もしかしたらお母様は「昼夜逆転」状態になっているかもしれません。認知症になると脳の機能が低下して、体内時計が乱れることで時間の感覚がなくなるので昼夜逆転してしまう傾向があります。
なので、体内時計を整えるために日中に適度な運動をしたりすることで、夜間の睡眠状態が良くなることがありますよ。
最近、母の寝付きが悪くて夜中に起きるので困っています。起きているだけなら良いのですが、以前、夜中に1人で家を出て帰れなくなり警察に保護されたこともあるので、また出ていってしまわないか心配で私も一緒に起きています。
私も常に寝不足で辛いです。どうにかする方法はないんでしょうか?
うーん、それはとても大変な状況ですね。…ちなみに、お母様は認知症を発症していらっしゃいますか?
はい、アルツハイマー型認知症です。物忘れがひどくて、30分前に話したことも忘れてしまうほどです。
なるほど…。でしたら、認知症による「昼夜逆転」の症状が出ているのかもしれませんね。
昼夜逆転、ですか?どういう状態でしょうか?
夜に眠らずに活動して、日中に眠ってしまう状態のことです。文字通り、昼と夜が逆転してしまっているんですね。
まさにうちの母がそうです!夜はほとんど眠らないのに、お昼ごろになるとリビングで居眠りしているんです。
何か良い解決法はありますか?
解決法を考える前に、お母様が昼夜逆転している原因を探してみましょう。その原因によって、打ち手も変わってきますから。
それもそうですね。昼夜逆転の原因というと、どんなことがあるんでしょう?
主な昼夜逆転の原因は、以下のようなものがあります。
体内時計とは、1日の昼と夜の変化に合わせて身体の状態を変化させる機能のことです。「概日リズム」とも呼ばれ、時間によってホルモンの分泌や体温調整を無意識でおこなっています。
ただ、この機能は脳の働きによるもの。認知症によって調整する部分の機能が低下してしまうと体内時計が乱れて、寝るべき夜に眠れず、起きているべき昼間に眠ってしまうようになるんです。
「体内時計」という単語は聞いたことがありますけど、認知症の影響があるんですね。知らなかったです。
また、「見当識障害」も認知症の影響で起きる症状のひとつ。見当識障害とは、今の時間や場所がわからなくなることです。「今は夜か昼か」がわからなくなっているので、「今は寝る時間かどうか」もわからなくなるんですね。
その結果、夜中に活発になってしまうのはもちろん、明け方なのに夕方と勘違いして夕食の準備をしようとしたりすることもあります。
実は母も時間がわかっていない様子はあります。昼夜問わず「今、何時?」と何度も聞いてきますし…。
見当識障害とは、今、自分がいる時刻や日付、場所、周囲の環境などを総合的に判断する能力が失われる障害です。アルツハイマー型認知症になると、記憶障害に続いて見られる症状です。
見当識障害には「時間の見当識障害」「場所の見当識障害」「対人関係の見当識障害」の3つの種類があります。まず最初に症状としてあらわれるのが時間の見当識障害と場所の見当識障害です。症状が進行すると対人関係の見当識障害も目立つようになります。
時間の見当識障害が起きると時間の感覚が失われていきます。日付や曜日の間違いはもの忘れの範囲ですが、症状が進行すると季節や朝昼夜の区別も難しくなります。
場所の見当識障害が起きると、今まで普通に通っていた場所やその道順があやふやになります。目的地の建物が認識できなかったり、どこで曲がるのかわからなくなって道に迷います。迷ったことで焦りやパニックを起こして、さらに遠くに行ってしまう危険もあります。
認知症の症状が進行して短期記憶だけではなく過去の記憶も失われ始めると、対人関係の見当識障害もあらわれるようになります。家族や近い友人もわからなくなって、自分と他者との関係性もあいまいになります。
また、夜間に起こる「せん妄」も昼夜逆転の原因になります。せん妄は意識が朦朧として、注意力や思考力が低下した状態のことです。
昼夜逆転状態の人は、睡眠不足でせん妄の症状が出やすい状況。そのため、記憶が曖昧になったり不安感から興奮しやすいため、より眠りにくい状態になってしまうんです。
せん妄とは、妄想、興奮、幻覚、失見当識、(現在の日付や時間、自分がどこにいるかなどの状況を把握できていない状態)など、意識障害を起こしている状態のこと。せん妄が夕方から夜間にかけて起こることを“夜間せん妄”と呼びます。
昼夜逆転のせいで寝不足になってそのせいでせん妄が起き、さらに夜に眠れなくなる…という悪循環になっているんですね。
おっしゃる通りです。それに、日中の活動が少ないことも夜の眠れなくなる原因になることもあります。
身体を動かさないことが続くと、身体に疲労が溜まっていないのでなかなか眠れないんです。年齢を重ねると自発的に身体を動かす機会が少なくなる傾向がありますから、認知症でないご高齢者も寝付きが悪いことで悩んでいる方が多いんですよ。
あぁ、それはありますね。母は昔は趣味や地域の集まりで常に動き回っていた人ですが、この数年は外に出ることがほとんどなくなりました。やっぱり、身体を動かす機会も減ってしまっています。
こうして改めて考えてみると、いろんな理由で眠れなくなっているんですね…。
母が昼夜逆転してしまっている理由について、いくつか心当たりがあるものがありました。原因がわかったところで、解決策を教えてもらえますか?
はい、もちろんです!主な解決策には、以下のようなものがあります。
「睡眠の環境」というと、どんなことを直せば良いんでしょうか?枕とかベッドとか?
はい。そういう物も改善するのも効果的ですが、意外と見落としがちなのが「明るさ」「寒さ」「静かさ」です。
電気がついたままの明るい部屋では眠りにくいのはもちろんなんですが、暗すぎて眠れない場合もあるんです。認知症の人は不安を感じやすい心理状態なので、光や物音などの刺激には配慮が必要ですね。
合わせて、ご高齢者は体温調節が苦手なので、空調や寝具で調整してあげてください。
当たり前のことですが、寝室の状態は大切ですね。
また、寝る前にはトイレに行ったり、関節痛や皮膚のかゆみへの処置を予めしておくと寝付きが良くなります。
もし、トイレが頻回だったり痛みやかゆみがなかなか治らないときは、病院で治療を受けてくださいね。
最近、母は「膝が痛い」と言うことが増えました。市販の湿布を貼っていますが、念のために病院に行っておいた方が良いかな…。
それに、昼夜逆転を直して規則正しい生活に戻すには、日中の活動量を増やすことが効果的です。散歩に行ったりデイサービスを利用したりとさまざまな方法はありますが、意識的に身体を動かす機会を増やしてみてください。
そういえば、お母様はよくお昼寝をしているとおっしゃっていましたよね。そのお昼寝の時間を身体を動かす時間にできると良いですね。
デイサービスとは、施設に入居することなく、自宅から通所しリハビリテーションや介護サービスを受けることで、高齢者のQOL(クオリティ オブ ライフ)の向上を目指す施設です。
デイサービスを利用する場合は施設から車で自宅まで迎えにきてくれるので、歩行に自信がない方でも利用できます。
ただし、施設の送迎範囲が決まっているので、その範囲外の場合はその施設をその施設の利用はできません。基本的にデイサービスは地域住民のためのサービスという特徴があるからです。
デイサービスでは、介護職員や理学療法士、看護師などの専門スタッフがサービスを提供。決められた時間に高齢者の機能訓練や集団でのレクリエーションなどを担当します。
自宅にこもりがちになる高齢者にとっては、外部との交流が持てることも嬉しいポイントです。
やっぱり昼寝は良くないですよね。居眠りしていたらできるだけ起こして身体を動かすように声をかけてみます。
もしよく眠っているようでしたら、無理に起こさなくても大丈夫ですよ!無理に起こすことで意識が不安定になって、不安感が強くなってしまうこともありますから。
ただ、趣味の活動やお出かけなどお母様が興味を持ちそうなことに取り組む時間を作って、楽しみながら活動できると良いですね。
なるほど。何か興味を持ちそうなことがあるかな…。
もし、今回ご紹介した方法を試しても昼夜逆転が改善されなかったら、かかりつけ医に相談してください。薬の副作用などが原因である場合は服薬の調整をしてもらえますし、生活習慣についてアドバイスももらえるでしょう。
昼夜逆転を直すにはある程度の時間がかかります。気長に対策をしていきましょうね!
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