物盗られ妄想で、泥棒扱いされてしまうとつらいですよね。物盗られ妄想が出たときに大切なのは、「発言に対して共感する」ということです。否定も肯定もせずに「大変だったね」と言うだけでも落ち着くことがあります。また、認知症の進行で介護の負担が大きくなっている場合は、介護サービスの量を増やしたり老人ホームなどの介護施設への入居も検討してみてください。
認知症の母の介護をしています。最近、母が「財布が盗まれた」と言うことが多くなっています。しかも、私が盗んだと言うんです!
これまでも、自分で財布をしまいこんでどこにやったかわからなくなることはあったのですが…。何でこんなことを言うようになったのでしょうか?
お母様の状態は、いわゆる「物盗られ妄想」でしょう。物盗られ妄想は、認知症によって記憶障害が起こっていることで現れるとされている症状です。
記憶障害って、記憶ができなくなるということですよね?
そうです。記憶障害は認知症の中核症状のひとつで、ほとんどの認知症の人に現れる症状です。特に新しい記憶を覚えられなくなるのが特徴で、「何度も同じことを話す」「さっき聞いたことを再び質問する」といったことも、記憶障害の影響です。
認知症の中でも、最もわかりやすいのが記憶障害です。
記憶障害はもの忘れとよく混同されますが、記憶障害ともの忘れは根本的に異なります。もの忘れは「何かを忘れている」ことは理解できますが、記憶障害になると、忘れているという記憶すらなくなるのです。
例えば、普通のもの忘れであれば会う約束の時間をうっかり忘れてしまっても、指摘されると思い出すことができます。しかし、記憶障害になると約束したこと自体もすっぽりと記憶からなくなってしまうのです。
母も私によく同じ質問をします。…でも、その記憶障害が物盗られ妄想とどんな関係があるんですか?
新しいことを記憶できないということは、「自分で財布をしまった」記憶を忘れているということなんですね。なので、「どこかにしまった記憶がないので、誰かに盗まれたに違いない」と思い込んでしまうんです。
なるほど…。ちなみに、いつも私が財布を盗んだ犯人にされてしまうんです。これはどうしてなんでしょう?
おそらく、認知症によっていろんなことが思い通りにできなくなっていることに不安感や怒りを感じていて、身近なご家族にやつあたりしているのかもしれません。それか、誰かのせいにすることで自分がいろんなことができなくなっていることから目をそらしていることも考えられます。
うーん、そんな理由があったんですね。大変な思いをして毎日介護をしているのに、何で私が犯人にされるのか腹が立っていたんですが、ちょっとだけ納得しました。
物盗られ妄想の理由はわかったのですが、これからどう対応したら良いのかがわかりません。いつも私が盗んだことにされるので、どうしても怒ってしまって。毎回ケンカになってしまうんです。
実際はそうではないとは言え、犯人にされるのはつらいですよね。うまく対応できる方法を知っていれば、ケンカが減るかもしれません。
物盗られ妄想への対応で大切なのは、落ち着いて話を聞くことです。まずはお母様の話に耳を傾け、「それは大変だね」と共感してみてください。「私は盗んでない」と話を否定してしまうとお母様が興奮してしまう可能性もありますから。
そうなんです!さらにきつい口調で私を責めてきて、お互いにヒートアップしてしまうんです。だからといって、私が盗んだと肯定したら本当に私が犯人になってしまいますよね?
いえ、肯定はしなくて良いんです。肯定はせずに「財布がないのは大変だね」と共感するだけでOKです。それから、一緒に財布を探してみてください。それで財布が見つかったら「よかったね」と前向きな声掛けをすれば、お母様の安心感も高まるでしょう。
それに、もしかしたら家の中を探し回っている間に気が紛れて財布を探していたことを忘れてしまうこともあります。むしろ、あえて探しているときに、テレビや食事の話をして財布から気をそらせるという手もありますよ。
なるほど!それは良いですね!今度から一緒に家の中を探してみます。
ちなみに、普段から認知症の人は不安感を持っていることが多いです。なので、落ち着いているときに何か不安に思っていることはないか聞いてみるのも良いでしょう。そうした普段からのコミュニケーションで妄想が減ることもありますよ。
物盗られ妄想があると、実際は盗んでいなくても責められている気持ちになるので精神的な負担が大きいと思います。小島さんはつらくないですか?
つらいというよりは疲れました…。物盗られ妄想がほとんど毎日のことなので毎日ケンカしているような状況です。
そうなんですね…。介護の負担を1人で抱え込んでしまうと、介護している人が倒れてしまいかねません。なので、介護のプロにお願いしてみましょう。今は介護サービスを利用していますか?
デイサービスに週2回通っています。
可能であればデイサービスの回数を増やしたり、ショートステイを利用するのも良いかもしれません。
デイサービスとは、施設に入居することなく、自宅から通所しリハビリテーションや介護サービスを受けることで、高齢者のQOL(クオリティ オブ ライフ)の向上を目指す施設です。
デイサービスを利用する場合は施設から車で自宅まで迎えにきてくれるので、歩行に自信がない方でも利用できます。
ただし、施設の送迎範囲が決まっているので、その範囲外の場合はその施設をその施設の利用はできません。基本的にデイサービスは地域住民のためのサービスという特徴があるからです。
デイサービスでは、介護職員や理学療法士、看護師などの専門スタッフがサービスを提供。決められた時間に高齢者の機能訓練や集団でのレクリエーションなどを担当します。
自宅にこもりがちになる高齢者にとっては、外部との交流が持てることも嬉しいポイントです。
ショートステイですか?聞いたことはありますが…。
ショートステイというのは、短期間、介護施設に宿泊できるサービスです。施設ではレクリエーションなどを受けられるのでご本人の気分転換にもなりますが、何より介護をするご家族のリフレッシュになるんです。
ショートステイを利用して、数日間、介護から離れて自分のことをしたり、旅行に行っている人もいますよ。
へー、そういうサービスなんですね。でも、母を預けて旅行に行くのは気が引けます…。
いえいえ、介護は長期戦です。「介護がある間は旅行に行けない」と考えてしまうと、小島さんがリフレッシュする機会がなくなって、つらくなってしまいます。それをそのままにしておくと、介護の疲れから「介護うつ」になってしまいかねません。
定期的にショートステイを利用して賢く休んでいる人もいます。まずは、担当のケアマネジャーさんに相談してみてください。
介護による身体的負担・精神的負担が発展することで、“介護うつ”につながることがあります。
「在宅での介護にこだわって全て自分でやろうとする」「介護による悩みや愚痴を相談できない」「身体的負担や精神的負担を我慢する」など、全て自分でやろうとしてしまうと、知らないうちに精神的限界を迎えて、介護うつになってしまうケースが多々あります。
そうですね。ケアマネジャーさんに聞いてみます。
もし、介護サービスを増やしても介護の負担が大きいときは、老人ホームなどの介護施設への入居も検討してみてください。
老人ホームですか?まったく考えたことなかったです。
今はまだ大丈夫でも、ゆくゆくはご自宅での介護に限界がくるかもしれません。そのときに、慌てて施設探しをしなくても良いように、ある程度、余裕のある今のうちに施設の目処をつけておくと良いでしょう。
もし、どうやって施設を探せば良いかわからなかったら、「いい介護 入居相談室」に気軽にご相談ください。介護の知識の豊富な相談員がお母様にあった施設をご案内しますよ。
介護施設への入居について、地域に特化した専門相談員が電話・WEB・対面などさまざまな方法でアドバイス。東証プライム上場の鎌倉新書の100%子会社である株式会社エイジプラスが運営する信頼のサービスです。