住み慣れた地域でいつまでも自立した生活が送れるように、地域の包括的な支援やサービス体勢の構築を進める仕組みのことを地方包括ケアシステムと言います。
どういった背景で誕生し、どのようなメリットがあるのか。詳しく解説していきます。
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地方包括ケアシステムとは、高齢者の支援を目的として、生活を支えるサービスを地域一体となり提供する仕組みのことです。
目指しているのは、住まい・生活支援・介護・医療・予防が一体となった同システムの構築。今後は認知症高齢者もさらに増加すると考えられ、高齢者の生活を各地域で支える地域包括ケアシステムの構築は、さらに重要度を増すと考えられます。
とはいえ、人口密度の高い都市部と人口減少が顕著な町村部では高齢者の割合も変わります。理想的な地方包括ケアシステムのあり方は場所によってさまざまです。
また、地方包括ケアシステムを実現するためには、介護職や医療従事者をはじめとした多職種での連携が必要不可欠です。さらにその仲介役として地域包括支援センターやケアマネジャーが重要な役割を果たします。
地方包括ケアシステムが必要とされている背景には、日本の急速な少子高齢化が関係しています。
出典:『令和2年版高齢社会白書』(内閣府)高齢者人口は、団塊の世代がすべて65歳以上となった2015年には3,387万人に達し、翌年の2016年10月時点で総人口の27.3%と3割近くを占めました。
団塊の世代が75歳以上になる2025年には、65歳以上の高齢者は3,677万人となり、総人口の30%を占めるとされています。
その後も高齢化は進むことが予想され、2065年には4人に1人が75歳以上の後期高齢者になると推定されています。
高齢者が増えるのに従って、認知症患者の増加も問題になっています。認知症患者は2025年には高齢者の5人に1人の割合になると予想され、「2025年問題」と呼ばれています。
高齢化と少子化が進んでいった結果、税収は減少し、社会保障費は増大。高齢者社会を支えるためにかかせない介護保険や医療保険などを公費だけでまかなうことに限界が生じてきました。
そこで国は、介護や医療的ケアを施設で行うものから在宅へと切り替え、地域で相互につながる仕組みをつくることで安全と安心を担保する「地域包括ケアシステム」の考え方を打ち出したのです。
地方包括ケアシステムとは各市区町村がその地域の特性や環境に応じてそれぞれが創りあげていくものです。創りあげていくうえでの構成要素を厚生労働省は以下の5つとしています。
それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
地方包括ケアシステムの介護は在宅で利用できる介護サービスと施設・居住している場所で利用できる介護サービスの2つに分けることができます。
在宅で利用できる介護サービスとは訪問介護や訪問看護といった在宅生活での支援を受けるために利用できるサービスのことです。
一方で、施設・居住している場所で利用できる介護サービスには、利用する施設に介護サービスや生活支援サービスが含まれており、特養や老健などのほかにも小規模多機能型居宅介護といった地域密着型サービスもあります。
なお2種類のサービスは途中で切り替えることもでき、高齢者の身体状況に合わせて臨機応変な対応が可能です。
地方包括ケアシステムの医療にはかかりつけ医や地域の連携病院、その他患者の状態にあわせた急性期、亜急性期・回復期のリハビリ病院、看護サービスなどが含まれます。
まずは日常的な医療ケアをかかりつけ医や連携病院が行い、病気や大きな怪我による入院などの緊急的なものを急性期病院といった適切な医療機関が対応する形になります。
なお、日常的な医療ケアと緊急性の高い医療ケアをスムーズに連携させ、関係機関での情報共有を行うことで、在宅での生活から入院、退院後の在宅での生活へといった切り替えを素早く対応することが可能です。
地方包括ケアシステムにおける予防とは、介護予防のことを指します。そしてこれは地方包括ケアシステムの要ともなる要素であり、高齢者にとって住みやすい地域作りをしていくうえでとても大切になります。
介護予防サービスを利用しながら要支援1・要支援2の方でも快適に在宅生活を送れるような体制を整えたり、地域交流・社会参加の機会の提供したり、家事や外出のサポートを通して自立支援を行ったりするなど、高齢者がいきいきとした生活を送るためのシステム作りには欠かせない要素です。
地方包括ケアシステムの住まいとは、自宅だけではなく各介護施設のことも含む、高齢者が人生を最期まで暮らす場所のことを言います。
単に住まいを提供するだけではなく、賃貸住宅に居住する際に必要になる保証人の確保などといった手続き関連の支援も地方包括ケアシステムには含まれています。
生活送るには住む場所があることが前提となるため、住まいは地方包括ケアシステムにおいて中心的要素として位置付けられてます。
また、住む場所に困っている高齢者によりよく住まいを提供していく策として、高齢者向け施設の拡充や空き家の活用などが挙げられています。
地方包括ケアシステムを構築するにあたり、高齢者が日々元気に暮らしていくにはどうすべきかという視点はとても大切です。
地域によってはボランティア、NPO法人などがカフェやサロンの開催・運営、配食、買い物支援といった生活支援サービスを提供することで高齢者の生活の質を向上させることに貢献しています。
なお、生活支援は、医療や介護に比べて、専門性を要しない分野ですので、専門の業者だけではなく地域住民の協力や参加を促したい要素だと言えます。
地方包括ケアシステムでは先の5つの要素に加え、以下の4つの「助」の力を連携させてさまざまな生活課題を解決していくことが求められています。
自助とはその名の通り、自分で自分を助けることを言います。
住み慣れた地域に最期まで暮らし続けるには、自分自身が健康に注意を払い介護予防活動を積極的に行うことが需要になります。
そのため、かかりつけ医や連携病院を持ち定期的に健康診断を受けるなど健康な生活を送るために自費で介護保険外のサービスを利用することなども自助のひとつとして考えられています。
互助とは、簡単に言うと住民同士が支え合い、各々が直面している生活課題をお互いが解決し合うことを言います。
町内会や自治会、ボランティアなどの公的な制度を介した助け合いではなく、あくまでも自発的な支え合いであることを示す際に互助という言葉が使われます。
共助とは、制度化された相互の助け合いのことを言います。
介護保険や社会保険、年金など、被保険者による相互負担で成立する制度も共助の概念に含まれます。共助は制度に基づく助け合いに対して、互助は自発的かつインフォーマルな助け合いのことを指します。
公助は、自助や互助、共助では対応することが難しい困窮などの問題に対応するための生活保障制度や社会福祉制度、市区町村が実施する高齢者福祉事業のことを言います。
税による負担で成立しており、生活保護のほか虐待対策なども公助に該当します。
地方包括ケアシステムはいったいどのような流れで構築されていくのでしょうか。
地方包括ケアシステムは市区町村それぞれの自治体が3年ごとに作成している介護保険事業計画に従って計画的に導入が進められています。
地方包括ケアシステムは一律で作成されるのではなく、それぞれの地域が独自に創りあげていきますが、国から自治体に構築する際に行うべき3つのプロセスが示され必要な手順を踏んだ上で作成を進めています。
それでは以下でその3つのプロセスについて説明します。
まずはじめに、各市町村は日常生活におけるニーズの調査を行います。
その地域で暮らしている高齢者がどういったことで困っているのかや悩んでいるのかといった現在の課題を調査し、それに対する解決策としてどんなサービスを提供できるのかについて考えていくのです。
そういった調査を行う際には、地域ケア会議を開催し、地域内で行われている個別の支援内容についての検討を行うことで、課題の把握や分析を行います。
また、医療や介護の担い手となってくれる地域のボランティア団体やNPO法人、町内会はあるのかといった地域内での協力が得られるかどうかの把握も必要です。
はじめの段階では個別の事例ごとに開催されていた地域ケア会議ですが、この段階では地域内の関係者全体で課題を共有および検討するために市区町村レベルの地域会議が行われます。
この地域ケア会議には役所の職員をはじめとした地域の関係者が参加し、現在地域内でどういった課題があるのかを洗い出したうえでそれをどういった政策で解決していくのか、どのように政策へとつなげていくのかといった、具体的なことまで話し合うのが通例です。
地域が抱える課題を分析し、解決に向け社会資源の開発を行うといった何かしらのアクションをとることでケアシステムの構築に向けた地域づくりが行われている段階だと言えるでしょう。
地域ケア会議で検討された地域の課題に対する具体的な解決策を決定し、介護保険事業計画の中に盛り込んでいくことが地方包括ケアシステム構築における最期の段階です。
ニーズに見合う支援サービスが整備され、必要に応じて各サービスの事業化や施策化なども行われます。
自治体レベルの施策形成および実行段階とも言え、この段階を経ることで地域の課題をしっかりと把握し実情に合わせた地域包括ケアシステムの構築が実現されていきます。
地域ケア会議では、役所の職員やケアマネジャー、医療機関の関係者、介護サービス提供事業者、町内会やボランティアの代表者、民生委員などさまざまな人が参加し意見の交換を行います。
そんな地域ケア会議には以下の5つの機能を持っており、非常に重要な役割を果たしています。
その地域で暮らす高齢者の困り事や悩み事といった現在直面している課題や、必要としているサービスを把握し、解決に導く道筋をつける機能を持ちます。
個別の事例について課題の抽出や解決策を話し合うことができる圏域レベルでの地域ケア会議が果たしている機能と言えるでしょう。
その地域で暮らす高齢者が直面している課題について把握し解決へと導くために話し合うだけではなく、市区町村のレベルで地域全体が直面している課題を発見し把握することも地域ケア会議が果たす機能です。
圏域レベルの地域ケア会議での議題から浮き彫りになる課題もあり、そういった場合は市区町村レベルの地域ケア会議で具体的な施策が検討され、実際に反映されます。
地域ケア会議を通して高齢者が住みやすい地域づくりのために必要になる社会資源の開発を行うことに貢献します。
地域ケア会議にはその地域で働く職員やボランティア団体などはじめとしてさまざまな人が集まるため、その地域独自の意見も出やすく、そういった意見をもとに地域づくりに必要な資源も開発されていきます。
地域内でどういったサービスやサポートが必要とされているのかを現在の課題を元に見出し、それぞれの自治体で行われる政策に盛り込んでいく機能を持ちます。
市区町村レベルの地域ケア会議が担う機能で、圏域別の地域ケア会議にて挙がった課題をまとめる形で施策が決定していきます。
高齢者が抱えている課題を解決するために自治体をはじめ医療や介護、住まい、予防などそれらにかかわる事業者などを多様に主体間で連携させる機能を持ちます。
圏域ごとに行われる地域ケア会議および市区町村レベルで行われる、地域ケア会議の両方で果たされている機能になります。
では地域包括ケアシステムがうまく機能していくと、どういったメリットがあるのでしょうか。以下でご説明していきます。
今までは医療と介護の連携体制が整っておらず、医療的ケアが特に必要になる要介護者への柔軟なサービス提供が困難な状況がありました。
しかし、地方包括ケアシステムがきちんと機能することで在宅医療サービスと介護サービスの連携がスムーズになり、必要なタイミングで柔軟かつ素早いサービスの提供が可能に。そのため、日常的に医療的ケアが必要な方でも安心して自宅で生活を続けやすくなります。
地方包括ケアシステムに認知症の方が住みやすい環境づくりについての施策が盛り込まれることで、地域支援ネットワークが活性化することが見込めるのが大きなメリット。地域に認知症カフェや認知症サポーターが増え、認知症の人の居場所が増えていくことが予想されます。
また、2018年度から地域包括支援センターを通じて設置されている「認知症初期集中支援チーム」により、認知症の疑いがあるが医療や介護のサービスを受けられていない人に対して、必要なサービスを提供することができるようになります。
このようなことからも、認知症の方が自宅で自分らしい暮らしを続けていくことができる環境に、より一層近づいていくことが期待されます。
地方包括ケアシステムには、高齢者が直面している課題に対する解決策が盛り込まれているため、生活していくうえで本当に必要としているケアやサービスをきめ細かく提供することが可能になります。
実際に、買い物や洗濯、見守りなどの生活支援をはじめ24時間対応の定期巡回や臨時対応が可能な介護サービスなど、状況に応じて柔軟に対応できるようなサービスの仕組みが整ってきました。
介護される人のニーズをきちんと汲み取ったサービスが提供されれば、本人のストレスも減り、精神的負担も軽くすることができるでしょう。
地方包括ケアシステムでは比較的元気な高齢者には、介護予防に関するイベントや、ボランティア、老人クラブなどへ参加を促し、積極的に社会参加をすることで支援を必要とする高齢者を支える役割を果たすことが期待されています。
このような社会的役割を持つことで、高齢者が生きがいを見つけることができたり、介護予防にも繋げることができたりできるようになるのです。
高齢者の活躍の場を広げることができる点や、社会との接点を増やしコミュニケーションを取ることで生活の質を向上させることができる点からも、大きなメリットと言えます。
では、実際にどのようなシステムが構築されてきたのか、具体的な事例をいくつか紹介します。
既にはじまっている地方包括ケアシステムの事例から今後の課題とされているものについていくつか紹介していきます。
地域包括ケアシステムそのものの認知度を向上させることも課題のひとつと言われています。高齢者やその家族に知ってもらうのはもちろんのこと、医療機関や介護事業所、地域住民へ理解を求めることが重要です。
医療と介護の連携がスムーズにおこなえることは高齢者が安心して生活できる街づくりをおこなう上でとても重要になりますが、まだまだ十分な体制が整っているとは言えません。
例えば夜間や早朝、緊急時における連携が不十分であり、今後は医師や看護師と介護スタッフを素早く連携させるシステム整備が課題です。
地方包括ケアシステムは国ではなく各自治体が主体となり高齢者を支えるさまざまなサービスを構築しています。
しかし、その自治体の財源や割くことのできる人的資源にはどうしても差が出てきてしまうため、それに伴って提供できるサービスの質や量にも差が生まれてしまうという現状があります。
そのため、より良いサービスが受けられる自治体に人が流出していくといった過疎化現象も懸念されます。サービスの質や量の担保は今後の課題と言えるでしょう。
核家族化が進み近所付き合いが減少している社会状況においてどれだけ互助の充実を図ることができるのか、そして低所得者が増加している傾向のある日本において自助をどこまでおこなうことができるのかといったことが課題に挙がっています。
コミュニケーションを取る機会が減り、人付き合いが希薄化している中で地域社会の力を活用するという理想がどれだけ現実味を帯びているのか、という疑問を投げかける人も多くいるようです。
地域包括ケアシステムは、要介護状態になっても住み慣れた地域でいつまでも自立した生活が送れるように、必要な医療、介護、福祉サービスを充実させ、すべての世代で支え合うまちづくりの構築を指します。
各市区町村で「医療」「介護」「介護予防」「住まい」「生活支援」の5つの構成要素で地域包括ケアシステムを構築し、それぞれのサービスを提供しています。
「介護と医療の連携サービスが提供される」「認知症になっても、自宅での生活を継続できる」「ニーズに沿った多様な生活支援サービスが生まれる」「高齢者の社会参加できる機会が増える」などが挙げられます。
地域包括ケアシステムはまだ認知度が低く、さまざまな課題があります。良いシステムを構築するためには地域住民の協力も必要不可欠です。
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