認知症が進行した高齢者による暴言や暴力は介護する家族や周囲の人を危険にさらすことになり、とても大きな問題です。
認知症になるとなぜ暴言や暴力が起きるのでしょうか。原因について明らかにすることで、対応方法についても考えていきましょう。
認知症になると必ず暴言や暴力が起きるわけではありません。同じ認知症でも暴力的にならない人もたくさんいます。
暴言や暴力が起きる原因には、主に以下のようなものがあります。
ここからは、それぞれの原因を深く探るとともに、効果的な接し方をご紹介していきます。
認知症が進行して前頭葉部分が大きく萎縮すると、感情のコントロールが利かずに、軽度な刺激に対して激怒したり泣いたり、大笑いするような症状が出ます。それまで穏やかだった人が突然暴言を吐いたり暴力的になると、驚き、混乱してしまう方も多いです。
このように、感情をコントロールできずに、あふれてしまう状態を感情失禁と呼びます。感情失禁は暴言や暴力が起きる原因のひとつと言われています。
感情失禁は本人がストレスや不安を感じたときに起きるケースが多いです。普段であれば冗談として笑い飛ばせることでも、認知症になると大きなストレスに感じて過剰に反応してしまいます。
何かのきっかけで感情のコントロールが利かなくなると、周囲の人が同じように興奮したり怒鳴ったりすることは逆効果になります。このようなときは、冷静に対処することが大切です。
認知症の方が暴言や暴力を振るうときは、もしかしたら今置かれている状況に不安を感じているのかもしれません。
認知症になると、上手く自分の気持ちを相手に伝える言葉が見つからずに、適切なコミュニケーションを取るのが難しくなります。
例えば、どこに行くかわからないまま外出させられようとしたとき。不安に思う気持ちを言葉で伝えられずに、力ずくで逃げようとしたり、周りの人から身を守ろうとした結果が暴言や暴力になってしまったのかもしれません。
認知症の方の中には、自分が認知症であることを理解している方も少なくありません。
これからどうなるのか不安を感じ、周囲の人が自分をどう見ているかについて恐れを抱いている方もいます。家族や周囲の人が良かれと思って助けてあげたことが、逆に本人の自尊心を傷つけてしまうこともあります。
自分でできると思っていることに対して過度に手を差し伸べられると、傷ついて怒り出したり、怒鳴りつけたりします。高齢者の車の運転なども社会問題になっていますが、危険だからと車の運転を突然止めさせたりすると暴れだすというケースもあるようです。
認知症の治療薬の中には、服用しているとさまざまな副作用が出るものもあります。代表的な治療薬である「ドネペジル塩酸塩」も、食欲不振や下痢といった軽い副作用から、幻覚や徘徊のようなBPSDを引き起こす場合があります。
認知症の方が突然暴力的になったりするのは、薬の影響の可能性もあります。特に高齢になると、認知症の薬だけではなく他の薬も服用しているケースがあり、飲み合わせが悪いために症状が出ているのかもしれません。
このような場合は、薬を変えたり、薬の量を減らすことで対処することができます。かかりつけ医や薬剤師、専門の医療機関で相談してください。
今まで説明したような原因もありますが、暴力的な言動がでやすい認知症のタイプもあります。特に、暴力的な傾向があるのが脳の「前頭葉」や「側頭葉前方」が萎縮するタイプの、前頭側頭型認知症です。前頭側頭型認知症は、他の認知症とは違って難病認定されています。
また、アルツハイマー型認知症の次に多い血管性認知症も、感情のコントロールが難しくなり暴力行為を起こしやすくなります。レビー小体型認知症の場合は、幻聴や幻覚症状による不安から暴言や暴力を引き起こすことがあります。
感情のコントロールができないことの延長で、人によってはセクハラ行為を行うケースもあります。介助者が女性の場合、身体を触ったり性的な発言をしたりする男性も多く見られます。これは介護スタッフだけではなく、家族にとってもショックなことです。
認知症の症状が進行すると、エスカレートした結果、下半身を露出したり、襲い掛かるといった行為に発展することもあり、専門家にとっても対応が難しくなります。
対応としては、まずは冷静に「やめてほしい」という意思を伝えることが大切です。そして女性ひとりで介護にあたるのではなく、なるべく男性がついて対応するように気をつけてください。
何かあったときは1人で悩まず、必ずケアマネジャーなどに相談しましょう。
認知症による暴言や暴力の発生自体を防ぐことは非常に困難です。では、介護者や家族はどのような対応をすることが望ましいのでしょうか。
対応として望ましいのが以下の5つです。
認知症によるものとわかっていても、暴言や暴力を受けたら介護する家族は辛い気持ちになります。
本人が暴力的になっているときは、とにかく巻き込まれないように距離を置きましょう。自分の身を守るためにも、介護する家族は物理的な距離をおいて介護から離れることも大切です。
他に介護を任せられる人がいない場合は、施設やショートステイなども利用しましょう。1人で抱え込むことなく、問題を多くの人と共有するように心がけてください。
物理的な距離だけではなく、感情的な距離を置くことも必要です。
認知症の方は症状の影響で感情のコントロールが上手くできません。介護する側まで同様に感情的になってしまうと、ますます悪い方向に進んでしまいます。
暴力や暴言がある場合は別のことを考えたりして、できるだけ冷静にいるようにしましょう。
暴力や暴言を力で押さえつけようとするのは、決して良い解決策ではありません。認知症の方は恐怖や不安から暴力や暴言を起こすことがあり、力で対抗すると不安を増強させることにつながりかねません。
自分の身を守るために力を使うことはもちろん正当防衛として認められますが、事態は何も変わりません。身の危険を感じたときは、まずその場から離れましょう。
暴力的になった人も、他のことに注意をそらすことで気持ちがおさまることがあります。
テレビをつけたり、食べ物で気を引いたり。または、好きな趣味の話をすることも有効です。興奮している人を介助者と一緒に連れ出して、外の空気を吸うことで気分転換を促すのも良い方法です。
認知症の方による暴言や暴力に悩んだら、まずはケアマネジャーや担当の医師に相談することです。暴言や暴力の原因がなににあるかといったことは、初めて体験する家族には理解ができません。また、愛する家族のことなので、なおさら複雑な感情を抱えてしまいます。
ケアマネジャーや医師は同じようなケースを何度も見てきているので、なにが原因か、最適な対応策は何かについて知見を持っています。1人で悩みを抱え込まずに、専門家のアドバイスをしっかり聞くようにしましょう。
認知症による暴言や暴力に対しての日々の予防と改善策についてまとめました。
認知症の方は、自分が置かれている時間や場所がわからなくなったり、今までできていたことができなくなったりして、不安や混乱を感じていることがあります。
そのようなときには、不安にならないように優しい態度で、丁寧に何度でも繰り返し伝えることが大切です。書いたものを見せたり、メモを取るのも有効です。
認知症の方も自分の症状を理解し、懸命に対応しようと努力をしています。認知症の影響でできないことを頭ごなしに否定しないように気をつけてください。
違っているとしてもすぐには否定せず、まずは「そうだね」と肯定し、その上で正しい対応に導いてあげると良いでしょう。
認知症の方を否定しないのと同様に、自尊心を傷つけるような言動は避けた方が良いです。
障害の影響でできないことが増えているとしても、「できない」と馬鹿にしたり、批判するようなことは厳禁。認知症の方に対しても、礼儀を持って接することが大切です。
認知症の方を在宅で介護し続けると、家族に大きな負担がかかります。暴言や暴力を受けたり、徘徊や幻覚症状などが出ると、介護者自身が体調を崩してしまうケースもしばしば見受けられます。
認知症になると子供のようになると言われますが、心の状態は子供でも体格は大きな大人です。また、自分の親が認知症になった場合、介護する子供は親の変わりようにショックを受けることもあります。
介護する側の誰かがストレスや疲れで身体を壊すことがないように、気を付けることが大切です。状況によっては施設への入所やショートステイの利用も検討しましょう。
認知症により脳の機能が低下し、感情を抑制する部分のコントロールが上手くできず暴言や暴力といった行動をとってしまうことがあります。また、不安を感じたり、否定をされるなどから暴言・暴力を振るってしまうこともあり、原因はさまざまです。
認知症の薬が原因で暴言・暴力が起こることはあります。認知症の治療薬である「ドネペジル塩酸塩」は認知症の進行の緩和に役立つ一方で、下痢・食欲不振・幻覚・暴力行為といった副作用が指摘されています。
高齢者の場合、認知症の薬だけではなく他の薬を服用し飲み合わせが悪く、症状が出ている場合も考えられます。少しでも異変を感じたら薬の変更や量の調整を医師や薬剤師に相談をしましょう。
「一時的に心理的・物理的な距離を置く」「力で対抗しない」「注意をそらす」「ケアマネジャーや医師に相談する」などが対応として望ましいです。
特に大切なのは、一人で抱え込まず専門家に相談することです。ケアマネジャーや医師は同様のケースを多々見てきているので、何が原因で、どのように対応すれば良いか最適なアドバイスをくれます。
また暴言・暴力以外にも悩みがある場合、相談してみると家族の負担も軽減できるでしょう。
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