数カ月前、土井喜晴氏の『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)という本を読んで、我が家の食卓は革命的に変わった。
お椀にたっぷり野菜を切り入れて、それをやわらかくなるまで煮た鍋に味噌を溶く「具だくさんの味噌汁」があれば、おかずは漬け物だけでもモリモリとご飯を食べられる。焼き魚なんかがつけば、それだけで充分にご馳走気分だ。
この一汁一菜の食事の良いのは、何度食べても食べ飽きないというところにある。味噌汁は日本人のソウルフードなのだ。
Amazonのレビューを読むと、多くの人(きっと毎日の献立選びに悩んできた主婦だろう)が、「この本のおかげで救われました」という感想を書いているのもうなずける。
具だくさんの味噌汁はたぶん、体にも良い。野菜が毒になるという話は聞いたことがない。
だが、本当にそうなんだろうか? と考えていたころ、書店で見つけたのが本書『野菜は最強のインベストメントである』だった。
日本栄養コンシェルジュ協会代表理事で、医学博士、管理栄養士の資格を持つ著者の岩崎氏が、野菜の効果的で正しい摂取の仕方を教えてくれるというのだ。その興味深い中身をレビューしていこう。
本書が冒頭で警告しているのは、現代人の申告な野菜不足だ。
野菜不足には、次のようなリスクがあるという。引用しよう。
精神不安定、体臭が出やすくなる、肌荒れ、下痢、太りやすい、体力低下、疲れやすい、免疫低下、血管リスクの増加、生活習慣病、ガンになりやすくなる。
他にも多くの損失がありますが、これらの症状が続くことで、慢性的な体調不良、集中力低下からの効率悪化、寝不足、不安症と、心にまで大きな影響を及ぼします。
こうした恐ろしい野菜不足問題には、3つの不足要素があるという。
ひとつは、「量の不足」。日々の忙しさやダイエットを理由に、食事を抜いたり、肉のみの食事に頼っている人は多い。
本書が推奨している野菜の摂取量は、1日350グラム。というと、とっさに「そんなにたくさん摂らなきゃいけないの?」と感じる人もいるかもしれないが、これはあくまで調理前の重さ。煮ておひたしにしたり、バター炒めなどで火に通せば、実際に口に入れる野菜の量は、それほど多くない。
2つめの要素は「質不足」。野菜を買うとき、価格重視で外国産を選ぶ人は少なくないだろう。だが、外国産の農産物のなかには輸送中にカビが生えたり、害虫に食べられたりしないよう、収穫後に防腐剤などの農薬を使用しているケースがあるという。
ゆえに、野菜の銘柄選びは国産一択。さらに「鮮度と旬」にこだわることを推奨している。
3つめの要素は、「彩(いろどり)不足」。いくら野菜を食べているといっても、バリエーションに乏しく、いつも同じ色味のものを食べていては栄養補給にムラができてしまう。
そこで本書が推奨しているのは、野菜を色味に分けてバランスよく摂取すること。
同じ色の野菜には、似た栄養成分が含まれているため、色のバリエーションを見るだけで、まんべんなく栄養補給することができるのだという。
1日350グラムの、鮮度の良い、国産の旬の野菜を色味豊かに選んで摂取することに加えて、さらに本書は、これを42日間(6週間)、継続することを推奨している。
42日というのは、ダイエットや栄養の研究で動物や人体を使った実験をするときの目安になっている期間なのだとか。
本書の中盤に登場する、ウォーレン・ベジットなる野菜投資家は、次のように野菜摂取の効果を説明する。
しばらく野菜を食べ続けると、あるとき「あれ? なんか体調良くなってる?」と感じる日が来るだろう。すると、次の日には「やっぱり確実に良くなってる!」と感じ、そしてその次の日には「いや、もはや若返っている!」と、変化を感じた日から、メキメキと確信を伴った違いを感じるようになる。
ここまで読んできた気になったのは、野菜さえ食べれば良いのかということだ。
例えば以前にレビューしたことがある森由香子『60歳から食事を変えなさい』(青春出版社)では、毎食20グラムのたんぱく質を摂ることを推奨していた。
もちろん、本書が野菜至上主義に走り過ぎていないということは、ウォーレン・ベジット氏の次のセリフからよくわかる。
体を作る原材料がたんぱく質。体と脳を動かすエネルギー源が糖質と脂質。これらは特にたくさん摂取する必要があり、三大栄養素と言われる。
そして、その三大栄養素がきちんと働くためのサポートをする役割がビタミンとミネラル。これらの五つが五大栄養素だ。
つまり、野菜によってビタミンとミネラルを摂取することは、たんぱく質、糖質、脂質の三大栄養素をうまく働かせるために必要不可欠ということなのだ。
本書を読んで初めて知ったのは、野菜に含まれている「フィトケミカル」という成分の存在だ。
野菜をはじめとする植物は、外敵や紫外線など外からの攻撃から身を守るためにさまざまな物質を作り出している。これらを総称した言葉が「フィトケミカル」だ。
香り成分だったり色や渋味であったり、辛味やネバネバ成分などがそれにあたるが、それらは最強の抗酸化作用があるのだという。
例えばトマトや金時ニンジンなどの赤色の正体である「リコピン」には、同じく抗酸化作用のあるβカロテンの約2倍、ビタミンEの100倍以上の効果があるんだとか。
また、ミカン、トウガラシ、パプリカなどに含まれる「βクリプトキサンチン」は、体内で目や皮膚の粘膜を健康に保つビタミンAに変換されるほか、骨形成を促進して骨粗しょう症を防ぐ効果があるという。
さらには、ローズマリーや赤紫蘇、青紫蘇に含まれる「ロスマリン酸」は、脳から発生するドーパミンの量を増やす効果があり、加齢による記憶力の低下、物事への意欲や集中力、注意力の低下といった脳機能の改善を促してくれるというからすごい。
とにかく、このような調子で野菜を食べることのメリットを「これでもか」とばかりに突きつけてくるのである。
ちなみに著者の岩崎氏は、野菜を食べることを「インベストメント(投資)」に見立てた理由を次のように説明している。
あなたは投資の三原則をご存知でしょうか。それは「長期、積立、分散」です。じつはこれ、野菜投資にも流用することができるのです。
野菜投資の目的、それは野菜を長期間美味しく食べ続け、さまざまな野菜から栄養素を取り入れ、栄養素のパワーを体に積み上げていく。その結果、美や健康、引いては幸せというリターンを得るということです。
この言葉につけ加えるなら、野菜投資はローリスク・ハイリターンの高効率の投資ということだ。とにかく私にとっては、「一汁一菜」生活を今後も続けていくモチベーションにつながる好著だった。
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