もし、以前よりも「物忘れが多くなった」「忘れっぽくなった」ということであれば、若年性認知症の可能性があるので、早急に病院で検査を受けてください。ご高齢者の認知症よりも若年性認知症の方が進行が早い傾向がありますので、早期の対策が重要です。
また、今後、生活に支援が必要になることもありますから、どんな支援が受けられるのか今のうちに把握しておきましょう。
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このところ、夫の物忘れが多くなっていて心配です。仕事に使う重要な資料を家に置き忘れたり、私とさっきまで話していたことを忘れることもしょっちゅうです。以前はこんなことはなかったのですが…。
この間、テレビで「若年性認知症」のことを知って、夫に当てはまるところがいくつかあったので、認知症になってしまったんじゃないかと不安なんです。
そうだったんですね…。以前よりも物忘れが多くなった、ということであれば、病院で検査してもらうことをおすすめします。というのも、若年性認知症というのはご高齢者の認知症よりも進行が早いとされているんです。月単位で状態が進行することもありますから、一刻も早く対策をとることが重要です。
そうなんですか!?うーん、でも夫はまだ53歳ですし、仕事が忙しくて疲れているだけということもありますし…。
もちろん、そうかもしれません。ただ、若年性認知症を発症する平均年齢は51歳とされていますし、男性に多いこともわかっています。53歳の旦那さんが発症することは大いにありえるんです。
まだ、夫が若年性認知症と確信が持てないでいます。…若年性認知症って具体的にはどんな症状が出るんですか?それに当てはまっていたら、病院に連れて行こうと思います。
主な症状は、ご高齢者の認知症と変わりはありません。認知症の中でも18歳〜65歳未満の方が発症したケースを若年性認知症と呼んでいるんですね。
認知症の症状は大きく分けると「中核症状」「行動・心理症状(BPSD)」の2つあります。中核症状とは、認知機能が低下することそのものによって現れる症状のこと。対して、BPSDは中核症状によって起こる二次的な症状のことを言います。
近藤さんのお話しを聞いていると、旦那さんには中核症状の記憶障害が起きている可能性があります。ちょっとした物忘れなら誰にでもありますが、認知症の場合は新しいことを覚えられないのが特徴なんです。なので、会話したことをすっかり忘れていたり、どこに物を置いたのかわからなくなってしまうんですね。
あぁ、なるほど。確かに話したこと自体を忘れていることが多いです。「そんな話をした記憶はない」と言われてしまいますね。
あと、「見当識障害」「実行機能障害」ってなんですか?初めて聞く言葉です。
「見当識障害」は、今の時刻や友人や家族など親しい人の顔を忘れてしまいます。また、朝や昼といった時間が認識できないことも。自分が今どこにいるのかもわからないことがあるので、外出すると家まで帰ってこれなくなってしまいます。
夫は、今のところそういったことはないですね。
あと実行機能障害は、ものごとを優先順位をつけて計画的に実行する能力が低下すること。身近なことだと、段取りがうまくいかなくて食事の準備ができなくなったり、電化製品の使い方がわからなくなる状態です。
そういうことなんですね。…他に気になったのが「幻覚や妄想」ってなんですか?認知症はものごとがわからなくなるだけではないんですか?
認知症はものごとがわからなくなるというよりも、記憶障害や見当識障害があることによって、自尊心が傷つけられることでBPSDの症状が現れると言った方が良いかもしれません。
というと?
例えば、BPSDのひとつに「物盗られ妄想」があります。これは、自分でどこに物をしまったか忘れてしまったことが信じられないために盗まれたという妄想をしてしまうんですね。
そういえば、近所の認知症のおばあちゃんが「財布を嫁に盗まれた!」と言っていたことがありました。そういうことだったんだ…。
同様に、記憶がなくなっていく不安や今までできていたことができない焦りから、攻撃的な言動をしてしまう人も。誰かのせいにしたり、怒りをぶつけてしまうんですね。
もしかして、夫が怒りっぽくなったのはそのせいなのかしら?書類を忘れていったときも「お前がきちんと準備していないからだ」と怒鳴られました。これまで、自分の物は自分で管理する人だったのに…。
先ほどもお伝えしましたが、若年性認知症の特徴は進行が早いことです。しかし、それに加えて発見が遅れてしまうことが多い傾向があります。
発見が遅れる?なんでですか?
若年性認知症がまだ一般的ではないからですね。ご本人やご家族も「まさかこの年齢で認知症なんて」「疲れのせいかも」と考えてしまうんです。
それに、初期症状の段階ではうつ病や更年期障害などと誤った診断が下りることもあります。ご高齢者よりも診断が難しいのも確かです。それに、まだお若いので「認知症かもしれないから病院に行こう」と連れ出すのもご高齢者よりも難しいですよね。
うーん、夫にそんなこと言ったらまた怒鳴られてしまうかも。
若年性認知症の症状に当てはまることが多くて、夫は認知症なんじゃないかと思えてきました。…若年性認知症って治らないんでしょうか?
残念なことに、ご高齢者が発症するものも含めて認知症を根本治療する薬はまだないんです。
現在、使用されている治療薬は、認知機能の低下を防ぐアリセプトや、BPSDの軽減を目的とする抗不安薬、抗精神病薬など対処療法です。これらの薬を状態にあわせて服用することとあわせて、薬を使わない「非薬物療法」も重要です。
非薬物療法ですか?
はい。非薬物療法というのは、主に生活習慣を見直すこと。特にバランスの良い食事を心がけたり、喫煙や飲酒などの認知症の症状を進行させる習慣を止めることが大切です。
夫は、タバコも吸いますしお酒もたくさん飲みます。これを機に止めさせなきゃ。
もし、夫が若年性認知症だったらどうしたら良いんでしょうか。さっき北野室長が言っていたような症状が出たら、仕事は続けていけないでしょうし…。
そうですね…。東京都健康長寿医療センターの調査でも、若年性認知症と診断された方のうち、約7割が退職しています。また、約6割が世帯収入が減少しているんです。
なので、旦那さんが若年性認知症だったときに備えて、対策を今から把握しておきましょう。
具体的に、私はどうしたら良いんでしょうか?
もし、若年性認知症と診断されたら初めにやることは以下のようなことです。
やはり、若年性認知症が進行したら仕事に影響が出ます。なので、まずは職場に相談して理解をしてもらうことが大切です。職場に相談して配置転換などによって仕事を続けられないか確認してみましょう。
若年性認知症の方が一度、退職してから再就職するのは難しいので、退職しないで済むように職場の理解を得られるようにしてください。また、今の職場での就労が難しい場合は、障害者枠で雇用をおこなっている会社に再雇用してもらう方法もあります。何はともあれ、相談してみるのが重要です。
そうですね。まずは相談、ですね…。
また、若年性認知症の方が利用できる支援制度やサービスもありますから、大いに利用していきましょう。具体的には、以下のようなものがあります。
意外といろんなものがあるんですね。…あれ、介護保険サービスって高齢者向けのサービスじゃないんですか?50代でも使えるんですか?
はい、そうなんです。基本的に介護サービスは65歳以上の方が利用するものなんですが、認知症などの特定疾病のある方なら40〜64歳の方も利用できるんです。
若年性認知症が進行すると日常的に介護が必要になる場面が多くあります。そのときにご家族だけでは介護しきれないことも多いでしょうし、何より負担がとても大きいです。なので、介護のプロの手を存分に使うことをおすすめしています。
そっか…。介護をすることになるんですよね。まだ想像もできませんが…。
まだお若いのでそれが普通だと思います。ただ、若年性認知症の方を介護する方は旦那さんや奥さんなどのパートナーであることが多く、子育ても同時にしていることが少なくないんです。そのうえ、ご両親の介護が始まる世代でもありますから、「ダブルケア」「トリプルケア」と負担が重なる傾向にあります。
なので、障害福祉サービスや介護保険サービスといった”外の手”を活用することが大切。あわせて医療費・介護費の減免制度など、経済的な負担を軽減する制度もあります。旦那さんが若年性認知症と決まったわけではありませんが、頭の隅に置いておいてくださいね。
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