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日本の高齢者の20%近くが認知症を発症しており、世界的に見ても患者数は増加することが予想されています。そのため、世界中で認知症の薬の研究がおこなわれていますが、根本的な治療薬がまだないのが現状です。 そんな状況の中、認知症の薬を一から開発するのではなく、既存の薬を認知症薬に転用しようとする試みがおこなわれています。 今回、認知症薬となる可能性が示唆されたのは、勃起不全薬として利用されている「バイアグラ」です。この薬を服薬している人は、そうでない人に比べてアルツハイマー型認知症の発症率が低いことがわかりました。 1600種類以上の薬からしぼりこむ 勃起不全薬のバイアグラがアルツハイマー型認知症に有効である可能性が、アメリカの科学雑誌で発表されました。 ちなみにアルツハイマー型認知症は、脳内で特殊なタンパク質が蓄積して塊になってしまい、神経細胞を損傷させることで起こるとされています。 今回の研究では、まずアルツハイマー型認知症の発症に関連しそうな既存薬1600種類以上を選定。その中から実際に効果があると思われるものを絞り込んでいきました。その結果、勃起不全薬として利用されているバイアグラが最有力候補に残ったそうです。 続いて研究チームは、700万人以上のアメリカ人の保険請求データを分析。バイアグラを服用している人はそうでない人に比べて、6年間のアルツハイマー型認知症の発症リスクが約70%低かったそうです。 特に、すでに認知症のリスクを高める要因になることがわかっている糖尿病・高血圧・心臓病の人は、他の人よりもさらにアルツハイマー型認知症のリスクが低かったそうです。 そしてこれらデータをもとに、アルツハイマー型認知症の人の脳細胞を用いた実験をおこないました。その結果、神経細胞の成長が促進されてタンパク質が塊になるのを阻害し、認知症リスクを下げることがわかりました。 新薬開発だけでない別のアプローチ 今回発表された研究は、既存薬からアルツハイマー型認知症に効果があるものを発見する取り組みでした。 ただ今回の研究によって、バイアグラがアルツハイマー型認知症に効くと確定したわけではないとのことです。 研究チームは「バイアグラの使用とアルツハイマー型認知症リスクの低下の関係を示したにすぎない」とコメント。今後、さらに詳細な試験をおこなっていくそうです。 薬の承認のための厳しい臨床試験が必要なのは、新薬でも既存薬を別の病気の治療薬に転用する場合でも変わりません。 しかし、一から開発するよりはコストや時間がかからないので、一刻も早く認知症薬としての実用化が待たれますね。
2022/02/03
国内で600万人以上の患者がいる認知症。しかし、根本的な治療法が確立していないのが現状です。しかも今回、注目されていたアルツハイマー型認知症の新薬「アデュカヌマブ」の承認が見送りになりました。 理由は「現時点のデータから有効性を判断することは困難」というもの。厚生労働省は、追加のデータの提出を求めています。しかし、追加の臨床試験をするとなると、さらに時間がかかるそう。そのため承認には、あと数年はかかる見通しとなっています。 新薬承認には時間がかかる見込み 昨年12月22日、エーザイとアメリカの製薬会社が共同開発していた「アデュカヌマブ」の承認が見送りとなりました。 この新薬は、アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβ(ベータ)が、脳内で固まることを抑える効果があります。アミロイドβは特殊なタンパク質です。これが脳の中で異常な塊を作ることで神経細胞を傷つけるため、認知機能に影響を与えるとされています。 今回、新薬が承認されなかった理由は、2つの臨床試験の内の1つについては認知症の症状を抑える効果があったものの、もう1つの試験では効果が確認できなかったため。そのため、追加の試験をおこない、データを提出することを厚生労働省が求めています。 追加試験には数年かかることもあるため、新薬が市販されるまでにはまだまだかかると言えそうです。 加えて、この新薬には副作用と価格の問題があります。エーザイによると、頭痛、錯乱、めまい、吐き気、アレルギー反応などの副作用が起こる可能性があるとのこと。重篤な副作用が出る場合もあるそうです。 また、アメリカではすでにこの新薬が承認されていますが、高額であることが問題になっています。そこで薬の利用者からの声を受けて、アメリカでの販売価格を半額にすると製薬会社が発表。しかし、薬の効果が疑問視されている中で、どこまで普及するかはわかりません。 認知症薬の開発が後退か? これまで、症状の進行を遅らせる認知症の薬はありましたが、進行を止めるようなものはありませんでした。対して、アデュカヌマブはアルツハイマー型認知症の原因物質の蓄積を抑えるため、画期的な新薬として注目されていました。 しかし今回の承認の延期で、認知症薬の開発は後退するかもしれません。多くの認知症患者や家族の希望だっただけに、失望の声もあるようです。臨床試験の詳細な結果が待たれますね。
2022/01/19
2021年12月24日、山形大学らの研究グループが、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬候補を新たに見つけたことを発表。アルツハイマー型認知症の治療薬として開発中の薬が、ALS発症の原因となるタンパク質が異常な塊を形成する作用(異常凝集)を抑える効果が確認されたとのことです。 この薬は5~6年後の実用化を目指しているそう。実用化することで、ALSの根本的な治療ができるようになる可能性があります。 徐々に全身を蝕んでいくALS ALSを発症すると少しずつ身体を動かせなくなっていきます。脳や脊髄などにある運動神経にタンパク質が異常な塊を作ることで神経が損傷もしくは死滅するため、筋肉への指令伝達ができなくなるのです。 個人差はありますが、手足が動かせなくなることから始まり、ろれつが回らなくなる、呼吸ができなくなるなど、次第に病状が全身に進行していくことが特徴です。 症状が進行していくと、車椅子や人工呼吸器を使用する必要が出てくるため自立した生活は難しくなり、生活の質が落ちることも多くあります。しかし、現状では進行を遅らせる治療法はあるものの、根本的な治療法の発見には至っていません。 認知症薬がALSの治療に有効となる可能性 そういった状況を打破する可能性があるのが、今回の山形大学と国立病院機構山形病院の共同研究。研究グループが治療薬候補として挙げたのは、京都市の創薬ベンチャー企業「グリーン・テック」が開発中の「GT863」という薬です。 GT863は、もともとアルツハイマー型認知症の治療薬として開発されていたもの。アルツハイマー型認知症もタンパク質の異常凝集が原因で、脳神経を損傷することが原因とされている病気です。そのため研究グループはALSにも有効と考え、研究を進めていました。 研究グループはALSを発症するよう遺伝子操作したマウスの一部にGT863を投与し、投与したマウスと投与していないマウスを比較しました。投与したマウスの脳では、異常凝集するタンパク質の形成が投与していないマウスの半分程まで減り、死滅した神経は2割程度に抑えられていました。 GT863は2024年にALS患者への臨床試験に入る予定で、2027~2028年の実用化を目指すとのことです。 ALSの根本的治療に大きく前進 これまでALSの治療には、薬物療法やリハビリテーションなどがおこなわれてきました。しかしこれらは、ALSの進行を止めたり症状を完全になくす治療ではなく、あくまで症状の進行を緩和する治療法でした。一方で今回発表された治療薬は、ALSの進行を止める可能性を持っています。 まだ実用化には時間がかかるものの、ALSで苦しんでいる方やその家族にとって、とても良いニュースと言えるのではないでしょうか。
2022/01/07
ハンセン病治療薬の「リファンピシン」とポリフェノールの一種である「レスベラトロール」を併せて経鼻投薬すると、認知機能の改善に効果があることを、大阪市立大学の富山貴美研究教授が明らかにしました。 今回の研究は、脳の神経細胞が失われて発症するアルツハイマー型・前頭側頭型・レビー小体型の各種認知症の予防薬開発につながることが期待されています。 ハンセン病薬が認知機能の向上に効果あり!? アルツハイマー型・前頭側頭型・レビー小体型の認知症は、脳に溜まった特殊なタンパク質が神経細胞を殺してしまうことで発症する症状。富山研究教授は、ハンセン病治療薬でジェネリック医薬品のリファンピシンがこうしたタンパク質の蓄積を防ぎ、認知機能を改善させる作用があることを1994年に発表しています。しかし同時に、肝障害などの副作用を課題点として挙げていました。 今回の実験では、その副作用を解消する物質としてレスベラトロールを使用。レスベラトロールは、ぶどうや赤ワインに含まれている天然のポリフェノール化合物で、抗酸化作用があるため欧米や日本国内でも多くのサプリメントに使用されている安全性の高い物質です。 肝機能障害の副作用の危険性が低い!? 具体的な実験内容は、アルツハイマー型認知症・前頭側頭型認知症・レビー小体型認知症と同様の状況になるように遺伝子操作したマウスに、リファンピシンとレスベラトロールを経鼻投与。週5日間の投薬を4週間行いました。 その結果、マウスの脳内のタンパク質の蓄積が抑制され、認知機能が向上。加えて肝機能障害の判断基準である肝酵素の数値も正常値で収まっていたそう。懸念点だった肝障害の副作用の危険性を抑えることに成功しました。 「あなたも認知症になるかもしれない」。だからこそ予防を まだマウス実験の段階ではあるものの、副作用の少ない認知症予防薬として使えるのは、かなり希望の持てる話ではないでしょうか。 数年のうちには高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。だからこそ「予防」という認知症対策の選択肢も視野に入れておきたいですね。
2022/01/06
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