企業の福利厚生制度のひとつである介護休業制度。最近では利用する人も増えてきているようです。働きながら介護をしている人は、介護の身体的、精神的負担を考慮して「仕事を休む」という選択肢を一度考えてみても良いかもしれません。
この記事では介護休業制度の具体的な内容や申請方法、事業主のメリットやデメリットなどについて紹介します。
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介護休業制度とは、労働者に認められている権利のひとつで、要介護状態にある家族の介護をおこなうために業務を休業できる制度のことです。
具体的に休業できる日数は介護の対象となる家族一人につき93日とされていて、その日数を最大で3回に分割して休業することが可能です。
なお93日とは休業中の土日祝日も含めた93日のことで、営業日ではないので注意しましょう。
このような制度があるにも関わらず、介護離職の数は年々増え続けており、能力の高い労働者が介護を理由に退職してしまうのは企業にとっても大きな損失です。
良い人材を流出させないためにも介護休業制度を適切に運用し、活用していくことが必要になってきます。
介護休業制度を利用できる労働者は、要介護状態にある家族を実際に介護する労働者です。ここでいう労働者に雇用形態の定めはなく、正社員以外にもアルバイトやパート、派遣社員、契約社員などの有期契約の労働者も含まれます。
ただし、有期契約の労働者については、契約期間や契約の終了する時期によって対象者が限定されるので注意しましょう。
また、日雇労働者などの日々雇い入れられる労働者においては介護休業を取得することはできません。
なお、介護休業制度を利用するにあたり性差はなく、男性でも女性でも利用することができます。
雇用形態が有期契約の場合でも介護休業制度を利用することは可能ですが、以下の2つの条件を満たしている必要があります。
介護休業制度の本来の目的は、労働者が仕事と家庭を両立しながら継続して働けるようにすることです。そのため、こういった条件を定めることで、介護休業を取得してすぐに退職するといったことが起きないようにしています。
介護休業制度の取得対象となる家族は、以下になります。
また、以前は介護休業制度を使用するにあたって、これらの対象となる家族との同居と扶養が要件にありましたが、平成29年の制度改正で削除されて、現在はこれらについて問われることはありません。
介護休業を申請する場合には、書面で下記項目について申し出ることが必要です。
申し出の内容をもとに、93日の範囲内で介護休業開始日と終了予定日が決定され、通知が届きます。通知が届いた時点で介護休業を利用することが可能です。
また介護休業を利用するにあたって、一定の条件を満たしていると介護休業給付金を受給することができます。詳細については以下で詳しく紹介していきます。
介護休業給付金とは、介護休業を取得した際に一定の条件を満たすと受け取ることのできるもので、休業中は給与の67%を受給することができます。
具体的な受給条件は以下になります。
なお、会社から休業手当が支給される場合や、月に何日か働いて会社から賃金を受け取っている、休業中も休業前と同等の賃金が支払われているという場合には給付が受けられないケースもあります。
休業中の給与支払いなどについてはあらかじめ確認しましょう。
介護休業給付金の申請タイミングは介護休業終了日の翌日から、2カ月後の月の末日まで。
例えば、2月14日に介護休業を終えた場合には、2月15日〜4月30日までに申請をする必要があります。
いつでも申請を受け付けているわけではないので、申請期間を過ぎないように注意しましょう。
また、申請手続きは原則として、勤務先を経由してハローワークでおこないます。以下の必要書類を用意して、申請をしましょう。
介護休業制度と似ている制度に介護休暇があります。
これらはどちらも育児・介護休業法によって定められている制度で、共通して要介護状態の家族を介護するために取得できる休暇のため、制度内容が混同されがちです。
以下にそれぞれ具体的な内容をまとめたので、違いを確認しておくと良いでしょう。
介護休業制度 | 介護休暇制度 | |
---|---|---|
取得可能日数 | 要介護者1人につき 通算93日を限度として3回まで分割取得可能 | 年に5日間、対象家族が2人 以上ならば10日間 |
介護休業給付金の有無 | 雇用保険制度から休業前の賃金の67%が「介護休業給付金」として支給される | 企業によって異なる |
申請方法 | 開始日の2週間前までに 事業主へ申し出る | 事業主への申出(詳細は企業によって異なる) |
出典:「介護休業とは」(厚生労働省)
出典:「介護休暇とは」(厚生労働省)
比較すると取得可能日数などに違いがあることがわかります。
もともと介護休業制度は、労働者が介護を理由に退職しなくてはいけない状況を回避し、継続的に働けるようにすることを目的としており、家族の中で介護とどう向き合っていくかという方針を決めるまでの緊急対応措置として設けられた制度です。
そのため利用する介護サービスの選定や、施設選びなどの具体的な介護方針が決まるまでに家族が介護をするなど、準備期間として取得するケースが多いようです。
一方で介護休暇は、利用している介護サービスとの打ち合わせや通院の付き添いなど短期的に休みが必要になった際に利用する制度です。介護休業よりも手続きが厳格ではないため、突発的に休みが必要になった場合などでも対応できます。
要介護状態にある家族を介護するために取得できる介護休業制度ですが、まだまだ取得しづらい現状があります。以下ではその原因について説明していきます。
職場の人たちの中で育児・介護休業に対する理解がなかったり、介護休業を取得した前例がない職場だと、取得をしづらい雰囲気があって、思うように利用できないケースもあるようです。
特に、介護休業制度に対する理解が浸透していない職場だと、誰かに負担をかけたり、上司の印象が悪くなって出世できなくなるかもと不安になり、取得の申し出をしづらくなってしまいがちです。
また、介護休業を取得しても復帰後にネガティブな印象をもたれ、待遇面に影響がでる可能性もあります。制度としては存在していても、周囲の理解が得られないとなかなか取得しづらい人が多いようです。
介護休業を取得した後、仕事復帰した際にこれまで通り仕事ができるのかと不安になる人も多いです。
自分が休んでいる間は、別の人に自分の業務をお願いしたり、新しい人員を補充することも考えられます。そのため、自分が復帰したときに職場に居場所はあるのかという不安を感じる人も少なくないようです。
また、介護休業を利用することで自分自身のキャリアに影響が出るのではないかと介護休業の取得をためらうケースもあります。
介護休業を取得すると、休業中は原則として給与を受け取ることができません。そうなってくると介護者自身にも生活があるので、収入が減少することに不安を感じて取得をためらう人も多いでしょう。
介護休業による収入の不安を少しでも軽くできるように、介護休業給付金などを活用しましょう。
職場が人手不足で、自分が介護休業を取得して穴をあけると他の社員に迷惑がかかるような労働環境では介護休業が取りづらくなることがあります。
また、抱えている仕事の量が多く、責任も大きければ大きいほど休業の申し出をしづらくなります。
周りのメンバーが介護休業を取得したことがない場合では尚更、自分だけ休みをもらっても良いものかと悩んでしまう場合もあるようです。
では、事業主として介護休業制度を推進していくことはどのようなメリットがあるのでしょうか。以下で具体的に紹介していきます。
働いている人も家に帰れば大切な家庭があります。家族を大切にしている人にとって、親の介護はとても重要なことです。
介護が必要になったときに、気兼ねなく介護休業を取得することができれば、安心して介護をおこなうことができます。家族にとっても介護負担が軽減できるのは嬉しいことです。
そういった環境を介護休業制度を活用し作りあげていくことで、労使関係に信頼性が増し、労働者も安心して仕事に取り組むことができるでしょう。
超高齢社会が進む日本では、介護休業制度を推進していくことが期待されています。しかし現状の取得率は芳しくなく、十分に社会に浸透しているとは言えません。
そのような中で介護休業制度を取得しやすいように制度を整備して、取得を推奨していくことで企業のイメージアップにもつながります。
また、自社の制度を整えることで、優秀なのに介護を理由に就職できなかったというような人材を確保することにもつながります。
介護のための休業制度が活用できないという職場環境は少なからず労働者のモチベーションに影響を与えます。介護と両立させながら働くことは、心身的に大きな負担がかかります。
介護休業制度が整っていれば、介護がひと段落するタイミングで仕事復帰を目指せるので、モチベーションや仕事のパフォーマンスも高くなるはずです。
介護休業制度を浸透させるために、国は事業主に対して各種助成金を用意しています。
助成金を活用して、休業中の人員補填や教育コストに充てることで余計な費用をかけずに人材確保や人材育成をおこなうことができます。
一方で、事業主として介護休業制度を推進していくにあたってデメリットも少なからず発生します。ここでは起こりうるデメリットについて紹介します。
介護休業制度を労働者が利用することで、当然ながらその人数分の労働力は減少してしまいます。すぐに人材確保ができる環境でない場合、他のメンバーの業務量および労働時間が増え、不満が溜まる可能性もあります。
そういった不満を労働者に溜めさせないためにも、テクノロジーを利用した労働力を活用したり、業務体制の見直しをおこなったりするなど状況に合わせた対応が必要となります。
介護に対する価値観の違いから、介護休業を取得するメンバーに不満を感じ、それが原因で組織内に不和が生じることもあります。
介護休業を理由に同僚から嫌がらせを受けたり、上司から降格・減給などの不利益な取り扱いを受けることも考えられます。
これらは介護休業制度がきちんと周知されていないことが要因です。介護に対する価値観は人それぞれ違います。
しかし同じ職場の中で険悪になっても仕方ありません。お互いの状況を理解し合えるようにコミュニケーションの場を定期的につくり、組織全体で円滑に動けるよう周知をおこなう必要があります。
介護休業を利用すると、復帰した際に仕事をしていないブランク期間が生まれます。職場復帰をして労働環境の変化などに適応するのにもある程度の時間がかかります。
本人は休業以前と同じように仕事ができると考えていても、管理職からするとブランクのある人を第一線に配置することにためらいがあるかもしれません。復帰と同時に異動が決まるといったケースもよくあります。
家族に介護が必要になったときに活用できる介護休業制度について説明しました。今はまだ十分に活用されているとは言い難い制度ですが、今後ますます重要性が増していくのは間違いないでしょう。
介護に対する価値観は人それぞれです。そして実際に、介護をしたことがない人からはなかなか理解されにくいのも事実です。
「周りの人がどう感じているか」「休業期間の仕事はどう分担していくのか」介護休業を取得する場合は、周りの人と丁寧なコミュニケーションをとることが大切です。
休業できる日数は介護の対象となる家族一人につき93日とされていて、その日数を最大で3回に分割して休業することが可能です。また93日とは休業中の土日祝日も含めた日数なので、営業日ではないことに注意しましょう。
一定の条件を満たすことによって介護休業給付金として給与の67%を受け取ることができます。
具体的な条件は「介護休業を取得した、雇用保険の受給資格者」「介護休業の開始日の前の2年間に、雇用保険に12カ月以上加入していること」「家族の常時介護のため2週間以上の休業が必要である」「職場復帰を前提として介護休業を取得する」が挙げられます。
主に「取得可能日数」や「介護休業給付金の有無」などが挙げられます。
介護休業の場合、介護の対象となる家族一人につき93日を最大で3回に分割して休業することが可能です。対して、介護休暇は家族一人につき年に5日間が限度です。
また休んでいる間の賃金については、介護休業が休業前の賃金の67%が支払われるのに対し、介護休暇は企業によって異なるので確実に支払われる保証がありません。
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