特別養護老人ホームの中でも、近年注目されている新型特養(ユニット型特養)。従来からの特養とはどのような違いがあるのでしょうか。
この記事では、ユニット型特養と従来型特養を比較するほか、ユニット型特養で提供されるサービスやメリット・デメリットなどをわかりやすく解説しています。
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ユニット型特養は新しいケアスタイルの特別養護老人ホームで、「新型特養」とも呼ばれています。ユニット型特養がどのような施設なのか、特徴から見ていきましょう。
ユニット型特養では、「ユニット」という10人程度の少人数をグループごとに介護する「ユニットケア」をおこないます。ユニットごとに専任の介護スタッフが配置されるため、入居者一人ひとりに合わせたきめ細やかな介護サービスが提供できます。
また、共有のリビングスペースを取り囲む形で個室の居室が配置されているのも特徴です。この配置により、ほかの入居者と交流しやすく、孤立を防ぐことができます。
ユニットケアはスタッフの目が行き届きやすくアットホームな環境で生活できることから、特に介護度の高い人や認知症の人に適したケアスタイルとして注目されています。
特別養護老人ホームのケアスタイルには、ユニット型のほかに「従来型」があります。
この2つの最も大きな違いは居室で、従来型は4人部屋が主流なのに対し、ユニット型は全室個室です。個室化により従来型では難しかった入居者のプライバシーの保護が可能になりました。
なお、ユニット型個室の面積は以前は13.2㎡でしたが、厚生労働省が2018年9月に出した通知により従来型の個室と同様の10.65㎡に見直されました。
それでは、従来型とユニット型の居室を次のイラストで見てみましょう。
1室を1人で利用するタイプの居室。以前は単に「個室」と称していましたが、ユニット型個室が登場したことによって「従来型個室」と称することに。
1室に対して複数のベッドが配置されているタイプで、現在の多床室は4人部屋となっているケースが多いようです。プライバシーなどの観点から、ユニット型個室に切り替える施設が増えてきています。
基本は1室1ベッドの個室。「ユニット」は、10人以下でロビー・ダイニング・簡易キッチン・浴室・トイレを共有して共同生活を送る小さなグループを指します。
1ユニットごとに専任の施設スタッフが担当することになっています。
ユニット型個室と異なる点は、多床室を改装・分割して作られた個室という点。施設によっては完全な個室になっていない場合もあるため、入居前にしっかりと確認しておく必要があります。
ユニット型特養の入居基準は、従来型と同じです。具体的には次に該当する人が入居可能です。
特別養護老人ホームは費用負担の少なさから人気があり、上記の条件を満たしていても入居待ちが必要なことも多いです。
厚生労働省の調査によると、2019年4月時点の全国の待機高齢者数は29.2万人と以前よりは減少傾向にあるものの、まだ全国的に待機している人が多数いるのが現状です。
ただし、ユニット型特養は従来型に比べると費用がやや高いことから、待ち時間は比較的短い傾向にあります。
ユニット型特養の月額利用料は約13万円程度で、従来型多床室の約9万円と比べると4万円ほどの差があります。
ユニット型特養は個室のため、賃料が高いことや光熱費などの負担が大きくなることが費用に差が生まれる主な理由です。また、従来型特養からユニット型に改築する場合、施設側に費用負担が生じることも影響しています。
費用は高くなりますが、個室によりプライバシーを守れたり、一人ひとりに合わせたきめ細やかな介護サービスを受けられるなどのメリットもあります。このため、費用だけでなくサービス面も比較して施設を選ぶと良いでしょう。
参考:「介護報酬の算定構造」(厚生労働省)
要介護度 | 合計 | 内訳 | ||
---|---|---|---|---|
介護保険 自己負担額 |
賃料 | 食費 | ||
要介護1 | 86,670円 | 17,670円 | 25,650円 | 43,350円 |
要介護2 | 88,770円 | 19,770円 | ||
要介護3 | 90,960円 | 21,960円 | ||
要介護4 | 93,060円 | 24,060円 | ||
要介護5 | 95,130円 | 26,130円 |
出典:「介護報酬の算定構造」(厚生労働省)
要介護度 | 合計 | 内訳 | ||
---|---|---|---|---|
介護保険 自己負担額 |
賃料 | 食費 | ||
要介護1 | 123,630円 | 20,100円 | 60,180円 | 43,350円 |
要介護2 | 125,730円 | 22,200円 | ||
要介護3 | 127,980円 | 24,450円 | ||
要介護4 | 130,110円 | 26,580円 | ||
要介護5 | 132,180円 | 28,650円 |
参考:「介護報酬の算定構造」(厚生労働省)
要介護度 | 合計 | 内訳 | ||
---|---|---|---|---|
介護保険 自己負担額 |
賃料 | 食費 | ||
要介護1 | 112,650円 | 20,100円 | 49,200円 | 43,350円 |
要介護2 | 114,750円 | 22,200円 | ||
要介護3 | 117,000円 | 24,450円 | ||
要介護4 | 119,130円 | 26,580円 | ||
要介護5 | 121,200円 | 28,650円 |
参考:「介護報酬の算定構造」(厚生労働省)
※特養の入所条件は要介護3以上ですが、特例で要介護1、2の方の入所も認められているため要介護1から記載しています。
ユニット型特養では、生活支援や介護、医療的ケアなど従来型とほぼ同様のサービスを受けられます。一方、大きな違いはこれらのサービスをプライバシーを保ちながら受けられるという点です。
それでは、どのようなサービスが受けられるのか見ていきましょう。
特別養護老人ホームでは、栄養士が作成した献立をもとに食事が作られます。栄養バランスが整っているだけでなく、入居者の持病やそのときどきの健康状態、好みなどにも配慮されます。
また、咀嚼・嚥下能力に応じて、硬い食材をミキサーにかけたり汁物にとろみをつけるなどの対応も可能です。
さらに、毎日同じ時間に食事をすることで、生活のリズムが整うというメリットもあります。
特別養護老人ホームでは、共有スペースはもちろん居室内の掃除も、施設のスタッフや委託業者によりおこなわれます。洗濯物も、外部のクリーニングに出す必要のあるものを除き施設内で洗濯してもらえます。
日常生活のための能力や身体機能の維持のため、スタッフの援助を受けながら自分で掃除や洗濯ができる場合もあります。このような「自立支援」を希望する場合は施設担当者に相談してみましょう。
多くの特別養護老人ホームでは週2回の入浴機会が設けられ、スタッフの介助により安全に入浴できます。健康上の利用等で入浴できない場合は、清拭などで体を清潔に保ちます。
施設によっては寝たままの姿勢で入浴できる「機械浴槽」が設置され、寝たきりの入居者でも定期的な入浴が可能です。
一人で排泄するのが難しい入居者は、介護スタッフによる排泄介助が受けられます。排泄を介助することで、清潔を保つとともに感染症の予防にもなります。
尿意や便意を感じにくくなっている場合は排泄の間隔を考慮してトイレに誘導したり、寝たきりなどトイレでの排泄が困難な人には尿器やおむつで対応するなど、入居者ごとの状態に合わせた介助がおこなわれます。
特別養護老人ホームでは、入居者に楽しんでもらうためだけでなく身体機能や認知機能低下防止も目的として、手芸やゲーム・カラオケなどのさまざまなレクリエーションがおこなわれます。
また、誕生日会のほかクリスマスやお花見・七夕といった季節のイベントが毎月のように開催されたり、美術館やショッピングなどで外出することも。
さらに、外部から演奏者を招いて音楽会を開いたり、近隣の幼稚園や小学校と提携して子どもと触れ合うイベントをおこなっている施設もあります。
特別養護老人ホームでは、食事や排泄などの日常的な動作が自分自身でできるよう「自立支援」を目的とした「生活リハビリ」を中心にリハビリメニューが組まれます。
集団での体操のほか、ゲームや運動などがレクリエーションの一環として提供されます。
特別養護老人ホームには最低でも1人以上の看護師が配置され、日々の健康管理や服薬管理がおこなわれます。看護師は、介護スタッフとともに入所者の体調の変化をチェックし、医療機関での診察が必要な場合には受診のサポートもしてくれます。
施設によっては、胃ろうなどの経管栄養法や、人工肛門・インスリン療法・人工透析・疼痛管理などの医療ケアが受けられることも。対応できる施設は限定されるため、これらのケアが必要な場合は施設の担当者に確認しましょう。
従来特別養護老人ホームでは、入居者の急変時は救急車を呼んで搬送するという対応が主流でした。しかし現在では、看取りに対応できる施設も多くなっています。
看取り介護加算の算定が認められている施設では、医師や看護・介護スタッフが連携して終末期に適したケアが施されます。
ただし設備面での条件もあるなど、すべての施設が看取りに対応しているわけではありません。施設での看取りを希望する場合は、看取りの実施状況について事前に確認しましょう。
厚生労働省の定める特別養護老人ホームの人員配置基準では、入居者3人に対して看護師または介護スタッフを一人配置することになっています。
これに加えてユニット型特養では以下の基準も適用されるため、各ユニットに必ず専任スタッフが配置されることになります。
ここでユニット型特養のメリットをまとめて見てみましょう。
ユニット型特養の居室は全て個室のため、入居者一人ひとりの状況に合わせた個別ケアが可能というメリットがあります。また、プライバシーが守られる上、入居者ごとの生活リズムや性格を尊重した生活をサポートを受けられます。
一方で、共有のリビングスペースを囲んで個室が配置されているため、ほかの入居者とコミュニケーションを取りやすいのもメリットです。部屋を一歩出ればスタッフやほかの入居者と交流できるため、寂しさを感じにくく、ストレスも軽減できます。
ユニット型特養は、平成14年度に施設整備補助基準制度に変更があったことでサービスが開始されました。施設の設計や間取りが従来の基準と異なるため、建物はこれ以降に建てられたケースが多いです。
設備も新しいことが多く、従来型特養に比べて快適な生活空間が期待できます。
居室が多床室の場合、ほかの入居者に気を遣って訪問を遠慮してしまうこともあります。ユニット型特養なら全室個室なので、ほかの入居者に気兼ねなく訪問できます。このため、入居した家族を頻繁に訪ねたい場合にも、ユニット型特養は適しています。
ユニット型特養では、少人数のグループごとに少ないスタッフで介護をおこないます。また、入居者には専任の介護スタッフが配属されます。これにより良好な関係を構築しやすく、一人ひとりに合わせた手厚い介護が期待できます。
また、入居者との良好な関係は介護スタッフにとってもメリットです。働きやすい職場で定着率が高いため、スタッフが頻繁に変わる心配が少ないのも魅力です。
ユニット型特養への入居を検討する際は、メリットだけでなくデメリットもしっかり確認しましょう。
繰り返しになりますが、ユニット型特養は従来型に比べて1カ月あたり4万円程度費用が多くかかります。個室のため賃料が高くなるとともに、光熱費などもやや割高です。
高齢者は収入が限られているため、ユニット型の割高な費用はデメリットと言えるでしょう。
ユニット型特養は従来型に比べて入居人数が少ないため、入居者同士の距離が近く、関係がこじれると修復が難しいことも。人間関係のトラブルが原因で、退去を余儀なくされるケースもあります。
ユニット型特養は人気が高く、希望した施設にすぐ入居できるとは限りません。入居待ちだった場合に備え、次に挙げる対策も検討しましょう。
入居待ちの期間があまり長くならないようであれば、数日から1週間程度の短期で入所できる「ショートステイ」を利用して空きを待つのがおすすめです。ショートステイを定期的に利用することで、家族の介護負担を軽減できます。
地域包括支援センターでは在宅介護支援のほか、介護施設探しのサポートもおこなっています。ほかのユニット型特養を探したいときは、地域包括支援センターに相談してみましょう。
入居希望者に合った施設を見つけやすい上、地域包括支援センターのネットワークを使って空きのあるユニット型特養を見つけられる場合もあります。
できるだけ早い入居を希望する場合は、有料老人ホームへの入居も検討してみましょう。
有料老人ホームは、24時間介護スタッフが常駐し、介護や身の回りの世話を受けられる施設です。ユニット型特養に比べると費用は高い傾向にありますが、一時金が不要など初期費用を抑えて入居できる施設もあります。
このような有料老人ホームに一旦入居し、ユニット型特養が空くのを待つのもひとつの手です。
ユニット型特養で提供するユニットケアは、プライバシーを守りながらきめ細かいケアができるため、現在、国と厚生労働省が積極的に推進しています。
しかし、施設の改修・建て替え費用が高額になることから、全国の特養でユニットケアをおこなっているのは約3割程度と言われています。
今後はその数が増えていくことが予想されるため、入居先を選ぶ際はユニット型特養を選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。
ユニット型特養は、「ユニット」という10人程度の少人数をグループごとに介護する「ユニットケア」をおこないます。共有のリビングスペースを取り囲む形で個室が配置されており、ほかの入居者と交流しやすく、孤立を防ぐこともできます。
ユニットケアはスタッフの目が行き届きやすく、特に介護度の高い人や認知症の人に適したケアスタイルとして注目されています。
ユニット型特養の月額利用料は約13万円程度で、従来型多床室の約9万円と比べると4万円ほどの差があります。ユニット型特養は個室のため、賃料が高いことや光熱費などの負担が大きいことが費用に差が生まれる主な理由です。
厚生労働省の定める特別養護老人ホームの人員配置基準では、入居者3人に対して看護師または介護スタッフを一人配置することが義務付けられています。
これに加えてユニット型特養では、「昼間は、1ユニットごとに常時一人以上の介護または看護スタッフを配置する」「夜間は、2ユニットごとに一人以上の介護または看護スタッフを配置する」「ユニットごとに常勤のユニットリーダーを配置する」という基準も適用され、従来型特養と比較すると非常に手厚いです。
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