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介護保険制度における「特定疾病」とは、心身の病的加齢現象との医学的関係があると考えられる疾病のことです。
介護保険は原則として、65歳以上である第1号被保険者しか利用することができません。しかし、40歳から64歳以下の場合でも、特定疾病に指定された病気に罹患している場合は、第2号被保険者として介護保険が適用されることもあります。
そのため特定疾病には、65歳以上の高齢者だけでなく65歳未満においても発生が認められる疾病や、3~6ヵ月以上継続して要介護状態又は要支援状態となる割合が高い疾病が挙がっています。
介護保険制度においての被保険者は、65歳以上の「第1号被保険者」と、40~64歳までの「第2号被保険者」の2種類です。
65歳以上の「第1号被保険者」は、要介護・要支援の認定を受ければ、介護保険が適用されれます。一方で第2号被保険者は、認定を受けただけでは介護保険は適用されません。
第2号被保険者は、厚生労働省が定めた16の特定疾病に罹患しており、さらにそれが原因で要介護状態になった場合のみ、介護保険が適用されます。
出典:「特定疾病の選定基準の考え方」(厚生労働省)
介護保険の特定疾病としてまず最初に挙がるのが「がん」です。ひと口にがんと言っても、発見のタイミングや進行状態で大きく異なります。介護保険で適用となるのは、がんの中でも治癒が困難な状態である、いわゆる“末期がん”だけです。
介護保険が適用されるがんは、「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る」と厚生労働省が詳しく規定しています。
というのも、これまでは末期がんと申請しなければいけませんでしたが、平成31年から書類には「がん」と記載するだけでOKに。“末期”という言葉が被保険者や家族にもたらす心身的負担が高くなることを踏まえて、「末期がん」から「がん」に変更になりました。
そのため、抗がん剤治療など一般的ながん治療を行っている場合でも、直接の治癒を目的としていない場合は、治癒困難な状態と判断されることもあります。
自分あるいは家族のがんが特定疾病に適用されるか分からない場合は、主治医や地域の保健課などに一度確認してみましょう。
「関節リウマチ」とは、関節に炎症が起こることで、軟骨が破壊されるなど関節の機能が損なわれる病気のこと。関節の腫れや激しい痛み、こわばりが起こったり、体を動かさなくても痛みが生じるのが大きな特徴です。
「筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)」とは、体の筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく病気です。
筋肉の病気ではなく、運動に必要な“運動ニューロン”と呼ばれる神経が障害を受ける病気。病気が進行すると、体が動かしにくくなる、話したり食べたり飲んだりする行為ができなくなる、呼吸が難しくなるなどの症状があらわれます。
「後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)」とは、背骨の中にある“後縦靭帯”と呼ばれる部位が骨のように硬くなる病気のこと。後縦靭帯が硬くなり、背骨の中にある脊柱管を圧迫することで、手足がしびれるなどの運動障害や知覚障害が引き起こされます。
骨になってしまう部位によって、頚椎後縦靱帯骨化症、胸椎後縦靱帯骨化症、腰椎後縦靱帯骨化症と名称が分かれます。
「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」とは、骨の強度が低下して骨折しやすくなる病気のこと。軽い転倒やくしゃみなど、日常生活のありふれた場面でも骨折しやすいのが特徴です。
背骨の変形や骨の痛みなどの症状がありますが、骨折するまで骨粗鬆症だと自覚していないパターンが多い病気でもあります。介護保険においては単なる骨粗鬆症ではなく、“骨折”を伴う骨粗鬆症であることが要件です。
「認知症」とは、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出ている状態のこと。65歳未満で発症する認知症は「若年性認知症」、さらに40~64歳で生じた認知症は「初老期認知症」と呼ばれます。ここでは認知症の中でも特に多い3つを取り上げます。
「アルツハイマー型認知症」とは、脳神経が変性して脳の一部が萎縮することで起きる認知症です。認知症の中で最も多い疾病です。
最初は軽いもの忘れ程度ですが、進行すると自分がどこにいるのかがわからなくなる見当識障害を起こすことがあります。
「レビー小体型認知症」とは、記憶障害や見当識障害などの一般的な認知症の症状に加えて、パーキンソン症状や幻視などが起こりやすい認知症です。
レビー小体というたんぱく質が脳内に生じて脳神経細胞が破壊されることで、さまざまな障害が引き起こされると考えれられています。
「脳血管性認知症」とは、脳梗塞や脳出血など脳の血管障害によって引き起こされる認知症です。
記憶障害や見当識障害に加えて、脳細胞が損傷した部位によって歩行障害や排尿障害、身体麻痺、言語障害を伴うこともあります。
パーキンソン病は体の震えや筋肉のこわばり、スムーズな動きができない、転びやすいなど、運動症状が顕著な病気のこと。パーキンソン病によく似た症状の病気は「パーキンソン症候群」とも呼ばれ、パーキンソン病とともに介護保険の対象となります。
「進行性核上性麻痺」とは、パーキンソン症候群のひとつで、転びやすくなるといった障害が特徴です。そのほかに、下方を見るのが難しい“眼球運動障害”や、話し方が変わる“構音障害”、 飲み込みにくくなる“嚥下障害”、さらには認知症を併発することもあります。
「大脳皮質基底核変性症」とは、パーキンソン症状と大脳皮質症状(手を思うように動かせない、勝手に動く)が同時にあらわれる病気です。詳しい原因は分かっていませんが、脳の神経細胞が脱落し、さらに残っている神経細胞にも異常なタンパク質が蓄積しているのが特徴です。
「パーキンソン病」とは、運動症状が顕著な病気のこと。神経伝達物質のドーパミンの減少が原因と考えられています。
じっとしている時にふるえる“振戦”や、素早い動きができない“動作緩慢”、筋肉がこわばる“筋強剛(筋固縮)”、体のバランスを保つのが困難で転びやすくなる“姿勢保持障害”などの運動症状がよく見られます。
「脊髄小脳変性症」とは、「まっすぐ歩けない」「手先を思うように動かせない」「ろれつが回らない」など、脳神経による病気の総称。“変性”とは原因の詳細が不明な神経障害の一群のことです。
小脳になんらかの問題が起こった際に症状が出るのが特徴で、小脳以外に脊髄にも広がることがあるため、脊髄小脳変性症と呼ばれます。
「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」とは、脊髄神経の通り道である“脊柱管”が狭くなることで、さまざまな障害が引き起こされる病気のこと。
歩いていると足のしびれや痛みで歩行が困難になりますが、しばらく休むと症状が和らぐ“間欠性跛行(かんけつせいはこう)”が特徴です。
「早老症」とは、老化の兆候が実年齢よりも早く見られる病気の総称。早老症にはおよそ10の病気が含まれており、白髪や禿頭、白内障、皮膚の萎縮や硬化、軟部組織の石灰化、口や鼻が細くとがる“鳥様顔貌”などが主要な症状です。
「多系統萎縮症」とは、孤発性(非遺伝性)を特徴とする脊髄小脳変性症の総称です。症状によって3つに分類されます。
小脳や脳幹の萎縮などによって引き起こされる変性症のこと。まっすぐに立っていられない“体幹失調”や、手足が勝手に動いてしまう“四肢協調運動障害”といった小脳性運動失調が特徴です。
勝手に体がふるえる、筋肉がこわばるなど、パーキンソン病に類似した症状が顕著な変性症のこと。パーキンソン病との区別が難しく、パーキンソン病の薬が効かないことをきっかけに診断されることもあります。
自立神経に関する障害を主とする変性症のこと。排尿障害と起立性低血圧(めまい)が多いとされていますが、排便障害や睡眠時無呼吸症候群などが起こることもあります。
糖尿病それだけでは介護保険は適用されませんが、“糖尿病の三大合併症”を引き起こすことで介護保険の適用となります。
立ちくらみや手足のしびれから始まり、異常感覚や温痛覚障害、最終的には壊疽につながる障害です。
腎臓の機能が低下することで、むくみ、息切れ、食欲不振につながります。また、血液透析の原因に最もなりやすい病気です。
実際にはいないのに、蚊のような物体が飛んだりや赤いカーテンが見える病気です。糖によって網膜が損傷されるのが原因とされています。
「脳血管疾患」とは、脳の血管トラブルによって脳細胞が破壊される病気の総称。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などが代表的な病気です。
脳血管疾患は致死率の高い病気であるとともに、要介護や寝たきりの原因になりやすい疾患でもあります。
損傷を受けた場所や程度で後遺症が大きく異なりますが、手足の麻痺をはじめとして、言語障害や視覚障害、感覚障害などさまざまな障害があります。
「閉塞性動脈硬化症」とは、動脈硬化によって引き起こされる病気のことです。
そもそも“動脈硬化”とは、体全体に酸素や栄養を届ける動脈が本来の弾力性を失って硬くなること。その中でも閉塞性動脈硬化症は、足の血管の動脈硬化が進行して血流が悪くなる病気です。
足のしびれや痛みといった軽い症状から、歩行時のしびれや痛み、さらには安静にしていても痛みが出たり、最終的には足が壊死することも。閉塞性動脈硬化症と診断されても、症状によっては介護保険の適用とならない場合があります。
「慢性閉塞性肺疾患」とは、気道が狭くなって閉塞している状態が慢性化する病気の総称です。肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎といった病気が該当します。
「変形性関節症」とは、関節の軟骨のすり減りによる炎症で、痛みや腫れ、関節の変形が起こる病気です。著しい機能低下や痛みが認められるなど、症状の程度や状態によって介護保険が適用されるかどうかが変わります。
介護保険を利用するには“要介護認定”を受けなければなりません。要介護認定とは介護が必要が状態を数値化する制度で、認定の状態によって月の給付額が異なります。
要介護認定の審査を受ける際は、まず最初にお住まいの市区町村の担当窓口に申請しましょう。窓口が分からない場合は、各市区町村の総合窓口で担当部署を確認してください。
要介護認定は2段階の判定によって結果が決まります。一次判定はコンピュータによる判定です。市区町村の認定調査員による心身の状況の訪問調査(認定調査)と、主治医による“主治医意見書”の内容をコンピュータに入力して判定します。
この一次判定の結果をもとに、介護認定審査会(保健・医療・福祉の学識経験者により構成)にって二次判定が行われ、介護保険の適用有無が決まります。
申請から結果通知までかかる期間は1ヵ月程度と言われていますが、場合によってはそれ以上かかることもあります。
介護保険が適用されることになったら、次はケアプランを立てましょう。「ケアプラン」とは、介護サービスの内容や目標を記した計画書のこと。介護保険を受けるために必要不可欠なものです。
ケアプランは、ケアマネジャーと呼ばれる介護支援の専門スタッフが被保険者や家族などの介護者と相談しながら作成するのが一般的です。
ケアマネジャーは、要介護者がどんな状態であるか、介護をするにあたって何が問題になるか、どうすれば被保険者が自立した生活を送ることができるかなど、さまざまな事象を考慮に入れて具体的な介護プランに落とし込みます。
介護保険を利用する場合、第1号被保険者は65歳以上、40 歳から 64 歳までは第2号被保険者という扱いになります。
第2号被保険者でも施設に入居することはできますが、65歳以上の第1号被保険者を主な対象としている施設が多く、64歳以下の第2号被保険者の施設が見つかりにくいのが現状です。
さらに、第1号被保険者に比べて第2号被保険者は、年齢が若いという点から、有料老人ホームなどへの入居一時金が高額化する傾向があります。
そもそも、要介護認定の対象となる16種類の特定疾病は難病指定の病気が多く、専門スタッフや医療ケアなど医療体制が充実していない施設の場合には、施設側から入居を断わられてしまうケースも。
被保険者が患っている病気にどれだけ対応しているか、病気が進行しても入居し続けることが可能かなど、病気や状態に関してあらかじめ施設とよく相談しておきましょう。
64歳以下の場合、16の特定疾病に該当しなければ介護保険は適用されません。しかし「厚生労働大臣の定める疾病等」に該当する場合は、医療保険が適用可能になり、自己負担額が原則として3割になります。
以下は、厚生労働大臣の定める疾病等の一部を表にまとめました。
番号 | 病名 |
---|---|
1 | スモン |
2 | 末期がん |
3 | 頚椎損傷 |
4 | プリオン病 |
5 | 多発性硬化症 |
6 | 重症筋無力症 |
7 | ライソゾーム病 |
8 | 脊髄小脳変性症 |
9 | ハンチントン病 |
10 | 脊髄性筋萎縮症 |
11 | 進行性核上性麻痺 |
12 | 綿条体黒質変性症 |
13 | 球背髄性筋委縮症 |
14 | 筋萎縮性側索硬化症 |
15 | 亜急性硬化性全脳炎 |
16 | オリーブ橋小脳萎縮症 |
17 | 大脳皮質基底核変性症 |
18 | 後天性免疫不全症候群 |
19 | 副腎白質ジストロフィー |
20 | シャイ・ドレーガー症候群 |
21 | パーキンソン病(ヤールⅢ) |
22 | 進行性筋ジストロフィー症 |
23 | 慢性炎症性脱髄性多発神経炎 |
24 | 人工呼吸器を使用している状態 |
さらに、「厚生労働大臣の定める疾病等」であれば、訪問看護を受けることも可能です。医療保険による訪問介護は年齢や条件によって回数が異なります。40 歳以上から 65 歳未満は、週に4日以上の訪問看護、1日に2〜3回の複数回訪問看護、1人に対して複数の訪問看護などが可能になります。
訪問看護とは、看護師や保健師によるさまざまなサポートを自宅で受けることができるサービスです。訪問看護を介護保険と医療保険のどちらで利用するかは、基本的に要介護・要支援認定を受けているかどうかで決まります。
要介護認定を受けている場合は、ケアプランの中に訪問看護が組み込まれることが一般的です。要介護認定を受けていない場合、「厚生労働大臣の定める疾病等」に該当すれば訪問看護に医療保険が適用されます。
また、要介護・要支援認定を受けている場合であっても、「厚生労働大臣の定める疾病等」に該当する場合は医療保険が適用されます。
介護保険と生活保護は年齢や保険への加入状態によって併用できるかが変わります。
要介護認定を受けている65歳以上(第1号被保険者)であれば、生活保護を受けていても介護保険を受けることができます。自己負担分である介護費用の1割は、介護扶助として生活保護から給付されます。
40歳以上~65歳未満で生活保護を受けている場合、厳密には介護保険を受けることはできません。これは生活保護を受給している場合、国民健康保険の被保険者資格が無くなり、医療保険未加入という扱いになるためです。
ただし、介護保険が適用される特定疾病に罹患し「第2号被保険者」に相当するとみなされた場合は、生活保護制度の“介護扶助”を受けることができます。介護扶助が認められると、自己負担分である介護費用10割が生活保護から給付されます。
特定疾病とは、心身の病的加齢現象との医学的関係があると考えられる疾病のことです。65歳未満においても発症が認められている疾病に関しては、第2号被保険者として介護保険が適用されることもあります。
また、3~6カ月以上継続して要介護状態又は要支援状態となる割合が高い疾病を指します。
特定疾病は「末期がん」から「両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症」まで全16種あります。また第2号被保険者が特定疾病に当てはまり要介護状態になった場合は、介護保険が適用されます。
入居できる施設はあります。ただし、第2号被保険者の場合、年齢が若いという点から、有料老人ホームなどへの入居一時金が高額化する可能性があるのと、64歳以下の第2号被保険者を対象としている施設が見つかりにくいことが懸念されます。
また、専門スタッフや医療的ケアの体制が充実していることが重要視されるので、入居を検討している際は、医療的ケアに特化している施設かホスピスなどを選択しましょう。
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