幅広い分野で活用が進んでいる「ICT」。自分の介護現場でもICT技術を導入したいけれど、「どのようなものがあるのか?」「どう活用したら良いのか?」と疑問をもつ方も多いでしょう。
この記事では、介護現場のICT活用事例や、導入するメリット・デメリットなどを解説します。
また、導入コストを抑える補助金制度も紹介しますので、ICT化を検討している方は是非参考にしてください。
Contents
ICTとは、「Information and Communication Technology」の略語で、日本語では「情報通信技術」と訳されます。
「IT技術を活用して情報の共有・伝達をおこなうこと」を意味しており、インターネットを利用したメールのやりとり、オンライン会議などもICT技術のひとつです。
ICTは現在さまざまな分野で利用されており、介護現場での活用も期待されています。例えば、書類をデータ化して作成・管理しやすくしたり、介護業務の負担を軽減するために見守りセンサーを導入するなどの活用方法が考えられます。
ICTとよく似た言葉である「IT(情報技術)」は、ほとんど同じ意味を持っていますが、ICTには「コミュニケーション」の要素が含まれています。
わかりやすくいえば、ITはパソコンやスマートフォンといった「通信技術そのもの」を指すのに対し、ICTはそういった通信技術を活用する方法やサービスを指す、という違いがあります。
ICT同様、よく耳にするようになった言葉のひとつに「loT」があります。
loTとは、「Internet of Things」の略語で、日本語では「モノのインターネット」と訳されます。loTは、パソコンや家電などの「さまざまなモノをインターネットにつなげる技術」であるのに対し、ICTは「モノを利用する人同士をつなげる技術」というイメージです。
このようにloTとICTは違う意味をもちますが、互いに結びつきがある言葉ともいえます。
介護現場のICT化には、以下のようなメリットがあると考えられます。
それぞれのメリットについて、事例をみていきましょう。
介護の業務には、利用者と接しない事務作業などの間接業務も多くあります。この間接業務の負担は、ICT化により軽減できると考えられます。
例えば、サービス提供記録やバイタルデータなどを手書きでメモしている場合は、後で改めて清書したりシステムに記録する必要があります。しかし、ICT技術を導入すればデジタル端末を通して入力できるため、サービス提供記録やバイタルデータなどを手軽に入力できるようになります。
入力したデータはシステム内で連携できるので、転記する必要もなく入力ミスや記入もれ防止にもなるでしょう。
ICT技術を導入した事業所の9割以上で、間接業務の時間が減少しています。事務作業の時間を低減できれば、そのぶん介護サービスにあたる時間を増やしたり、職員の残業を減らすことも可能です。
介護サービスを受けている方は、病院を受診したり、ほかの介護サービスを併用することも珍しくありません。複数の施設を利用している方の情報は、施設同士および病院と共有することになりますが、伝達手段が郵送や電話・FAXなどでは手間がかかります。
ICT技術を活用した情報連携システムを導入できれば、各施設で利用者の情報を時間差なく共有できたり、施設の空き状況なども簡単に確認できるようになります。
このように情報共有をICT化することで、施設同士のスムーズな連携や、業務の効率化が可能になるでしょう。
ICT化によって事務作業などの間接業務の時間が削減できれば、そのぶん介護サービスにかけられる時間が増え、丁寧できめ細やかなケアをおこなうことができます。実際にICTを導入した事業所の約7割が、サービスの質が上がったと答えています。
また、利用者の状態がデータで確認・管理できるようになれば、利用者の行動分析も可能になります。例えば、排泄のサイクルをデータから分析し、タイミングよくトイレに誘導することもできるでしょう。
このように、ICTの活用は介護の質を高めることにもつながるといえます。
次に、介護現場にICT技術を導入する場合に考えられるデメリットを紹介します。主な注意点は以下になります。
順に詳しくみていきましょう。
ICT化のデメリットのひとつは、導入コストが高いことです。ICTの導入には、パソコンやスマートフォン、タブレットなどをそろえたり、インターネットの環境整備などをおこなう必要があるため初期費用がかかります。
ただし、近年はICT促進のための補助事業があり、ICTを導入した施設には自治体から補助が出るようになっています。こういった制度をうまく活用すれば、ICT化を実現できる施設も少なくないでしょう。
パソコンやタブレットなどのデジタル端末の操作に慣れていない、または抵抗がある職員にとっては、スムーズに利用できるようになるまで時間がかかることもあります。
新しいことを覚えたり、経験のないことを一から始めるのは大変なので、不慣れな職員に対するサポートは十分におこなう必要があるでしょう。
また、従来の方法に比べてどのようなメリットがあるのかなどを説明し、ICT化について職員に理解してもらうことも大切です。
ICT化には情報漏洩のリスクも伴います。情報漏洩の原因は主に「操作の誤り」「セキュリティーの精度」「データの紛失」とされていますので、これらを未然に防ぐための対策が必要です。
「操作の誤り」は人為的な問題であるため、操作マニュアルやルールの周知・徹底をおこないましょう。次に「セキュリティーの精度」については、脆弱なセキュリティーだとウイルスに感染しやすく、データ流出のリスクが高まることが問題になります。セキュリティーソフトは精度の高いものを使いましょう。
「データの紛失」は、デジタル端末を施設外に持ち出すことで発生する恐れがあります。外部の打ち合わせや会議などで端末を持ち出す際は十分気をつけ、端末には常に暗証番号でロックをかけておくことが重要です。
ICT導入補助金とは、介護現場の業務効率化・負担軽減のために、ICT化に向けた導入費用補助をおこなう制度です。各都道府県に設置されている「地域医療介護総合確保基金」より、ICT導入にかかる費用の一部が助成されます。
補助の対象は、介護記録や情報共有などがおこなえるソフトや、デジタル端末の導入費用です。具体的には次の項目で紹介します。
ICT導入補助金の対象となるのは以下になります。
ICT導入補助については、厚生労働省の「令和5年度 予算案の主要事項」にも記されており、介護現場のICT化促進のために補助事業内容を拡充することが明記されています。
補助金を利用するためには、補助対象のものを導入するほかに、以下のような要件もあります。
「LIFE」とは、エビデンスに基づいた質の高い介護をおこなうためのデータベースで、厚生労働省が運用しています。利用者の状態や介護サービスの計画・内容などをインターネットを通じて送信すると、分析されたデータがフィードバックされる仕組みです。
補助金額の上限は、職員数に応じて以下のように設定されています。
補助率は都道府県が設定しますが、「ケアプランデータ連携システム等を利用」「LIFEのCSV連携仕様を実装した介護ソフトで実際にデータ登録を実施」「ICT導入計画で文書量を半減する」のうちいずれかを満たしている場合は、補助率の下限が3/4になります。それ以外の場合、補助率の下限は1/2になります。
次に、介護業界で実際に活用されているICT技術を紹介します。代表的なものは以下の通りです。順にみていきましょう。
「介護記録システム」は、スマートフォンやタブレットからも入力できるため、場所を問わず手軽に記録作業がおこなえます。例えば訪問介護にあたる職員なら、事業所に戻って記録作業をする必要がなくなり、隙間時間を有効活用して入力作業ができるようになります。
施設で働く介護職員も、モバイル端末を携帯することで、介護ケアをおこないながらその場で利用者の状態やバイタルの入力が可能です。このように、記録システムを活用すれば作業を効率的におこなえるようになります。
職員同士で連絡や情報共有が簡単にできる「コミュニケーションシステム」もあります。コミュニケーションシステムを導入したスマートフォンやタブレットを各自で利用できれば、情報共有のための会議や申し送りなどの定例的な集まりは最小限にすることも可能です。
また、外出先から事業所に連絡が必要なときも、電話では一人の職員にしか伝えられませんが、コミュニケーションシステムを利用すれば、一度の連絡で全員に情報を発信できます。時間差なく情報を共有することにより、業務が円滑になる効果も期待できるでしょう。
利用者の居室の壁やベッド下などに取り付けたセンサーから、呼吸・心拍数や体動情報などを読み取ってデータ発信をおこなう「見守りシステム」は、その場にいなくても端末画面からリアルタイムな状況を確認できます。
利用者の状態に異常があった場合や何らかの動作があると警告音が鳴るため、職員の人数が減る夜間でも効果的な介護をおこなえます。
また、スマートフォンやタブレット端末でも確認できるため、席を外していてもすぐに異常をとらえることができます。
「勤怠管理システム」は、訪問介護などで移動が多い職員にも便利な仕組みです。システムを導入したスマートフォンを携帯していれば、訪問先でのサービス終了後にその場で退勤の登録ができます。出退勤の打刻をするために事業所へ戻る必要がなくなるので、職員の負担を軽減できるでしょう。
勤怠管理システムは「給与計算システム」と連動していることも多く、煩雑な給与計算も自動計算で処理できるため、事務作業時間の削減にも繋がります。
介護施設の売上や居室稼働率の集計、コスト管理などができる「施設管理システム」も、代表的なICT技術のひとつです。
この管理システムは複数人が情報を入力・確認できるほか、入所人数や居室稼働率、空床数などを自動で集計・管理できる機能があります。施設の運営状況がデータとしてわかりやすく表示されるので、稼働率低下の原因なども分析しやすくなります。
また、従来の手動計算や手書き作業にかかっていた時間が減るため、業務時間の削減も実現できます。
介護業界がICT化を進める背景には、人手不足があります。人口減少が加速する日本では、総人口のうち65歳以上の高齢者人口が3627万人(2022年9月15日推計)で、総人口に占める割合は29.1%と過去最高です。今後もさらに高齢化が進むとされており、介護が必要な人が増えていくのにも関わらず、人口減少により介護をする人材はますます不足していきます。
人材不足をカバーするには、業務の省力化や業務の生産性を上げることが重要です。そこで注目されているのがICTの活用です。ICT導入補助制度が拡充されていることからも、国は介護のICT化を促進し、介護現場の負担軽減を目指していることがわかります。
介護業界で活用されている代表的なICT技術としては、「介護記録システム」「職員同士のコミュニケーションシステム」「見守りシステム」「勤怠管理・給与計算システム」「施設管理システム」があります。これらは、利用者の状態確認や情報共有、職員同士のコミュニケーション、アナログな事務作業などをデジタル化するシステムで、介護現場の業務の省力化に有効です。
ICT技術を取り入れるメリットは、手書きでおこなっている記録作業などがデジタル化でき、作業効率がよくなることがひとつです。
また記録した情報はシステムで管理・共有できるため、申し送りなどが不要、あるいは最低限にできるのもメリットといえます。
情報共有のデジタル化は、施設内だけでなく外部の施設や病院との連携をスムーズにする効果もあります。ICT技術を活用すれば、事務的な業務時間を削減できるため、そのぶん介護にあたる時間を増やすことができ、結果的に質の高いサービスの提供にもつながるでしょう。
ICT技術を取り入れる際に考えられるデメリットは、まず導入時のコストがかかることです。
ICT化のためはスマートフォンやタブレットなどの端末をそろえるだけでなく、インターネット環境の整備も必要です。また、デジタル端末は情報漏洩のリスクもあります。操作ミスや脆弱なセキュリティによってデータが流出する恐れがあるため、しっかりとした対策を立てておく必要があるでしょう。
こういったリスクもあるデジタル端末の操作には抵抗感や難しさを感じる職員もいるため、ICT化のメリットも併せて説明し、理解した上で活用してもらうことが大切です。
介護施設への入居について、地域に特化した専門相談員が電話・WEB・対面などさまざまな方法でアドバイス。東証プライム上場の鎌倉新書の100%子会社である株式会社エイジプラスが運営する信頼のサービスです。