認知症になると、記憶障害や判断力の低下によってお金を使いすぎてしまったりすることがあります。そのせいでお金がすぐになくなってしまうので、お金の不安が強くなってしまうこともあるんです。
お金に執着する原因はその不安感であることが多いので、お母様の話をじっくり聞く時間を作ってみてください。不安が軽減されてお金への執着が少なくなることもありますよ。
3ヵ月ほど前に認知症と診断された母が、最近になってお金に執着するようになりました。毎月渡している生活費も1週間ほどで使い切ってしまっており、何に使ったかも覚えていないようです。
さらに、自分で使ったのにも関わらず、「あなたが私の生活費を使っている!」と怒鳴りだす始末。もちろん、私はそんなことはしていません。数週間前までは、ここまでお金に執着していませんでした。なぜこんな風に変わってしまったんでしょうか?
そうですね…。おそらくは認知症の症状が進行しているためだと思います。意外かもしれませんが、認知症になってからお金に執着して怒りっぽくなる人は多いんです。
そうなんですか!なんで認知症の症状がお金への執着と関係があるんですか?
認知症の症状の主なもののひとつに記憶障害があります。直近の出来事をすぐに忘れてしまう症状です。記憶障害によってお金を使ったことや自分で財布などをしまったことも忘れてしまいます。
そのうえ、お金を使ったことや財布などをしまったという記憶を「忘れるはずがない」と考えているので、「お金がなくなった」「お金が盗られた」と思いこんでしまうんです。
つまり、母は自分で生活費を使い切ってしまったことを覚えてないので私のせいにしている、というわけですね。
おっしゃる通りです。もちろん、そのせいで服部さんがお母様に責められているわけですから「認知症だからしょうがない」と割り切れるものではないと思います。
ただ、お金への執着は、誰もが持っている「お金がないと生活できない」という不安が認知症によって大きくなっているものだと考えられます。それを頭に入れておくだけでも、服部さんの気持ちが少しは楽になるかもしれません。
わかりました。身に覚えのないことで責められるのはかなりイライラしますが…。
ちなみに、母は少し前までは生活費を1週間で使い切る、なんてことはありませんでした。これも認知症の進行が影響していますか?
はい、おそらくそうです。
認知症になると判断力も低下します。すると、「欲しい」と思った物を我慢するのが難しくなるんです。加えて、先を見越したお金の使い方もできなくなりますから、お金を持っている分だけ使ってしまいます。
認知症が影響したお金のトラブルには「お金を使いすぎる」「悪徳商法に引っかかる」など、さまざまなケースがあります。
あぁ、「お金を使いすぎる」は、うちの母のことですね…。先ほども話しましたが、1ヵ月分の生活費を1週間で使い切ってしまうんです…。
ちょうど先日、母のところに行ったら食パンが何袋も買ってあって母に注意したばかりです。ただ、本人は自分で買ったことも覚えていないようで…。
うーん…。同じ物を何度も買ってくるのは、認知症の人がよくする行動のひとつですね。スーパーなどに買い物に行ったときに、家にまだあることを忘れているので再び購入してしまうんです。
北野室長の言う通り、母も家にあることを忘れているようです。食パン以外にも、母1人では食べきれない量の食品を買い込んでいるので、私が行く度に持ち帰ってきています。
そのせいで、1ヵ月分の生活費を1週間で使い切ってしまっているんだと思います。無駄遣いを減らすにはどうしたら良いでしょうか?
でしたら、1ヵ月ごとではなく、1週間ごとの生活費をお母様に渡すのはどうでしょうか?
1週間分であれば、使い切ってしまっても金額はそこまで大きくなりませんから。もし、週に何度かお母様のところに通っているのであれば、その度に数日分の生活費を手渡しするのも良いかもしれません。
2~3日に1回は、母のところに通っています。お金を引き出すのが手間だったので、1ヵ月分をまとめて渡していましたが…。今度からはもっと小分けにして渡すようにします。
次に、「悪徳商法に引っかかる」というのは、ご高齢者をねらった詐欺や強引な押し売りのことです。
詐欺については、テレビのニュースなどでもよく取り上げられていますよね。息子などの家族や警官、銀行員といったいろんな人物になりすまして、ご高齢者のお金をだまし取る詐欺が横行しています。ときには何百万円もの大金をだまし取られる被害も起きています。
「オレオレ詐欺」とかのことですよね?母には気をつけるように言っているんですが、その言葉も忘れてしまって…。
認知症の人の場合、どうしても言うだけでは忘れてしまいますね…。なので、「電話を常に留守電設定にしておく」「会話の録音機能のある電話機に買い替える」など、道具を使って対策していきましょう。
詐欺犯の場合、自分の声が残ることをとても嫌がりますから、わざわざ留守電メッセージを残すことはしませんし、録音機能があると知ればすぐに電話を切ります。
ちょっとした工夫で詐欺にあうリスクを大きく減らせるので、ぜひ試してみてください。
「生活費を使い込んでいる」という妄想の他にも、「財布を盗んだ」と怒鳴られることも多くなりました。これも認知症の影響ですよね?顔をあわせる度に言われるので、いい加減疲れてしまって…。
そうですね。「財布を盗んだ」と言うことも、認知症が影響していると考えられます。
これも、記憶障害の影響で自分で財布をしまったことをお母様が忘れているんです。そして、「どこかにしまった記憶がないので、誰かに盗まれたに違いない」と思いこんでいるんですね。
このような思い込みのことを「物盗られ妄想」とも呼びます。物盗られ妄想については、以下の質問でもお答えしているので、参考にしてみてください。
その物盗られ妄想が起きたときはどうしたら良いんでしょうか?母にいくら「私は盗んでいない」と言っても耳を貸さず、最後には怒鳴り散らしたりして…。
もし、「財布を盗んだ」と責められたときは、お母様の言葉を否定せずに話を聞いてあげてみてください。
もちろん、服部さんが盗んだわけではありませんから、肯定する必要はありません。ただ、「財布がなくなったのは大変だね」とお母様の言葉を繰り返したり、共感するだけでOKです。それだけで、少しはお母様の気持ちが落ち着くと思いますよ。
それだけで良いんですか?それじゃあ、何も解決していないと思いますが…。
それでも良いんです。「財布が盗られた」という発言は、お母様の不安が大きくなって現れたものですからそれを受け止めてあげるだけでも効果があるでしょう。
それでもまだ不安そうだったら、一緒に財布を探してみてください。そして、財布が見つかったら「ほら、自分でしまったんでしょ」と責めることはせずに、「見つかってよかったね」とポジティブな声掛けをするのが大切です。最後に責めてしまうと、お母様の不安感が大きくなってしまう可能性がありますからね。
へー!なるほど。一緒に財布を探すなんてしたことがありませんでした。
なかなか財布が見つからなさそうだったら、財布探しをしている最中に好きなテレビ番組や夕食のことなど、お母様が興味を持ちそうな話題を振って気をそらせるのもひとつの手です。
また「休憩しようか」などと声をかけてお茶を飲んでいるうちに、財布を探していることも忘れてしまうこともありますよ。
そんな方法があったんですね!今度、母に「財布を盗んだ」と言われたら試してみます。
認知症の人がお金に執着が強くなるのは、症状によってどんどん自分のできないことが増えてくる不満や不安が大きくなるうちに、「お金だけは自分で守らないと」と思うようになった可能性があります。
なので、ご本人の不安を軽くするためにお母様の不安な気持ちをよく聞いてあげたり、お母様の趣味ができるようにして気を紛らわせる時間を増やしてみると、お金への執着が弱くなるかもしれませんよ。
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