“幸齢社会”の実現へ。「小規模多機能」が認知症介護に悩める人の救世主となるか!?

“幸齢社会”の実現へ。「小規模多機能」が認知症介護に悩める人の救世主となるか!?

更新日 2023/10/20

政府が「新たな国家プロジェクト」として、認知症への対策を打ち出すことを表明。対策を立てるために「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」という会議を開催し、認知症当事者やその家族、有識者などと意見を交わしました。

実際に介護が始まると、介護と仕事の両立に悩む人が多くいます。そこで、『幸齢社会』実現会議に参加した、小規模多機能型居宅介護「ひつじ雲」の理事長は、小規模多機能型居宅介護の認知度向上と事業所の増加を提案しています。

小規模多機能型居宅介護とは、通い・宿泊・訪問の介護サービスが一貫して受けられるもの。夜間の訪問介護も対応できるなど、柔軟なケアを提供し、働きながら介護する家族や一人暮らしの認知症高齢者が使いやすい介護サービスです。この小規模多機能型居宅介護が増えることで、介護をする家族が仕事との両立がしやすくなるのではないでしょうか?

「『幸齢社会』実現会議」とは

政府が「新たな国家プロジェクト」として、認知症対策に注力していくことを表明。その具体的な方策を話し合う「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」の、第1回が9月27日に、第2回が10月12日に開催されました。

この会議は、認知症の人も含めたすべての国民が自分の個性と能力を発揮できる社会の実現を目的としたもの。大きく分けて「認知症理解の促進」「介護サービスなどの支援体制の整備」「認知症研究の促進」を中心に施策を打ち出していくとのことです。

高齢者の5人に1人が認知症に

そもそも政府が認知症の対策に注力し始めた背景には、高齢化による認知症患者の増加があります。

内閣府の『高齢社会白書』では、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるという推計が出ています。認知症の問題は決して他人事ではなく、自分自身や家族が発症するなど、すでに身近な問題になっているのです。

私たちが求める「幸齢社会」とは

私たちが本当に求める「幸齢社会」とはどんなものなのでしょうか?

幸齢社会を「認知症の人も含めたすべての国民が自分の個性と能力を発揮できる社会」と定義すると、認知症介護における心配事や不安点を解決することで、認知症の人やその家族も自分の個性や能力を発揮できる社会に近づけるのではないでしょうか。

では、現在、認知症介護で問題になっているのはどのようなことなのでしょうか。

もし、親が認知症になったらどんなことが起こる?

自分の親が認知症になったとき、もしくは認知症が進行して介護が必要になったとき、以下のようなことが頭をよぎるのではないでしょうか。

  • 親が何もできなくなってしまうのでは
  • 仕事と介護の両立はできるのだろうか
  • 自宅が狭いから呼び寄せたくてもできない
  • 徘徊して事故にあったりするかもしれない
  • 一人暮らしで火事を起こしたらどうしよう

特に、働き盛りの世代の親が認知症になったとき、「介護と仕事の両立ができるのか」という不安はかなり大きいものでしょう。

不安なく介護と仕事の両立ができ、認知症の親が一人暮らしをしていても、子どもが安心して生活できる…こういった社会が「幸齢社会」にかなり近いと言えそうです。

政府の優先施策とのズレ

認知症介護には前述のような問題がある一方で、第2回の「幸齢社会」実現会議では「緊急的に対応すべき認知症関連・『幸齢社会』実現に向けた施策」が発表されました。つまり、政府として優先して取り組む施策が発表されたのです。

その内容は以下の通りです。

  1. 「共⽣社会の実現を推進するための認知症基本法」の施⾏準備に向けた都道府県・市町村の取組⽀援
  2. 認知症治療の新時代を踏まえた早期発⾒・早期介⼊、検査・医療提供体制の整備
  3. 「認知症・脳神経疾患研究開発イニシアティブ」の早期着⼿
  4. 独居⾼齢者を含めた⾼齢者等の⽣活上の課題への対応
  5. ⾼齢者などの消費者被害の防⽌

参考:「緊急的に対応すべき認知症関連・「幸齢社会」実現に向けた施策」(首相官邸)

上記の施策からもわかるように、緊急に対応する施策として介護をする家族への支援が明示されていません。特に、介護と仕事の両立について積極的な支援はなく、各自治体の取り組みに任せる姿勢です。

もちろん、認知症治療の研究を推進することは重要です。しかし、認知症の人とその家族が今抱えている問題に注力しないのでは、「幸齢社会」の実現は遠いのではないでしょうか。

認知度の低い「小規模多機能型居宅介護」にスポットライトを

第1回「『幸齢社会』実現会議」では、小規模多機能型居宅介護「ひつじ雲」の柴田理事長が以下の提案をし、小規模多機能型居宅介護が認知症介護の課題を解決する切り札になる、と述べました。

  • 小規模多機能型居宅介護の認知度の向上、利用促進
  • 自治体主体での小規模多機能型居宅介護の設置

小規模多機能型居宅介護とは

小規模多機能型居宅介護とは、「通い(デイサービス)」「宿泊(ショートステイ)」「訪問(訪問介護)」の3つの介護サービスをひとつの事業所で一貫して提供するサービス。24時間365日、回数の制限なく利用できることが特徴で、特に夜間帯に排泄介助や見守りが必要な人に便利なサービスです。

また、3つのサービスを同じスタッフから受けられるため、顔なじみのスタッフからケアを受けられるのも特徴。人の顔を覚えるのが苦手で環境の変化によって不安になりやすい認知症の人も、見知った顔のスタッフからケアを受けられて安心できるのが魅力です。

認知症が進行すると、昼夜問わず見守りが必要になることがあるため、家族だけでの介護には限界があります。そのうえ、仕事と両立するとなるとかなり厳しいでしょう。

そこで、小規模多機能型居宅介護が24時間365日の切れ目のないサービスを提供することで現在の認知症介護の課題を解決できるのでは、と柴田理事長は述べています。

小規模多機能型居宅介護の課題

柴田理事長は、小規模多機能型居宅介護には以下のような課題があると言います。

  • 名前やサービス内容の認知度が低い
  • ケアマネジャーからのサービス利用の提案が少ない
  • 利用可能地域が限られている

名前やサービス内容の認知度が低い

「通所介護=デイサービス」「短期入所生活介護=ショートステイ」のような、わかりやすい通称が小規模多機能型居宅介護にはなく、覚えにくい名称です。さらに「小規模多機能型居宅介護」という名称だけでサービス内容がイメージしづらいのも認知度が低い理由のひとつでしょう。

ケアマネジャーからのサービス利用の提案が少ない

小規模多機能型居宅介護を利用する際は、これまでの担当ケアマネジャーから利用する小規模多機能型居宅介護のケアマネジャーに変更する必要があります。これまで担当していたケアマネジャーにとっては「お客さんが減る」ことになるので、ケアマネジャーからのサービス利用の提案が少ないそうです。

ほとんどの人が、担当ケアマネジャーから提案を受けて介護サービスの利用を開始しているため、ケアマネジャーから小規模多機能型居宅介護の提案を受けなければ、その存在すら知らずに終わってしまうのです。

利用可能地域が限られている

小規模多機能型居宅介護は地域密着型サービス。地域密着型サービスはその事業所がある市区町村の住民しか利用できないため、多くの人が小規模多機能型居宅介護を利用するには事業所数の増加が喫緊の課題なのです。

働きながら認知症の家族を介護をする人にとって、介護と仕事の両立はかなり差し迫った問題です。しかし、今回の「幸齢社会」実現会議では認知症の人を介護する家族への支援は後回しにされている印象が拭えません。

”5人に1人が認知症”という時代が迫っている今だからこそ、小規模多機能型居宅介護の拡大のような、認知症の人やその家族の問題に直結する課題を優先して解決する必要があるのではないでしょうか。

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