高齢者の生活に関する問題として、「セルフネグレクト」の文字を目にすることもあるでしょう。
セルフネグレクトとは、基本的な生活を維持するための意欲や能力を失ってしまうことです。自分の身体や身の回りのことに対して関心がなくなってしまうので、生活環境や栄養状況も悪化してしまいます。
セルフネグレクトに陥ってしまう原因として、高齢者本人の身体機能の低下や社会との孤立などが考えられます。
この記事では、高齢者が起こしやすいセルフネグレクトの原因について詳しく解説します。また、セルフネグレクト状態に陥ってしまった場合の対処法や、予防する方法も紹介するので参考にしてください。
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ネグレクトとは「無視する」「世話を怠る」という意味の言葉です。養育しなければいけない子どもの存在を無視する育児放棄や、高齢者への介護放棄を指す言葉としてよく用いられています。
セルフネグレクトとはこのような無関心、放置といった状態が自分自身に向いてしまうことを言います。セルフネグレクトになると生きていく意欲や能力が減退するので、普通の生活を維持することが困難になってしまいます。
セルフネグレクトの主な事例は以下です。
セルフネグレクト状態に陥った人は自分自身でSOSを出すこともしないために、周囲の人も気付きにくく、どんどん状況は悪くなります。自治体なども実際にどれほどセルフネグレクト状態の人がいるのかを把握しておらず、今後の対策の強化が求められています。
セルフネグレクト状態に陥ってしまう原因と考えられるのは以下です。
それぞれ詳しく見てみましょう。
セルフネグレクト状態に陥ってしまう原因として、身体機能や判断力の低下が考えられます。
高齢者は加齢と共に身体機能が低下していきます。本人には普通の生活をする意思があるにも関わらず、身体的な理由で満足にできない状態が続き、セルフネグレクトへと発展してしまう場合があります。
具体的には、「筋力が低下したことで重たい物を持ち運ぶことが困難になり、掃除や片付けができなくなる」「視力が低下して周囲が見えづらいために、細かな片付けや家事などがおろそかになる」などがあります。
また、高齢者の中でも認知症を発症している場合、判断力が低下していくことでセルフネグレクト状態へと陥る場合も。一人で暮らしているために、認知症になっていることを誰からも気づかれずに生活に必要な行動をとることが困難になってしまい、セルフネグレクト状態になってしまうのです。
セルフネグレクト状態に陥ってしまう原因として、配偶者や親しい家族の死、病気、リストラなどのショックな出来事も考えられます。
親しい人の死や病気、リストラなどは、とても大きなショックを受けるため、生きる意欲が失われてしまい、最終的にセルフネグレクトにつながってしまうのです。
また、今まで家事などをしていなかった人が突然一人になった場合に、生活を維持できなくなってしまったり、「人の世話になりたくない」というプライドや「人の世話になるのは申し訳ない」という遠慮・気がねから支援を受け入れず、結果的にセルフネグレクトにつながってしまうこともあります。
セルフネグレクト状態に陥ってしまう原因として、社会的孤立が考えられます。
高齢者の場合、配偶者との死別や離婚、退職などを経験して、社会との接点がどんどん希薄になる可能性が高くなります。
社会とのつながりがなくなることでセルフネグレクトが進んでいても、誰にも気づいてもらえずに、エスカレートしてしまう恐れがあります。セルフネグレクトの人が受けられるはずの適切なケアも受けられなくなり、社会的な孤立がさらなる悪循環に招きます。
セルフネグレクト状態に陥ってしまう原因として、老後の蓄えがなく年金だけで基本的な生活を維持できない高齢者や、認知症を発症して金銭管理ができなくなったなどの経済的貧困も挙げられます。
経済的な貧困状態にある人の場合、国民健康保険などに未加入のケースも多く、その場合は医療費が全額自己負担になります。病院に行くお金がない、行っても望む治療が受けられないということでますます無力感を感じてセルフネグレクトが進行してしまいます。
家族から精神的、身体的虐待を受けているとセルフネグレクト状態に陥る可能性がとても高くなります。特に加害者が自分の子供の場合は、育てた本人である自分自身を責めてしまうことも多く、誰にも助けを求めることができなくなります。
暴力や暴言を受けていたり、脅されたりする日々が続くだけで、「自分はいらない存在だ」「役に立たない人間だ」「生きていても仕方がない」と思い込むようになり、誰にも迷惑をかけずに黙って死んでいこうと考えてしまう人もいるようです。
セルフネグレクト状態に陥ってしまう原因がはっきりしていない場合もあります。セルフネグレクト状態になる原因については、本人も思い当たるふしがないことがあります。また、セルフネグレクト自体について、まだ不明点が多いのが現状です。
セルフネグレクト状態になっても早めに対処すれば深刻化する前に、セルフネグレクトの問題を解決できます。大切なのは、誰もがセルフネグレクトになる可能性があることを知っておき、問題が起きたときにすぐに対処できるようにしておくことです。
セルフネグレクトになってしまっても、家族や周りの人、本人も気付かない場合があります。家族や自分自身の生活に以下のような点が現れたら、一度、セルフネグレクトについて考えてみましょう。
セルフネグレクト状態に陥ってしまった際の対処法は主に以下です。
それぞれ詳しく見てみましょう。
まずは、本人がどう思っているのかをきちんと聞き取り、サポートをする人と本人の間で信頼関係を築くよう心がけましょう。
どうしてゴミを溜めてしまうのか、介護サービスの利用を拒否するのは何故なのか、など、一度話し合う場を設けて本人の想いに耳を傾けてみてください。
話を聞く際には怒ったり、相手の言葉を否定をすることは避け、心を開いてくれるように穏やかに話しやすい雰囲気を作ることを意識しましょう。そのような話し合いを続けることで、セルフネグレクトから脱却するための提案も受け入れてくれるようになるはずです。
自分の親がセルフネグレクト状態に陥ってしまい、どうすれば良いかと悩んでいる場合は地域包括支援センターなどを活用しましょう。地域包括支援センターは、全国の自治体に設置されており、誰でも相談できる無料相談窓口があります。
地域包括支援センターでは、実際に要介護状態にあるにも関わらず介護認定を取得していない人に対して、要介護認定の申請をおこなうことも可能です。申請していない人は相談してみると良いでしょう。
介護認定を受けている場合には、訪問介護や訪問入浴、デイサービスといった介護サービスを受けることができます。
これらの介護サービスは自己負担額が原則1割となっているため、民間のサービスを利用するより費用を抑えて利用できることに加え、介護のプロに身の回りのことを任せられるので安心して利用することができます。
ただし、これらの介護サービスはあくまでも介護を目的としていますので、掃除や食事の準備といった家事サービスはおこなってくれません。
また、介護サービスの利用だけではなく、将来的に老人ホームのような介護施設の入居を検討するのも良いでしょう。
介護施設は、常に居住空間を清潔に保ってくれるのはもちろんのこと、栄養バランスの良い食事やレクリエーションによる適度な運動、定期的な入浴など身の回りのことをサポートしてくれます。
セルフネグレクト状態にある人にとって健康的で安定した生活を送るきっかけになってくれるでしょう。
認知症や精神疾患などを患っている場合、病気が進行するにつれ判断力も低下し、セルフネグレクト状態になることもよくあります。
そうならないようにするために、まずは医師に相談しましょう。認知症は完治する病気ではありませんが、医師の適切な治療を受けることで、進行を遅らせたり、緩和させたりすることが可能です。
なお、病院で診断を受けた後は、今後の生活についてどのような支援が必要かを家族の中できちんと相談することが大切です。
身体機能が低下し、身の回りの家事が難しくなってしまった場合は家事代行サービスを利用するのもセルフネグレクト状態から脱却する方法となります。
掃除はできるが、料理をすることができないという場合には定期的に食事の宅配サービスを利用しても良いかもしれません。
また、サービスを利用するだけではなく家族や親族、ボランティアの人などの協力を得て部屋を綺麗に保つことも効果的です。清潔に、健康的な状態でいることでセルフネグレクトからの脱却が期待できます。
いろいろなサービスを組み合わせて活用することで、居心地のいい環境を整えていくと良いでしょう。
セルフネグレクト状態になる前に予防しておくのも重要です。気をつけるポイントは主に以下です。
それぞれ詳しく見てみましょう。
本人が自分の気持ちを話せる場がないと、だんだん心を閉ざすことになり、やがて日常生活を送る気力を失ってしまいます。本人が辛いことを我慢せずに、本音を話せるような環境づくりを心がけましょう。
セルフネグレクトが進行する前に、カウンセラーなどに相談できればセルフネグレクトの症状が改善する場合があります。本人が相談に行けるようなサポートも考えるのがおすすめです。
晩婚化や核家族化の進む日本では、ますます孤独な高齢者が増えることが予想されています。孤独な生活を送るなかで、誰にも気づかれずにセルフネグレクト状態になってしまった場合はそのまま悪化してしまう可能性が高いです。
セルフネグレクトを予防するには、日頃から本人が一人にならないこと、ひとりにさせない、社会全体で一人にさせないことが大事です。
「社会との関わりをつくる」「一人暮らしの高齢者や家族がいる場合にはなるべく気にかけるようにする」などを少しずつおこなうことで、心身ともに健康的な生活を送れます。
高齢者の場合、周囲に頼ろうとせず社会的に孤立してる状態の人がセルフネグレクトに陥りやすいです。誰かが手助けをしようとしても拒否する傾向が強いのも特徴と言えるでしょう。
まずは本人がどう思い、どうしていきたいのかを聞き取ることが重要です。本人の思いを聞いた上で、各自治体や地域包括支援センターなどに相談をして、必要に応じて介護サービスを利用し、社会的孤立をさせないようにすることが重要です。
セルフネグレクトの男女比を見ると半数以上が女性です。また家族構成も本人のみの独居が多く、交流が少ない戸建て住みの人がセルフネグレクトになりやすいとされています。
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