認知症が進行すると、食べ物を食べ物と認識できない「失認」、食べ方がわからない「失行」といった症状が出ることがあります。その他、環境や声掛けなどで食べたい気持ちが失われている可能性があるので、認知症の人が食事をしやすい状況を整えていきましょう。
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このところ、認知症の父が食事をしてくれないことが増えて困っています。私がスプーンで食べさせようとしても、手で押しのけるんです。ちょっと前までは、自分で食べられていたのに…。
どうして急に食べなくなったんでしょうか?
状況によっていろいろ考えられますが…。主な食事拒否の理由を以下にまとめてみました。
…もしかしたら、お父様は認知症の症状の影響で食事が進まなくなったのかもしれません。
というと、どういうことですか?
例えば、お父様は「食べ物が食べ物であることがわからなくなっている」こともありえます。認知症には「失認」という症状があり、食べ物に限らず「これは何か」ということがわからなくなってしまうんです。
そうなると、お箸などを使って口に入れようとは思わないですよね。それに、食事介助をされても「よくわからない物を食べさせられる」と感じれば、食べたいとは思えないかもしれません。
「食べ物が食べ物とわからない」なんてことがあるんですね。だから、お父さんはごはんを食べたがらないのかな…。
それか、食べ物であることはわかっていても、食べ方がわからないこともあります。こうした症状を「失行」と呼びます。
失行がある場合、これまで普通にできていた「お箸を使って食べ物をつかむ」「口まで持っていく」という動作がわからなくなります。なので、食器などの道具の使い方がわからなくなってしまって、困っているのかもしれません。
つまり、箸やスプーンの使い方がわからなくなって自分で食べられなくなった、ということですね。でも、そうしたら私が口元に持っていけば食べてくれそうな気がしますけど…。
これも可能性の話ですが、自分の力で食べたい気持ちが強いのかもしれません。少し前までできていたことが急にできなくなって、それが受け入れられないことも考えられます。
「自分の手で食べたいけど、食べ方がわからない」という混乱の結果、野口さんの介助を拒否してしまっている可能性もあります。
なるほど…。頑固な父のことですから、それもありえそうです。
あとは、環境的な要因も関係することがあります。
例えば、音。テレビの音や部屋の外から聞こえる声などによって食事に集中できないことも。認知症の人は脳の機能が低下して、集中力が低下する傾向があるので、ちょっとした音でも気になりやすいんです。
そうなんですね!昔からテレビを見ながら食事をしていたので、いつもテレビを付けていました。
あとは、姿勢や食器といったところも影響することがあります。特に食事をするときの姿勢は大切。椅子からずり落ちていたり、左右に身体が傾いていることで食欲が削がれている可能性があります。
また、認知症になると視覚による物の区別がつきにくくなります。なので、お皿の柄が食べ物に見えてそれを箸でつまもうとしたり、白いお茶碗に白いごはんで見にくいために手が伸びないということもあるんです。
え、そんなちょっとしたことでごはんを食べないことがあるんですね!
そうなんですよ。また、飲み込む力が衰えたせいで食べることが嫌になっているケースもあります。飲み込む力が衰えると、具材がうまく飲み込めなくなってむせることが多くなります。となると、食事をするのが嫌になりますよね。
うちの父はたまにむせますけど、食事が嫌になるほどしょっちゅうではないですね…。
なるほど、そうなんですね。あと考えられる原因は、認知症が進行したことや声掛けによって不安を感じている、ということでしょうか…。
それってどういうことですか?
介護をしていると、忙しかったり焦ったりして「早く食べて」「どうして食べないの」と強い口調になってしまうこともあるかもしれません。でも、そういう対応は認知症の人にはNGなんです。
ご本人はどんどん自分がおかしくなっていくように感じて、不安になっています。そこに強い口調で声掛けしてしまうともっと不安になってしまいます。時間がなかったり疲れているかもしれませんが、いったん落ち着いて介助することも大切なんですね。
父が食事を嫌がる理由がなんとなくわかった気がします。でも、具体的にはどうしたら良いんでしょうか?
対応策もいろいろありますが、大まかには、以下の3つのポイントが大切です。
まずは環境を整えるんですね。
そうです。先ほどお伝えした通り、認知症の人は集中力が低下していたり物の区別がつきにくくなっています。
なので、まずは食事にしっかり集中できるように、「身体をまっすぐ起こした姿勢を保つ」「テレビを消す」「具材が見えやすい無地の器にする」といった対策をとると良いでしょう。
それくらいだったら、すぐできそうです。今日から始めてみます。
あとは声掛けです。食べ物が食べ物であるとわかっていない場合、「炊きたてのごはんだよ」「温かい味噌汁だよ」といった食事の名前を言いながら食事を促してみましょう。
もしかしたら、食べ物であることがわかって自分から食べてくれるようになるかもしれません。
忙しくて、そんなゆっくり声掛けをしたことがなかったですね…。
介護をしていると、そうなってしまいますよね。ただ、声掛けをちょっと工夫するだけで意外と介助がスムーズに行くことがあるんですよ。
それに、もし箸やスプーンなどの使い方を忘れてしまっているのであれば、言葉で伝えたり食べているところを見せて、道具の使い方を思い出してもらうことも有効です。どれも特別なことではないですが、これをきっかけに食事介助の拒否がなくなったり自分で食べられるようになることもあるんですね。
へぇ、本当にちょっとしたことで介護が上手くいくんですね。
他にも、食べ物を工夫することも有効かもしれません。お父様が好きな食べ物にすることももちろんですが、食べやすい形に変えるだけでも食事をする気になることもありますよ。
「食べやすい形」ってなんですか?
例えば、具材を一口サイズにすること。それに一口おにぎりにすれば、手づかみで食べられるのでお茶碗に盛ったごはんよりも食べやすいですよね。
それに、食事ができるのであれば「手づかみで食べてもOK」と考えるのもアリじゃないでしょうか。あえて、箸やスプーンを使って食べることにこだわらなければ、介助をするときの気持ちも少し楽になると思いますよ。
確かに!今まで箸を使わせることにこだわっていましたが、手づかみでも食べやすいようにすれば良いんですよね。
そうです!食べてもらうことの方が重要ですからね。
ただ、いろいろ試してもなかなか食が進まないこともあると思います。そういうときは、少量でも栄養がたくさんとれる栄養補助食品を利用してみましょう。高カロリーゼリーやドリンクなどがドラッグストアに売られているので、試してみてください。
お父様が食事をしてくれないのは、とても心配なことだと思います。ちょっとした工夫で改善することもあるので、いろいろ試してみてくださいね。
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