お母様の状態は、おそらく「夕暮れ症候群」と呼ばれるものでしょう。夕暮れ症候群は、夕方になるとそわそわして一人で外出したり、ちょっとしたことで気持ちが不安定になる状態のことです。
認知症の影響で起きていることなので、無理に行動を制限したり説得しようとすると逆効果になることも。むしろ、お母様とおしゃべりしたり一緒に外出して気持ちを紛らわせる方が気持ちが落ち着くと思いますよ。
Contents
同居している認知症の母の在宅介護をしています。昼間はテレビを見ておとなしいのですが、夕方の16時過ぎになるとそわそわして「家に帰ります」と、一人で出かけようとするんです。
何度か勝手に出ていってしまったことがあって、近所の人にみつけてもらって自宅まで送ってもらったこともあります。これまでは何事もなかったから良いですが、もし事故か何かに巻き込まれたら、と思ったら…。
どうして母は自宅にいるのに「家に帰る」なんて言うのでしょうか?
おそらく「夕暮れ症候群」と呼ばれる状態ですね。認知症の影響によってさまざまな混乱が夕方に現れる状態なんです。
夕暮れ症候群にはいくつか特徴がありますから、1つずつお話ししていきますね。
夕暮れ症候群は、その名の通り夕方になると現れる症状のことを指します。代表的なのが、お母様のように「家に帰りたい」と訴えること。「帰宅願望」とも呼ばれる認知症の周辺症状(BPSD)の1つです。
帰宅願望については、以前のご質問でもお答えしています。参考にしてみてください。
他にも、辺りが暗くなる時間になるとそわそわして室内を歩きまわったり、感情が不安定になってちょっとしたことで泣き出したり怒り出したりするケースもあります。
母も似たような状況です。明るいうちは黙ってテレビを見ているのに、夕方になると不安そうな顔でそわそわと歩きまわっていますね。
うちの母だけではなく、認知症の人には珍しくない状態なんですね。
さっき、夕暮れ症候群は認知症の影響、と言っていましたが、どうして認知症と夕方になると落ち着きがなくなることが関係しているんですか?
空が暗くなってくることで不安がつのり、認知症の症状が一時的に強くなることで夕暮れ症候群が起こるとされているからです。
私たちも辺りが暗くなってくると、気持ちが焦ったり不安な気持ちになることがありますよね。そうした気持ちが認知症の症状にも影響すると考えられています。
なるほど…。そうした夕方の不安な気持ちが認知症の症状に影響してしまうんですね。
そうなんです。例えば、認知症の症状に「記憶障害」というものがあります。記憶障害とは、新しいことを覚えられなくなったり最近の記憶がなくなってしまう症状です。
記憶障害によって、直近の記憶がすっかりなくなって数十年前に感覚が遡っていることもあります。そうすると、今の家が自分の家とわからなくなったり、年齢を重ねた家族の顔がわからなくなったりすることもあるんです。
へぇ!そんな症状があるんですね。
今の家には20年ほど前に引っ越したので、母の記憶がそれ以前まで巻き戻っていたら、今の家が自分の家であることがわからなくなってるかもしれないわけですね。
おっしゃる通りです!「今の家の記憶がないので自分の家とわからず、前の自宅に帰ろうとしている」と考えると、お母様の言葉は自然ですよね。
また、認知症の症状には「見当識障害」というものもあります。これは、今の時間や自分がいる場所がわからなくなること。今の状況を理解する認知機能が低下してしまっているため、知らない場所にいる不安から家に帰ろうとしている可能性もありますね。
そういうこともあるんですね…。
それに、夕方は夕飯どき。数十年前の感覚で過ごしているお母様は、「家族のために夕食を作らないといけない」と考えているのかも。家族に食事を作るために自宅に帰ろうとしているのかもしれませんね。
あぁ!そういえば「夕飯を作らないといけないので帰ります」と言っていたこともありました。
いつも私の妻が食事を作っているので、そのときは「何を言っているんだろう?」と思っていたのですが…。そういうことだったんですね。
加えて、夕方はご家族が夕食の支度などで忙しくしている時間ですよね。そういう姿を見て、「忙しいときに邪魔してしまうのでは」と感じることもあるでしょう。
そうした遠慮から「家に帰ります」と言っている可能性もありますよ。
自宅にいるのに「家に帰ります」なんて、「なんてめちゃくちゃなことを言っているんだろう」と思っていましたが、ちゃんと理由があっての言葉だったんですね。
母が夕方に落ち着きがなくなる理由がわかって、少し安心しました。ただ、外に出ていくのは危ないので手を引いて引き止めると「助けて!」と叫んだり、大声で騒いだりするんです。
ご近所に迷惑になるのでどうにかしたいんですが…。何か良い方法はないでしょうか?
お母様の好きなことを勧めたり一緒におしゃべりをして、気を紛らわせるのはどうでしょうか?
えぇ?そんなことで良いんですか?
はい。むしろ、無理やり外に行くのを制止したり玄関の鍵をかけてしまうと、「知らない家に閉じ込められた」とお母様が考えてパニックになってしまう可能性があります。
なので、一時的にでも気をそらせて「家に帰りたい」という気持ちを紛らわせるんです。
そうか、母にとって今の家は”自分の家”ではなく”他人の家”なんですもんね…。
具体的には、どうやって気を紛らわせるんですか?
お母様が興味を持つものであれば何でも良いんです。あやとりやぬりえでも良いですし、好きな音楽を流すのも効果があるかもしれません。もし好きなテレビ番組があるのであれば、「もうすぐ好きな番組が始まるよ」と言ってテレビを見てもらうのも良いでしょう。
あとは、他のご家族も交えておしゃべりするのも効果的。特に認知症の人は認知機能が衰えることで、不安感や孤独感を感じやすいんです。なので、忙しいかもしれませんがお母様に積極的に声をかけながらご家族の団らんをするのはどうでしょうか?
家族の団らんか…。そういえば、認知症になってから母が会話に入らずに1人でいることが増えたような気がします。母と会話が噛み合わないことが増えて、他の家族が話しかけることが減ったんですよね。
やはり、認知症が進んでくると話が噛み合わないことが増えてきますよね。そういうときは、お母様の世界観に合わせて話すことも夕暮れ症候群への対策のひとつです。
例えば、家に帰りたがっている様子であれば「もう遅いから、今夜は泊まっていって」「夕食を作ったから、食べていって」といった声掛けをすると、お母様も安心して過ごせると思いますよ。
そうやって言えば良かったんですね!
また、夕方になってお腹が減っていることも不安の原因になっていることがあります。なので、軽食やおやつを食べてもらうと気持ちが落ち着くかもしれません。
認知症の人の症状やそれが現れるきっかけになっていることは、一人ひとり違います。なので、お母様の視点に立った対応をしていくことが大切。時間はかかるかもしれませんが、徐々に症状が落ち着いていくと思いますよ。
介護施設への入居について、地域に特化した専門相談員が電話・WEB・対面などさまざまな方法でアドバイス。東証プライム上場の鎌倉新書の100%子会社である株式会社エイジプラスが運営する信頼のサービスです。