2019年に東京・池袋で起こった、高齢ドライバーによる暴走事故に決着がつきました。当時30代の女性とその長女の命を奪った92歳の受刑者に対し、東京地裁の裁判長は1億4000万円の損害賠償を支払うように命じたのです。
警察庁の調べによると、池袋の暴走事故のような高齢ドライバーによる交通事故の発生件数自体は減ってきてはいるものの、依然として死亡事故のリスクは高齢者以外のドライバーによる事故に比べて大幅に高いと言います。
高齢者を悲惨な事故の加害者にさせないために、私たちに何ができるのでしょうか?
今回は、高齢ドライバーを取り巻く課題について触れつつ、事故を減らす一助になる「免許返納」の勧め方について考えていきます。
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2019年4月の東京・池袋にて、当時87歳だった男が、30代女性とその長女を時速約96kmの乗用車ではねるという事故が発生。はねられた女性とその長女は、その後死亡が確認されました。
この事件で妻子を亡くした30代の男性は損害賠償を求め、男を提訴。2023年10月27日、東京地裁はドライバーの男に対して、1億4000万円の損害賠償を支払うように命じました。
判決では、「今回の事故は被告の一方的で重大な過失によるものだ」と認定。また、「被告は被害者に謝罪もせず、今回の判決が出るまで不合理な弁解を続けた。遺族の心情を逆なでする行為だ」と述べられました。
遺族の男性は、「2人の命を無駄にしないという信条の下、交通事故を防ぐための活動を続けていく」と話しています。
参考:「令和4年における交通事故の発生状況について」(警察庁)
警察庁の発表によると、75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故は年々、減少傾向にあることが判明。2012年における75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故件数は、10万人当たり11.5件だったのが、2021年では10万人当たり5.7件にまで減少しました。
一方、2021年における75歳未満のドライバーによる死亡事故件数は、10万人当たり2.5件。75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故件数が75歳未満のものより倍以上も高いことを踏まえると、高齢ドライバーによる死亡事故のリスクは依然として高い水準にあると言えるでしょう。
高齢ドライバーによる事故はどのような原因で引き起こされるのでしょうか?
参考:「令和4年における交通事故の発生状況について」(警察庁)
警察庁が、2021年における75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故の人的要因を調べたところ、ハンドル操作を誤ったりブレーキとアクセルを踏み間違えたりなどの「操作不適」が30.1%で最多であることがわかりました。
高齢になると、瞬発的に筋肉を動かす能力が特に衰えやすくなると言われています。筋肉を瞬発的に動かしにくくなった結果、ブレーキとアクセルを状況に応じて瞬時に切り替えるなどの瞬発力が求められる車の操作に失敗し、大きな事故につながったと考えられます。
次に多かったのは、ぼんやりしたまま運転を続けるなどの「内在的前方不注意」で、その割合は20.3%に上ったことが判明しました。また、左右の安全確認を怠るなどの「安全不確認」も19.5%みられました。
年齢を重ねるにつれて、視野が狭くなったり視力そのものが低下したりして、前方に障害物があっても気づけなくなるリスクが高まります。加えて集中力も続かなくなるため、75歳以上の後期高齢者が車を運転すること自体が、リスクの高い行為だと言えるでしょう。
国や警察は、運転が不安になってきた高齢者に対して、運転免許証の自主返納を勧めています。免許証を返納すると、「運転経歴証明書」が発行され、公的な身分証として利用可能。ほかにもタクシーやバスなどの交通機関で割引になるなどの特典もあります。
しかし、高齢になっても運転免許証を返納しない人も少なくないのが実情。その理由として真っ先に考えられるのは、やはり車なしでは生活が難しいという点でしょう。
特に地方では、バスの廃線・便数の減少などで車がなければ買い物に行くことすら困難な地域も少なくありません。また、電車も本数が少ないうえに、そもそも自宅から駅までが遠いということも考えられます。
また、株式会社エイチームライフデザインがおこなったアンケート調査によると、「自分はまだ運転できているから」「運転の趣味がなくなるから」「仕事で車が必要だから」などの理由で、運転免許証を返納しないと考えている高齢者が一定数存在することも明らかになっています。
では、どのような方法なら、高齢者も運転免許証の返納を受け入れやすくなるのでしょうか?
参考:「運転免許証の自主返納制度等に関する世論調査」(内閣府)
内閣府がおこなったアンケート調査の中で「どのようなときに運転免許証を返納しようと思うか」と複数回答で尋ねたところ、64.8%と過半数の人が「自分の身体能力の低下を感じたとき」と回答したことが判明しました。
また、37.4%の人が「家族や友人、医者などから運転をやめるように勧められたとき」と回答していたこともわかりました。
以上のことから、体力テストなど客観的な身体能力の指標をもとに、免許証を返納するように説得を試みるのが有効な手段であると言えそうです。
最後に、高齢者に免許返納を勧める際に留意しておきたいポイントについてお伝えします。
高齢の親などに免許証返納するように伝えるときに、気を付けておきたいポイントは以下のとおりです。
「危ないから運転をしないで」のように頭ごなしに否定してしまうと、ますます頑なにさせるリスクがあります。なるべく、運転免許証を返納するメリットを伝えるようにすると良いでしょう。
家族が送り迎えをしたり割引サービスを受けながら公共交通機関を利用したりするなど、自分で車を運転する以外の移動手段を提案するのも良い方法のひとつ。自家用車を利用する場合と公共交通機関を利用する場合で、かかるコストを比べてみるのも良いかもしれません。
また、免許返納を経験した知り合いやかかりつけ医、親族など自分以外に親のことをよく知っている人から説得してもらうのも有効。それでも免許証の返納を渋る場合は、各都道府県に設置されている公的な安全運転相談窓口に相談してみるのもひとつの手かもしれませんね。
参考:「運転が不安になってきたシニアドライバーやそのご家族へ 運転免許証の「自主返納」について考えてみませんか?」(政府広報オンライン)
参考:「「運転免許の自主返納」に関する当事者とその家族の意識調査を公開!~家族の想いと高齢者の本心が明らかに~」(株式会社エイチームHP)
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