一生懸命に介護しているのに、ひどいことを言われたり暴力を受けるのはつらいですよね…。
認知症の人が不安にならないような対応をしてみると、お母様も安心して穏やかに話せるかもしれません。例えば、ゆっくり大きな声で話をしたり、お母様のペースに合わせて行動をしてみましょう。
反対に、早口で話したりお母様の行動を急かすような声掛けは、お母様の不安感を大きくしてしまいます。また、認知症の方との関わり方で注意が必要なことは、シチュエーションによって少し異なります。その辺りも注意してみてくださいね。
認知症の母の介護をしています。昔は働き者で料理好きの明るい人だったのですが、このところ急に怒鳴ったり殴りかかってくることが多くなりました。
物忘れが多くなってきたのは認知症のせいだと割り切れるのですが、悪口を言われたり暴力を振るわれるのは、私もショックが大きくて…。
認知症の母と上手く関わるためにはどうしたら良いんでしょうか?
暴力や暴言はショックが大きいですよね。大切に思っている家族だからこそ、なおさらショックが大きくなるのは自然なことですよ。
認知症の方との関わり方は、対応に慣れている介護職員でも頭を悩ませることです。なので、いくつかのコツをお伝えするので、それを1つずつ試してみてください。
認知症の方との関わり方のコツを以下にまとめてみたので、参考にしてみてください。
認知症の方との基本は、「ゆっくり大きな声で話す」ことです。年齢とともに聴力が衰えていくうえに、認知症の影響で認知機能が低下して話の理解力も低下しています。
そのため、お母様が言葉を聞き取れているかどうかを確認しながら会話をしてみましょう。そうすれば「私のことを気にかけてくれる」とお母様が感じて、不安な気持ちが落ち着いてくると思いますよ。
「目線を合わせて話す」というのは、気にしたことがなかったです。
忙しいと遠くから話しかけてしまったり、座っているお母様に対して立ったままで会話することもあると思います。
ただ、認知症の方は感情の変化に敏感です。立ったままで話すと怒っているような威圧感を与えてしまいかねません。お母様が椅子に座っていたら平井さんも椅子に座って話しかけるなど、目線を合わせて、目を見ながら話すのを意識してみてください。
「話をよく聞く」ことは、相手が誰であってもコミュニケーションの基本。でも、家事に介護に…と、忙しいとないがしろにしてしまいがちですよね。認知症の方の話は要領を得なかったり、ちぐはぐなことがありますが、その言葉の中に不安の要因が隠れていることもあります。
なので、毎日忙しいかと思いますが、お母様の話を聞く時間を設けてみてください。
「話をよく聞く」ですか…。「認知症になって何言っているかよくわからないし」と思って、母と会話する機会が減っていたような気がします。気をつけないと…。
また、認知症の方には、話し方だけではなく接し方にもコツがあります。
例えば、認知症によって脳が障害を受けることで引き起こされる直接的な症状「中核症状」には、物事を順序立てて効率よく作業できなくなる「実行機能障害」というものがあります。
そのため、ご家族から見たら手際が悪くて「早くして」と急かしたくなることもあるかもしれません。それをぐっとこらえて、お母様のペースに合わせてみましょう。それだけでもお母様が安心して行動できるので、不安による症状の悪化が抑えられるかもしれませんよ。
「無視をしない」って当然のことじゃないですか?
そうなんです。でも、家のことや仕事、育児などで忙しいと、認知症の方のことを無視してしまったり話しかけられても後回しにしてしまうこともあるかもしれません…。
認知症の方も、一般の方と同様に自尊心があります。無視をすると自尊心が傷つけられたりストレスを感じて、認知症の症状が悪化してしまうこともあり得るんです。
「役割を持ってもらう」ってどういうことですか?よくイメージできないのですが…。
例えば、「食後に食器を流し台に持っていく」「テーブルを拭く」「味見をする」など、簡単なことでも何でも良いので、お母様に役割を持ってもらうんです。
誰でも「役に立っている」という感覚はうれしいですよね。それは認知症の方も同じです。ちょっとしたことでも良いので役割を持ってもらって、「お母さんのおかげで助かったよ」といった感謝の声掛けをしてみましょう。
介助が必要なご高齢者の場合、「迷惑をかけている」という罪悪感を感じているかもしれません。感謝の言葉をかけるだけでも、その罪悪感が軽減されることがありますよ。
介護や家事で余裕がなくて、「目線を合わせて話す」「ペースを合わせる」といったことができていませんでした。むしろ、立ったまま話しかけていましたし、朝の支度が遅い母を「早くして」と急かしてしまっていました…。
介護をしていると、気持ちや時間の余裕がなくなってしまいますよね…。なので、認知症の方が不安やストレスに感じやすい対応をしてしまいがちかもしれません。
そこで、認知症の方にしてはいけない関わり方を次のようにまとめました。やらないように意識していくだけでもお母様の気持ちが落ち着くと思いますよ。
認知症の方へのNG対応の中で、一番やってしまいがちなのが「発言や行動を否定する」ことではないでしょうか。
認知症の方は、認知機能の低下で事実とは異なることを話したり、同じことを何度も話すことがあるでしょう。そうしたときに「それは違うよ」「それは何度も聞いたよ」と否定してしまうのはNGです。
たとえ、事実と違う話でも、認知症の方の頭の中では事実です。それに、以前に同じ話をしていたとしても、認知症の方にとって話したのが今回で初めてのことなんです。それを毎回否定してしまうと、認知症の方のストレスになってしまいます。
でも、認知症になっていたら否定したことも忘れてしまうのではないですか?
はい。「否定された」という出来事は忘れてしまうでしょう。ただ、否定されて「嫌な気持ちになった」という感情だけは記憶に残ると言われています。
そのため、発言や行動を否定することを繰り返していると、否定してきた人の顔を見るだけで嫌な気持ちを思い出すようになる可能性も。その結果、顔を見るだけで感情的になったり介護拒否につながるケースもあるんです。
え!?そうなんですね…。では、どうしたら良いんでしょうか。
まずは、話をよく聞くことが大切です。事実とは違うことを話していても、以前に聞いた話でも「そうなんだね」と共感するようなリアクションをしましょう。
それだけでも、話をきちんと聞いてもらっていることを感じるのでお母様が安心できると思いますよ。
先ほどお話ししたように、認知症になると効率的に作業を進めるのが難しくなります。なので、「こうした方が良いよ」「先にこれをして」など、口をはさみたくなりますよね。
でも、常にそうされると、誰でも良い気持ちにはならないと思います。なので、失敗しないように指摘したくなる気持ちを抑えて、お母様のことを見守りましょう。
はい…。私は「早くして」と急かしてしまうことが多いので、我慢して見守ることにします。
「家から出られないようにする」ってどういうことですか?
認知症が進行すると、一人で外出して帰り道がわからなくなり帰ってこれなくなることがあります。認知症の周辺症状のひとつである「徘徊」と呼ばれるものです。
家に帰ってこれなくなると、事故にあったり衰弱してしまったりと、認知症の方に危険が及びます。なので、ご家族としては危険から守るために玄関に鍵を締めたりして家から出られないようにするんです。
徘徊ですか…。聞いたことがあります。今のところ、母は勝手に家を出ていくことはないですが…。
玄関に鍵がかかっていて外に出られないことがわかると、認知症の方はパニックになることがあります。自宅が自分の家だとわからなくなっていることもあるので、閉じ込められると「ここから逃げ出さなければ」となおさら外に出ようとするんですね。
「知らない場所に閉じ込められた」と感じれば、ものすごいストレスになります。そのストレスから認知症が悪化してしまう可能性もあるわけです。
でも、鍵をかけないと勝手に出て行ってしまうんですよね?どうしたら良いんですか?
理想としては、出ていこうとしたときに一緒についていって近所を散歩することです。外に出て歩いているうちに、どうして外に出ようとしたのか忘れてしまうこともあります。ただ、忙しいとなかなかそうした時間が取れないかもしれませんが…。
そういうときには、出ていこうとしたときに「おやつでも食べない?」「好きなテレビ番組が始まるよ」などと声をかけるのも良いでしょう。外に出ることから気持ちがそらされて、外出しなくなることがあります。
ここまで、認知症の方との基本的な関わり方とNGな対応方法についてお話ししてきました。ただ、具体的な状況でないとイメージしにくかったかもしれません。
はい…。まだイメージができていません。
例えば、うちの母の悪口や暴力にはどのように対応すれば良いんでしょうか?
認知症の方の暴力・暴言に加えて、具体的な以下のシチュエーションでの対応方法についてもお伝えしていきますね。
認知症の方からの暴力・暴言を受けたら、まずは物理的に距離を取りましょう。介護を一生懸命にしているのに手を上げられたりひどい言葉を浴びせられるのは、とても辛いですよね。
なので、まずは別の部屋に行ったり外出したりして、お母様から離れてみましょう。それでも気持ちが落ち着かなかったら、音楽を聞いたりして気分転換するのも良いかもしれません。
母から離れればよかったんですね。悪口を言われると口論になってしまっていたので、気分転換なんてしたことがなかったです。
そうですよね。余裕がなくなってしまうと上手く対応できなくなってしまいますよね。
気持ちに余裕がないと感じたときには、誰かに相談してみるのも良いでしょう。他のご家族やケアマネジャーさんに相談してみるのはどうでしょうか。
他にも、日記などに記録しておくことも効果的。言葉にすることで気持ちが整理できることもありますし、あとで誰かに相談するときにも役に立ちますよ。
なるほど…。落ち着いて書けるときに、ノートに記録してみます。
認知症のご家族からの暴言についてのご質問を以前もいただいたことがあります。そちらでも詳しくお答えしているので、ぜひ参考にしてみてください。
その次の「物盗られ妄想」とは何ですか?
認知症の方が自分でしまったことを忘れて、財布や貴重品がなくなったことを「お金が盗まれた!」と誰かのせいにすることです。ときには、身近なご家族が盗んだ犯人にされてしまうこともあります。
そういうときは、一緒に家の中を探したり「おやつを食べよう」と他のことに気をそらすことが有効です。
物盗られ妄想については、以前のご相談で詳しくお答えしているので参考にしてみてください。
認知症の症状の中でもご家族のショックが大きいのが、「家族の顔がわからなくなる」ことでしょう。毎日、介護しているのにも関わらず、急に「どちら様?」とわからなくなるのは大変ショックですよね。
もし、誰か別の人と勘違いしている場合は、その人になりきって返答するとスムーズにやり取りできることがあります。
ただ、仲の悪い人と勘違いしている場合、認知症の方が興奮してしまう可能性もありますので、刺激をしないように離れた場所に移動して落ち着くのを待つのもひとつの手です。
うちの母も、昼夜逆転しているかもしれません。夜中に起き出して私を起こしに来たり、昼間に寝ていることがあって…。
なるほど…。それは昼夜逆転の傾向がありますね。昼夜逆転は、認知症の「見当識障害」という時間の感覚がわからなくなる症状の影響で起こります。
対策としては、昼間に散歩したり活動する機会を増やしたり寝室の環境を整えましょう。とくに運動することは、認知症の進行緩和にも効果があるとされていますから、身体を動かす時間を増やしてみてください。
昼夜逆転については、以前のご相談で詳しくお答えしているので参考にしてみてください。
「異食」って何ですか?初めて聞きました。
異食とは、食べ物ではないものを食べてしまうことです。例えば、ティッシュや乾電池を食べてしまうのがよく聞くケースですね。食べてはいけないものなのに、認知機能が低下した影響で食べ物だと思い込んでしまったり、空腹のせいで口にしてしまうんです。
異食をしてしまう場合は、口に入れやすい小さなものを認知症の方の手の届くところに置かないようにしたり、空腹にならないように少量をおやつなどを用意しておくと良いでしょう。
また、食べることに気持ちがいかないように、趣味などの食べること以外の楽しみを増やすのも異食を防止できるかもしれません。
認知症になると、幻覚を見るんですか?
そういうケースもあります。例えば、「庭に知らない人が立っている」と実際には存在しないものが見える「幻視」や、壁の模様などが虫に見えてしまったりする「錯視」、実際にはない声や音が聞こえる「幻聴」などの症状が現れます。
へぇ、目で見えるだけではなくて、存在しない声や音が聞こえることもあるんですね。これにはどう対応したら良いんですか?
例えば「庭に知らない人が立っている」という幻視だったら、「追い払っておいたよ」と返すのが効果的です。幻覚を否定するのではなく、ある程度、付き合ってあげつつ安心できる声掛けをすると良いでしょう。
こうした幻覚も認知症の方の不安感から現れることが多いです。そのため、安心できる返答を意識してみてくださいね。
幻覚については、以前のご相談で詳しくお答えしているので参考にしてみてください。
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