人手不足が叫ばれて久しい介護業界。2020年に発生した新型コロナウイルスや、その後の世界的な物価高騰の影響により、さらに経営状況が悪化し、2022年では過去最多の143もの事業所が倒産したとの調査もあります。
この状況を受けて、介護施設や介護に関連する12の団体が自民党の麻生太郎副総裁に要望書を提出。そのなかで、政府が検討中の新たな経済対策と今年度の補正予算案にスタッフの処遇改善や介護事業所への支援策を盛り込むように求めました。
このまま人材不足や経営状況の悪化が進むと、さらに倒産する介護事業所が増える可能性も。その結果、近隣に利用したい介護サービス事業所がなかったり、定員超過で受け入れてもらえなくなるおそれもあり、利用者への影響も懸念されています。
10月6日、介護施設や介護専門職などで組織する12の業界団体が自民党の麻生副総裁に要望書を提出し、介護事業所や介護スタッフへの支援を求めました。
この要望書のなかでは、近年の新型コロナウイルスの拡大や物価高騰によるコスト増によって経営状況が過去にないほど厳しい状態にある旨、その影響で事業者単位での賃上げによるスタッフの処遇改善に限界が来ている旨が訴えられています。
そのため業界団体は、今年度の経済対策と補正予算案で介護事業所への支援と介護スタッフの処遇改善を求めているのです。
12の業界団体は、要望書と合わせて介護現場における離職者などの調査結果も提出しました。
参考:「介護現場における賃上げ・物価高騰・離職者等の状況調査」
この調査によると、年々、離職者が増加。特に2023年は、在職年数が10年以上の介護スタッフの離職率が2021年と比べて約1.5倍に増えているそうです。
経験豊富な介護スタッフの退職が増えることで、現場への打撃が大きいことはもちろん、私たち利用者にとっても大きな影響があります。
例えば、以下のような状況に陥る可能性があります。
つまり、経験豊富な介護スタッフの離職が増えると、その分、私たち利用者が受けるサービスにも影響があるわけです。
政府は以前から介護スタッフの処遇改善について対策をとってきました。しかし、それでも介護スタッフの離職は増加傾向にあります。
2022年10月の介護報酬改定では、「介護職員等ベースアップ等支援加算」が追加され、介護スタッフの給与を引き上げるための対策がとられました。その結果、2021年12月と比べて2022年12月の介護スタッフの給与は平均1万7490円増額していることがわかりました。
平均給与額 | |
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差 | 1万7490円 |
2021年12月 | 30万740円 |
2022年12月 | 31万8230円 |
参考:「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要(案)」(厚生労働省)
しかし、介護スタッフの離職率は増加傾向にあるのが実情。スタッフの離職を食い止めるためには、さらなる処遇改善が必要と業界団体は考えています。
ただ、介護サービスの費用は国によって定められています。スタッフの給与増額の資本となる事業所の収入を増やすことは、事業所だけの努力では限界があるのです。
そこで、業界団体はさらなるスタッフの処遇改善をして離職を食い止めるために、政府に経済支援を求める要望を提出したのです。
介護業界の人材不足が深刻化すると、介護の質が低下するだけでなく介護事業所の倒産にもつながります。
市場調査などをおこなう東京商工リサーチの調査によると、2022年の介護事業所の倒産は143件。これは介護保険制度が始まった2000年以来、最多の数です。また、倒産件数は2021年から77%も増加しているとのことです。
このように介護事業所の倒産件数が増加したのには、「コロナ禍」「物価高騰」「人材不足」の3つが影響していると考えられています。
コロナ禍により感染対策のための備品のコストが増加したうえ、サービスの利用控えで収入が減少。さらに、その後の世界的な物価高騰により光熱費などの支出が増えています。
このような理由で経営状況が悪化しているところに人材不足が追い打ちとなって、施設運営が継続できなくなり、倒産に追い込まれてしまっているのです。
介護事業所の倒産が続くと、私たち利用者にも影響が出てくるおそれがあります。
例えば、以下のような状況が起こると考えられるのです。
具体的には、次のようなケースが起こる可能性があります。
つまり、介護業界の人材不足は、介護の質が下がるだけではなく、そもそも介護サービスを利用できなくなる可能性があるというわけです。
介護業界の人材不足は、現場で働く人だけでなく私たち利用者にも大きく影響がある問題です。今は介護サービスが利用できていても、近い将来、利用できなくなることがあるかもしれません。
介護業界の人材不足問題は、利用者としても注視していく必要のある日本の大きな課題なのです。
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