お母様からの暴言を受けながらの介護は大変ですよね。もし、暴言を吐かれてつらいと感じたら、物理的に距離を取りましょう。別の部屋に移動したりして、お母様の目の届かないところに移動することで、お母様も次第に落ち着くかもしれません。
また、テレビをつけたり食べ物を出したりしてお母様の注意をそらすのも手。それでも暴言・暴力が続くようでしたら、医師やケアマネジャーに相談しましょう。
母からの暴言や暴力がつらくて、毎日の介護が大変です。認知症が進行したのか、母は何ヵ月か前から私を罵るようになり、今ではちょっと気に食わないことがあると怒鳴り散らします。
昔から気難しい人ではありましたが、ここまで激しく怒ることはありませんでした。どうしてこんな風になってしまったんでしょうか?
怒鳴られながらも懸命にお母様の介護をして、とてもおつらいですよね…。
認知症になると、感情のコントロールに関わる前頭葉が萎縮します。そのため、ストレスや不安を感じると感情のコントロールが効かなくなって、激しく怒り出すことがあるんです。こういった状態のことを「感情失禁」と呼びます。
ストレスや不安によって、怒り出すんですか?
それよりも、母の場合は単に気に食わないから怒っているようにも見えます。病院が嫌いな人なので、病院のことはわかっていないのに「こんなところに連れてきてどうするつもり!」と病院の入口怒鳴ったり、「助けて!」と大声で叫んだり私を殴ったりするんです。そうやって騒ぐせいで、受診できなかったことが何度もあります。
なるほど…。それも一種の不安が原因かもしれません。というのも、認知症になると直近の出来事を記憶できなくなります。人によってはほんの数分前のことも忘れてしまうんです。そういった場合、外出するときに「病院に行くよ」と伝えていたとしても、移動しているうちに忘れてしまいます。
でも、出来事の記憶はなくなっても「病院は嫌い」という感情の記憶は残りやすいんです。なので、「よくわからないけど、嫌なところに行く」という不安が暴言や暴力を引き起こしている可能性があります。
「病院は嫌」という感覚だけは残っているんですね…。
認知症の中でも、最もわかりやすいのが記憶障害です。
記憶障害はもの忘れとよく混同されますが、記憶障害ともの忘れは根本的に異なります。もの忘れは「何かを忘れている」ことは理解できますが、記憶障害になると、忘れているという記憶すらなくなるのです。
例えば、普通のもの忘れであれば会う約束の時間をうっかり忘れてしまっても、指摘されると思い出すことができます。しかし、記憶障害になると約束したこと自体もすっぽりと記憶からなくなってしまうのです。
あとは、否定されたり自尊心を傷つけられたと感じたときにも暴言を吐いてしまうこともあります。
認知症になるとできないことが増えていくので、介護する側としても安全のために「1人ではできないでしょ」と手を出したくなりますよね。でもご本人の中では1人でできると考えているので、必要以上に手を出されると自尊心を傷つけられたと感じてしまうんですね。
あぁ、そういうことがよくあります。この間、朝にベッドから身体を起こすのが大変そうなので手伝おうとすると怒り出してしまって。そのまま、へそを曲げて昼まで起きてこなかった日がありました。そういうことだったんですね。
また、認知症の種類によって、暴言や暴力が現れやすいものがあります。例えば、「前頭側頭型認知症」では、人間の社会性などに関わる脳の部分が萎縮するので、気に入らないことがあると暴力を振るったり社会性を無視した行為をすることがあります。
もちろん、他のタイプの認知症でも、記憶障害や幻覚などの症状の影響で暴言や暴力が出ることはあります。大切なのは、ご本人の性格を否定するのではなく「認知症の症状によるもの」と理解して受け止めることですね。
BPSDにおける幻覚とは、実際には存在しないものをまるで存在するかのように感じる症状のこと。本人は現実と感じるので、周囲からの理解が得にくい症状です。
ひと口に幻覚と言っても、見えないもが見える“幻視”、聞こえないものが聞こえる“幻聴”、体に虫がついている・不調がないのに体が痛いと感じる“体感幻覚”など、さまざまな種類があります。
中でも幻視はレビー小体型認知症、幻聴はアルツハイマー型認知症に多くみられます。
うーん、なかなか受け入れるまで時間がかかるかもしれません…。
とりあえず、母が暴言や暴力をする理由はわかりました。だからといって、これから冷静に対応できるとは思えません。何か上手く対応する方法はないでしょうか?
そうですね…。いくつか方法はあります。個人差があるのですべての方法が効果があるとは限りませんが、できそうなことから試してみると良いかもしれません。
「注意をそらす」って、具体的にはどうしたら良いんですか?
例えば、テレビをつけたり食べ物を出すといったことをしてみるんです。好きなテレビ番組の話をしたりお菓子を出すことで、怒っていた原因から注意が離れて、暴言が収まることがあります。
認知症の人の暴言は一時的な感情の高ぶりであることが多いので、別のことに気を取られると落ち着くこともあるんですよ。
へー、そんなことで良いんですね。
一時的な感情を収めるという意味では、「物理的な距離を置く」も効果があるでしょう。
具体的には、別の部屋に移動したりして、お母様の視界に入らないようにするんですね。そして、落ち着いた頃を見計らって、何事もなかったかのようにお母様に接してみてください。
何事もなかったかのように、って…。なかなか難しいです。母がしょっちゅう怒鳴るので、私もムキになって言い返して口論になってしまうんです。冷静でいることが難しくて…。
介護の疲れも重なって、毎日のように暴言を吐かれると精神的な負担が大きいですよね…。
…例えば、他の人に介護を交代してもらったりショートステイの利用を検討するのはどうでしょうか。物理的に離れることで気持ちが落ち着くと思います。何より、新井さんには介護疲れをリフレッシュするための時間が必要ですよ。
リフレッシュですか…。確かに、仕事と介護が重なって身体も心も疲れている気がします。ケアマネジャーさんにお願いしてみようかな。
そうですね。かなり新井さんの負担が大きいようですから、お母様の状況をケアマネジャーさんに相談してみてください。
それにお話しを聞いていると、かかりつけ医に相談するのも検討した方が良いかもしれません。
病院ですか?認知症の薬はすでにもらっていますが…。
もしかしたら、認知症の薬がお母様に合わない可能性もありますし、他の薬との飲み合わせが悪いことが原因ということもあります。いずれにせよ、認知症の症状が進行して新井さんの負担が大きくなっていることを相談してみると状況が良くなるかもしれませんよ。
ここまで、認知症による暴言・暴力の原因や対策をお話ししてきましたが、普段のコミュニケーションによって暴言や暴力の回数が少なくなることもあるんですよ。
そうなんですか!どうしたら良いのか教えてください。
まずは、お母様ができないことを頭ごなしに否定しないことです。先ほどもお話ししましたが、認知症の人は実際はそうでなくてもまだまだ自分でできると考えています。なのに、「それはできないでしょ」と始めから否定してしまうことは自尊心を傷つけることになってしまいます。
食事やトイレなど、1人ではできなかったり、とても時間がかかることがあってもまずは1人でやってもらうこと、できなくても責めないことを心がけるだけでもお母様の暴言が減るかもしれません。
トイレに行くときとか、つい手を出しちゃうんですよね。危なっかしいし、時間がやたらかかるので…。
お気持ちはよくわかります。それをぐっとこらえて、見守ってみてください。
それと、認知症の記憶障害の影響で、何度も同じことを聞かれることもあると思います。聞かれる側としては、何度も同じことを答えなければいけないのでイライラしてしまいますが、優しく返答してみてください。
認知症の人は記憶障害によって状況がわからなくなるために不安を感じていることが多くあります。そこでイライラして答えられたらもっと不安になりますよね。介護で大変だとは思いますが、優しい対応を心がけてくださいね。
優しい対応か…。私が疲れて気持ちに余裕がないんですよね。心がけてはみます。
そうなんですよね、介護するご家族側に余裕がないと優しい態度はとれないですよね…。疲れて余裕がなくなって、体調を崩したり精神的に参ってしまうご家族はやっぱり多いんです。
なので、定期的にショートステイを利用して休憩する時間を作ることも大切。それでも自宅での介護が難しそうだったら、老人ホームなどの介護施設の入居を検討してください。
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