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ウィズコロナ

インタビュー ウィズコロナ 闘病記

【養老孟司】病院で死ぬこと、愛猫と別れるということ、コロナのこと

1937年生まれ、御年85歳になっても旺盛な執筆活動を行っている養老孟司先生。新型コロナウイルスの感染拡大で、世の中の動きが停滞ぎみになっても、その勢いは止まらない。 2020年の自身の大病、そして愛猫の死という出来事を経験して、ますます舌鋒するどくなっているのだ。そこで今回は、先生の3冊の著書を材料にして、今という時代を生きるヒントを探ってみよう。 あと一歩というところで命拾いをしました ──中川恵一先生との共著『養老先生、病院へ行く』(X-Knowledge)には2020年の6月、大の病院嫌いだった先生が古巣の東大病院に入院した顛末が書かれています。どんな前兆があったのですか? 1年間で体重が15キロ減ったんです。あとはなんだか調子が悪い、元気が出ないといった不定愁訴です。そこで過去に対談をした経験のある、大学の後輩の中川さんに頼んで検査を受けることにしました。受診日の3日前はやたらと眠くて、猫のようにほとんど寝てばかりいました。私が病院を嫌いな理由は、現代の医療システムに巻き込まれたくないからです。このシステムに巻き込まれたら最後、タバコをやめなさいとか、甘いものは控えなさいとか、自分の行動が制限されてしまう。 ──にもかかわらず、病院に行くことにしたわけですね? このときは家内が心配するので、診てもらうことにしました。自分だけで生きているわけではないので、家族に無用な心配をかけるわけにはいきません。私は以前から、「死は二人称の死でしかない」と言ってきました。一人称の死は「私」の死です。死んだときには私はいないのだから、現実にはないのと同じです。三人称の死は「誰か」の死。コロナで連日「本日の死者数は何人です」と報道されていますが、そういう類いのもの。有名人の死も同じですね。二人称の死は「あなた」、つまり知っている人の死です。これだけは無視することができない。身内だろうが、嫌いなヤツだろうが、どうしたって人に影響を与えます。病気も死と同じで、心配をかけたり、迷惑になったりすることがある。だから家内の言葉に従って、病院に行くことにしたんです。 ──そこで、大変な病気が発見されたわけですね? そうです。中川さんは体重減少の原因を糖尿病かがんだと思っていたそうだけど、機転を利かせてくれて心電図をとったんです。そこで心筋梗塞が見つかりました。待合室で家内と秘書たちと「このあとは天ぷらを食べて帰ろうか」なんて呑気な相談をしていると、中川さんが血相を変えて「心筋梗塞です。ここを動かないでください」と言いました。それでそのまま集中治療室(ICU)に2日ほど入って、手術、そして入院と、計2週間も病院のなかで過ごしました。心筋梗塞は、動脈が詰まって心臓に血液が届かなくなる病気です。私の場合、左右の冠動脈2本のうち、左冠動脈の枝の末梢が閉塞していた。処置が数日遅れていたら、冠動脈の主要部分が詰まっていた可能性もあるそうで、紙一重で命拾いをしたわけです。 写真提供/まるすたぐらむ 自分が心筋梗塞になるなんて実に意外だった ──患者の視点で見た「現代の医療システム」は、どんな印象でしたか? 思ったよりも楽でした。あまり、苦痛を感じるようなことがなかった。タバコを吸えなかったのは辛かったけど、飛行機に乗っているようなものだと思えば我慢できました。ただ、病院食については、思った通りでおいしくなかったですね。でも、そのおかげで自分の食生活を見直すきっかけになりました。青木厚さんという医師が1日のうち16時間は何も食べない、あとは自由に飲み食いしていいという 「16時間断食」を提唱しています。内臓を働かせ過ぎないで休ませなさい、ということ。実験的にやってみると、体調が良くなりました。戦中、戦後の食糧難のとき、「お腹がすく」という体験を嫌というほどやってきましたが、実に久しぶりの空腹体験でした。 ──起床時間、食事の時間、消灯時間を病院側の都合で決められてしまうのは、ストレスではなかったですか? 病院にいること自体がストレスですから、順応してしまえば何てことはないです。私はそういうところが意外に素直にできてまして、刑務所に入っても順応してしまうと思いますよ(笑)。 ──心筋梗塞は発症すると胸に激痛が走るそうですが、先生の場合、糖尿病の神経障害で痛みを感じなかったそうですね。 自分が心筋梗塞になったのは意外でした。というのも、「心筋梗塞にかかるのは、上昇志向のある人に多い」と若いころに習ったことがあるからです。オーストラリアのメルボルン大学に留学したときのことです。政治家がその典型ですね。私はこれまで、政治に関心を持ったことは一度もありません。それから、タクシーの運転手さんと学校の教師も心筋梗塞になりやすいという話もありましたが、それは欧米のアングロサクソン系の人種の人たちに言えることで、日本のタクシー運転手と学校の教師は胃潰瘍になりやすいんです。社会の違いによって、ストレスのかかり方が違うんですね。 『養老先生、病院へ行く』 著者:養老孟司、中川恵一(共著) 発行:X-Knowledge 定価:1400円(税別) 在宅死は大変。病院死も悪くない ──『ヒトの壁』(新潮新書)によると、ICUに入っているとき、目の前に5体のお地蔵さんが現れたそうですね。 部屋の中央にモニターが置いてあって、磨崖仏のような砂色のお地蔵さんが5人ほど並んでいました。後で思ったことですが、「お迎え」が来たんだなと思いました。つまり、それはお地蔵さんではなくて、阿弥陀様だというわけです。阿弥陀様は、来迎図などを見ると極彩色に描かれているけれども、今の時代に合わせて「お迎え」も質素なリモート式になったのかなと。 ──それは、一種の神秘体験のようなものですか? いや、違いますね。単なる幻覚です。ICUのベッドに寝かされているんだから、そういう連想をするのは無理もない話です。脳が実際には存在しないものを表出させるというのは、よくあることです。 ──『ヒトの壁』には、「私は在宅死が望ましいと思っていたが、家族と医療スタッフのみの世界で他界するのも悪くないと感じるようになった」とも書いていますね。どうしてですか? 在宅死は、いろいろ大変ですよ。家族がね。さっきも言ったけど、死んだときには私はもういないんだから、二人称の死の影響はできるだけ小さいほうがいい。こういうことは、なかなか具体的に実感する機会がないことですが、今回、命の縁に立ってみて、「このまま死んだら面倒はないだろう」とシミュレーションしたわけです。 写真提供/まるすたぐらむ 患者には治療法を選ぶ権利があります ──入院中、大腸の内視鏡検査をしたら、ポリープが見つかったそうですね。 そうです。血液検査では、胃がんの原因であるピロリ菌が陽性でしたが、ポリープもピロリ菌も放置することにしました。ポリープはがん化する可能性がありますから、中川さんが「できる限りとりましょう」と言ってくる医者だったら、困ったことになっていたかもしれませんね。がん化したとして、家族に説得されれば放射線治療くらいはやるかもしれませんが、手術や抗がん剤治療はストレスが大きいので選ばないでしょう。患者には治療法を選ぶ権利があります。中川さんが、もう治療はここまでという私に対して、「じゃあ、このくらいにして、あとは様子を見ましょう」と言ってくれる医者で助かりました。医者との相性は、非常に重要だと思いますね。 ──退院後、タバコは辞められたのですか? いえ、吸ってます。ただ、糖尿病の薬は、言われるがままに飲んでます。医者には逆らわないほうがいいと思ってね。白内障の手術を薦められたときも、素直にお願いすることにしました。おかげでメガネなしで本を読めるようになって助かっています。病院嫌いの私が再び入院して、白内障の手術を受けたことで、中川さんは私の医療に対する考えが変わったのではないかと言ってましたが、実は何も変わっていません。今後は「身体の声」に耳を傾けて、具合が悪ければ医療に関わるでしょうし、そうでないときは医療と距離をとりながら生きていくことになるでしょう。 『ヒトの壁』 著者:養老孟司 発行:新潮新書 ...

2022/12/12

ウィズコロナ

パンデミックからはや3年─“ウィズコロナの知識武装”に効く2冊

新型コロナウイルス感染症が2020年1月にパンデミックをおこして、間もなく3年が経とうとしている。 この3年を通じて、コロナはすっかり身近なものになったが、我々にとってあいかわらず未知で不気味なものであるということに変わりはない。 コロナを正しく知り、正しく怖がるための処方箋を、『感染症―広がり方と防ぎ方』『新型コロナの不安に答える』の2冊に探ってみよう。 『感染症―広がり方と防ぎ方』に探る、日本人が感染症に強い理由 ウイルスを正しく知ることは重要である まず最初にこの本を読もうと思ったのは、コロナ渦前に書かれた本だからである。 コロナウイルスの襲来によって、今というときを生きている我々は、感染症についての考え方がガラリと変わった。だが、人類と感染症との付きあいは、有史以前からのものである。コロナはいつ収束するのか、ワクチンは有効なのか、といった直近の状況に対応する答えを探る前に、これまで人類が積み重ねてきた感染症についての基本的な知識を知りたいと思ったのだ。 2022年4月25日に刊行されたこの本の『増補版』では、新章にあたる「新型コロナウイルスが広がりにくい社会」が加えられていて、コロナ前に書かれた記述と今の概念とに矛盾がなさそうなのも望ましい。例えばこれが、原子力発電について書かれた書物で、3.11の福島原発事故以前と以後に書かれた本とでは、こうはいかないだろう。 国立感染症研究所の感染症情報センター長をつとめた経歴のある井上氏は、ウイルスの基本的な性格について、こう説明している。引用しよう。 ウイルスは、遺伝子核酸(RNAかまたはDNAのどちらか)と、それを囲む蛋白質からなる単純な構造体で、細胞でない生物である。細胞である細菌の10分の1以下の大きさであり、培地では増殖せず、自己を複製するときには特定の細胞に肺って、その代謝系を利用して殖える。 ということで、細胞の外にいるウイルスは、生物とは呼べない無生物として挙動する。従って、ウイルスが生物と同じように子孫をたくさん残して地球上に生存し続けるためには、感染先の宿主といい関係を築かねばならない。 強烈な毒を発して宿主を殺せば、ウイルスは宿主とともに死ぬことになる。おそらく、過去には宿主がすぐに死ぬような強毒性のウイルスも地球上の歴史のなかで多く登場したと思うが、そうしたウイルスは宿主と共倒れになって、ダーウィンの自然淘汰の説の通り、絶滅していったと思われる。 一方、宿主をすぐに死なせず、重症にさせ、寝込ませる程度に毒性を抑えたウイルスは、人間に感染した場合、はげしい咳による飛沫や、乾燥して空気中をただようエアロゾルに乗って、次の感染先の宿主への移動手段を持つことになる。 それ以上に有利な生存戦略をとったのが、宿主を寝込ませない、さらに弱毒化したウイルスだ。潜伏性があるので宿主は感染したことに気づかず、感染後も動きまわって他の宿主に住む場所を提供してくれるのである。新型コロナウイルスは、その典型例だ。 人間とウイルスとの関係で言えば、人間の文明が未発達で、ひとつの場所に多数の人が寄り添って居住する環境が多かった時代は、宿主を重症にさせるウイルスも幅をきかせていた。ところが、グローバル化による人やモノの大移動が可能になった現代においては、弱毒化という戦略をとったウイルスが地球上にはびこることになる。 おもしろかったのは本書の冒頭の、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)についての考察である。 この年の2月21日、香港のMホテル9階に泊まって感染した客が、ベトナム、カナダ、アイルランド、米国、シンガポールへ移動して、8000人余の患者が報告されるほどの世界的な流行を招いた。そのとき、宿泊客のなかに日本人もいたが、日本人の患者はゼロだった。なぜ日本人旅行者だけが、ウイルスに感染しなかったのか? 本書の旧版が出版されたのは2006年12月だが、その疑問に触発されての出版だったそうだ。 新型コロナウイルスでも、海外に比べて日本では感染者や死者が少なく、「ファクターX」なる要因がありそうだと指摘されたが、大いに参考になりそうな考察だ。 “ファクターX”なる要因は、日本人の生活様式や発音からも考え得る!? SARSは、人間の肺や腸管で増殖するため、咳などによる飛沫感染だけでなく、糞便にふくまれるウイルスによる伝播がおこった可能性があるという。 トイレのドアノブについたウイルスが別の人の手に移り、握手やお札、硬貨を数えることで、また別の人の手に移る。それから靴に糞便がついて、ウイルスが運ばれ、ホテルの部屋で乾いてホコリとなって舞い上がり、それを吸い込んで感染する。そうした可能性を挙げつつ、井上氏は日本人が感染しなかった理由を次のように考える。 いっぽう日本人旅行者は、握手のかわりにお辞儀をすることが多いので、手の接触が少ない。ホテルの部屋に入ったら土足をぬぐ。外国のホテルにはスリッパはないのだが、日本人ではそれを持参する人もいる。手を洗い、風呂にも入る。日本人は食事に箸を使う。寿司、おむすびを除けば、手づかみで食べることは少ない。たとえウイルスが手についていても、箸を使えば口に入りにくいことになる。さらに日本食レストランではお手ふきが出て、それを使っただろう。 というのが、日本人旅行者がウイルスを自国に持ち帰らなかった理由だというが、非常に説得力がある。 「感染症のさまざまな伝播経路において、病原体がうつりにくい条件が生活のなかに組み込まれて存在している国は日本だけである」と語る井上氏は、日本語の発音にも着目して、これを分析している。 英語と中国語には有気音がある。有気音とは、p・t・k(中国語ではさらにq・ch・c)の破裂音のあとに母音が来ると、息がはげしく吐き出されることをいう。口の前にハンカチをたらしておくと、それがめくれ上がることでわかる。息を出すときウイルスをふくむ飛沫もとびだすだろう。いっぽう日本語では、p・t・kは息を出さない無気音として発音される。しかも日本語ではp音はあまり使われていない。ハ行音は、奈良時代p音だったのがのちf音に変わり、いまはh音になっている。現在、パ行音は外来語か擬声語・擬態語に使われるだけである。 そのため、日本語で会話する日本人は飛沫感染をおこしにくいというのだが、井上氏はこの仮説を実証するため、風圧実験を行っている。 村上春樹の『ノルウェイの森』のなかの文章を日本語原文と英語、中国語の翻訳とをそれぞれネイティブ話者に音読させ、口から飛び出す風圧を測定するのである。215ページに掲載された、英語話者と日本語話者の風圧グラフを見ると、確かに英語のほうが日本語より高い風圧で言葉を発していることがわかる。 157ページには、マスクによる咳風速の減弱度の測定結果も示されている。このとき、マスクは70円の16層ガーゼのマスクと、20円の3層の不織布マスク、5円の2層紙マスクの3種類を比較しているが、どのマスクでも咳による風速は10分の1に減弱したという(ゆえに「同じ効果ならば、いちばん安くて、かつ患者の呼吸に負担がかからない5円のマスクがよい」ということになる)。 まるで推理によって犯人を当て、その犯行のトリックを暴く名探偵のような手さばきである。 本書では、近代免疫学の創始者であるジョン・スノウ(1813~1858)がコレラ菌が発見される40年近く前から推理力のみを使ってロンドンでのコレラ感染を収束させた名探偵ぶりも紹介されるが、読み物として非常におもしろい。かつ、感染症についての基礎的な知識を得るのにうってつけの良書だった。 『増補版 感染症 広がり方と防ぎ方』 著者:井上栄 発行:中公新書 定価:820円(税別) ボブ的オススメ度:★★★★☆ 『新型コロナの不安に答える』では、最新の科学データで「フェイク」を論破! コロナワクチン開発の歴史をひもとくと50年以上も遡る!? 続いて読んだのが本書、『新型コロナの不安に答える』。著者の宮坂氏は、免疫学者として50年以上にわたって基礎ならびに臨床研究を続けてきた権威である。本書は、そんな宮坂氏の『新型コロナ 7つの謎』(講談社ブルーバックス)、『新型コロナワクチン 本当の「真実」』(講談社現代新書)に続く3冊目の著書で、免疫学や感染症学の最新の知見をもとに新型コロナウイルスやワクチンについて正しい知識を指南している。 当然、デマや陰謀説、フェイクニュースなどが主張する根拠のない説に対する、宮坂氏の批判は手厳しいものになる。 私はいわゆる「嫌ワクチン本」「反ワクチン本」といわれる著作や記事にもできるだけ目を通すようにしていますが、残念ですが、説得力を持つ根拠を提示しているものはほとんどないように思います。その多くは科学的に誤った理解に基づく恣意的な解釈、思い込み、感情的な批判に終始していました。 というわけで、本書では折にふれてそうしたトンデモ説をやり玉に挙げて論破していく。 例えば、「オミクロンは病原性が低いので、自然感染にまかせて集団免疫を獲得すればパンデミックは収束する。オミクロンはかえって社会にとって『福音』となるかもしれない」という説に対する宮坂氏の反論はこうだ。 自然感染によって獲得できる免疫の質は高くないうえに持続時間も短いため、次から次に変異株が登場する状況では集団免疫はいっこうに成立しないからです。一方で制御できない感染爆発によって多くの方が命を落とすでしょう。わずか2年で、全世界で約6000万人が命を落としたという事実を忘れてはいけません。 それから、メッセンジャーRNAワクチン(mRNAワクチン)についても「このワクチンは開発されて1年ぐらいの新しいもの。人への投与はまだ2年ぐらいだ。何年か経ったらとんでもない副反応が出てくるかもしれない。だから怖くて接種を受けられない」との主張には、このワクチンの開発の歴史を丁寧にひもときながら解説している。 宮坂氏によれば、mRNAの操作技術の開発は、1961年にmRNAが発見されて以来、50年以上にわたって続けられてきたのだという。 意外だったのは、当初は感染症のワクチンではなく、がん治療の目的で研究開発が行われていたということ。マウスにmRNAを投与して、生体内でmRNAの産物、すなわちタンパク質を作ることに成功したのが1990年のこと。2001年にはmRNA取り込みによって免疫系の番人である樹状細胞に腫瘍抗原を発現させ、その樹状細胞を投与することによってがん治療を行うという実験的な試みが始まった。 ところが、その間、mRNAを投与すると自然免疫が活性化されて炎症が起きることがわかってきた。これによって暗礁に乗りあげたかに見えたmRNAワクチン技術だが、2008年にこれを解決したのが、故国ハンガリーを追われて米国に亡命して研究を続けていたペンシルベニア大学のカタリン・カリコ博士である(娘のテディベアに所持金を隠して渡米したという逸話は有名)。 カリコ博士は、RNAの構成成分のひとつであるウリジンをシュードウリジンに変えることで自然免疫反応を軽減し、mRNAの生体内翻訳の効率を改善したのである。この業績はmRNAワクチン開発に必須となり、ノーベル賞級の技術として賞賛された。 宮坂氏はこれらの歴史を説明したうえで「新型コロナワクチン自体は、確かに1年ぐらいの開発期間でできています。しかし、その基礎技術の開発は前述のごとく20年にもおよび、mRNAワクチンとしても10年以上の開発の歴史があります」と論を展開する。まことに信用するに値する、説得力のある説明である。 めまぐるしく変わる世の中の動きの中では、最新データの分析が不可欠 ただし、宮坂氏自身、「執筆にあたってはその時点の最新データをもとにしましたが、書籍の性質上、刊行後は情報が徐々に古くなっていきます」と告白している通り、すでに情報が古くなってしまった部分があることは否めない。 例えば、オミクロンに対応する改良型ワクチンの追加接種について「オミクロンは免疫回避方の変異株であるため、開発するのが難しい」という理由で、市場に出回るには時間がかかるとの記述があるが、ファイザー社とモデルナ社のオミクロン対応ワクチンはすでに市場に投入されている。 従来型とBA.1との2価ワクチンが薬事承認されたのは、2022年9月12日のこと。次いで同年10月5日には従来型とBA.4-5との2価ワクチンが薬事承認されている。 本書が刊行されたのが同年の3月30日だから、刊行後半年で情報が古くなってしまっている。新型コロナをめぐる世の中の動きが、それだけめまぐるしく動いているということだろう。 というわけで、本書は刊行した時点で最新のデータをもとに執筆されていることは事実に違いないが、その取り扱いには多少の注意が必要のようだ。 私(内藤)は、コロナがアルファからベータ、ガンマ、そしてデルタへと変異した直後に罹患した。2021年8月10日のことで、日本の感染者数が100万人を超えたピークのころである(2022年11月時点での感染者は342万人)。 3日間続く高熱と味覚障害(口にするものすべてが正露丸風味になる)を経験し、もう2度とこんな目には遭いたくないと思っている。 だが、コロナはオミクロンに姿を変え、いまだ私たちの日常に居座り続けている以上、ヤツらのことをもっとよく知り、知識武装しておくことが必要だ。この2冊はその重要なヒントを与えてくれたと思う。 『新型コロナの不安に答える』 著者:宮坂昌之 発行:講談社現代新書 ...

2022/11/25

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介護付き有料老人ホームとは│提供されるサービス・費用・入居条件などを解説

介護付き有料老人ホームは、介護スタッフが24時間常駐している介護施設。介護サービスや身の回りの世話を受けられます。 この記事では、介護付き有料老人ホームの種類及び入居のための条件や必要な費用、サービス内容などを詳しく説明しています。 https://youtu.be/oK_me_rA0MY 介護付き有料老人ホームの特徴 介護付き有料老人ホームとは、有料老人ホームのうち、都道府県または市町村から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設です。24時間介護スタッフが常駐し、介護や生活支援などは施設の職員により提供されます。 主に民間企業が運営しているため、サービスの内容や料金は施設ごとに異なります。また、入居基準も施設により異なり、自立している方から介護が必要な方まで幅広く受け入れている施設も。選択肢が幅広いため、自分に合った施設を選ぶことができます。 看取りまで対応している施設も多数あり、「終の棲家(ついのすみか)」を選ぶうえでも選択肢のひとつとなります。 全体の概要をまとめるとこのようになります。 費用相場 入居時費用 0~数千万円 月額利用料 15~30万円 入居条件 要介護度 自立~要介護5※1 認知症 対応可 看取り 対応可 入居のしやすさ ◯ ※施設の種類によって異なります。 特定施設入居者生活介護とは 特定施設入居者生活介護は、厚生労働省の定めた基準を満たす施設で受けられる介護保険サービスです。ケアマネジャーが作成したケアプランに基づき提供される食事や入浴・排泄など介助のほか、生活支援、機能回復のためのリハビリなどもおこなわれます。指定を受けてこのサービスを提供する施設は、一般的に「特定施設」の略称で呼ばれています。 介護付き有料老人ホームの種類と入居基準 介護付き有料老人ホームには「介護専用型」「混合型」「健康型」の3種類があり、それぞれ入居条件が異なります。 介護度 ...

2021/11/10

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グループホームとは|入居条件や費用、入居時に気をつけたいポイントを解説

認知症の方の介護は大変です。「そろそろ施設への入居を検討しよう」と思っても、認知症の症状があると、入居を断られてしまうのではと心配もあるでしょう。 グループホームは認知症高齢者のための介護施設です。住み慣れた地域で暮らし続けられる地域密着型サービスであり、正式な名称を「認知症対応型共同生活介護」といいます。 こちらの記事では、グループホームについて解説します。また、グループホームで受けられるサービスや費用、施設選びのポイントも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。 https://youtu.be/EofVO7MRRDM この記事を読めばこれがわかる! グループホームの詳細がわかる! グループホームを選ぶ際のポイントがわかる! グループホームへ入居する際の注意点がわかる! グループホームとは グループホームとは、認知症高齢者のための介護施設です。専門知識と技術をもったスタッフの援助を受けて、要支援以上の認知症高齢者が少人数で共同生活をおくります。 「ユニット」といわれる少人数のグループで生活し、入居者はそれぞれ家事などの役割分担をします。 調理や食事の支度、掃除や洗濯など入居者の能力に合った家事をして自分らしく共同生活を過ごすところが、ほかの介護施設や老人ホームとは異なるポイントです。 グループホームの目的は、認知症高齢者が安定した生活を現実化させること。そのために、ほかの利用者やスタッフと協力して生活に必要な家事を行うことで認知症症状の進行を防ぎ、できるだけ能力を維持するのです。 グループホームは少人数「ユニット」で生活 グループホームでは「ユニット」と呼ばれるグループごとに区切って共同生活を送るのが決まり。1ユニットにつき5人から9人、原則1施設につき原則2ユニットまでと制限されています。 少人数に制限する理由は、心穏やかに安定して過ごしやすい環境を整えるため。環境変化が少なく、同じグループメンバーで協力して共同生活することは、認知症の進行を防ぐことに繋がります。 認知症の方にとって新しく出会う人、新しく覚えることが難しいので、入居者やスタッフの入れ替わりが頻繁にある施設では認知症の高齢者は心が落ち着かず、ストレスを感じ生活しづらくなってしまいます。その結果、認知症症状を悪化させるだけでなく、共同生活を送る上でトラブルを起こすきっかけとなります。 慣れ親しんだ場所を離れて新しい生活をするのは認知症の方には特に心配が尽きないもの。その心配を軽減するため、より家庭にできるだけ近づけ、安心して暮らせるようにしています。 グループホームの入居条件 グループホームに入居できるのは医師から「認知症」と診断を受けている方で、一定の条件にあてはまる方に限ります。 原則65歳以上でかつ要支援2以上の認定を受けている方 医師から認知症の診断を受けている方 心身とも集団生活を送ることに支障のない方 グループホームと同一の市町村に住民票がある方 「心身とも集団生活を送ることに支障のない」という判断基準は施設によって異なります。入居を希望している施設がある場合には、施設のスタッフに相談しましょう。 また、生活保護を受けていてもグループホームに入ることは基本的には可能です。しかし、「生活保護法の指定を受けている施設に限られる」などの条件があるので、実際の入居に関しては、行政の生活支援担当窓口やケースワーカーに相談してみましょう。 グループホームから退去を迫られることもある!? グループホームを追い出される、つまり「強制退去」となることは可能性としてゼロではありません。一般的に、施設側は入居者がグループホームでの生活を続けられるように最大限の努力をします。それでも難しい場合は、本人やその家族へ退去を勧告します。「暴言や暴力などの迷惑行為が著しい場合」「継続的に医療が必要になった場合」「自傷行為が頻発する場合」etc。共同生活が難しくなった場合には追い出されてしまうこともあるのです グループホームで受けられるサービス グループホームで受けられるサービスは主に以下です。 生活支援 認知症ケア 医療体制 看取り それぞれ詳しく見てみましょう。 生活支援 グループホームでは以下の生活面でのサービスを受けられます。 食事提供 :◎ 生活相談 :◎ 食事介助 :◎ 排泄介助 :◎ 入浴介助 :◎ 掃除・洗濯:◯ リハビリ :△ レクリエーション:◎ 認知症を発症すると何もできなくなってしまうわけではなく、日常生活を送るだけなら問題がないことも多いです。 グループホームには認知症ケア専門スタッフが常駐しています。認知症進行を遅らせる目的で、入居者が専門スタッフの支援を受けながら入居者の能力(残存能力)に合った家事を役割分担して自分たち自身でおこないます。 食事の準備として買い出しから調理、配膳、後片付けまで、そして洗濯をして干すといった作業や掃除も、スタッフの介助を受けながら日常生活を送ります。 グループホームでは、入居者の能力(残存能力)に合った家事を役割分担して自分たち自身でおこなうことになります。 例えば、食事の準備として買い出しから調理、配膳、後片付けまで。また、そして洗濯をして、干すまで…など。そのために必要な支援を、認知症ケアに長けた専門スタッフから受けられるのが、グループホームの大きな特徴です。 グループホームは日中の時間帯は要介護入居者3人に対して1人以上のスタッフを配置する「3:1」基準が設けられています。施設規模によっては、付き添いやリハビリなどの個別対応が難しいので、入居を検討する際は施設に確認しましょう。 認知症ケア 施設内レクリエーションやリハビリのほかに、地域の方との交流を図るための活動の一環として地域のお祭りに参加や協力をしたり、地域の人と一緒に公園掃除などの活動を行う施設も増えてきました。 グループホームとして積み上げてきた認知症ケアの経験という強みを活かし、地域に向けた情報発信などのさまざまな活動が広がっています。 地域の方と交流する「認知症サロン」などを開催して施設外に居場所を作ったり、啓発活動として認知症サポーター養成講座を開いたりするなど、地域の人々との交流に重きを置くところが増えています。 顔の見える関係づくりをすることで地域の人に認知症について理解を深めてもらったり、在宅介護の認知症高齢者への相談支援につなげたり。 こうした活動は認知症ケアの拠点であるグループホームの社会的な価値の向上や、人とのつながりを通じて入所者の暮らしを豊かにする効果が期待できます。 医療体制 グループホームの入居条件として「身体症状が安定し集団生活を送ることに支障のない方」と定義しているように、施設に認知症高齢者専門スタッフは常駐していますが、看護師が常駐していたり、医療体制が整っているところはまだまだ少ないです。 しかし近年、高齢化が進む社会の中で、グループホームの入居者の状況も変わってきています。 現在は看護師の配置が義務付けられていないので、医療ケアが必要な人は入居が厳しい可能性があります。訪問看護ステーションと密に連携したり、提携した医療機関が施設が増えたりもしているので、医療体制について気になることがあれば、施設に直接問い合わせてみましょう。 看取り 超高齢社会でグループホームの入所者も高齢化が進み、「看取りサービス」の需要が増えてきました。 すべてのグループホームで看取りサービス対応しているわけではないので、体制が整っていないグループホームの多くは、医療ケアが必要な場合、提携医療施設や介護施設へ移ってもらう方針を採っています。 介護・医療体制の充実度は施設によってさまざまです。介護保険法の改正が2009年に行われ、看取りサービスに対応できるグループホームには「看取り介護加算」として介護サービスの追加料金を受け取れるようになりました。 看取りサービスに対応しているグループホームは昨今の状況を受け増加傾向にあります。パンフレットに「看取り介護加算」の金額が表記されているかがひとつの手がかりになります。 グループホームの設備 グループホームは一見、普通の民家のようで、家庭に近い雰囲気が特徴ですが、立地にも施設基準が設けられています。 施設内設備としては、ユニットごとに食堂、キッチン、共同リビング、トイレ、洗面設備、浴室、スプリンクラーなどの消防設備など入居者に必要な設備があり、異なるユニットとの共有は認められていません。 入居者の方がリラックスして生活できるように、一居室あたりの最低面積基準も設けられています。このようにグループホーム設立にあたっては一定の基準をクリアする必要があります。 立地 病院や入居型施設の敷地外に位置している利用者の家族や地域住民と交流ができる場所にある 定員 定員は5人以上9人以下1つの事業所に2つの共同生活住居を設けることもできる(ユニットは2つまで) 居室 1居室の定員は原則1人面積は収納設備等を除いて7.43㎡(約4.5帖)以上 共有設備 居室に近接して相互交流ができるリビングや食堂などの設備を設けること台所、トイレ、洗面、浴室は9名を上限とする生活単位(ユニット)毎に区分して配置 グループホームの費用 グループホーム入居を検討する際に必要なのが初期費用と月額費用です。 ここからは、グループホームの入居に必要な費用と、「初期費用」「月額費用」それぞれの内容について詳しく解説していきます。 ...

2021/11/15

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【動画でわかる】有料老人ホームとは?費用やサービス内容、特養との違いは

介護施設を探している中で「老人ホームにはいろいろな種類があるんだ。何が違うんだろう?」と疑問を感じることがあるかもしれません。 そこで今回は、名前に「老人ホーム」とつく施設の中でも、「有料老人ホーム」を中心に紹介。よく似ている「特別養護老人ホーム」との違いも見ていきます。 「老人ホームの種類が多すぎて訳がわからない」と思ったら、ぜひ参考にしてみてくださいね。 https://youtu.be/eMgjSeJPT8c 有料老人ホームの種類 有料老人ホームには、以下の3種類があります。 介護付き有料老人ホーム 住宅型有料老人ホーム 健康型有料老人ホーム この3種類の違いを以下にまとめています。 種類 介護付き有料老人ホーム ...

2021/10/28

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