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2024年4月22日滋賀県は、同県野洲市にある介護老人福祉施設の運営法人に対して新規利用者受け入れ停止の行政処分を言い渡したことを発表しました。新規利用者受け入れ停止の期間は5月1日からの1年間です。 この施設では、2023年の10月までに施設の介護スタッフ3人が入居者12人に対して、叩いたり、押さえつけるなどの虐待が15件もあったことが確認されています。 施設では虐待と隠蔽がおこなわれていた 滋賀県によると、同県の介護施設に勤務する介護スタッフが入居者に対し、2023年4月~10月の間に15件もの虐待をしていたことが発覚。滋賀県は施設に対して2024年5月1日より1年間の新規利用者受け入れ停止の行政処分を言い渡したそうです。 今回発覚した施設の問題行動は以下です。 入居者の顔や腕を叩いたり押さえつけたりする身体的虐待 入居者が介護を求めても「あなたの体が悪い」と暴言を吐いて介護をしない心理的虐待・介護放棄 施設の施設長は介護スタッフの虐待を認識していたにもかかわらず、市に報告をしなかった 虐待による内出血のあった入居者の家族に対して「事故が原因だった」と虚偽の説明をし、虐待を隠蔽 虐待をおこなっていた介護スタッフは主に3人で、被害を受けた入居者は12人に及ぶそうです。 介護施設での高齢者虐待を防ぐためには 今回処分を受けた施設は施設内で入居者に対して暴言があったとして、2023年4月に市からの行政指導を受けていましたが、その後も虐待を続けていました。虐待をおこなった介護スタッフは「人が足りず余裕のない職場環境で虐待をしてしまった」と話しているそうです。 介護施設でおこなわれる虐待は閉鎖的な環境でおこなわれるため、周囲からわかりづらいことが多いです。 介護施設での高齢者虐待を防ぐには、まずは余裕を持った人員配置にすることが大切。施設で起こる虐待は単独でおこなわれることがほとんどのため、常に他者の目がある状況に置くことで多くの虐待が回避できるでしょう。 また、施設の雰囲気も大切です。スタッフ同士のコミュニケーションが不足している施設では、スタッフのストレスも溜まりやすくなり、虐待に至る兆候を見逃す可能性も高くなります。 もし家族など身近な人が介護施設への入居を考えている際には、事前に入居希望の施設を訪れて現場の雰囲気を見ておくと良いかもしれませんね。
2024/04/23
今月、愛媛県松山市内のサービス付き高齢者向け住宅で95歳の女性の腕を骨折させるという事件が発生しました。女性に暴行を働いた相手は同施設で働いている看護師の男で、暴行を受けた女性は全治3ヵ月から4ヵ月の大怪我だったと言います。 高齢者向け住宅で暴行事件が発生 警察の調べによると、2024年3月8日の午後7時ごろ、愛媛県松山市内のサービス付き高齢者向け住宅で看護師が入居していた95歳の女性の左腕をひねるなどして骨折させるという事件が発生。一連の暴行事件の容疑で同施設で看護師として働いている30歳の男が逮捕されました。 この事件は、被害者の女性の家族が警察に相談をし、相談を受けた警察の捜査により発覚。警察による聞き取りや防犯カメラの映像などから容疑者を割り出し、3月27日に容疑者の男を逮捕しました。 警察の調べに対し、男は容疑を認めていると言います。警察は引き続き動機や余罪などについて、さらに詳しく捜査を進めていくとしています。 「虐待かも?」と思ったら、まずは専門家に相談を 今回の事件は、被害者の家族が早い段階で警察に相談したことにより発覚しました。高齢者への虐待は、どれも高齢者の尊厳を著しく傷つけてしまったり、場合によっては命の危険につながったりすることもあります。そのため、虐待の疑いを持った段階で速やかな通報をおこなうのが望ましいです。 施設内で起こる高齢者への虐待は表面化しにくく早期発見が難しいという特徴があります。家族など周囲の人が虐待の兆候に気づいたときには専門機関に相談しましょう。高齢者虐待の相談窓口は、地域包括支援センターや法務省の常設する人権相談所など、公的な窓口が複数用意されています。 家族など周囲の人が高齢者本人や入居している施設に対して「虐待かもしれない」「このままでは虐待につながってしまうかも…」など、虐待のおそれがあると気づいた段階で相談・通報することで高齢者虐待の早期発見や防止につながります。 虐待の疑いを持っても「通報」と考えると勇気がいるかもしれません。まずは信頼できる施設のスタッフやケアマネジャーに相談するのも良いです。一人で抱え込まずに身近な人に相談してみましょう。
2024/03/28
福島県は県権利擁護推進会議にて、2022年度における介護施設の職員による高齢者への虐待件数、相談・通報件数ともに2年連続で増加し、過去最多となったことが明らかになりました。 県は、施設職員への研修などをおこない、虐待の防止や早期発見を図るとしています。 福島県で職員による高齢者虐待が最多に このたび福島県は、福祉や医療、法務などさまざまな分野の有識者を集め、高齢者の権利擁護に関する協議をおこなう「権利擁護推進会議」を開きました。 そこでおこなわれた発表によると、2022年度に県内で確認された介護施設職員による虐待件数は9件で、過去最多を更新したことが判明。また、虐待の相談・通報件数は32件に上り、これも過去最多であることがわかりました。 虐待の内訳は、高齢者に暴言を浴びせるなどの「心理的虐待」が最多に。次に高齢者を殴ったり蹴ったりなどの「身体的虐待」が多く、それから多い順に、必要な介護や世話を意図的に怠る「介護等放棄(ネグレクト)」、性的な関係や行為を迫る「性的虐待」と続きました。 また、県は虐待が起きた発生要因についても調査しました。それによると、「教育や知識、介護技術等に関する問題」や「不十分なチームケア体制」が虐待の原因だと考えている介護職員が最も多いことが判明。また、「虐待防止の取り組みが不十分だ」などの回答も一定数みられたとのことです。 介護職員による高齢者虐待が増加していることについて、県は「新型コロナの対応などで職員の負担が増えて、ストレスを抱えていることが要因なのではないか」と分析しています。 虐待の芽チェックリストの活用を 公益財団法人東京都福祉保健財団が、介護職員向けに「虐待の芽チェックリスト」を作成しています。その内容の一部が以下のとおりです。 利用者に対して威圧的な態度を取っていないか 利用者に対して「ちょっと待って」を乱用して、長時間待たせていないか 食事や入浴の強制をしていないか 利用者への声かけなしで介助をおこなっていないか 利用者の呼びかけやコールを無視していないか 高齢者虐待を防ぐためにはチェックシートを確認して、虐待につながりそうな行為をおこなっていないか自分のケアを振り返ることが大切です。 また、以上のチェックシートは介護施設の職員だけでなく、家族の介護をしている人も自身のケアを見直すきっかけにもなります。今まさに家族の介護をしている人は、虐待につながるケアをおこなっていないか振り返ってみてみましょう。
2024/01/30
群馬県が、昨年度の高齢者虐待に関するデータを発表。それによると、県内の特別養護老人ホーム(特養)などの介護施設で高齢者が虐待を受けたケースが12件に上り、過去最悪の水準であることが明らかになりました。 群馬県で起きた虐待件数が過去最悪に 群馬県の発表によると、昨年度に県内の介護施設で起きた高齢者虐待件数が12件に上ることが判明。これは、統計を開始した2006年度以降で最悪の数字です。 具体的な虐待内容は複数回答で、殴る・蹴る、身体拘束などの「身体的虐待」が8件、利用者に暴言を吐くなどの心理的虐待が4件、世話や介護を意図的に放棄する「ネグレクト」が2件、性的な行為や脱衣などを強要する「性的虐待」も2件でした。 県は高齢者を虐待から守るために、虐待の対応にあたる市町村からの相談に弁護士が応じる窓口を設置したり、介護施設や市町村の職員を対象にした研修会を開催したりして、対策を強化していると言います。 県の担当者は介護職員による虐待の背景に「ストレス」があると指摘した上で、「どんな理由があっても虐待は許されない。早期に発見した上で、対応にあたるための周知活動に努めたい」と話しています。 ストレスをコントロールする方法 介護職員や家族といった介護者による高齢者虐待が後を絶ちません。ではどうすれば介護者による高齢者の虐待を防げるのでしょうか? 介護者による虐待の大きな原因のひとつに、介護者のストレスが挙げられます。ケアの場面でストレスを感じたとき、それに対して上手く対処できないと不適切なケアにつながりやすくなると考えられます。 特に介護者がストレスを感じやすいと考えられる場面は、認知症を患っている高齢者への対応。認知症のあるこうれいしゃはケアに強い抵抗を示すことも少なくないため、適切な対応が求められます。 認知症介護研究・研修センターは、介護者のストレスを緩和するために以下のような対策が有効だと言います。 高齢者が拒否を示す理由を推察し、その気持ちへの対応を考える ストレスを感じているということをスタッフやほかの家族と共有する ケアを一人で抱え込まない 特に大事なのは、ケアを一人でおこなわないこと。もし現在一人で高齢者の介護を抱え込んでいる人がいたら、各自治体の地域包括支援センターに相談してみましょう。共倒れにならないためにも、さまざまな人と協力しながらケアを進めていくことが大切です。 参考:「介護現場のための高齢者虐待防止教育システム」(認知症介護情報ネットワーク)
2024/01/19
札幌市のサービス付き高齢者向け住宅で、介護職員が入居者の高齢女性に暴行を加えるという事件が発生しました。暴行を受けた女性は病院に搬送されましたが、その後死亡が確認されたと言います。 高齢者向け住宅で暴行事件が発生 警察の調べによると、2024年1月1日、札幌市のサービス付き高齢者向け住宅で、介護職員が施設に入居していた94歳の女性の額を殴ってケガをさせるという事件が発生。一連の暴行事件の容疑で29歳の男が逮捕されました。男は容疑を認めていると言います。 暴行事件が起きたあと1週間は、女性のケガは皮下出血のみだったため、これまで通り施設で暮らしていたと言います。しかし、1月8日に女性の容態が急変。女性は病院に運ばれたものの、死亡が確認されたそうです。 捜査の結果、女性の死因は外傷性ショックであることが判明。警察は今後、男の容疑を傷害致死に切り替えることも視野に、捜査を進めていく方針です。 職員による虐待・暴行を防ぐ手だては? 今回のような介護職員による虐待・暴行を防ぐ手だてはないのでしょうか? 各自治体は、介護職員による虐待を防ぐために、以下のような対応を施設に求めています。 虐待防止に関する研修の実施 市町村への速やかな通報 職員間で話し合いの機会を求めるなど、再発防止への取り組み 特に大切なのは、「速やかな通報」。入居者への虐待や暴行がわかったら、その時点ですぐに市町村に通報することが介護職員には義務付けられています。 また、職員間の風通しが悪く、不満を溜め込みやすい施設の方が、より虐待や暴行につながりやすいと考えられます。親や親族が近々施設に入居する予定がある人は、事前に施設に足を運び、施設の雰囲気を見ておくことが大切ですね。
2024/01/18
2024年1月7日、東京都は2024年度から都内で働く介護職員に対し、1人当たり最大月2万円の居住支援手当を支給することを明らかにしました。 団塊世代の全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年が近づく中、少しでも介護人材を確保しようというねらいがあるそうです。 1人1~2万円の居住支援手当を支給 1月7日、東京都は2024年度から都内で働くおよそ16万8000人の介護職員に対して、居住手当を支給することを明らかにしました。対象となるのは、居住支援手当を新たに設けた介護事業所に務める職員とケアマネジャーで、1人当たり月1万円を支給するとしています。 また、給料が伸びにくい若手を支援し、介護業界への転職を促すため、勤続5年以内の職員にはさらに月1万円を加算するそうです。 さらに、障害福祉サービス事業所で働く職員に対しても同様の手当を支給すると言います。 2025年問題とは 今回、東京都が介護事業所で働く職員に対して手当を支給する背景には、「2025年問題」があると考えられます。 そもそも、この「2025年問題」とはどのような問題なのでしょうか? 2025年は、ベビーブームだった1947~1949年の期間に生まれた、いわゆる「団塊世代」が全員75歳以上の後期高齢者となる年。人口比率が高い世代の人たちが全員後期高齢者となることで起こる、さまざまな問題を総称したものが「2025年問題」なのです。 中でも深刻な課題だと言われているのが「労働力不足」。これは介護業界でも同様で、東京都の調査では、2025年度には都内の介護人材が3万人以上不足するとみられています。 今後も高齢者が適切な福祉にアクセスできる体制を維持していくためには、労働力を少しでも介護・福祉に集める施策を打つことが重要です。そこで、都は職員に手当を支給することを決めたのだと考えられます。 今回の施策がうまくいって、少しでも多くの若手人材が介護業界を志してくれるといいですね。
2024/01/09
2023年12月4日と11日、厚生労働省の諮問委員会である社会保障審議会・介護保険部会が開かれました。そこで、介護ロボットなどのテクノロジー機器を導入した施設に対し、スタッフの配置基準を現在のものよりも緩和した「利用者3人につき職員数を0.9人」とする案が提示されたのです。 審議会に出席した厚生労働省の担当者は、「テクノロジー機器を活用して業務の効率化を図り、多くの需要に応えようとする姿勢を評価していきたい」と述べています。 しかし、テクノロジー機器は、介護業界においてまだまだ浸透しきっていないのが実情。厚生労働省がおこなったアンケートによると、見守り支援機器を取り入れているところが比較的多い「入所・泊まり・居住系」の施設や事業所でも、導入している施設・事業所は3割程度であることがわかりました。 テクノロジー活用でスタッフの配置基準が緩和! 厚生労働省は、12月4日と11日におこなわれた社会保障審議会・介護保険部会にて、一部介護施設のスタッフの配置基準を、現行のものよりも緩和することを明らかにしました。 対象となるのは、見守り支援機器などのテクノロジーを活用し、スタッフの負担軽減策が講じられていると認められる介護施設。人員基準が緩和されれば、現行の「利用者3人につき職員1人」よりも少ない「利用者3人につき職員0.9人」とすることが認められるようになります。 スタッフの数が現在よりも少なくなることで懸念されるのは、利用者の安全性。そこで審議会では、人員基準を緩和する施設には以下の安全対策を講じるように要請することが決まりました。 十分な休憩時間の確保 緊急時の体制整備(災害時などに集まれる職員の確保など) テクノロジー機器の定期チェックを実施 機器を扱うために必要な研修の実施 訪室が必要な利用者については、個別に訪室を実施 ポイントは、見守り支援機器などのテクノロジーのみに頼らないように定められたこと。認知症の人など、見守り機器だけでは不十分な利用者には個別で対応することが盛り込まれました。 介護現場のテクノロジー活用の現状 厚生労働省は、見守り機器や介護ロボットなどの活用状況や効果を検証するため、全国1万6111ヵ所の介護施設・事業所を対象にアンケート調査をおこないました。 参考:「介護現場でのテクノロジー活用に関する 調査研究事業」(厚生労働省) アンケートの中で、介護ロボットの導入状況を尋ねたところ、利用者のベッド上の動きを感知するセンサーなどの「見守り支援機器」を導入している「入所・泊まり・居住系」の施設・事業所が30%であることが明らかになりました。 また、「入浴支援機器」や「移乗支援機器」、「介護業務支援機器」なども「入所・泊まり・居住系」の施設・事業所では10%程度が利用していることが判明。一方、「訪問系」や「通所系」の施設・事業所ではまだまだ導入が遅れていることもわかりました。 なぜ介護現場でテクノロジーが広まらない? テクノロジー機器の導入例が比較的多い「入所・泊まり・居住系」の施設や事業所でも、機器を導入しているところは最大で3割程度と、なかなかテクノロジーが広まらない介護業界。その理由は何でしょうか? 参考:「介護現場でのテクノロジー活用に関する 調査研究事業」(厚生労働省) 先述した厚生労働省のアンケートの中で、見守り機器などの介護ロボットを導入していない施設・事業所に対して、その理由を尋ねました。すると、訪問系、通所系、入所・泊まり・居住系すべての施設や事業所で「介護ロボットの導入に必要な費用の負担が大きい」という回答が過半数を占めていたことが明らかになったのです。 このほか、「介護ロボットを職員が使いこなせるか不安がある」「どの介護ロボットを導入すれば良いのかわからない」「施設・事業所内でIT機器に詳しい人材がいない」などの回答が一定数見られました。 介護現場でテクノロジーが広まるとどうなる? では、介護現場でテクノロジーが広まるとどのようなメリットがあるのでしょうか? 例えば、個室にいる利用者の挙動を感知するセンサーといった見守り支援機器を導入すれば、リモートで利用者の動きがわかるため巡回の回数を減らせます。巡回の回数を減らせれば、その分より手厚いケアを必要とする利用者のもとに駆けつけやすくなるでしょう。 また、アシストスーツのような機器を導入すれば、少しの力で移乗しやすくなるため、利用者・介助者ともにより安全な介護を実現できます。 さらに国も介護業界の業務改善を後押しすべく、介護ロボットを導入し、その効果を示すデータを提供する施設・事業所に対して、新たな加算を設ける案も出ています。 以上のように、介護現場でテクノロジー機器がさらに広まっていけば、より効率的に介護業務をおこないやすくなることが期待されています。一方で、テクノロジー機器を導入すれば人員を減らしても問題ないかどうかはデータが不十分なため、今後さらなる検討が必要です。 今後、どのような配置基準をするにせよ、まずは利用者の安全性を第一に考えていってほしいですね。
2023/12/21
厚生労働省は、介護職員にテレワークの導入を進める方針を明らかにしました。 これまでは管理者以外のテレワークに伴うルールが明確化されていませんでした。しかし、介護業界全体の人手不足が深刻化する中で、業務を円滑に進めるためにも働き方を改善する必要があるとして、今回の決定に至ったといいます。 介護職員のテレワークの導入を進める このたび厚生労働省は、介護現場の業務改善の一環で、介護事業所の管理者以外の職員にもテレワークの導入を進める方針を明らかにしました。 テレワーク中におこなう業務としては、利用者のケアプランや食事の献立の作成などを想定しているとのこと。入浴や食事の介助など、施設でおこなっている利用者へのサービスに支障がないように、現場で利用者の介助を担う職員を一定数確保した上でテレワークをおこなってもらうとしています。 実は、厚生労働省は今年、ケアマネジャーや栄養士、理学療法士などを対象に試験的にテレワークをおこなってもらい、施設の業務に支障があったかどうかを調べる調査を実施していました。 テレワークの対象となった本人や同僚、管理者に「テレワークをしたことで事業所の業務に支障があったか」と尋ねたところ、「大きな支障があった」という回答はほとんどみられなかったといいます。 今後、厚生労働省は、テレワークで可能な介護業務を改めて検討した上で、具体的な事例を示していく方針です。 テレワークを「おこなうべきではない」という意見も 以前、厚生労働省は介護事業所の職員を対象にテレワークに関するアンケートを実施。テレワークに対する考え方について調べたところ、「業務の一部をテレワークでおこなっても良い」という回答と「テレワークをおこなうべきではない」という回答がそれぞれ半数近くと、意見が大きく分かれたことが判明しました。 「テレワークをおこなうべきではない」と回答した人にその理由を尋ねると、「そもそも職種の性質上、現場以外でおこなえる業務がほとんどない」「業務に必要なコミュニケーションが取りにくくなる」「テレワークをおこなった場合の情報管理等のリスクが許容できない」などの意見が多く挙がりました。 業務を円滑にするはずのテレワークで、逆に業務の支障をきたしてしまったら元も子もありません。現場の意見をうまく取り入れながらルールをつくっていってほしいですね。 参考:「社会保障審議会 介護給付費分科会 資料」(厚生労働省)
2023/12/05
2023年11月10日、厚生労働省は介護施設の経営状況を調べた調査結果を公開。それによると、訪問系・通所系・施設系を合わせたすべてのサービス形態における利益率(収支差率)の平均が2.4%であることが判明。この数字は、介護保険制度が始まった2000年以降で最悪の水準です。 サービスの利益が上がらなければ、給与を上げることも当然難しくなります。給与が上がらなければ人材も定着せず業務が回らなくなり、介護サービスの運営自体が続けられなくなるかもしれません。 こうした状況を変えるためには、来年度に控える介護報酬改定で大幅な改善策を打ち出すことが重要です。 本記事では、介護報酬改定が目前に迫る中、介護施設が現在立たされている状況について考えていきます。 介護サービスの利益率が過去最低に!? 11月10日、厚生労働省は介護施設の経営状況を調べた調査結果を公表。2021年度における、全サービス平均の利益率は前年度より0.4ポイント低い2.4%であることが明らかになりました。これは、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年度と並んで、過去最悪の水準であると言えます。 2021年度2022年度増減全サービス平均2.8%2.4%-0.4%特別養護老人ホーム1.2%-1.0%-2.6%介護老人保健施設1.5%-1.1%-2.6%訪問介護5.8%7.8%2.0%デイサービス0.7%1.5%0.8%ショートステイ3.2%2.6%-0.6% 特に経営状況が大きく悪化していたのが、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)などの施設系サービス。特養の利益率は前年度より2.2ポイント低いマイナス1%、老健の収支差率は前年度より2.6ポイント低い1.1%でした。 施設系サービスは24時間365日運営しているため、光熱費などの物価高騰の影響を特に大きく受けたと考えられます。 利益率が低いから人材不足に? 経済産業省がおこなった「企業活動基本調査」によると、製造業や小売業などの主要産業における2021年度の利益率は4.3%であることが判明。介護業界平均の同年度の利益率はわずか2.4%であることを踏まえると、いかに介護領域の利益率が低いかがわかります。 利益率を上げようとしても、その源泉となる介護報酬は国が定める基準によって算定されるため、簡単に上げられないのが実情。利益が少なければ、当然職員の給与も上がりにくくなります。 2021年度におこなわれた介護労働安定センターの調査によると、介護職全体の平均給与は約370万円であることが判明。国税庁が発表した、2021年における全職種の平均給与が458万円であることを考えると、かなり低い水準であると言わざるを得ません。 また、介護労働安定センターの調査では、全国8500ヵ所以上の介護施設のうち、およそ25%の施設が「人数・質ともに職員を確保できていない」と回答したこともわかりました。 賃金をはじめとした労働条件に改善の見込みがなければ、今以上に人手不足に陥る可能性も十分にあります。こうした状況を変えるためにも、来年度の介護報酬改定で抜本的な改善策を打ち出していく必要があるのです。 介護を”受けたくても受けられない”日本に? 昨今の物価高騰がこのまま続けば、さらに多くの介護事業所が資金難に陥るでしょう。事業所の資金が枯渇すれば、人材に還元することもできず、さらなる人材不足に見舞われる可能性もあります。 資金も足りない、人員も足りないという状況が続けば、やがて介護事業が大幅に縮小したり介護事業所そのものが倒産したりする可能性も。東京商工リサーチの2022年の調査では、介護施設の倒産件数が過去最多の143件に上ったことがわかっています。 事業所の倒産によって介護施設が閉鎖すれば、施設で介護サービスを利用していた人にも多大な影響をもたらすでしょう。新たに介護サービスを受けられる施設を探そうとしても、遠隔地などの場合、介護施設そのものが近くにない可能性も考えられるのです。 日本全国どこに住んでいても、高齢者が適切な介護サービスを受けられる社会をつくるためには、介護事業所が利益を上げられる仕組み作りを早急にしていく必要がありそうです。
2023/11/24
人手不足が叫ばれて久しい介護業界。2020年に発生した新型コロナウイルスや、その後の世界的な物価高騰の影響により、さらに経営状況が悪化し、2022年では過去最多の143もの事業所が倒産したとの調査もあります。 この状況を受けて、介護施設や介護に関連する12の団体が自民党の麻生太郎副総裁に要望書を提出。そのなかで、政府が検討中の新たな経済対策と今年度の補正予算案にスタッフの処遇改善や介護事業所への支援策を盛り込むように求めました。 このまま人材不足や経営状況の悪化が進むと、さらに倒産する介護事業所が増える可能性も。その結果、近隣に利用したい介護サービス事業所がなかったり、定員超過で受け入れてもらえなくなるおそれもあり、利用者への影響も懸念されています。 スタッフの処遇改善について要望書を提出 10月6日、介護施設や介護専門職などで組織する12の業界団体が自民党の麻生副総裁に要望書を提出し、介護事業所や介護スタッフへの支援を求めました。 この要望書のなかでは、近年の新型コロナウイルスの拡大や物価高騰によるコスト増によって経営状況が過去にないほど厳しい状態にある旨、その影響で事業者単位での賃上げによるスタッフの処遇改善に限界が来ている旨が訴えられています。 そのため業界団体は、今年度の経済対策と補正予算案で介護事業所への支援と介護スタッフの処遇改善を求めているのです。 介護スタッフの離職率が増加 12の業界団体は、要望書と合わせて介護現場における離職者などの調査結果も提出しました。 参考:「介護現場における賃上げ・物価高騰・離職者等の状況調査」 この調査によると、年々、離職者が増加。特に2023年は、在職年数が10年以上の介護スタッフの離職率が2021年と比べて約1.5倍に増えているそうです。 経験豊富な介護スタッフの退職が増えることで、現場への打撃が大きいことはもちろん、私たち利用者にとっても大きな影響があります。 例えば、以下のような状況に陥る可能性があります。 ノウハウのあるスタッフがいなくなり、介護サービスの質が低下する スタッフ教育が進まなくなり、サービスの質の向上が難しくなる 重度の要介護者に対応できるスタッフがいなくなり、受け入れる利用者を制限する つまり、経験豊富な介護スタッフの離職が増えると、その分、私たち利用者が受けるサービスにも影響があるわけです。 介護スタッフの処遇改善が進むも… 政府は以前から介護スタッフの処遇改善について対策をとってきました。しかし、それでも介護スタッフの離職は増加傾向にあります。 2022年10月の介護報酬改定では、「介護職員等ベースアップ等支援加算」が追加され、介護スタッフの給与を引き上げるための対策がとられました。その結果、2021年12月と比べて2022年12月の介護スタッフの給与は平均1万7490円増額していることがわかりました。 平均給与額差1万7490円2021年12月30万740円2022年12月31万8230円 参考:「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要(案)」(厚生労働省) しかし、介護スタッフの離職率は増加傾向にあるのが実情。スタッフの離職を食い止めるためには、さらなる処遇改善が必要と業界団体は考えています。 ただ、介護サービスの費用は国によって定められています。スタッフの給与増額の資本となる事業所の収入を増やすことは、事業所だけの努力では限界があるのです。 そこで、業界団体はさらなるスタッフの処遇改善をして離職を食い止めるために、政府に経済支援を求める要望を提出したのです。 コロナ禍・物価高騰に人材不足が追い打ちをかけ倒産へ 介護業界の人材不足が深刻化すると、介護の質が低下するだけでなく介護事業所の倒産にもつながります。 市場調査などをおこなう東京商工リサーチの調査によると、2022年の介護事業所の倒産は143件。これは介護保険制度が始まった2000年以来、最多の数です。また、倒産件数は2021年から77%も増加しているとのことです。 このように介護事業所の倒産件数が増加したのには、「コロナ禍」「物価高騰」「人材不足」の3つが影響していると考えられています。 コロナ禍により感染対策のための備品のコストが増加したうえ、サービスの利用控えで収入が減少。さらに、その後の世界的な物価高騰により光熱費などの支出が増えています。 このような理由で経営状況が悪化しているところに人材不足が追い打ちとなって、施設運営が継続できなくなり、倒産に追い込まれてしまっているのです。 人材不足で介護が受けられなくなる可能性も 介護事業所の倒産が続くと、私たち利用者にも影響が出てくるおそれがあります。 例えば、以下のような状況が起こると考えられるのです。 介護サービスを利用したくても近くに介護事業所がない 定員がいっぱいでサービスを利用できない 利用していた事業者が倒産する 他に選択肢がなく、不本意なサービスを受けざるを得ない 具体的には、次のようなケースが起こる可能性があります。 訪問介護サービスを利用したいのに、家の近くに事業所がなくて利用できない 近くにある唯一のデイサービスに「定員がいっぱい」と断られた 経営状態の悪化とスタッフが集まらないため、利用していたショートステイが倒産した 今のデイサービスと「合わない」と感じているが、近隣にデイサービスがないので我慢しないといけない つまり、介護業界の人材不足は、介護の質が下がるだけではなく、そもそも介護サービスを利用できなくなる可能性があるというわけです。 介護業界の人材不足は、現場で働く人だけでなく私たち利用者にも大きく影響がある問題です。今は介護サービスが利用できていても、近い将来、利用できなくなることがあるかもしれません。 介護業界の人材不足問題は、利用者としても注視していく必要のある日本の大きな課題なのです。
2023/10/13
介護施設への入居について、地域に特化した専門相談員が電話・WEB・対面などさまざまな方法でアドバイス。東証プライム上場の鎌倉新書の100%子会社である株式会社エイジプラスが運営する信頼のサービスです。