認知症の方は、入院することで症状が進行することがあります。具体的には、徘徊をしたり大声を出したり、治療や介護拒否をするようになることがあります。
認知症が悪化する理由は、入院前より活動量が減ったり環境が変化することによるもの。なので、入院中も規則正しい生活をしたり、ご家族が頻繁に連絡を取るなどしてできるだけご自宅に近い環境を整えましょう。
もし、認知症が悪化した状態で退院を迫られたら、病院のソーシャルワーカーや地域包括支援センターに相談し、対応できる介護施設や病院を見つけることをおすすめします。
入院すると認知症が悪化するというのは本当ですか?
実は、先日、母が自宅で転倒して骨折してしまい、入院しています。親の介護をしている友人から「入院すると認知症が悪化する」と聞き、母の認知症が悪化してしまうんじゃないかと思って…。
実は、そうなんです。認知症の方が入院して症状が進行することはあります。
やっぱりそうなんですね!ちなみに、認知症が悪化するとどうなってしまうんでしょうか?
認知症の症状は個人差が大きいですが、進行すると一般的に以下のような症状が出ることがあります。
認知症が進行することで、室内や屋外を当てもなく歩き回る「徘徊」の症状が出ることがあります。
特に、脚を骨折している場合、骨折していることを忘れて歩いてしまうのでとても危険です。再び転倒してしまい、怪我が悪化したり、別の箇所を怪我してしまう可能性もあります。
認知症のせいで骨折していることさえも忘れてしまうんですね…。
大声を出すことも、認知症が進行して現れる症状のひとつです。同室や近くの病室の人の迷惑となってしまうので、状況によっては退院を迫られることもあります。
また、ずっとベッド上で生活することで昼夜逆転してしまう傾向があります。そのため、夜間や早朝に大声で叫ぶことが多く、そういう面でも周囲の人に迷惑をかけてしまいます。
認知症の影響で感情のコントロールが難しくなることで、暴力的になることがあります。興奮して暴言を吐いたり、暴力を振るうことも。その結果、病院のスタッフや他の患者さんを傷つける可能性もあります。
他の人を傷つける行為が続くと、退院を迫られることもあるんです。
暴言や暴力については、以下のご質問でも詳しくお話ししています。参考にしてください。
他の人の迷惑になる症状があると、退院を迫られることがあるんですね…。
認知症の影響で理解力や記憶力が低下した結果、治療や介護を拒否することがあります。具体的には、腕から点滴の管を抜く、骨折した部位を固定しているギプスを動かしてしまう、といったことが起こるかもしれないんです。
拒否すると、なかなか治療が進まないですよね。そういう場合はどうするんですか?
治療拒否が強くて治療ができない場合、やむを得ず身体拘束がおこなわれる可能性があります。例えば、ミトン型の手袋をつけて指の動きを制限したり、手足をベッドに縛り付けて移動できなくする、などが身体拘束にあたります。
もちろん、治療・介護拒否があると必ず身体拘束を受けるというわけではありません。緊迫性のある場合にしか認められませんから、頻繁に身体拘束がおこなわれているわけではありませんが、念のため頭に入れておいてくださいね。
認知症が悪化すると暴力を振るったり治療を拒否したり、大変な状況になりそうで怖いです。どうしたら、認知症の悪化を防止できるでしょうか?
なるべくご自宅にいたときと近い生活をするのが良いでしょう。認知症の方は環境の変化が苦手なので、ご自宅での起床・就寝時間や習慣を病院でも継続するのがおすすめです。
食事の時間など、どうしてもご自宅と同じようにはできないこともあるでしょう。なので「9時に新聞を読む」など、可能なところだけでもご自宅と同じように過ごせるようにしましょう。
また、ご家族が頻繁に面会に行ったり、連絡を取るようにするのもおすすめですよ。
そもそも、治療をするために入院するのに、どうして認知症が悪化してしまうんでしょうか?
怪我や病気など、認知症以外の治療のために入院した場合、病院側は認知症よりも怪我や病気の治療が最優先になるので、どうしても認知症については優先度が下がってしまうんです。
じゃあ、認知症が悪化しても入院中に治療は受けられないんですか?
そうなんです。認知症の治療は、精神科や脳神経科などの診療科でないとできないことが多いです。なので、骨折して整形外科に入院している場合、管轄外なので認知症の治療はできないでしょう。
入院中に認知症が悪化する具体的な要因としては、以下の2点が考えられます。
入院すると、1日のほとんどの時間をベッドの上で過ごすようになるため、入院前よりも大幅に活動量が減ってしまいます。
体を動かす時間が少なくなることはもちろん、活動をしないので脳への刺激も少なくなることで、認知症が進行しやすい環境になってしまうんです。
確かに。入院してからの母は、テレビを見ることしかすることがないのでいつも退屈そうです。それが認知症が進行しやすい環境だったんですね。
認知症の方は環境の変化が苦手です。そのため、病室という今までとまったく異なる環境がストレスとなって認知症が進行してしまうと考えられます。
環境が変化するだけで、認知症が進行するんですね!
そうなんです。認知症の方は、新しい出来事や情報を覚えることも苦手になりますから、病院のスタッフさんや同室の患者さんなど見知らぬ人に囲まれることも不安感が強くなってストレスを大きくする要因になってしまいます。
また、認知症の有無に関わらず、環境の変化に適応できないためにせん妄の症状が出るご高齢者は多いんです。
「せん妄」とは何ですか?
せん妄とは、理解力や記憶力、注意力などが急に低下する症状です。認知症は理解力や記憶力、注意力の低下が長期的に起こりますが、せん妄は一時的なもの。多くは1ヵ月も症状が続かないとされています。
せん妄は時間が経つと落ち着くことが多いので、心配しすぎず様子を見ることも大切です。
とは言え、認知症が進行してしまわないよう、先ほどお話ししたようにできるだけご自宅と環境を近づける工夫をしてみてくださいね。
先ほどもお伝えしたように、怪我や病気など認知症以外の理由で入院した場合、そちらの治療が優先されます。そのため、その怪我や病気の治療が終わったら退院。認知症が悪化してしまっていても、退院を迫られることがあります。
えぇ!?そうなんですか!
認知症が悪化した状態で帰って来られたら、家では介護できないかもしれません!どうしよう…。
落ち着いてください!もし、認知症が悪化してご自宅で介護ができない状態で退院となってしまった場合は、以下の方法をとってみてください。
病院には、ソーシャルワーカーという退院後の生活について相談できる相談員が常駐していることがあります。まずは、ソーシャルワーカーさんに転院できる病院や介護施設がないか相談してみましょう。
ソーシャルワーカーさんは、地域の医療や介護施設の情報を持っています。入院中のお母様の様子も理解しているので、まずはソーシャルワーカーさんを頼ってみましょう。
ご高齢者の生活については、地域包括支援センターに相談できます。
地域包括支援センターとは何ですか?
地域包括支援センターとは、介護支援専門員、社会福祉士、看護師といった福祉や医療の専門家が常駐している公共施設です。地域の介護施設や福祉サービスについて相談できます。
退院後、介護施設に入居する場合でも在宅介護をする場合でも、地域包括支援センターに相談すれば総合的なアドバイスをもらえるでしょう。入居できる介護施設や利用できる介護サービスの紹介をしてくれることもありますよ。
病院のなかには、入院して認知症の治療ができるところもあります。精神科や心療内科のある病院であれば、認知症の対応が可能ですよ。
認知症って入院して治療できるんですね。今も通院はしているのですが…。
先ほどお話ししたような、「大声を出す」「暴力を振るう」「治療・介護拒否をする」といった症状があると、介護施設やご自宅では対応が難しいケースが多いんです。認知症の専門家による治療やケアが必要な状態であると考えて良いでしょう。
特に「認知症疾患医療センター」という認知症に特化した病院であれば、適切な治療を受けられるでしょう。
なるほど…。ちなみに、入院して認知症の治療ができる病院はどうやって探せば良いんでしょう?
病院のソーシャルワーカーや地域包括支援センターに相談してみましょう。認知症疾患医療センターについても情報を持っているので相談してみてくださいね。
認知症の方が入院できる病院については、以下のご質問でも詳しくお話ししています。参考にしてください。
介護施設への入居について、地域に特化した専門相談員が電話・WEB・対面などさまざまな方法でアドバイス。東証プライム上場の鎌倉新書の100%子会社である株式会社エイジプラスが運営する信頼のサービスです。