視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感のうち、視覚は特に認知機能に大きな影響を与えていると言われていて、視力が衰えると思考力や記憶力に悪影響を及ぼすことが指摘されています。
今回紹介する新たな研究でも、視力が低下した人はそうでない人に比べて、認知症の発症リスクが高まる可能性が示されました。
この研究は、アメリカのミシガン大学医学部ケロッグ眼科センターの研究グループによっておこなわれ、その研究結果は「JAMA Ophthalmology」という医学誌に掲載されています。
研究グループは、2021年におこなわれた「国民健康高齢化傾向調査」に参加した71歳以上の高齢者3817人のデータを分析することに。国民健康高齢化傾向調査とは、アメリカの高齢者向けの公的保険サービスであるメディケアを受給している人を対象とした研究で、10年以上にわたって続けられています。
今回、研究グループは3000人以上の対象者に、近くのものと遠くのものをそれぞれ見られるかどうかを測る視力検査、背景の色に対してあまり明暗がはっきりしていない文字を見られるかどうかを測る視力検査、記憶力と思考力を測る認知機能検査をおこない、その結果を解析しました。
研究グループが検査結果を分析した結果、対象者全体のおよそ12%が認知症を患っていることが判明。特に、近くを見る視力に問題があるグループでは、認知症を患っている人の割合が22%近くに達したことが明らかになったのです。
また、現段階では認知症を患っていなくてもその兆候がみられる人の割合を調べたところ、視力に問題がない人に比べて、遠くを見る視力に中程度以上の問題がある人では、72%も多くの人に認知症の兆候が見られたことがわかりました。
一方、今回の研究では、白内障の手術などで視力が回復した人は認知症の発症率が時間とともに低下する可能性も示されています。
以上の結果を受けて、研究グループは「目の健康を優先することは、視覚だけでなく全般的な健康や幸福につながる可能性が示された。視覚の最適化が認知症の発症リスクを軽減するかどうかについては、さらなる研究が必要だ」と述べています。
白内障などで視力が低下すると、日常生活そのものにも大きな影響が出てしまいます。手遅れになる前に医療介入ができるよう、定期的に眼科を受診すると良いかもしれませんね。
参考:「Objectively Measured Visual Impairment and Dementia Prevalence in Older Adults in the US」(JAMA Ophthalmology)
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