千葉県船橋市に面白いデイサービスがあるそう。どんなところなのか、さっそく潜入してみましょう!
ドアを開けると、そこはまるで学校みたい。先生役の介護職員の質問に生徒になった利用者が元気に答えています。国語や算数はもちろん、英語や家庭科もある「おとなの学校」ってどんなところなんでしょうか?
うかがったのは、千葉県船橋市本町にある地域密着型通所介護(デイサービス)「おとなの学校 船橋本町校」です。
ここでは、学校の教室のように黒板があって、壁には校歌やお習字が貼られています。授業は毎日4時限。職員が先生、利用者が生徒になり、オリジナルの教科書を使って授業をおこなっているのです。
先生に名前を呼ばれて元気よく手を挙げたり、ときには鋭い生徒のツッコミに先生がタジタジになったり…。「生涯青春!」のモットーのもと、みんな元気よく学校生活をエンジョイしていました。
10:00 | 朝礼・校歌斉唱 |
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10:30 | 1時間目「国語」 |
11:30 | 2時間目「家庭科」 |
12:00 | 昼食 |
13:30 | 3時間目「体育」 |
14:30 | 4時間目「社会」 |
15:00 | おやつ |
15:30 | 終礼・下校 |
「おとなの学校」は、毎朝の朝礼と校歌斉唱から1日が始まります。
授業は1コマ30分間で、午前2コマ、午後2コマ。午前の2時限目は昼食の用意を兼ねた家庭科で固定されていますが、そのほかは毎日科目が変わります。国語、算数、理科、社会、英語、音楽・美術、家庭科、保健・体育の8科目が用意されています。
うかがった日の時間割はいつもより変則的。学期末ということで午前中に通知表の授与式がありました。午後からは国語と体育の授業でした。
チャイムが鳴って、その日の日直になった利用者の「気をつけ、礼」のかけ声で授業がスタート。先生役の職員が出席を取り、名前を呼ばれた利用者は大きな声で「ハイッ!」と応えて手を挙げます。この日の出席は7人でした。
3時限目は国語で、今日の授業のテーマは「ひなにんぎょう」から始まるしりとり。「誰か、答えがわかった人はいますか?」と先生が言うとあちこちで手が挙がり、ひな祭りの思い出話が飛び出すなど、生徒の積極性が目立ちました。
4時限目は体育で、野球体操にチャレンジです。先生が盛り上げて、みんなで投げる動作やセーフのジェスチャーを繰り返します。その間、生徒はずっと笑顔でした。
デイサービスでは、利用者がそれぞれバラバラな行動をしていることが多いのですが、ここ「おとなの学校」では授業中はみんな授業に夢中になっています。
この「おとなの学校」のサービスは「学校式介護」というメソッドなのだそうです。
「学校式介護」とは、認知症に対する心理療法の「回想法」を活用したものです。
回想法は、認知症の方が最近のことは忘れても、幼い頃や過去の思い出はよく覚えているという特性を生かし、過去のエピソードを話すことで気持ちを落ち着かせるとともに脳を活性化させることを狙いとしています。
学校式介護では、高齢者が話題にしやすいテーマを授業形式で提供するので、誰でも参加しやすく、認知症の方でも集中できるのが特徴です。
実際に船橋本町校の利用者には、中程度の認知症の方もいるとうかがいましたが、どの方がそうなのか、はた目からは全然わかりませんでした。
また、学校というスタイルなので、利用者同士はお客さまというより『クラスメイト』。仲間の手伝いをしたり自ら進んでお茶の準備や後片付けをするなど、積極的に行動している姿に驚きました。
授業では、自分が知っている話題にみんな大盛り上がり。みんなの生き生きした表情はまるで子どもの頃のようでした。仲間同士で協力し合っている姿に感動です。
「学校式介護」は、事業者・介護職員側にも大きなメリットがあります。
まず授業中は、大勢の利用者の対応を1人でできること。その間、ほかのスタッフは別の業務を進められます。
また授業の進行の仕方を細かく指示した先生用の教則本があるので、特別なノウハウを持たなくても誰もが先生役を務められます。
多くの介護施設では、毎日のレクリエーションの内容に悩むことが多いのです。しかしこの「学校式介護」では、そうした煩わしい準備の必要がないうえに、利用者が自ら進んで参加してくれるので、スタッフの負担も軽減されます。
30分間の4時限授業と時間割が決まっているので、利用者のスケジュール管理がしやすいというのも、職員にとってはありがたいポイントです。
実は、「学校式介護」を受けられるのはこの船橋本町校だけではありません。
「おとなの学校」を運営するおとなの学校グループは、「学校式介護」を多くの介護現場に広めようと、オリジナルの教科書『おとなの教科書』を全国展開。2023年3月時点で約600ヵ所の介護施設に導入されています。
この教科書を使って、いつものレクリエーションの代わりに授業をするだけで、利用者の笑顔が増えて業務効率がアップした、という声もあるのだそうです。
さらに、おとなの学校グループの直営施設だけでなく、フランチャイズ展開もしており「おとなの学校」と名前を冠した介護施設は全国に11ヵ所。直営校やフランチャイズ校では、船橋本町校と同じように1日を通して「学校式介護」を提供しています。
それでは、実際に「おとなの学校」に通っている方にお話をうかがいましょう。
一人暮らしをしている佐藤眞佐子さんは、「ここに来るといろいろ人がいて、なんでも話して笑って、そのうえ勉強まで教えていただいて、とっても楽しいですね」と話します。
習い事に通っている尾上八重子さんは、「先日、久しぶりに健康体操の集まりに出かけたら、指導されている方に『表情が明るくなりましたね』と言われたんですよ」と笑顔で答えてくれました。
週に2回、学校に通っている白戸暁美さんも、「おとなの学校」で70年ぶりに習字の筆を持ったと言います。「忘れかけていたことを思い出したりして、気持ちが明るくなりました」と話していました。
みんな「楽しくてたまらない」という明るい表情が、とても印象的でした。
この船橋本町校のオープンは2022年9月1日。校長を務める秋吉智美さんは、最初は「学校式介護」で利用者が集中できるかどうか不安があったと言います。
「これまで勤めていた施設では、利用者が徘徊したり不穏になったりということがよくありました。でもここでは、チャイムが鳴る前にはみんな進んで着席してくれるので驚きました。今まで経験したことがない光景でしたね」
この「学校式介護」を実現するまで試行錯誤の連続だった、とスーパーバイザーの竹島正人さんは語っています。
「これまでは、施設がサービスを提供し、利用者は受け身になっていました。でもここでは、利用者に生徒という『役割』を通して、自分が持っている能力をいかしてできるだけ自分でやってもらうようしています。それが利用者の意欲や積極性を高めています。目指すのは『介護しない介護』ですね」
現在の定員は10名ですが、2023年5月1日より15名に増やし、今後も段階的に人数を増やしていきたいそうです。
できることは自分でやる、みんなで助け合って行動する…。学校生活の良いところを活かしたのが「おとなの学校」です。何よりもみなさん、とても楽しそうなのが印象的でした!
今回、調査協力をいただいたのは「おとなの学校 船橋本町校」。2022年9月1日に開所した地域密着型通所介護(デイサービス)です。独自に開発した「学校式介護」により、授業形式でレクリエーションを実施。利用者に人気なだけでなく、職員の負担軽減、業務改善にも大きく役立っています。
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