は、あまりお薦めできません。人と話すという行為は、声を出すことと一緒に呼吸を深くすることにもつながりますので体力維持に役立ちます。表情筋のトレーニングにもなるので、顔のたるみやシワの予防にもなります。 あと、大事なのは自分が働くことで誰かを喜ばすことができるということを実感できる仕事を選ぶということ。 私は報酬には、「金銭的報酬」だけでなくて「精神的報酬」という面があって、自分にとってのベストバランスがあると考えています。 精神的報酬とは、自分が社会のためになるモノやサービスを提供して、利用するお客さんに喜ばれたり、やり甲斐を実感するようなこと。金銭的報酬がそれほど多くない仕事でも、精神的報酬が充分に得られる仕事なら、続けるモチベーションにつながります。 一方、金銭的報酬がいくら高くても、精神的報酬が低ければストレスが溜まりやすく、長く続けていける仕事にはならないのです。ちなみに、私は会社員時代はずっと金融業界で働いてきましたが、ここでの仕事は「金銭的報酬は多いけど、精神的報酬は少ない仕事」の典型だと思います。 ―「好きなことを仕事にする」というのが実現できれば、理想的なんでしょうね。 おっしゃる通りですね。「ワーケーション」という言葉がありますよね。ワークとバケーションを組み合わせた造語で、バケーションを楽しみながら同時に仕事をするという意味です。 「仕事」と「遊び」は別物で、一緒にすべきではないと考える人もいるかもしれませんが、2つを融合させてどっちも楽しめる環境を作るのは不可能ではないと私は思っています。 例えば、私が好きなのが「温泉ワーケーション」です。大好きな温泉に入ったあと、リモートで取材を受けたり、執筆などの仕事をして、ちょっと疲れたらまた温泉に入る、ということを繰り返すんです。温泉地では滞在時間がある程度長くなると、ヒマを持て余しぎみになりますが、仕事がうまい具合にスパイスになって両方を楽しめるようになるんです。 「明日死んでも後悔しない生き方」こそが最大の準備 ―勝間さんは15年後には70歳に、25年後には80歳になります。どんな生活を送っていると思いますか? 不確実性の時代ですから、15年後、25年後といったら、今では想像もつかない世の中になっているのは当然だと思います。 例えば「お金」にしても、ある時点で紙の紙幣や硬貨がなくなって、仮想空間にしか存在しないものになっているかもしれません。 私はベーシック・インカム(すべての国民や市民に一律の金額を恒久的に支給する基本生活保障制度)は、早かれ遅かれ、日本社会を維持していくために導入しなければならない制度だと思っていますが、これが実現すれば「生活保護」という言葉はなくなっているでしょうし、「仕事」という言葉の意味も、今とは大きく変わっているでしょう。 ―総務省の通信利用動向調査によると、スマートフォンの世帯保有率は10年前の2010年には9.7%に過ぎませんでしたが、2020年には86.8%になったといいます。我々はすでに10年後の未来を想像できない「一寸先は闇」の世界に生きているのですね。 本当にそうですね。ただ、いろいろなことが目まぐるしく変化していっても、それでも変わらない普遍的なものというのは存在するものだと思っています。 例えば私は、これまで生きてきた人生で得られた知見を世界に向けて発信する仕事をしています。その発信の手段は、「ムギ畑」を運用していたパソコン通信からはじまって、地上波のテレビやブログ、そして今はYouTubeやオンラインサロンなどのSNSに移っていますが、やっていることの本質は、それほど変わっていないように思います。 ふり返ってみると、書籍は2007年に出版した『無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法』(ディスカヴァー21)が初めてのベストセラーになって以降、ずっと続けている発信ツールです。今回の『100歳時代の勝間式 人生戦略ハック100』が何冊目の著書なのか、もはや私本人にもわかりませんが、全著作の累計発行部数はとうに500万部を超えています。 ―勝間さんにとって、世界に向けて情報発信するということは、「好きなこと」のひとつなのでしょうか? かつて地上波のテレビによく出演していたころは、スポンサーの意向に合わせて内容を替えなければならなかったり、言いたいことが言えなかったりしてストレスを感じることがありましたが、今はそういうストレスは皆無です。言いたいことを適切なツールを選んで発信できるので、何も問題はありません。その意味で、今の仕事は「好きなこと」のひとつだと断言できますね。ある面では、「誰かがやらなければならない」という使命感のようなものが支えになっていることもありますけど、できることなら、80歳、90歳になっても、この仕事を続けていきたいですね。そのためにも「お金」や「友だち付き合い」「健康」「働き方」などについて、時代の変化に対応する柔軟な考え方を持っていたいものです。ただ、ちゃぶ台を返すようですが、未来に向けてどれだけ周到に準備をしていても、「2年後に突然死」する可能性はゼロではありません。死を前にしたとき、「ああすればよかった、こうすればよかった」と後悔することのないよう、今を充実して生きるのも大事なことだと思っています。結局のところ、「明日死んでも後悔しない生き方」こそが最大の準備なのかもしれませんね。 ―興味深いお話、どうもありがとうございました!
2023/07/06
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