家族の介護が必要になると心配なのが介護費用です。特に年金や貯蓄が少ない場合、親のお金だけで介護費用がまかなえるのか不安な方も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護保険サービスの自己負担割合や介護にかかる費用の目安を解説。介護費用を軽減する制度とその支給要件と申請方法も紹介します。
自分の将来の介護費用が心配という方も、ぜひ参考にしてください。
介護にかかる費用の大部分を占めるのが「介護保険サービス費」です。要介護度により上限額が決まるほか、所得などにより自己負担割合も変わります。まずは介護保険の仕組みを知り、介護費用の把握につなげましょう。
介護保険サービスの利用費は、利用者自身が負担する「自己負担」と、介護保険制度が負担する「介護給付」で支払います。このうち介護給付の半分は、40歳以上の方が納める介護保険料で、残りの半分は税金でまかなわれています。
自己負担は基本的には1割ですが、所得などの条件によっては2割または3割になることも。これは介護保険費用の増大が社会問題化し、一定以上の収入がある高齢者の自己負担額が引き上げられたことによります。
今後も自己負担額を増やすために法改正などが検討されています。収入によっては自己負担割合が変わることもあるので、制度の変更には注目しておきましょう。
自己負担額は、世帯人数と合計所得金額によって変わります。どのようなパターンがあるか具体的に見ていきましょう。
それでは、実際に介護が必要になるとどれくらいの費用がかかるのでしょうか。ここからは、在宅介護と施設介護、それぞれの費用の目安を紹介していきます。
生命保険文化センターがおこなった全国実態調査によると、在宅介護を始める際にかかる一時的な費用の平均は74万円、月額費用の平均は8.3万円となっています。
出典:「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」(公益財団法人 生命保険文化センター)
一時的にかかる費用には、自宅を介護に適した環境にするためのリフォーム費用や車椅子、介護用ベットといった介護用品の購入費用が含まれています。
出典:「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」(公益財団法人 生命保険文化センター)
また月額費用としては紙おむつなどの消耗品の購入や、デイサービスなどの外部サービスを利用した場合の費用などが挙げられます。
老人ホームには、国や自治体などが運営する「公的施設」と民間企業が運営する「民間施設」があります。次の表は、公的施設と民間施設の費用の相場です。
公的/民間 | 施設の種類 | 初期費用 | 月額費用 |
---|---|---|---|
民間 | 介護付き有料老人ホーム | 0~数千万円 | 15~30万円 |
住宅型有料老人ホーム | 0~数千万円 | 11~25万円 | |
サービス付き高齢者向け住宅 | 0~数十万円 | 11~25万円 | |
グループホーム | 0~数十万円 | 10~15万円 | |
公的 | ケアハウス | 0円~数十万円 | 6~17万円 |
特別養護老人ホーム | 0円 | 8~14万円 | |
介護老人保健施設 | 0円 | 8~14万円 | |
介護医療院 | 0円 | 10~20万円 |
老人ホームの費用には、契約時に支払う「初期費用」と毎月かかる「月額費用」があります。表中の月額費用は家賃・管理費・食費・水道光熱費などの最低限必要な費用のため、医療費や介護保険自己負担額、日用品や嗜好品購入費などは別途必要です。
表を見てわかる通り、公的施設の費用は民間に比べて安く、厚生年金を受給している方なら年金だけでの入居も不可能ではありません。ただし、公的施設は費用が安いことから待機期間が長い傾向にあり、すぐに入れるとは限らないことは理解しておきましょう。
在宅介護 | 特別養護老人ホーム (ユニット型個室) | 有料老人ホーム | |
---|---|---|---|
介護サービス費 | 27,048円 | 23,790円 | 20,220円 |
家賃 (居住費) | 0円 | 60,180円 | 115,000円 |
管理費 | 0円 | 0円 | 98,000円 |
食費 | 0円 | 43,350円 | 54,000円 |
その他 | 35,000円 | 10,000円 | 10,000円 |
合計 | 62,048円 | 137,320円 | 297,220円 |
なお、この表における在宅介護の費用には家賃・管理費・食費は含まれていません。これらは介護が必要になる前からかかっているので、対象外としています。ただし介護を始めるにあたって家をリフォームする場合はその分の支出は一時的な費用として追加します。
上記表によると、在宅介護にかかる費用は62,048円と最も安く、最も費用が高い介護付き有料老人ホームとの金額差は235,172円にものぼります。
在宅で介護をおこなう場合には家賃や管理費、食費などが追加でかからず費用を安く抑えられている一方で、施設入居の場合には、居住費や食費を別途支払う必要があるため費用が高くなっています。
また、施設を利用して自宅が空き家になる場合でも、家の維持管理費などは支払うことになるために二重で居住費用がかかることもあります。
受け取れる年金額は国民年金のみで約6万円程、厚生年金の場合は約21万円程が支給されています。
以下では、令和4年度の月額の年金金額をまとめました。
厚生年金 | 国民年金 | |
---|---|---|
令和4年度 |
出典:「令和4年4月分からの年金額」(日本年金機構)
すでに年金を受給している方で「いくら年金をもらってるかわからない」という場合は、銀行口座の確認をしましょう。年金は2ヵ月に一度支給されるので、その金額を1/2にすることで月額の金額を把握することができます。
年金受給額は人によって異なり、年金だけでは介護費用が足りないという方も少なくありません。そこで、介護の費用負担を軽減するために、次のような制度があります。
それでは、それぞれの制度について詳しく見ていきましょう。
家族の介護のために介護休業を取得すると、雇用保険から介護休業給付を受けられます。休業中も給与の約67%を受け取れるので、介護のために仕事を休まざるを得ない雇用保険加入者はぜひ活用しましょう。
給付額は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」で計算します。ただし、1つの支給単位期間(介護休業開始日から起算した1ヵ月ごとの期間)で休業開始時賃金日額×支給日数の80%以上の賃金が支払われた場合、給付額は0円です。
また、80%未満でも収入によっては減額される場合があります。
介護休業給付の受給には、雇用保険の被保険者期間が12ヵ月あることに加え、以下の要件を満たす必要があります。
要件にあてはまる場合、対象となる1人の家族に対して93日まで支給されます。通算93日以内であれば、3回までは分けての取得も可能です。
介護休業給付を受けるには、介護休業修了の翌日から2ヵ月後の月末までにハローワークで申請します。
介護が必要になっても自宅で安全に生活し続けられるよう次のようなリフォームをおこなうと、介護保険から居宅介護住宅改修費が支給されます。
新築工事は対象外のため、支給を受けるには完成後に改めて設置工事をおこないます。賃貸住宅に居住している場合も家主の承諾が得られれば改修できますが、転居や退去に伴う原状回復費用は全額自己負担です。
支給限度基準額は要介護度や工事の内容に関わらず20万円です。受け取れる金額は介護保険の自己負担割合によって異なり、たとえば自己負担割合が1割の方が上限の20万円を超えるリフォーム工事をおこなった場合、支給額は自己負担額の2万円を除いた18万円です。
居宅介護住宅改修費の支給要件は次の通りです。
引っ越しなどで住所が変わった場合や要介護度が3段階以上上がった場合は上限額がリセットされ、再度利用可能になります。また、1回の工事で上限に達しなかった場合、残りの金額は次回以降の改修時に利用できます。
自治体への申請は、工事前の「事前申請」と工事後の「事後申請」が必要です。居宅介護住宅改修費の支給を受けるには、まずはリフォームしたい旨担当ケアマネジャーに相談しましょう。
なお、居宅介護住宅改修費は、全額を支払ったのち申請後に払い戻しを受ける「償還払い」が原則です。
ただし、自治体によっては施工業者に自己負担額のみを支払い、残りは自治体から直接支払う「受領委任払い」を認めていることもあります。詳しくは担当ケアマネジャーにお問い合わせください。
介護保険の福祉用具は、自立した日常生活を支援して家族の負担を軽減するためのものです。レンタルが基本ですが、再利用に抵抗があるものや使用によって品質が劣化するものには福祉用具購入費が支給されます。
対象は以下の品目で、これらは「特定福祉用具」と呼ばれます。
福祉用具購入費の支給限度基準額は、要介護度に関わらず4月から翌年3月の1年間で10万円です。例えば、自己負担割合1割の人が10万円の特定福祉用具を購入した場合、自己負担額の1万円を除いた9万円が支給額されます。
福祉用具購入費の支給要件は、要支援・要介護の認定を受けていることです。なお、要介護の方は「特定福祉用具販売」要支援の方は「特定介護予防福祉用具販売」と名称が異なりますが、対象品目や支給限度基準額は同じです。
利用するには、まずは担当のケアマネジャーに相談し、紹介された特定福祉用具販売事業所で商品を購入します。購入後に必要書類を揃えて自治体に申請すると、後日振り込みで支給されます。
福祉用具購入費も償還払いが原則ですが、自治体によっては受領委任払いを利用できます。受領委任払いを希望する場合は、福祉用具の選定と合わせて担当ケアマネジャーに相談しましょう。
家族が要介護4や5であっても、「できるだけ家族だけで介護したい」「本人が拒否するため介護サービスを利用できない」「居住地域で介護サービスが整っていない」などの理由で家族だけで介護しているケースもあります。
家族介護慰労金は、このような介護サービスを利用せず自宅で介護している方に対し、ねぎらいと経済的な負担軽減のために支給されます。
支給金額は自治体により異なりますが、一般的には年間10~12万円程度です。
家族介護慰労金は、介護保険や医療保険などの税金の支払いを滞納していると支給されません。また、自治体ごとにいくつかの要件があり、例えば東京の新宿区では以下の項目を満たす必要があります。
支給金額や支給要件、申請の流れは、自治体ごとに異なります。一般的には自治体窓口で申請し、支給要件を満たしているかの確認と自治体職員による実態調査がおこなわれ、支給が認められると指定した口座に振り込まれます。
高額介護サービス費は、1ヵ月に支払った介護保険サービスの自己負担額が限度額を超えると還付される制度で、介護保険サービスのうち「居宅サービス」「介護施設サービス」「地域密着型サービス」が対象です。
支給されるのは自己負担限度額を超えた金額で、自己負担額は所得が少ない人ほど低く設定されています。例えば世帯全員が市町村民税非課税の場合の限度額は、世帯で24,600円です。
高額介護サービス費の支給要件は、自治体から要介護・要支援の認定を受けており、1ヵ月あたりの自己負担額が上限を超えていることです。ただし、介護保険料を滞納していると支給をされません。
高額介護サービス費の支給対象になると、自治体から申請書が届くのが一般的です。受け取ったら必要事項を記入して郵送するか、自治体の窓口に提出します。
一度申請をおこなえば、次回以降も上限額を超えると自動的に支給されます。なお、申請期限は介護保険サービスを利用した月の翌月1日から2年間です。
高額介護合算療養費制度は、1年間に支払った医療保険と介護保険の自己負担が高額になったときに利用できる制度です。高額な医療費負担を軽減する「高額療養費制度」と、高額な介護費用を軽減する「高額介護サービス費制度」を利用し、さらに自己負担額が上限を超えた場合に支給されます。
高額介護合算療養費制度の対象は、医療費は健康保険と、介護費用は高額介護サービス費と同様です。このため、入院時の食事代や差額ベッド代、居住費や日常生活費、介護保険の支給限度額を超えた利用者負担分などは支給の対象外です。
支給されるのは自己負担限度額を超えた金額です。ただし、限度額を超えた金額が500円未満の場合は支給されません。限度額は年齢や所得により細かく区分けされており。例えば70歳以上で住民税非課税世帯(区分2)の場合は31万円です。
高額介護合算療養費制度を利用できるのは、8月から翌年7月までの1年間に支払った医療保険と介護保険の自己負担額が限度額を超える世帯です。医療保険と介護保険両方の利用が必要で、どちらかだけでは対象になりません。
申請方法は加入している公的医療保険によって異なります。国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している方は、支給対象になると自治体から申請書が届きます。受け取ったら必要事項を記入し、必要書類とともに郵送するか自治体の窓口に提出します。
協会けんぽや健康保険組合などの被用者保険に加入している方は、勤務先を通して申請します。自分で計算して合計金額が自己負担の上限を上回る場合は、自治体に「支給申請書兼自己負担額証明書交付申請書」を提出し、届いた「介護自己負担額証明書」に「介護自己負担額証明書」を添えて被用者保険に提出します。
医療費控除は、医療費が家計に与える負担を軽くするための制度で、1年間で支払った医療費が一定額を超えた場合に手続きすると「所得控除」を受けられます。
入院や通院費用だけでなく、介護サービスのうち訪問看護や訪問リハビリテーションなどの医療系サービスも合算できます。また、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの施設サービス利用費も対象です(特別養護老人ホームは支払った額の1/2)。
医療費控除額は「年間の医療費から10万円または所得の5%(どちらか安い方)を引いた金額」で、上限は200万円です。この金額がそのまま還付されるのではなく、税額を計算し直すことで所得税は納めた税金の一部が戻り、住民税は翌年の税額が安くなります。
医療費控除は、本人および同一生計の親族が1月から12月までの1年間に支払った医療費が10万円または所得の5%を超えている方が対象です。税金を安くする制度のため、所得税や住民税が非課税の方は利用できません。
医療費控除を受けるには、会社員や年金受給者も確定申告をおこないます。確定申告の時期は対象期間の翌年の2月16日~3月15日なので、もらった領収書はしっかり保管し、忘れず申告しましょう。
在宅介護にかかる費用の平均は、介護の開始時に74万円程度、それ以降毎月8.3万円程度です。
施設介護は入居先により大きな差があります。例えば、特別養護老人ホームは初期費用は0円、月額費用は8~14万円程度、介護付き有料老人ホームは初期費用0~数千万円、月額費用15~30万円程度です。
介護費用は要介護度や利用するサービスにより変わるうえ、そのほかに日常生活に必要な費用などもかかります。予算を組むときは、ある程度余裕を持たせておきましょう。
年金受給額の平均は、国民年金のみで6万円、厚生年金で21万円程度です。実際の金額は加入している年金や在職中の収入などで変わるため、これから年金を受け取る方は、ねんきん定期便などで確認しましょう。
すでに年金を受け取っている方で「いくらもらっているかわからない」という場合は、銀行通帳などで確認します。なお、年金の支給は2ヵ月ごとのため、支給額を2で割ることで月額がわかります。
介護費用の軽減に利用できる制度には、「介護休業給付」「居宅介護住宅改修費」「福祉用具購入費」「家族介護慰労金」「高額介護サービス費」「高額介護合算療養費制度」「医療費控除」があります。
それぞれ支給要件があり誰でも利用できるわけではありませんが、対象であれば活用して介護費用の軽減に役立てましょう。
介護施設への入居について、地域に特化した専門相談員が電話・WEB・対面などさまざまな方法でアドバイス。東証プライム上場の鎌倉新書の100%子会社である株式会社エイジプラスが運営する信頼のサービスです。