超高齢社会である日本では、高齢者への虐待が年々増加し、問題視されています。
高齢者への虐待は介護者(家族や介護スタッフ)に「虐待している」という自覚がない場合もあります。高齢者虐待を防ぐためには介護を一人で抱え込まないことが大切です。
この記事では、どのような行為が虐待にあたるのか、具体的な内容や、虐待が起こる理由などを解説します。さらに、虐待を防ぐための方法や専門機関も紹介しますのでぜひ参考にしてください。
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「高齢者虐待」とは、高齢者が親族や介護事業所のスタッフなど他者からの不適切な扱いを受けることです。不適切な扱いとは、命の危険や健康の被害、安心した生活が損なわれるなどの状態に置かれること全般を指します。
高齢者虐待は暴力などのわかりやすい場合もあれば、介護者(家族や介護スタッフ)に「虐待している」という自覚がない場合もあります。例えば、「夜にトイレに行く回数を減らすために水分を控える」「転落すると危ないからベッドから出られないように柵で囲む」「徘徊(はいかい)を防ぐために部屋に鍵をかける」などです。
本人のために良かれと思っておこなう行為も場合によっては高齢者虐待と判断されることもあるのです。
高齢者への虐待の種類は主に以下です。
それぞれ詳しく見てみましょう。
身体的ダメージを与える虐待とは、殴る・蹴るなどの暴力行為をはたらくことです。具体的には以下があります。
身体的ダメージを与える虐待には、高齢者の意思を無視し、必要以上の身体拘束をおこなうことも含まれます。身体拘束はベルトやひもでの拘束だけでなく、脅迫や威嚇など、言葉で高齢者の行動を制限することも該当します。
しかし、身体拘束がすべて虐待にあたるわけではありません。高齢者本人や介護者の怪我や命に関わる場合や、身体拘束の代替になる方法がない場合、拘束が一時的である場合には虐待とはいえないため、覚えておきましょう。
高齢者の介護をおこなわない、介護放棄(ネグレクト)による虐待も発生しています。介護放棄(ネグレクト)は、子どもに対しておこなわれる育児放棄を、高齢者に置き換えることでイメージしやすくなります。
具体的には以下があります。
介護を必要とする人を適切にサポートしないことは、高齢者の生活環境や心身状態の悪化につながります。さらに、介護放棄から死に至ったり、身体的虐待に発展するケースもあります。
精神的疲労を与える虐待とは、侮辱する、脅すなどの言葉の暴力、無視、嫌がらせなどです。高齢者を言葉や態度で傷つけたり、尊厳を踏みにじったりするような行為は、すべて心理的虐待にあたります。
具体的には以下があります。
また、精神的疲労を与える虐待では、介護者が気づかないうちに虐待をしてしまっていることもあります。介護によるストレスを無意識のうちに高齢者にぶつけ、虐待をしてしまうのです。
心理的な虐待は目に見えず、外からわかりづらいため注意が必要です。
高齢者に対してわいせつな行為をはたらく、性的な虐待がおこなわれることもあります。具体的には以下です。
性的な虐待は、わいせつ行為だけでなく、懲罰的に裸にして放置するなど、高齢者を辱める行動や言動も性的な虐待です。さらに、入浴の介助や着替えのサポート、排泄ケアの際に、プライバシーの配慮をしないままおこなうことも性的虐待のひとつです。
高齢者への虐待は、心身にダメージを与えるものだけでなく経済的なものもあります。具体的には以下です。
認知症で判断能力の低下した高齢者であれば、家族が金銭管理をおこなうケースもあります。その際には、お金や財布をむやみに取り上げないことが大切です。
出典:「令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」(厚生労働省)
厚生労働省の調査によると、2020年度の養護者による高齢者虐待に関する相談や通報は35,774件、高齢者虐待と判断された件数は17,281件とあります。養護者とは高齢者へ介護をしている家族、親族、同居人などを指します。
年々増加している理由として、昨今では新型コロナウイルス感染症の流行により高齢者が外出を控え、自宅で長い時間を過ごすことが多くなり、養護者の生活不安やストレス、介護疲れなどが増えたことが影響していると考えられます。
出典:「令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」(厚生労働省)
被虐待者からみた虐待者の続柄は全体の、息子39.9%、夫22.4%と、半数以上が男性介護者です。この結果は、これまで仕事をしていた男性が慣れない介護や家事をすることによってストレスを感じ、虐待に発展したことが要因のひとつと考えられています。
昨今では、生涯未婚率は男女ともに上昇しており、未婚の人が実家で暮らして親の介護をおこなうことも増えています。
また、子どもが仕事や結婚によって家を出て、夫婦のどちらかが介護をおこなうケースもあります。核家族化や未婚率の上昇により、男性介護者が増加しているのが現代の特徴です。
高齢者虐待でもっとも多いのが身体的虐待です。身体的虐待の割合は圧倒的に高く、そのあとに身体的拘束、心理的虐待、ネグレクトと続きます。
出典:「令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」(厚生労働省)
また、認知症などの意思疎通やコミュニケーションが容易ではない高齢者に対し、虐待が発生するケースが多くなっています。認知症に対しては、気持ちの理解や正確な対応が求められます。しかし、これらが十分でないと適切な対応ができず、虐待へと発展することがあります。
高齢者への虐待が起きる理由として考えられるものは主に以下です。
それぞれ詳しく見てみましょう。
高齢者への虐待が起きる一番の理由は、介護者の介護疲れやストレスです。介護は食事、入浴、排泄の介助など、身体的に負荷がかかるものが多く、肉体的な疲労が精神的疲労にもつながりやすいものです。
現代では核家族化が進み、ひとりの介護者にかかる負担が大きくなっています。介護は長期に渡っておこなうことが多く、長い介護の中で疲れやストレスが溜まってしまい虐待に繋がってしまう可能性があります。
また、介護施設では人手不足といった理由から若手のスタッフは業務に慣れないうちから戦力として求められ、疲労やストレスが溜まってしまいがちになります。
高齢者本人に認知症の症状があり、介護者に認知症への正しい理解がない場合は、大きなストレスから虐待につながってしまうこともあります。
本人の認知症の症状から、心ない罵倒をされたり、「物を盗んだ」などと疑いをかけられたり、暴力やセクシャルハラスメントを受けることがあります。
認知症による本人からの言動に対して、介護者が「認知症だから仕方ない」と割り切れる場合は良いですが、対応する方法がわからずストレスを溜めてしまい、つい罵声を浴びせたり、無視をしたり、場合によっては手が出てしまうこともありえます。
高齢者への虐待が起きる理由のひとつに経済的な不安も挙げられます。
在宅介護をする場合、家族は介護のために離職や転職をしなければいけない場合もあります。介護に時間を使うことで収入が減り、経済的な不安から虐待につながることもあります。在宅介護は閉鎖的な環境で、一人で抱え込みがちになってしまうため注意が必要です。
高齢者への虐待を防ぐ方法は主に以下があります。
それぞれ詳しく見てみましょう。
介護を一人でおこなうと、介護者が悩みを抱え込んでしまったり、プレッシャーを感じてしまったりすることもあります。家庭での介護は一人に任せきりにするのではなく、家族で協力する体制をつくることが大切です。
そのときには、対応する人でケア方法が変わらないように、必ず家族間で情報共有をしましょう。
認知症の人は、怒られたり否定されたりしても、その内容を忘れてしまうことがほとんどです。しかし「怒られて怖かった」「否定されて嫌だった」といった、マイナスの感情記憶は残ってしまいます。
それが繰り返し続くと、本来できることが萎縮してできなくなってしまったり、不安を紛らわすために怒ったりと、より症状を悪化させる可能性もあります。
スムーズな介護をおこなうために、「怒らない」「否定しない」を意識しましょう。イライラしたときは、「一旦部屋を出て気持ちが落ち着くまで待つ」「こまめにストレスを解消する」などの対策がおすすめです。
デイサービスやデイケアは、高齢者が日帰りで介護サービスを受けたり、リハビリをおこなう施設です。こういった介護サービスを利用して、介護者の休息や気分転換の時間を作ることも大切です。
さらにショートステイであれば、最短で1日から入所することができます。冠婚葬祭や出張、介護者の体調不良など、一時的に介護ができないときに利用する人が多いです。
在宅介護には休暇がありません。上手に制度を利用して負担を減らし、身体的・精神的安定を図ることが、結果的に虐待防止へとつながります。
高齢者への虐待を防ぐためには、周囲の人が高齢者本人やその家族へ声をかけあい、高齢者とその家族が孤立しないように見守ることが大切です。
家庭内で起こる高齢者への虐待は表面化しにくく早期発見が難しいという特徴があります。周囲の人が虐待の兆候に気づいたときには専門機関に相談しましょう。周囲の人が高齢者本人やその家族に対して「虐待かもしれない」「このままでは虐待につながってしまうかも…」など、虐待のおそれがあると気づいた段階で相談・通報することで高齢者虐待の早期発見や防止につながります。
高齢者虐待の相談窓口は、地域包括支援センターや法務省の常設する人権相談所など、公的な窓口が複数用意されています。
他人の家庭の場合、つい相談をためらってしまいますが、虐待を防ぐためにも早めに相談することが大切です。
高齢者への虐待が年々増加し、高齢者を虐待から守るための法律である「高齢者虐待防止法」が2006年に施行されました。
現在の日本は超高齢社会を迎えており、家族や介護サービスに携わる人々に、介護の負担が押し寄せているのが現状です。さらに、虐待は、施設内や家族内などの閉鎖的な環境でおこなわれるため、周囲からわかりづらいことも問題です。
これら高齢者虐待の増加や、虐待の事実が知れ渡りにくい課題を解決するため、高齢者虐待防止法が制定されました。
高齢者虐待防止法とは、正確には「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援に関する法律」と言います。高齢者の尊厳を保持するため、高齢者虐待を防止することを目的として施行されました。
また、高齢者虐待防止法の特徴に「虐待の早期発見・早期対応」があります。介護施設や介護サービス従事者には、虐待の早期発見が努力義務として規定されました。
介護施設で働いている人が自身の働く施設などで虐待が発生した際には、市町村へ必ず通報しなければいけません。さらに、通報者が通報することによって不利益な扱いを受けないよう、ルールが定められています。
介護で虐待が起こる一番の理由は、虐待者の介護疲れやストレスです。
介護を自宅でするとなると昼夜問わず付き添いが必要で、次第に外部との交流が減ります。介護がいつまで続くかわからない状況化に陥ると、身体的負担と精神的負担から虐待に発展する可能性があります。
在宅介護、施設介護ともに最も多いのは身体的な虐待です。
身体的な虐待とは、殴る・蹴るなどの暴力行為をはたらくことで、社会問題としてメディアにも取り上げられるほどです。また、高齢者の意思を無視し、必要以上の身体拘束をおこなうことも身体的な虐待に含まれます。
被虐待者からみた虐待者の続柄は、息子が最も多く、次いで夫と続き、半数以上が男性介護者です。核家族化や未婚率の上昇、これまで仕事をしていた男性が慣れない介護や家事をすることによってストレスを感じ、虐待に発展していると考えられています。
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